マイナビ キャリアリサーチLab

第4章 より良いリラックスとキープについて
~ゾーンコントロール術を考える~

宮地太郎
著者
キャリアリサーチLab主任研究員
TARO MIYAJI
仕事で成果を出し続けるための「ゾーン」コントロール術を考える

変化の多い現代でも成果を出し続けるため、最高のパフォーマンスにつながる超集中状態=「ゾーン状態」に着目して、集中力のコントロールを考えていく本特集。

第3章では、個人でのゾーンやグループフローは仕事の成果にも関係するが、常にそれを目指し、集中しすぎることの危険性についても考察した。また、集中しすぎると思わぬ疲労を蓄積させ精神的に燃え尽きてしまう可能性もあるため、それを防ぐためのリラックスの習慣づくりの大切さについても指摘した。

「リラックス」には、ゾーン状態が続きすぎることで燃え尽きることを防ぐという意味合いだけでなく、「そもそもゾーンに入るために必要な要素」という面があることは1章・3章でお伝えした通りである。 

「波」の図解

4章となる今回では、③にあたる「ゾーン状態からリラックスへ」についてリラックスにはケア(回復)としてだけでなく、創造性を発揮することにつながるものがあることや④にあたる「リラックスキープ状態」についてリラックス状態をキープするために、意図せず集中状態に戻ってしまうことを避けるポイントを紹介していく。

2種類の「リラックス」(③ゾーン状態からリラックスへ )

ここで言うリラックスとは、仕事への集中状態から脳を切り替えている状態のことである。このリラックス状態には2つの種類がある。脳の疲労を回復させる「ケア(回復)」としてのリラックスと、「インスピレーション(発想)」につながるリラックスである。

それぞれについて、それがどのような状態であるかと、何をすればそのようなリラックス状態になれるのかを詳しく説明していく。

種類①「ケア(回復)」としてのリラックス

リラックスの種類の1つ目は「ケア(回復)」としてのリラックスである。人気作家である森博嗣氏は著書で「同じ行為を続けていると、なんとなくつまらなくなる。つまらなくなるのは、頭が疲れてくるからだろう。(中略)少し休むとか、別のことをする。そうすることでリフレッシュして、また前の作業に戻れるというわけだ。つまり『集中』が本来『疲れるもの』であることの証明でもある。」と語っている。

この、集中によって蓄積されるメンタルや脳の疲労を回復するのが「ケア(回復)」としてのリラックスである。 

「ケア(回復)」としてのリラックス状態をつくるには?
―動いて回復する“積極的休養(アクティブレスト)”

メンタルや脳疲労を回復させるリラックス方法は、3章でも述べたように、物思いにふける、瞑想する、または睡眠をとるなどの方法がある。仕事から離れて心身を休めるリラックス法は休息としてイメージしやすいものだろう。

今回はこの他にあえて体を動かすことで回復を図る方法に注目していく。体を動かす休息には、「積極的休養(アクティブレスト)」というものがある。元々はスポーツの世界で使われ始めた疲労回復方法で、体が疲れているときに、あえて軽めのランニングやストレッチを行い、疲労物資の除去を促すという方法である。

厚生労働省の『健康日本21』では、休養において「積極的休養」という考え方の普及の重要性が語られている。

「休養」は疲労やストレスと関連があり、2つの側面がある。1つは「休む」こと、つまり仕事や活動によって生じた心身の疲労を回復し、元の活力ある状態にもどすという側面であり、2つ目は「養う」こと、つまり明日に向かっての鋭気を養い、身体的、精神的、社会的な健康能力を高めるという側面である。

このような「休養」を達成するためにはまず「時間」を確保することが必要で、特に、長い休暇を積極的にとることが目標となる。しかし、このような休養の時間をとっても、単にごろ寝をして過ごすだけでは真の「休養」とはならず、リラックスしたり、自分を見つめたりする時間を1日の中につくること、趣味やスポーツ、ボランティア活動などで週休を積極的に過ごすこと、長い休暇で、家族の関係や心身を調整し、将来への準備をすることなどが真の休養につながる。(中略)「積極的休養」の考え方を広く普及することが重要である。

『21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)』厚生労働省

ただ体を休めるだけでなく、積極的に活動するという休養の方法が紹介されているのだ。仕事においてもアクティブレストは有効であり、多くの研究や書籍が存在するが、具体的には適度なジョギング、ストレッチ、ヨガ、背伸びなどがあたる。

種類②「インスピレーション(発想)」につながるリラックス

次にもう1つの種類の「インスピレーション(発想)」につながるリラックスについて説明していく。

森氏は発想と集中の関係について

「発想」には、いわゆる1つのことしか考えない「集中」が逆効果である。「ヒントはいつも、ちょっと離れたところにある」からだ。一点を集中して見つけていては、その離れたものに気づくことができない。

分散というのか、発散というのか、イメージが人によって違うのかもしれませんが、一点に集中していない状態が、発想しやすい頭なのだと思います。

『集中力はいらない』森 博嗣、SB新書

と述べている。創作の仕事に集中していないときの方が発想につながるという実感を持っているようだ。

また、発想を生み出す分散思考について「創作の仕事場というのは、だいたい室内で、限られた場所であるから、多くのクリエイタは、旅行を好む。頭をリラックスさせ、集中させないことが、いかに大事な条件であるかを知っているのだろう。」と述べている。

つまり、仕事から離れることがかえって仕事のインスピレーションをもたらすことがあるということだ。この状態がインスピレーションにつながるリラックス状態である。

インスピレーションにつながるリラックス状態をつくるには?
―神谷氏に聞く“マインド・ワンダリング”

では、上記のようなインスピレーションにつながるリラックスとはどのような状態で、具体的にどうすればいいのかを『遊ばせる技術 』を刊行し、企業や地域をフィールドに活動し多くの組織開発・製品開発プロジェクトに従事する株式会社エスノグラファー神谷俊 氏に話を聞いた。

――インスピレーションや発想を得るためのリラックスの重要性について
神谷氏:仕事をするうえで、新しいアイデアやひらめきが必要なときがあります。考えが煮詰まってしまい、なかなかブレイクスルーできないというような場合です。そのようなときはあえて環境を変えて仕事をしない、つまりリラックスしてみるのもパフォーマンスを高めるうえで有効なアクションです。

まったく別のことをしているときに突然仕事のアイデアがひらめいたり、悩んでいた問題がパズルが解けるように解決したりする経験をしたことがある方もいるかもしれません。学術的にはマインド・ワンダリングという名称で研究されている事象です。

――マインド・ワンダリングとは?
神谷氏:その言葉の通り、意識が(mind)揺らいでいる(wandering)状態です。「心ここにあらず」「ぼーっとしている」ということで、元々は授業に集中できない等、いわゆる気が散る良い状態ではないという観点でとらえられる言葉でしたが、0から1をつくるとか新たな成果やクリエイティビティ、問題解決に役立つもの、つまりぼーっとしているときにアイデアを思いつく現象として注目されています。

脳が目の前の物事とは関係ないことを考えていて、別名「オートパイロット」、思考の自動運転状態と言えます。このような状態にある場合、人は仕事のことだけを考えているときよりも、脳をうまく使うことができていて、新たな発想やアイデアを生み出しやすい状態になっています。仕事だけを意識しているときよりも、刺激の種類が多いことで複数の脳内領域を活用することができるからだと言われています。

――具体的にはどのような活動になるのでしょうか?
神谷氏:ポイントは意識をほどよく分散させることで、仕事のことを頭の片隅で考えつつ、単調な作業を進めることです。サウナに入っているときや、散歩をしているとき、掃除をしているとき、靴を履いているときに起こる現象で人によって異なります。私の周りではシャワーを浴びているときにマインド・ワンダリングが起こったという人が多い気がします。

意識が仕事と別の作業のあいだを行ったり来たり「揺らぎ」を起こす状態をつくることです。このバランスを壊してしまうような強い刺激を持った活動では、マインド・ワンダリングは生まれません。過剰な音量の音楽や雑音などです。意識がそちらに引っ張られてしまうからです。

――「揺らぎ」のバランスをとるのは難しいように感じますが?
神谷氏:大切なことはマインド・ワンダリングを起こす前の、インプットにあります。自分が今向き合っている問題や課題、目標みたいなものがあると思いますが、それに対して情報が過不足なく集まっている状態にすることが大事です。

たとえば、人事担当者が自分の会社のエンゲージメントが低いから高めなきゃいけないという問題意識を抱えていたとして、それに対してどうやって高めるかを検討するときにエンゲージメントが低いという情報だけでは当然アイデアは思いつかないわけです。

エンゲージメントがどのように高まるのかというメカニズムを理解して、さらにそのメカニズムに対して、現場の社員たちは今どんな心境なのか?とかどんな認識を持っているのか?という情報もないとマインド・ワンダリングは起きません。良質なインプットなくアイデアが溢れてくるということはありませんし、それどころか少ないとネガティブで不安になってしまいます。良質なインプットがあればこそ自然と溢れてくるのがマインド・ワンダリングなのです。

2種類のリラックスの状態と、その状態になるためには

神谷氏は「揺らぎ」、森氏は「分散や発散」と表現しているが、一点に集中しすぎない「リラックス」状態が客観的で多角的に考えることができる、さまざまな情報を紐づけていける発想しやすい状態と言えるだろう。

「一生懸命にやっているのに良いアイデアがなかなか浮かばない」などの経験は誰しもがあるのではないだろうか。それは集中できていないと感じるであろうが、必要なリラックスができていないという状態なのかもしれない。

 2種類のリラックスの状態と、その状態になるためには 
①ケア(回復)としてのリラックス
瞑想や睡眠、物思いにふけるなどの方法で心身を休める
ジョギングやストレッチなどの方法で体を動かすことで疲労物資の除去を促す
②インスピレーション(発想)につながるリラックス
仕事のことを頭の片隅で考えつつ、単調な作業(サウナ、散歩、掃除など)をする

リラックス状態をキープするためには(④リラックスキープ状態)

さいごに「リラックス」の持続についてお伝えしていこう。誰しもがずっと集中したり仕事をしたりすることはできないので、何かしらのリラックスは行っているだろう。ただ自身の経験を思い返していただきたいのだが、仕事を離れている間に気になってしまって、すぐに仕事に戻ってしまう経験はないだろうか。それは「リラックス」モードに入りはしたが継続できておらず「リラックス」した気になっているだけと言える。

非集中(リラックス)モードを妨げる4つの敵

精神医学臨床学者のスリニ・ピレイは非集中(リラックス)モードを妨げる4つの敵として「習慣」「不安」「集中依存」「集中への回帰」 を挙げている。

 非集中(リラックス)モードを妨げる4つの敵 
①習慣
集中して生産性を上げることに慣れきってしまうと、脳はその習慣を変えるのを拒絶するようになる
②不安
不安があると脳はパニックを起こし、いつでも危険を察知して標的を攻撃できるよう、集中モードへと戻ってしまう
③集中依存
集中しすぎていると、疲労困憊し、視野が狭くなり、頭がぼーっとして切り替えもできなくなる。
④集中への回帰
たっぷり休憩をとってエネルギーを補充しても、やり残しておいた仕事の山を見ると集中と非集中のバランスを保つように心がけないと再び過集中の状態に逆戻りしてしまう。
『ハーバード×脳科学でわかった究極の思考法』スリニ・ピレイ(2018) ダイヤモンド社

また、スリニ・ピレイは「不安があると、あらゆる目標が動く標的に見えてくる。脳はパニックを起こし、いつでも危険を察知して標的を攻撃できるよう、集中モードへと戻ってしまう。」と指摘している。

リラックスモード継続のためのいくつかの方法

継続のためには4つの敵を排除することがポイントにはなるが、スリニ・ピレイは意識をしていてもわかっていてもどうしても集中してしまうことはあるとして、リラックスモード継続のためのいくつかの方法も紹介している。

 リラックスモード継続のためのいくつかの方法
・アラームをセットする
まずは1日1回非集中タイプ(リラックス)の活動をする時間を設け、その時間にアラームをセットするといい、そして、アラームが鳴ったら必ずその活動をするようにしてほしい。10分間、机を離れて頭を使わない作業をしながら物思いにふけるのでもいいし散歩や昼寝でもかまわない。
・未定表をつくる
日々の仕事や用事を入れない時間を指定するもの。休暇、別荘生活、自宅療養など1年に3~4回、1週間程度の休みを設ける。(※勤務先にまとまった休暇がない人は、絶対に仕事をしない日や週を自分で決めておくといい。)休暇をいつまでも先送りするのではなく、優先事項としてとらえるよう、あらかじめ計画に組みこんでおく。1週間のカレンダーに「自由時間」を組みこむこともお勧めする。
『ハーバード×脳科学でわかった究極の思考法』スリニ・ピレイ(2018) ダイヤモンド社

スリニ・ピレイは「まずは自分自身の誓いを守ることが先決だ。」と述べている。「誓い」という言葉が表しているように、なんとなく程度ではリラックスモードを継続することは簡単ではない。集中モードに戻ってしまうのは脳にとってむしろ自然なことであると認識した方が良いだろう。

さいごに

ここまで、ゾーンコントロール術におけるリラックスの必要性、 その種類にはケア(回復)とインスピレーション(発想)があるということ、また、リラックス状態をキープするために、意図せず集中状態に戻ってしまうことを避けるポイントをお伝えしてきた。

本特集における「リラックス」はあってもなくても良いものではなく、ゾーンコントロール術において必須の要件であり、成果を出し続けるために無くてはならない位置づけである。集中ありきのリラックス、リラックスありきの集中であることを認識いただければ幸いである。

次回最終章ではゾーンコントロール術を行ううえで意識すべきこと、また行ううえでの環境構築や組織として留意すべきことを提案しつつ、今までに述べてきた各章のポイントをまとめていく 。

キャリアリサーチLab 「ゾーンコントロール術」特集メンバー


<参考文献>
・『集中力はいらない』森 博嗣、SB新書
・『21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)』厚生労働省
・『遊ばせる技術 チームの成果をワンランク上げる仕組み』神谷 俊、日本経済新聞出版
・『ハーバード×脳科学でわかった究極の思考法』スリニ・ピレイ(2018) ダイヤモンド社

朝比奈あかり
登場人物
キャリアリサーチLab研究員
AKARI ASAHINA
三輪希実
登場人物
株式会社マイナビ
NOZOMI MIWA
荒木貴大
登場人物
株式会社マイナビ
TAKAHIRO ARAKI
沖本麻佑
登場人物
キャリアリサーチLab編集部
MAYU OKIMOTO

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