厚生労働省が公表した「令和7年障害者雇用状況の集計結果」によると、民間企業で雇用される障害者数は70万4,610.0人となり、過去最高を更新した。一方、従業員に占める障害者の割合は2.41%で、法律で定められた雇用目標(2.5%)をわずかに下回っている。また、この目標を達成している企業は46.0%にとどまっている。
障害者雇用は着実に拡大しているものの、企業全体で見ると、法定雇用率の達成や職場定着、活躍支援にはなお課題が残されている。
また、2026年7月から民間企業の法定雇用率は2.7%となり、対象となる事業主の範囲も常用労働者37.5人以上へ拡大された。企業には、不足人数を補うための採用だけではなく、合理的配慮、定着支援、人材育成、キャリア形成支援を含めた総合的な人材戦略が求められている。
本コラムでは、令和7年障害者雇用状況集計結果をもとに、日本企業における障害者雇用の現状を整理し、今後企業に求められる対応について考察する。中小企業や障害者雇用率引き上げに伴い、何をすればよいかという人事や労務担当の方のヒントにしてほしい。
※今後も調査内容が公開された際は、内容を最新に更新していく
厚生労働省「令和7年 障害者雇用状況の集計結果」
https://www.mhlw.go.jp/content/11704000/001357856.pdf
令和7年障害者雇用状況集計結果の概要のポイント
障害者雇用状況の集計結果は、「障害者の雇用の促進等に関する法律」に基づき、厚生労働省が毎年6月1日時点の障害者雇用状況について、障害者雇用義務のある事業主などから報告を受け、民間企業や公的機関における身体障害者、知的障害者および精神障害者の雇用状況を取りまとめたものである。
令和7年の結果では、民間企業に雇用される障害者数が70万4,610.0人となり、前年より2万7,148.5人増加した。対前年比では4.0%増となり、雇用障害者数、実雇用率ともに過去最高を更新している。
一方で、実雇用率は2.41%であり、当時の民間企業の法定雇用率である2.5%には届いていない。また、法定雇用率達成企業の割合は46.0%であり、半数以上の企業が未達成となっている。
障害者雇用は量的な拡大を続けているものの、法定雇用率達成や職場環境整備といった面では、依然として課題が残されていることが今回の結果から読み取れるだろう。
障害者雇用が増加している背景
障害者雇用が拡大している背景には、法定雇用率の段階的な引き上げがある。民間企業の法定雇用率は令和6年4月に2.5%へ引き上げられ、令和8年7月には2.7%となった。これに伴い、対象となる企業規模も拡大しており、より多くの企業が障害者雇用への対応を求められている。
また、近年はダイバーシティ&インクルージョン(DE&I)への関心の高まりやICTの進展により、障害のある人の就労機会も広がっている。テレワークや支援ツールの普及により、従来は働くことが難しかった人材の活躍の場も増えている。
障害者雇用率の制度解説はこちらの記事も参考にしてほしい。
企業規模別・障害種別に見る特徴
令和7年障害者雇用状況集計結果では、雇用障害者数は過去最高となったものの、企業規模による対応力の差は依然として大きい。
一般的に、大企業では専任担当者の配置や特例子会社の活用、採用体制の整備など、障害者雇用を支援する仕組みを構築しやすい。一方で、中小企業やスタートアップ企業では、人員やノウハウが限られていることから、業務の切り出しや受け入れ体制の整備に課題を感じるケースも少なくない。
また、障害種別では身体障害者、知的障害者、精神障害者のいずれも雇用が増加しているが、特に精神障害者の伸びが大きいことが特徴であると報告されている。
精神障害者の雇用が広がるにつれて、企業に求められる配慮の内容も多様化している。設備面の整備だけではなく、業務量の調整、コミュニケーション支援、体調変動への配慮、通院への対応、職場内の理解促進など、個々の特性を踏まえたマネジメントが重要になっている。
企業に求められる対応
合理的配慮の提供体制を整備する
障害者雇用を進めるうえで、合理的配慮の提供体制を整備することは不可欠である。雇用分野では、改正障害者雇用促進法に基づき、平成28年4月から障害者差別の禁止と合理的配慮の提供が事業主に義務付けられている。
合理的配慮とは、障害のある人が職場で能力を発揮するうえで困難となる状況を改善するために、事業主が過重な負担とならない範囲で必要な調整を行うことである。
たとえば、視覚障害者への音声読み上げソフトの導入、聴覚障害者への文字情報の提供、精神障害者への柔軟な勤務調整などが挙げられるだろう。詳しくは、以下の記事も参考にしてほしい。
重要なのは、企業側が一方的に必要な配慮を決めるのではなく、本人との対話を通じて支援内容を検討することである。障害名が同じであっても必要な配慮は異なるため、建設的な対話を継続する姿勢が求められる。
公的支援制度を積極的に活用する
障害者雇用に取り組む企業に対しては、多様な公的支援制度が用意されている。ハローワーク、地域障害者職業センター、障害者就業・生活支援センター、就労移行支援事業所などは、採用相談や職場実習、定着支援、雇用管理に関する助言を行っている。
また、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構では、助成金制度や職業リハビリテーション支援を実施している。
特に障害者雇用の経験が少ない中小企業では、自社のみで採用から定着までを完結させようとするのではなく、外部支援機関との連携が重要となる。支援機関を活用することで、業務設計や職場実習、採用後のフォロー体制構築などを段階的に進めやすくなる。
キャリアリサーチLabでは、障害者の働き方を支援する制度についても解説しているので、こちらも参考にしてほしい。
採用手法の転換
近年は障害者採用市場の競争が激化しており、従来型の求人募集だけでは十分な人材確保が難しくなっている。そのため、特別支援学校、大学の障害学生支援室、就労移行支援事業所、地域障害者職業センターなどとの連携を強化し、採用チャネルを多様化することが重要である。
そして、障害者採用市場では、「障害者コース」として独立した採用枠を設けるだけでなく、新卒採用やキャリア採用(中途採用)の通常選考に応募する障害者も増えている。こうした変化は、障害の有無で人材を区分するのではなく、一人ひとりの能力や経験を基準に採用・配置を行う考え方が広がっていることを示しているだろう。
企業側には、障害者採用を特別な採用活動として切り離すのではなく、多様な人材が活躍できる採用プロセスや職場環境を整備することへの転換が求められている。
また、新卒・中途であっても職場実習やインターンシップを積極的に受け入れることで、企業と求職者の双方が仕事の内容や職場環境について理解を深めることができる。これにより、採用後のミスマッチ防止や定着率向上も期待できる。
特に、すでに障害のある社員が在籍している企業であれば、実際の働き方や必要な配慮、キャリア形成の事例などを求職者に伝えやすい。一方で、障害者雇用の実績が少ない、あるいは初めて取り組む企業の場合でも、そのことを隠す必要はない。
むしろ、「現在どのような受け入れ体制を検討しているのか」「どのような職場づくりを目指しているのか」「試行錯誤しながら環境整備を進めていること」を率直に伝えることで、求職者との相互理解につながる。
障害者雇用において重要なのは、企業側が最初から完璧な受け入れ体制を整えていることではなく、本人との対話を重ねながら働きやすい環境をつくっていく姿勢である。職場実習やインターンシップは、そのための貴重な機会となるだろう。
さらに、障害者雇用を進める企業向けには、人材紹介会社、採用支援サービス、サテライトオフィス型サービスなど、さまざまな採用手法がサービスとして提供されている。これらは障害者雇用のノウハウが不足している企業にとって有効な選択肢となる場合もある。
ただし、サービスを活用する際は、単に法定雇用率を達成できるかどうかだけで判断するのではなく、「採用した人材が自社で活躍し続けられるか」という視点を持つことが重要である。
近年は障害者雇用を支援するビジネスが拡大している一方で、雇用率達成そのものを目的とした取り組みや、企業の事業活動との接点が限定的な環境で雇用を行うモデルについて、さまざまな議論も起きている。企業としては、制度対応を目的化するのではなく、自社における障害者雇用の目的を明確にしたうえで、採用後の育成やキャリア形成につながる仕組みがあるかを見極めることが重要である。
採用活動を進める際には、「何人採用するか」だけでなく、「どの部署で受け入れるのか」「誰がマネジメントするのか」「どのようなキャリアパスを描けるのか」まで事前に可視化し、整理しておく必要がある。採用担当者だけでなく、受け入れ部署や管理職、社内の部門を横断して巻き込みながら体制を構築することで、採用後の定着と活躍につながりやすくなる。
そのうえで、採用後は、合理的配慮の提供だけでなく、業務の切り出し、上司や同僚への障害理解研修、ジョブコーチの活用、キャリア面談の実施などを組み合わせる必要がある。
障害者雇用は「採用して終わり」ではなく、「活躍できる環境づくり」まで含めて取り組むことで、初めて成果につながる。その意味で、企業に求められているのは雇用率達成のための採用活動ではなく、障害のある社員が継続的に成長し活躍できる組織づくりである。
障害者雇用を人的資本経営の視点で捉え直す
近年、企業経営においては人的資本経営への注目が高まっている。人的資本経営とは、人材をコストではなく価値創造の源泉として捉え、その成長や能力開発への投資を企業価値向上につなげる考え方である。
この視点から見ると、障害者雇用は単に法定雇用率を達成するための取り組みではない。重要なのは、多様な人材が能力を発揮し、成長しながら活躍できる環境を整えることであり、障害者雇用もその実践の一つとして捉えることができる。
実際には、障害者雇用枠で採用された社員が長期間同じ業務を担当し続けたり、キャリア形成の機会が限定されたりするケースも少なくない。しかし、人的資本経営の観点では、障害の有無にかかわらず、研修参加や資格取得支援、ジョブローテーション、プロジェクト参画などの成長機会を提供することが求められる。
定期的なキャリア面談を通じて本人の希望や将来の目標を確認し、業務内容や役割を見直していくことも重要になるだろう。
さらに、障害者雇用への取り組みは組織全体の働きやすさ向上にもつながる。柔軟な働き方や多様なコミュニケーション手段の整備は、育児や介護、治療と仕事の両立を行う社員にとっても有効である。
令和7年障害者雇用状況集計結果は、障害者雇用が着実に拡大していることを示している。一方で、この結果を単純に「次は質の向上だ」と捉えるだけでは十分ではない。
なぜなら、現在もなお多くの企業にとっては、法定雇用率の達成そのものが重要な経営課題だからである。障害者雇用の経験が少ない企業や採用基盤が十分に整っていない企業にとっては、まず必要な人材を確保し、雇用率を達成することが第一歩となる。
雇用機会を広げることは、障害のある人の働く選択肢を増やすという社会的意義も大きく、量的拡大は今後も重要なテーマであり続ける。
しかし、すでに法定雇用率を安定的に達成している企業では、次のステージへ進むことが求められる。単に採用人数を積み上げるだけではなく、採用した人材が能力を発揮し、長期的に活躍できる環境を整えることが重要になるだろう。
特に近年は、障害者雇用を企業の人的資本経営やダイバーシティ経営の一環として位置付ける動きが広がっている。こうした観点からは、「雇用している人数」だけではなく、「どのような仕事を担当し、どのようなスキルを身につけ、どのようなキャリアを築いているか」が問われるようになる。
令和7年障害者雇用状況集計結果は、障害者雇用が量的拡大の段階から質的向上の段階へ移行しつつあることを示している。もっとも、その前提として量の確保は引き続き重要であり、企業は自社の状況に応じて「量の達成」と「質の向上」の両方に取り組む必要がある。
そして、雇用率を達成し、一定の採用基盤を築いた企業に求められるのは、「何人採用したか」を競うことではない。「採用した人材がどのように成長し、どのように活躍しているか」を継続的に問い続けることである。障害者一人ひとりの能力発揮やキャリア形成を支援することこそが、これからの障害者雇用の質を測る重要な指標となることを期待したい。