マイナビ キャリアリサーチLab

非認知能力の評価がもたらす、新たな可能性
~ワークエンゲージメントに影響する非認知能力という名の“得意”~

矢部栞
著者
キャリアリサーチLab編集部
SHIORI YABE
非認知能力ヘッダー

VUCAの時代といわれ働き方や価値観が多様化するなか、自分自身のキャリアに悩むビジネスパーソンに向けて、「自分の”得意”を理解し、それを社会で活かす」ために、近年注目されている「非認知能力」に焦点をあてた。

本特集の第一回第二回では、先行研究をもとに「非認知能力とはなにか」「評価につながる非認知能力」を考察した。第三回では、評価する人(上司)、評価される人(部下)各5名にインタビューを行い、それぞれの立場から「非認知能力と評価」について考えてもらった。

第四回となる今回は、株式会社エー・ティー・エックスの総務経理部に勤務されている鈴木正憲さん、森下幸恵さんにご協力いただき、普段の業務のなかでいきている非認知能力やそれをどのように見ているかについて話を伺った。

企業紹介

会社名: 株式会社 エー・ティー・エックス(テレビ東京グループ)
設立:2000年6月26日
事業内容:アニメーションの放送業務、放送番組の権利取得と管理、広告代理業務、ほか

人気アニメの放送業務をメインに行っている会社で、近年は通信販売業務にも力を入れており業務の幅が広い。今回のインタビューでは、上司と部下の関係になって約10年という総務経理部長の鈴木正憲さん、総務経理部の森下幸恵さんのお二人にインタビューをした。

自己肯定感につながる「信頼」と日々のコミュニケーション

株式会社エー・ティー・エックス 総務経理部長の鈴木さん(写真右)、総務経理部の森下さん(写真左)
株式会社エー・ティー・エックス 総務経理部長の鈴木さん(写真右)、総務経理部の森下さん(写真左)

——まずは普段の仕事内容や、職場の雰囲気を教えてください。

鈴木: 総務経理部なので、総務、経理、財務、人事などのバックオフィスでの業務をメインに行っています。40人強の会社で、総務経理部は契約社員さん含め4人です。集中力が必要な業務であるので、日々メンバーのコンディションや業務の進捗を確認しながら皆でサポートしあっています。

森下: 上司である鈴木さんが優しくてとてもよく気が付いてくださるので、安心して業務を行っています。私たちのコンディションなどを日々よく見てくださるので、小さな変化にも気づいてタイミングよく声がけしていただけたり…質問もしやすい雰囲気も作っていただいていると思います。

——良い環境でお仕事されているんですね。では、早速本題に入るのですが私たちが特集している「非認知能力」についてどのように捉えていますか。

鈴木: 社会人として必要な資質だと思います。普段当たり前にやっていることなので、これが「○○力だ」などは意識していないですが……非認知能力は、とくに組織の上に立つ人にとって必須だと思いますね。

——では、職場で必要、もしくは活かされているなと思う非認知能力にはどんなものがありますか。

鈴木: なにかを「やってみたい」という気持ちを大事にしています。それは「主体性」とか「実行力」などの言葉に置き換えられるかもしれません。なんでもいいわけでなく、「やってみたい」の先に会社への貢献があるかどうかはもちろん考慮しますが…アニメが好きで集まっている人が多い会社なので、興味が仕事につながることは多いと思います。

あとは、何か新しいことを始めるときに「良いね」「一緒にやります」と乗っかる「共感性」も大事ですかね。

森下: 私はクリエイティブな仕事にも興味があり、会社全体でプロジェクトが始まるときに声をかけてもらいました。まさに「共感性」になるかもしれませんが、お話をいただいたときは「良いね!」と思いましたし、業務負担が増えるとかネガティブなことは思いませんでした。好きなこと、興味があることが仕事につながるのは嬉しいですね。
もちろん通常業務のなかでも、幅広い仕事を任せていただいているなという実感があります。鈴木さんが「ここまでしか無理だろう」と私の能力やキャパシティの限界を決めつけず、いろいろな仕事を振ってもらっているので、期待してもらっているのが伝わり「頑張ろう」と思えます。

鈴木: 結果は気にせず、まずは「やらせてみよう」と思ったんですよね。それは経験を積んでもらうため、できる仕事の幅を広げるためという理由もあります。これは業界や会社のカラーもあるかもしれません。

森下: あとは、「自己管理能力」も大事なのかなと思います。鈴木さんが仕事の割り振りをするとき、自己管理能力がある人などパーソナリティに応じて指示されているなというのは近くで見ていて感じます。無理のない割り振りで、メンバーが「丸投げをされた」とか「無茶なお願いをされた」とは思わないよう配慮いただいているのかなと思います。

先ほど幅広い仕事を任せてもらっていると言いましたが、これらを自分で管理してタスクをクリアにしていく能力は必要かなと思いますね。終わらないときには自分で判断して、鈴木さんにお戻しすることもあります……。

鈴木: たしかに、自然とその人に合う仕事を指示しているかもしれません。結果的にうまく回れば、と思って。

あとは、総務経理のお仕事って何でも屋さんというか、社内の人から困ったときに声がかかることが多いんですよね。誰かのサポートの時間で一日が終わってしまうこともあるなかで、「他者とのコミュニケーション力」が必要になるのはもちろん「問題解決力」にもつながるのかなと思います。

——お二人が「非認知能力を活かす・活かされる」と意識はしていないものの、さまざまな非認知能力が自然と発揮されているのがよく分かりました。では、非認知能力を「評価すること」「評価されること」についてのお考えをお聞かせください。

鈴木: 非認知能力は必要な資質であるとは思いますが、人事考課で評価するという点では主観的になりすぎてしまうことから難しいと考えています。人事考課は客観的に評価することが重要だと思うのと、結果が伴わないことに対する評価の難しさも感じます。
ただ、なにか結果を出すまでのプロセスにおいて非認知能力が活かされている場面があれば、それはプラスの要素になると思いますね。たとえばAさんとBさんが同じ結果を出したとき、プロセスを見て発揮された非認知能力を見ることもあると思います。

森下: 人事考課ではないですが、日々の声掛けでほめてもらったり、「ありがとう」と言ってもらったりすることで「見てもらっている、評価してもらっている」と感じて単純に嬉しいですね。頑張ろう、とモチベーションアップにもつながります。私が普段から自分でやった仕事をアピールしているから、というのもあるかもしれませんが、鈴木さんは些細なことでもほめてくれるので、「嬉しい」という気持ちだけではなく自己肯定感も上がっているのを感じます。

主体性をもって動いたことに対してほめてもらえると、自信につながりますね。

鈴木: 森下さんは、さらっとお願いしたことでもすぐに動いてくれるのでとても助かっていますね。これは「柔軟性」になるでしょうか。

先ほどもお話した「社内の人のサポート」については、森下さんの人柄もあって本当によく声がかかっていて、これもありがたいと思っています。こういった人事考課で評価されにくい要素を、人事考課上でいかに良く見せるかが私の仕事でもあると思っています。そういう意味では自然と非認知能力を評価に加味しているのかもしれません。

——森下さんに伺いたいのですが、非認知能力のような数値以外の点で評価されたことで起きた心境の変化などはありますか?

森下: 先ほどお話した、ほめてもらうことで自己肯定感が上がるというのもそうですし、昔よりもポジティブになったという実感があります。
また、いろいろな仕事を任せてもらえることや、たくさん声がけをしてもらって頼りにされているなと感じることもあるので、存在意義というか「この部署には私がいたほうがいいんだろうな」と思ったりします。

——鈴木さんと森下さんがお互いに信頼しあいながら働かれているのがとてもよくわかるインタビューでした。ありがとうございました。

マイナビ研究員の考察

今回は、アニメという社員共通のテーマがあり、好きなことが仕事につながりやすい状況だったため、他の業態とは少し違った特異な企業インタビューと思われる方もいるかもしれない。 

ただ、インタビューをした御二人は、総務、経理、財務、人事などのバックオフィス業務をメインとしており、一般的な企業にも多くいる職種だ。また、人事考課として評価する場合は、ビジネス的な結果や成果を客観的に評価するという点において、一般的な企業と大差はないといえるだろう。 

そんな御二人のインタビューを振り返ってみれば、評価者である鈴木さんは冒頭で、非認知能力を「意識していない」ということだったが、アニメが好きな人が集まっていることもあり、非認知能力などの、個人が持つ「好き」という「得意」は損なわないようにし、むしろ「共感性」や日々の「承認」などで、個人が持つ「好きという得意」と非認知能力を発揮し、活躍の場をさらに広げられるように努めている様子がうかがえた。 

また、評価に対しても、会社への貢献が前提ではあるが「人事考課で評価されにくい要素を、人事考課上でいかに良くみせるかが、私の仕事でもあると思っている」という鈴木さんの言葉から、業績に対するコミットメントだけに偏らない、評価スタンスをお持ちの方であることが、お互いに信頼し合える関係性に繋がっていると思える。 

一方で、被評価者である森下さんは、鈴木さんから上限を決めず業務を任せて貰えることに応えるため、自身でも「主体性」という非認知能力を育て・行動し、その行動が他者から日々「承認」されることで、自己肯定感を向上させている様子がうかがえる。 

また、「社内の人のサポート」においては、森下さんの元々持っていた人柄もあるのだろうが、鈴木さんとの日々の関わりが回りに波及し、森下さんが依頼に対して「柔軟性」を持って対応したことが、他部署から「頼りにされる」という評価に繋がり、ひいては「この部署には私がいたほうがいいんだろうな」という森下さん自身の自己効力感にも繋がっていると考えられる。 

これらの他者との関わりや日頃の評価・承認が積み重なったことにより、森下さんは「昔よりもポジティブになったという実感があります」という言葉が表すように、第1回で分類した変化しにくいとされていた非認知能力の「性格などのパーソナリティ」を変化させていることが考えられる。経験と学びを受けて変化できる各種の非認知能力が成長していくことで、変化しにくいとされていた「性格などのパーソナリティ」も変化させていくことができるのではないかと感じさせるインタビューだった。 

評価の視点では、非認知能力は企業の人事考課や、いわゆる査定のような金銭的・経済的対価をもたらす評価に直結させることが難しいことも分かってきた。ただ、非認知能力は「とくに組織の上に立つ人にとって必須だと思います」という鈴木さんの言葉からも、個人の根本的な人間力や仕事力に影響し、長期的にみれば昇進という形の金銭的・経済的対価に繋がっていくことも十分に考えられる。
 
しかし、昇進は望んでも全員ができるわけではなく、多様性の中で、昇進を望まない人もいる。森下さんが今の職場で感じている自分の「存在意義」という価値は、非認知能力を評価されたことで得た「ワークエンゲージメント」であり、人によっては、昇進よりも得難い対価ともいえるだろう。 

考察した内容を示した図(マイナビ作成)
考察した内容を示した図(マイナビ作成)

さて、本特集も次回の第五回が最後となる。第五回では、企業の経営層にあたる取締役から見た、非認知能力とその評価についてのインタビューを行い、ビジネスパーソンが「自分の”得意”を理解し、それを社会で活かす」ため、また企業が一人ひとりの得意を前向きに評価し「得意を伸ばして活かす」ためのヒントを探り、締めくくりたい。

キャリアリサーチLab 「大人の非認知能力」特集メンバー


株式会社エー・ティー・エックス 総務経理部長の鈴木さん(写真右)、総務経理部の森下さん(写真左)

■プロフィール
鈴木 正憲(すずき・まさのり)写真右
株式会社エー・ティー・エックス 総務経理部長
1975年生まれ。簿記の専門学校卒業後、会計事務所に勤務。26歳で株式会社エー・ティー・エックスに入社。2018年、総務経理部長に就任。
休日はひたすらサウナで汗を流している。

森下 幸恵(もりした・ゆきえ)写真左
株式会社エー・ティー・エックス 総務経理部
2013年に株式会社エー・ティー・エックスに入社。総務経理業務の傍ら、商品企画などにも携わる。
休日はひたすらライブや舞台に足を運んでいる。

早川 朋
登場人物
キャリアリサーチLab主任研究員
早川 朋
TOMO HAYAKAWA
関根 貴広
登場人物
キャリアリサーチLab主任研究員
関根 貴広
TAKAHIRO SEKINE
石田 力
登場人物
キャリアリサーチLab研究員
石田 力
CHIKARA ISHIDA
長谷川洋介
登場人物
キャリアリサーチLab研究員
長谷川洋介
YOSUKE HASEGAWA

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