企業の「勤怠管理」に関するよくある課題と実務対応-社会保険労務士法人みらいコンサルティング

なぜ、勤怠管理が求められているのか

労働人口が減少する中、働き方の多様化が進んでいます。労働法令の改正、新型コロナウイルス感染症を契機としたテレワークの普及、副業・兼業やスポットワークの広がりなど、法的・社会的あるいは個人的要請を受け、企業に対して働く時間や場所の柔軟性、選択肢が求められるようになりました。

しかし、企業の勤怠管理が、そのような働き方の変化に追いついていない場面をしばしば見受けます。手入力での記録であったり、労働時間の自由度は高いものの制度運用や時間管理は曖昧になっていたり、あるいは、そもそも実労働時間の記録がとれていない企業も(一昔前に比べればかなり減りましたが…)存在します。このような企業は、未払い賃金等の労務リスクを日々蓄積させているうえ、社員の不安や不信感を増大させている可能性もあります。

本コラムでは、統計データや厚労省のガイドラインが示す法令原則により、企業の勤怠管理に関する課題を整理しつつ、よくある相談事例とポイントをご紹介します。自社の勤怠管理を整備し、社員が安心して働ける環境をつくるための参考にしていただければ幸いです。

統計データに見る「勤怠管理」上の不備

勤怠管理に関連した統計データとして、長時間労働が疑われる事業場に対して労働基準監督署が実施した「厚労省の長時間労働に関する調査」によれば、調査対象26,512 事業場のうち

  • 11,230 事業場(42.4%)で違法な時間外労働があった
  • 2,118 事業場 (8.0%)で賃金不払残業があった
  • 4,016 事業場 (15.1%)で労働時間の把握が不適正であった

という統計結果が出ています。

出典:厚労省「長時間労働が疑われる事業場に対する 令和6年度の監督指導結果を公表します」

これらの不備について、企業が「誰が、何時から何時まで、何時間働いたか」を日々適正に管理できていないことが大きな要因として想定されます。「自社は勤怠管理システムを導入しているから大丈夫」とは言い切れません。

システムを利用していたとしても、変形労働時間制やフレックスタイム制など、自社が導入している労働時間制度に対応できていなかったり、切り捨てや四捨五入など端数処理によって労働時間計算が不正確であったり、打刻方法(タイミング)が個人任せで実際の労働時間として疑わしい記録が日々生まれているような状況に陥ってはいないでしょうか。

企業の勤怠管理における指針

企業が勤怠管理を行うにあたり遵守すべき指針が、厚労省が策定した「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」です。

本ガイドラインでは、企業が労働時間を把握する方法として、以下のいずれかを「原則」として定めています。

  1. 使用者が自ら現認する
  2. タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間(いわゆる「PCログ」)等の客観的な記録を基礎として確認し、適正に記録する

重要なのは、ただ記録を残すだけでなく、その方法が「客観的」といえるかどうかです。本人の「自己申告制」による把握(手書きの日報やExcel入力など)は上記「原則」的な方法に含まれておりません。言い換えれば、やむを得ない場合の例外的な方法です。自己申告制により把握する場合には、社員に対して「十分に説明」し、かつ、「実態調査」を行うこととされています。自己申告制を運用している企業において、実態調査を定期的・継続的に実施している企業は、あまり多くはないのではないでしょうか。

また、勤怠管理システムを利用していたとしても、スマートフォンなどで「いつでもどこでも」労働時間を入力でき、変更や修正が可能な状態ですと、「客観的な記録」とは判断されない(自己申告制とみなされる)ケースもあることに注意が必要です。

なお、本ガイドラインでは、(出勤簿ではなく)賃金台帳において、社員ごとの労働日数、労働時間数、休日労働時間数、時間外労働時間数、深夜労働時間数といった事項を適正に記入することも求めていることを補足しておきます。

勤怠管理に関する相談事例と具体策

ここからは、実際の相談事例を取り上げ、実務的なポイントを挙げてみます。

ケース1:労働時間は1分単位?

1分単位で打刻すると、管理が複雑化し、人件費もあがってしまう。15分とか30分で丸められないか

「労働時間は30分単位」「始業前や終業後の15分未満の記録は切り捨て」といった運用が時折見かけられます。その理由の多くは、「1分単位で計算すると、毎月の賃金計算が煩雑になるから」とか「雑談している時間や身支度していることもあるのだから(実際には働いていない時間もあるのだから)、結果としてバランスがとれているのでは」というものです。

しかし、原則、労働時間は1分単位で記録しなければならず、かつ、その記録に応じて適正に賃金を計算・支給しなければなりません。労働時間の端数処理で認められているのは、1ヶ月の労働時間(時間外労働・休日労働・深夜労働の各合計時間)の端数処理のみであり(各々の合計時間について30分未満の切り捨て、30分以上の切り上げは認められています)、日々の労働時間の切り捨ては認められません。

【対応策の例】

  • 労働時間を日々、1分単位で記録する(原則)
  • 労働時間を切り上げる(社員側に有利な取り扱いとする)
  • 1ヶ月の合計時間について、法令で認められた端数処理をする
  • 所定労働時間外の労働は原則禁止としたうえ、所定労働時刻と勤怠打刻時刻に乖離が生じた場合、乖離理由を確認し、労働実態が認められれば労働時間として取り扱う(労働実態がなければ、乖離理由を記録する)

「労働時間の切り上げや都度の乖離確認(実態調査)をするくらいなら、原則的な1分単位の管理のほうがよい」と判断される企業もあります。一時的なシステム投資コストだけでなく、日々の人事担当者の管理コストも考えるべきでしょう。リスクとコストのバランスを見つつ、可能な限りコンプライアンスを意識した管理を検討あるいは継続していきましょう。

ケース2:着替えの時間は労働時間?

当社は制服への着替えがあるが、人によって着替えにかかる時間が異なる。着替えが遅い人のほうが労働時間が増え、結果的に賃金が増えるというのはおかしいのではないか

着替えのテキパキさだけでなく、ダラダラと残業している社員の方が、残業代として収入が増える、というのは、経営者にとっても、あるいは仕事の早い社員にとっても不公平感を感じるものだと思います(あえて「テキパキ」とか「ダラダラ」という表現を使いましたが、仕事の速さは人それぞれです)。

打刻機が一台しかなく、始業時や終業時に行列ができてしまうケースも似たようなものでしょう。このような場合、打刻時間で労働時間を管理するのが理想とは認識しつつも、労働の実態とは乖離してしまう、というギャップが生じてしまいます。

【対応策の例】

  • ギャップは必要コストと割り切り、打刻時間で管理する
  • 着替えに必要な「標準時間」を設定し、全員一律に労働時間として計上する

前者は原則的な方法ですが、後者は、必要であろう着替え時間を加算して計上する、という方法です。着替えにかかる標準時間の合理性・妥当性を証明できるならば、選択肢のひとつと考えられます。合理性・妥当性の証明には、たとえばサンプルとして複数人の実際の着替え時間を計測し、標準的な時間を設定する、というものです。

なお、ダラダラ残業の抑止策としては、

  • 残業の事前承認制を徹底する
  • 固定残業代制度を活用する
  • 労働のプロセスや成果を評価し、賃金に反映する

などの施策が考えられます。

固定残業代制度は企業風土や業種・職種などによって相性の良し悪しがありますし、制度が否認されると未払い賃金リスクが跳ね上がります(固定残業代も含めて時給単価を算出し、実残業時間に合わせて再計算することになる)ので、強くオススメするものではありませんが、検討の余地はあるものと考えます。

ケース3:テレワークは本当に働いている?

テレワーク制度を導入しているが、本当に働いているか疑わしい

テレワーク(在宅勤務)の導入において、経営層や管理職からもっとも多く上がるのが「目に見えない、管理が行き届かない場所で、サボっているのではないか」という不信感です。また、職場でのコミュニケーションが希薄になり、チームワークや偶発性が失われた(失われる恐れがある)という話も聞きます。

完全テレワーク(フルリモート)をうたって、採用競争を勝ち抜く企業もあることから(「直接対面で会ったことのある社員は一人もいない」という経営者に出会った時は驚きました)、「なんとなく信じられない」という気持ちのみで、テレワークを全面禁止にするのは避けたほうが良いかと考えますが(「(社員を)信じていない」という気持ちが社員に伝わってしまいます)、労使あるいは社員同士がお互いに疑いを持たず、気持ちよく働くには、一定のルールが必要かと考えます。

【対応策の例】

  • チャットツールで始業時、終業時を共有する
  • 日報や業務管理ツールで業務内容、進捗を共有する
  • PCの稼働ログをとっておき、仕事をしているか確認(できるように)する
  • 目標を合意し、プロセスや成果を確認、評価する(時間は本人の裁量に任せる)

テレワークは通勤苦からも逃れられて楽、という意見もありますが、孤独感や疎外感を感じてしまう、という方も中にはいます。業務上必要な情報の共有や、テレワーク可否の基準などのルールを整備徹底しつつ、コミュニケーションという観点からも施策を検討しておくことが望ましいと考えます。

ケース4:フレックスタイムを理由に会議参加拒否

フレックスタイム制度を導入したら、会議参加を断られた

フレックスタイム制は、適用される社員自身が日々の始業・終業時刻を自分で決めることができる制度です。しかし、「自分の好きな時に来て、好きな時に帰れるのだから、会社の施策には協力しなくてもよい」という個人主義的な運用に陥ってしまう危険性をはらんでいます。「重要な会議がある」にもかかわらず、ある社員が「フレックスタイム制なので」と調整・協力もせずに、拒否するようなケースです。

【対応策の例】

  • コアタイムを設定し、全社的な会議などを同時間帯に設定する
  • 「日々の予定をカレンダーで共有する」といった組織としての最低限の運用ルールを徹底させる

労働時間の自由度が高い反面、社員一人ひとりの自律や、お互いの協力姿勢のもとに成り立つ制度ですので、そういった主旨も含めて説明し、理解いただけるとよいと考えます。

ケース5:管理職の打刻がおろそかに

部下の勤怠を管理する側であるはずの管理職の打刻がおろそかになっている

組織の中で勤怠管理が曖昧になりがちなのが(本来は管理する側であるはずの)管理職です。「残業代が出ないから、打刻しなくても賃金は変わらない」「そもそも管理職は時間を気にして働く役職ではない」という誤った認識がその原因と考えられます。

一昔前は、「労働基準法上の管理監督者」については、労働時間を管理してはいけないものだ、という考え方があった時代もあったかもしれません。が、現代は健康管理のためにも、管理監督者も含めて、労働時間の状況を把握しなければいけません。

【対応策の例】

  • 経営陣から労働時間管理に関する意識改革のメッセージを発信する
  • コンプライアンスや健康管理など、勤怠管理の目的を理解させる
  • 未打刻者に対して注意指導、改善が見られなければペナルティを課す

自社の適切な勤怠管理へ向けて

ここまで、勤怠管理を取り巻く現状、法令、そして実際の相談事例を見てきました。

勤怠管理を適切に把握することは、単なる「法律を遵守するため」に留まりません。健康管理とともに、誰がどれだけの時間を使って、どのような成果を出しているのかが明確になることで、企業は初めて生産性について効果的な施策を打つことができるようになります。また、適切な労働時間管理は、社員の安心感や会社への信用につながり、社員の定着にも効果があるでしょう。

自社の勤怠管理を時代に合わせた「あるべき姿」へとアップデートしていきましょう。

片山久也
担当者
キャリアリサーチLab編集部
HISANARI KATAYAMA

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