前回の記事では、障害のある人が「自分で選んだ」と実感できる職業選択の重要性と、そのために必要な職業リハビリテーションの支援についてインタビューを通して聞いた。
本人の希望や価値観に寄り添い、選択肢を広げながら納得できるキャリア形成を支えることが、就職後の成長や自分らしい生き方につながるという指摘は、キャリア支援の出発点として重要な示唆を与えている。
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では、そのような主体的な選択を支える力は、いつ、どのように育まれるのだろうか。職業選択の場面になって初めて自分の希望や強み、必要な配慮について考えるのではなく、高校や大学での学びや経験の積み重ねの中で、自己理解を深め、将来への希望を具体化していくことが求められる。
そこで今回は、障害のある生徒・学生のキャリア教育を専門とする榎本氏に、教育段階におけるキャリア形成支援のあり方について寄稿いただいた。障害のある生徒・学生が自己理解を深め、自分らしいキャリアを主体的に選択し築いていくために、教育機関や支援者には何が求められるのか。その考え方と実践のポイントについて解説いただく。
榎本容子
発達障害等のある児童・生徒・学生のキャリア教育・就労支援を専門とし、学校から社会・職業への移行を支える教材やプログラムの開発・活用に関する研究に取り組んでいる。国立障害者リハビリテーションセンター研究所、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構等を経て、現在は独立行政法人国立特別支援教育総合研究所に所属。博士(教育学)。
はじめに
障害のある人の就労を取り巻く環境は、制度面において大きく変化している。法定雇用率の引上げによって雇用機会が拡大するとともに、「就労選択支援」の制度化により、本人の希望や適性を踏まえ、対話を通じて意思決定を支えることが一層重視されている。
本稿では、一般の高等学校(以下「高校」という)及び大学に在籍する障害のある生徒・学生が、「自分らしいキャリア」を自ら選び、築くために、自己理解を深めながら希望を具体化し、意思決定に至るプロセスをどのように支えるかを検討する。
なぜ今、障害のある人のキャリア形成が問われているのか
高校や大学に在籍する障害のある生徒・学生の中には、進学後や就職後に、自分の力を十分に発揮しにくい環境に置かれたり、必要な配慮を受けられなかったりすることで、困難に直面する人がいる。しかし、こうした困難を本人だけの課題として捉えることは適切ではない。
その背景には、進学や就職に関する情報を得る機会や、多様な経験を通して、自身の希望や特性、力を発揮しやすい環境について考える機会が、十分に確保されていないことがある。そのため、進学後や就職後の生活を具体的にイメージできず、自身に必要な配慮を整理したり、適切な支援につながったりすることが難しい場合がある。
また、必要な配慮を理解していても、周囲への遠慮や、負担をかけることへの懸念から、自ら申し出ることが難しい場合もある。さらに、自身が望む生き方や働き方について十分に考える機会がないまま、「仕事に就くこと」や「働き続けること」が優先され、本人が十分に納得できない状態で進路を選択することもある。
キャリア形成とは、「社会の中で自分の役割を果たしながら、自分らしい生き方を実現していくための働きかけと、その連なりや積み重ね」である。それは、自らの願いや価値観、経験を踏まえて将来への希望を具体化し、進学や就職、その後の生き方について考え、選択し、必要に応じて選び直していく過程でもある。
障害のある人のキャリア形成を支えるためには、本人の希望や意思が形づくられていく過程を丁寧に捉えることが重要である。その上で、進学後や就職後の生活を具体的に思い描きながら、本人が納得して進路を選択できるよう支える必要がある。また、進学後や就職後も、本人が自身の希望や状況の変化に応じて選択を見直し、自分らしく社会の中で役割を果たしていけるよう、継続的に支えることが求められる。
障害のある人の進学や就労の機会が広がる今、その機会を、本人の希望や意思に基づく選択と、自分らしい生き方の実現につなげていくことが重要である。そのため、障害のある人のキャリア形成をどのように支えるかが、改めて問われている。
本人の希望はどのように形づくられるのか
本人の希望を支える上では、まず、「こうしたい」「こうなりたい」という願いに丁寧に耳を傾けることが出発点となる。たとえば、「この学部に進学したい」「この職種に就きたい」といった希望について、そこで何を学び、どのように働き、何を実現したいのかを尋ね、その背景にある願いや価値観を、対話を通して理解していくことが大切である。
教員・支援者には実現が難しいと思われる希望であっても、その背景には、「好きなことに携わりたい」「得意なことを生かしたい」という願いや、「失敗したくない」という不安、ほかの選択肢を知らないといった事情がある場合がある。希望をすぐに否定・修正したり、希望の背景を周囲が決めつけたりせず、本人が自らの願いや価値観に気づき、考えを深められるよう支えることが重要である。
また、「本人の希望を聞くこと」と、その背景にある真の願いや価値観を引き出すことは、必ずしも同じではない。教員・支援者には、本人の言葉や行動を手がかりに、対話を通して、本人とともにその願いや価値観を明らかにしていくことも求められる。
たとえば、「電車の運転士になりたい」という希望を、単に「実現できるか、できないか」という視点だけで捉えると、本人の関心や強みを生かせる別の可能性まで狭めてしまうことがある。大切なのは、電車そのものへの関心なのか、運行を支える仕組みへの興味なのか、運転することへの憧れなのか等、何に惹かれているのかを本人とともに考えていくことである。その上で、仕事について調べたり、働く人の話を聞いたり、職場を見学したりすることで、駅務、清掃、設備点検、車両整備等、多様な仕事へと視野が広がることもある。
このように希望を具体化していく過程では、本人と家族、教員・支援者との間で、希望や実現可能性についての捉え方が異なることもある。その場合には、いずれか一方を優先するのではなく、それぞれが大切にしていることや懸念を共有する必要がある。その上で、授業や実習、職場見学、就業体験、検査等を通したアセスメントを踏まえ、本人の関心や得意なこと、苦手なこと、必要な配慮、力を発揮しやすい環境等を把握し、本人が自らの希望を整理し、具体化できるよう支援することが望まれる。
障害のある生徒・学生のキャリア形成支援の基本的な考え方と体制
高校・大学に共通するキャリア形成を支える基盤
高校・大学におけるキャリア形成支援では、学びや生活、進路選択に関わるさまざまな経験を通して、生徒・学生が自己理解を深め、希望を具体化しながら、自分に合った進路や卒業後の生活を考えられるよう支えることが重要である。
進路選択に当たっては、進路先に関する情報を得るだけでなく、見学や体験を通して、実際の環境や一日の流れ、そこで求められることを具体的に知る機会が重要となる。進路先を決めることにとどまらず、進路先での生活まで見通して、進路の選択肢を検討できるよう支える必要がある。
また、本人との対話やさまざまな経験の振り返りを通して、本人の希望、強みや困難、必要な配慮、効果的な支援等を整理し、新たな経験を重ねたり、進路に関する検討が深まったりする中で、その内容を見直していくことも重要である。
このように、さまざまな経験や本人との対話を通して、本人が自己理解を深め、必要な配慮を整理できるよう支える際には、障害名だけでなく、本人の障害の状態や生活経験、希望する進路、進学先・就職先の環境等を踏まえて、個別に検討する必要がある。
自己理解と必要な配慮の整理が支えるキャリア形成
以下では、自己理解を深め、必要な配慮を整理する上で、障害の状態に応じて確認すべき事項を、具体例とともに示す。
身体障害のある生徒・学生の場合、進学や就職に伴う環境の変化により、移動、介助の確保、機器の使用、情報保障等に課題が生じることがある。そのため、見学や実習を通して進路先の環境を確認し、自分で行うこと、機器や用具を活用して行うこと、周囲に配慮や支援を依頼することを整理しておくことが大切である。
発達障害のある生徒・学生の場合、レポートや書類の作成、課題や予定の管理、対人関係等に困難が生じることがある。そのため、授業や実習、アルバイト等の経験を振り返り、自らの特性が学業や仕事に及ぼす影響、力を発揮しやすい状況、必要な配慮を整理しておくことが大切である。
精神障害のある生徒・学生の場合、生活リズムや人間関係の変化、学業や就職活動の負担が心身の状態に影響することがある。そのため、体調変化のサインや調子を整える方法、負担を調整する方法、相談の目安や相談先を整理しておくことが大切である。
上記はあくまで一例であり、必要な配慮は、障害名だけで決まるものではない。こうした個別的な検討を踏まえ、高校と大学では、それぞれの教育段階や支援体制に応じて、キャリア形成支援が行われる。
高校におけるキャリア形成支援の特徴と体制
高校のキャリア教育は、特別活動を要としつつ、各教科・科目や総合的な探究の時間等との往還を図りながら、学校の教育活動全体を通して行われる。具体的な取り組みは、学校の設置形態や課程・学科、指導体制等によっても異なる。
通級による指導を受ける生徒には、特別支援学校学習指導要領の「自立活動」の内容を参考に、自己理解、対人関係、援助要請等に関する指導が行われる場合がある。こうした指導は、自らの障害特性や必要な配慮を理解し、それらを進学・就職後に周囲へ伝える力の育成にもつながる。ただし、指導体制や利用のしやすさには地域差がある。
校内では、すべての教職員が生徒のキャリア形成を支える視点を共有することが求められる。その上で、担任、進路指導担当者、特別支援教育コーディネーター、養護教諭等が、それぞれの専門性や役割を生かして連携し、学校生活の中で把握した本人の強みや困難、効果的な支援方法を共有することが重要である。これらの情報を、本人や保護者の意向を踏まえて、進路選択や進学・就職後の支援に生かすことが大切である。
大学におけるキャリア形成支援の特徴と体制
大学におけるキャリア支援は、キャリア教育科目、就職ガイダンス、個別相談、応募書類の作成や面接に関する支援等を通して行われる。具体的な取り組みは、大学の設置形態や規模、方針、学部・学科、支援体制等によっても異なる。
大学では、履修登録等の各種手続きや就職活動について、本人が見通しを持ち、主体的に進めることが求められる。一方、困難なことや必要な配慮を自ら申し出なければ、支援につながりにくい場合もある。
特に、学業と就職活動を並行する時期には負担が大きくなりやすいため、課題を整理し、今後の見通しを持ちながら、本人が次の行動に踏み出せるよう支えることが重要である。また、実習やインターンシップ等の経験を振り返ることは、自分に合う仕事内容や職場環境、必要な配慮を整理し、障害者雇用を含む選択肢を検討する手がかりとなる。
学内の支援には、障害学生支援、キャリア支援、学生相談、保健管理、教務、学部・学科等、複数の部門が関わり得る。大学の組織構成によっては、学生が相談先を把握しにくかったり、修学上の支援と就職支援が別々に進められたりする場合もある。本人の同意の下、各部門が把握した本人の希望、強みや困難、必要な配慮及び効果的な支援等を共有し、在学中の支援を卒業後の生活や就労につなげていくことが大切である。
自己理解と意思決定を支える記録と対話の仕組みの「キャリア・パスポート」
対話を通じて希望を言葉にしていく過程は、学校での日々の関わりの中でも重ねられていく。こうした対話を継続的に深めていくための手立ての一つとして、2020年度から小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校に導入された「キャリア・パスポート」に着目したい。
「キャリア・パスポート」に学びや経験を記録し、今後の学習や活動を見通したり、これまでの経験を振り返ったりすることは、本人の願いや価値観、興味・関心、得意なことを整理する手がかりとなる。難しさを感じた場面で役立った工夫や、取り組みやすかった環境・配慮についても記録することができれば、より多面的な自己理解につながる。また、小学校段階から蓄積されてきた記録を見返すことは、自らの変容や成長、持ち続けてきた興味・関心、さまざまな場面で発揮される強み等に気づくことにつながる。
記録は、本人との対話を深めるきっかけとなる。「何が印象に残ったか」「どのような工夫が役立ったか」「次に何を試したいか」等をともに振り返ることで、本人は経験から得た気づきを整理し、自らの願いや価値観についての理解を深めることができる。
その際には、回答を急かさず、本人の言葉や受け止め方を丁寧に確かめることが大切である。また、必要に応じて選択肢や具体例を示す等、本人が考えや気持ちを表現しやすいよう問いかけを工夫することも重要である。こうした対話は、教員にとっても、本人が大切にしていることを理解し、その後の支援を検討する機会となる。
このような記録と対話の積み重ねは、進路や生活・働き方に関する希望を具体化し、自らの願いや価値観に照らして選ぶ力を育むことにつながる。もちろん、大学等におけるポートフォリオや実習記録も、自己理解を深め、進路に関する意思決定を支える手立てとして活用できる。
高校・大学におけるキャリア形成を支える取り組みは、卒業後にどうつながるのか
キャリア形成は、高校や大学で培った自己理解や、自ら考え、選び、意思決定する力を土台として、進学後や就職後も、本人が望む生活や働き方を築くために続いていく。特に就職後は、仕事を経験する中で、得意なことや苦手なこと、自分が大切にしたいことへの理解が深まる。また、業務や職場環境、心身の状態等の変化に伴い、本人の価値観や希望も変化する。そのため、経験を振り返り、今後取り組みたい仕事や担いたい役割、必要な配慮を考え、働き方や役割を選び直すことも重要である。
企業には、職務との適合や職場定着を図る上で、本人との対話を通じて、仕事に対するやりがいや負担感、心身の状態等を把握し、「どのように働き、どのように生きたいか」という本人の希望をともに整理することが求められる。その上で、本人の希望や状態に応じて、担当業務や配置、必要な配慮を調整するとともに、新たな業務やスキルの習得に挑戦できる機会を設けることが重要である。こうした取り組みは、本人の能力の発揮や成長を促し、職場定着にもつながる。
卒業後のキャリア形成を切れ目なく支えるためには、「キャリア・パスポート」の記録をはじめ、在学中に整理した本人の強み、必要な配慮、具体化してきた希望等を、本人の意向を踏まえて次の進路先で活用できるようにすることも重要である。進学時には、学業や学生生活に必要な情報として本人とともに整理し、「個別の教育支援計画」等を通じて進学先と共有することが考えられる。就労時には、職業生活に役立つ内容を「就労パスポート」等に整理し、就労支援機関や事業所との相談や情報共有に活用することが考えられる。
情報共有に当たっては、本人に説明し、同意を得た上で、「何を、誰に、どこまで、どの段階で伝えるか」を確認する必要がある。こうした取り組みにより、本人は、在学中に育まれた自己理解や意思決定する力を生かし、進学先や就職先で経験を重ねながら、学び方や働き方、生活の仕方を選び、必要に応じて見直すことで、自分らしいキャリアを築いていくことができる。
おわりに
障害のある生徒・学生が自分らしいキャリアを築くためには、本人の意思を尊重し、納得のいく意思決定に至る過程を支えることが大切である。
高校や大学には、多様な経験と振り返りの機会を設け、その中で、本人が自らの価値観や強み、自分に必要な配慮への理解を深め、希望を具体化し、選択肢を比較しながら、自分に合った進路を選べるよう、対話を通じて支えることが求められる。
企業には、本人との対話を通じて、力を発揮しやすい職務や働き方をともに考え、採用後も、本人の希望や心身の状態、職場環境等の変化に応じて、必要な配慮や担当業務、働き方を見直すことが求められる。
家族、支援機関及び行政には、本人のキャリア形成や各機関の取り組みを支える役割がある。また、本人が必要な情報を得たり、相談や体験を重ねたりしながら、今後の学び方や働き方、生活の仕方を選び、必要に応じて見直すことのできる機会につなげることが求められる。
このように、教育機関、企業、家族、支援機関、行政が連携し、制度によって広がる機会を、一人ひとりの納得のいく意思決定につなげていくことが、これからのキャリア形成支援に求められている。
本人の希望は、経験や環境の変化に応じて変わり得る。選ぶことも、迷うことも、選び直すことも、その一つひとつを重ねながら、自分らしいキャリアは形づくられていく。