第三の賃上げとは?福利厚生で実現する給与アップの方法と取り組むメリット 

キャリアリサーチLab編集部
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キャリアリサーチLab編集部

近年、企業の人材戦略において「第三の賃上げ」という新たな概念が注目されている。本記事では、第三の賃上げとは何か、具体的な手法やメリットなどを解説する。

第三の賃上げとは何か

第三の賃上げとは、従来の定期昇給(第一の賃上げ)やベースアップ(第二の賃上げ)とは異なり、福利厚生制度の充実を通じて従業員の生活支援を行い、実質的な手取りや満足度を向上させる取り組みである。 

物価高騰や人手不足が深刻化する中、特に中小企業では直接的な賃金引き上げが難しいケースも多い。こうした状況下で、非金銭的な支援を通じて従業員の生活の質を高める「第三の賃上げ」は、持続可能な人材確保策として注目されている。 

政府もこの動きを後押ししており、賃上げ促進税制や福利厚生費の非課税制度などを通じて、企業の取り組みを支援している。給与だけに依存しない新しい報酬の形として、「第三の賃上げ」は今後の働き方改革の鍵を握る可能性がある。

なぜ今「第三の賃上げ」が注目されるのか

近年、「第三の賃上げ」が注目される背景には、物価高騰と実質賃金の伸び悩みという社会的課題がある。 

総務省の消費者物価指数によると、2025年7月の物価上昇率は前年同月比で3.1%を記録し、生活コストの上昇が家計を圧迫している。一方、厚生労働省の「毎月勤労統計調査」では、実質賃金は前年同月比でマイナスが続いており、賃金の上昇が物価に追いついていない状況が続いている

こうした中、企業は従業員の生活支援を強化する必要に迫られているが、特に中小企業ではベースアップや定期昇給といった直接的な賃上げが難しいケースが多い。そこで注目されているのが、福利厚生を通じて実質的な手取りを増やす「第三の賃上げ」である。これは、食事補助や育児支援、健康促進などの制度を活用することで、従業員の生活の質を高める取り組みだ。 

政府は「第三の賃上げ」という言葉を直接用いているわけではないが、奨学金の代理返済について盛り込まれた賃上げ促進制度や福利厚生費の非課税制度などを通じて、企業の取り組みを間接的に支援している 。2025年の「骨太の方針」では、「構造的な賃上げの実現」が掲げられ、物価上昇を上回る賃上げの定着を目指す方針が示された。 

このように、「第三の賃上げ」は、企業の人材確保と従業員の生活支援を両立する新しい賃上げの形として、今後ますます重要性を増していくと考えられる。

第三の賃上げの具体的な手法

「第三の賃上げ」は、福利厚生制度を活用して従業員の生活支援を行い、実質的な手取りを増やす取り組みである。ここでは、企業が導入しやすく、効果が期待される具体的な手法とその活用事例を紹介する。

食事補助による生活支援

代表的な施策のひとつが食事補助である。企業が社員食堂を設置することや、外部の食事提供サービスと連携することで、従業員の食費負担を軽減できる。ほかにも、昼食代の一部を会社が負担する制度もある。

家事・育児サービスの導入

家事代行や育児支援サービスを福利厚生として提供する企業も増えている。仕事と家庭の両立を支援するために、保育料の補助やベビーシッターの利用支援、家事代行サービスの利用費補助などが導入されている。これにより、特に子育て世代の従業員が安心して働ける環境が整う。 

子育て支援についてはこちらの記事も参考にしてほしい。

健康支援とメンタルケア

健康診断の充実やスポーツジムの利用補助、メンタルヘルスケアも「第三の賃上げ」に含まれる。従業員の健康を守ることは、企業の生産性向上にも直結する。ストレスチェック制度の活用や専門家による相談体制の整備など、心身の健康を支える取り組みが広がっている。

働き方の柔軟化

リモートワークやフレックスタイム制の導入も、福利厚生の一環として位置づけられる。通勤時間の削減やライフスタイルに合わせた働き方の選択肢を提供することで、従業員の満足度と生産性を高めることができる。週休3日制や短時間勤務制度など、柔軟な働き方を支援する制度も注目されている。

週休3日制については、こちらの記事でも解説している。

また、多様な正社員の働き方である「限定正社員」については、こちらの記事で解説している。

第三の賃上げのメリットと導入効果

それでは、「第三の賃上げ」に取り組むことで、どのようなメリットがあるのか。企業側、従業員側に分けて見ていこう。 

企業側のメリット

まずは企業側のメリットとして、以下のようなものが挙げられる。

採用力や定着率の向上

企業にとって「第三の賃上げ」は、単なる福利厚生の充実にとどまらず、戦略的な人材確保・定着の手段として機能する。特に中小企業では、直接的な賃金引き上げが難しい場合でも、福利厚生を通じて従業員の満足度を高めることで、採用力の強化や離職率の低下につながる

税制優遇によるコスト削減

福利厚生の一部は税制上の優遇措置を受けられるため、企業側のコスト負担を抑えつつ、従業員に実質的なメリットを提供できる点も大きい。たとえば、食事補助や通勤手当(※1)、健康支援などは非課税で支給可能な項目が多く、企業の財務的な負担を軽減しながら、従業員の生活支援を実現できる。
※1:通勤手当は非課税限度額あり

企業イメージアップ、人的資本経営への貢献

福利厚生の充実は企業イメージの向上にも寄与する。働きやすい環境を整備することで、企業の人的資本経営への取り組みが評価され、求職者からの注目度が高まる。これは、採用活動だけでなく、既存社員のエンゲージメント向上にもつながり、長期的な組織力の強化に貢献する。

人的資本経営については、以下の記事で詳しく説明している。

組織全体のパフォーマンス向上

前述したさまざまな手法を取り入れることで、従業員の健康向上やストレスの軽減、子育てサポートなどによるプライベートでの負担軽減ができる。すると精神的・体力的に余裕ができることで仕事のパフォーマンスが上がる。結果として組織全体のパフォーマンス向上という効果が期待できる。

従業員側のメリット

続いて従業員側のメリットを見ていこう。

実質的な手取り収入アップ

従業員にとって「第三の賃上げ」は、給与以外の形で生活の支援を受けられる点が大きな魅力である。たとえば、食事補助や通勤手当の支給、育児・介護支援などの福利厚生は、日常生活に直接関わる費用を軽減し、実質的な手取りの増加につながる

ワークライフバランスが整う

健康支援やメンタルケアの制度が整っていることで、心身の健康を維持しながら働くことができる。これは、長期的なキャリア形成や働き続ける意欲の向上にも寄与する。 

特に、柔軟な働き方の導入によって、ライフスタイルに合わせた働き方が可能となり、仕事と家庭の両立がしやすくなる点は、子育て世代や介護を担う層にとって大きなメリットである。 

ワークライフバランスについてはこちらの記事で詳しく説明している。

働きがいやモチベーションの向上

福利厚生の充実は、従業員の働きがいやモチベーションを高める要因にもなる。給与だけでは測れない「働く価値」を感じられる環境が整うことで、企業への信頼感や帰属意識が高まり、結果として生産性の向上やエンゲージメントの向上にもつながる。

第三の賃上げ導入企業の傾向と事例

「第三の賃上げ」を導入している企業は、業種や規模を問わず広がりを見せている。特に中小企業では、直接的な賃金引き上げが難しい分、福利厚生を通じた支援が有効な手段となっている。従業員のニーズに合わせて制度を柔軟に設計し、選択肢を提供することで、満足度の向上と定着率の改善につながっている。 

また、地域密着型の企業では、地元の生活環境に合わせた福利厚生制度を導入することで、地域人材の確保と定着を図っている。都市部との賃金格差を福利厚生で補う動きも見られ、地域経済の活性化にも寄与している。

導入にあたっての課題と注意点

「第三の賃上げ」は、従業員の生活支援と企業の人材確保を両立する有効な手段である一方で、導入にあたってはいくつかの課題と注意点が存在する。これらを事前に把握し、制度設計に反映させることが、持続可能な運用の鍵となる。

公平に利用できる制度設計

まず、福利厚生の内容によっては、従業員の間で利用機会に差が生じる可能性がある。たとえば、社食や通勤補助などは出社する従業員にしか恩恵がないため、リモートワーク中心の社員との間で不公平感が生まれることがある。こうした格差を避けるためには、利用者の属性や勤務形態に応じた柔軟な制度設計が求められる。

費用対効果

次に、制度の導入・運用には一定のコストと手間がかかる。福利厚生の内容によっては、外部サービスとの契約や社内の運用体制の整備が必要となり、特に中小企業では人的・財務的リソースの制約が課題となる。導入前には、費用対効果や従業員ニーズの把握を十分に行い、無理のない範囲で制度を構築することが重要である。

法令遵守

また、税制優遇を活用する場合には、制度の内容が法令に適合しているかどうかの確認が不可欠である。福利厚生費として非課税扱いとなるには、一定の条件を満たす必要があり、誤った運用は税務上のリスクを伴う。制度設計時には、税理士や社労士などの専門家の助言を得ることが望ましい。

従業員のニーズをヒアリング

さらに、従業員のニーズと制度内容が一致していない場合、期待された効果が得られないこともある。福利厚生は「提供すること」自体が目的ではなく、「従業員の生活の質を高めること」が本質である。定期的なアンケートやヒアリングを通じて、制度の見直しや改善を行うことが、長期的な制度運用には欠かせない。

このように、「第三の賃上げ」を導入する際には、制度の公平性や運用コスト、法令遵守、従業員ニーズとの整合性といった複数の観点から慎重に検討する必要がある。これらの課題を乗り越えることで、企業と従業員双方にとって有益な制度として定着させることが可能となる。

政府の支援制度と税制優遇の活用方法

「第三の賃上げ」を推進するうえで、政府の支援制度や税制優遇措置を活用することは、企業にとって大きな後押しとなる。特に中小企業にとっては、限られた予算の中で福利厚生を充実させるための重要な手段となる。 

まず、賃上げ促進税制では、一定の条件を満たした企業に対して、法人税の控除が認められている。これは、従業員の給与を前年度比で一定以上引き上げた場合に適用される制度であり、福利厚生の充実による実質的な賃上げも、間接的に支援される形となっている。 

また、福利厚生費の一部は、税務上「非課税」として扱われる。たとえば、通勤手当や食事補助、健康診断費用などは、一定の条件を満たすことで従業員の所得税や社会保険料の対象外となり、企業側も経費として計上できる。ただし、福利厚生の内容によっては課税対象となる場合もあるため、制度設計時には注意が必要である。 

さらに、地域経済の活性化を目的とした支援策として、自治体や経済産業省が提供する補助金制度も存在する。これらは、地域密着型の福利厚生制度の導入や、働き方改革の推進を目的とした取り組みに対して支援を行うものであり、申請条件や対象事業は地域によって異なる。 

このように、政府の支援制度や税制優遇措置を活用することで、「第三の賃上げ」の導入ハードルを下げ、より多くの企業が持続可能な形で従業員支援を実現できる。制度の活用には正確な情報収集と計画的な運用が不可欠であり、企業の戦略的な人材施策として位置づけることが重要である。

まとめと今後の展望

「第三の賃上げ」は、給与の直接的な引き上げが難しい状況下でも、福利厚生を通じて従業員の生活支援を実現する新しい賃上げの形である。企業にとっては、採用力や定着率の向上、税制優遇によるコスト削減といったメリットがあり、従業員にとっても、生活の質の向上や働きがいの実感につながる。

導入にあたっては、制度設計の公平性や運用コスト、法令遵守などの課題もあるが、政府の支援制度や税制優遇措置を活用することで、ハードルを下げることが可能である。今後は、企業が従業員の多様なニーズに応える柔軟な制度を構築し、持続可能な人材戦略として「第三の賃上げ」を定着させていくことが求められる。 

この取り組みは、働き方改革や人的資本経営の推進にもつながり、企業と社会の双方にとって価値ある変革となるだろう。

矢部栞
担当者
キャリアリサーチLab編集部
SHIORI YABE

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