メンタルヘルス不調者に対して会社(人事・経営者)ができる対応とは-社会保険労務士法人みらいコンサルティング

昨今の会社経営において、従業員のメンタルヘルスケアは、単なる福利厚生の一環ではなく、人手不足下における重要な「リスクマネジメント」であり、かつ、人材という貴重な「資本」を活かすことによる「持続的経営への投資」といえます。

厚生労働省の調査(※1)によると、メンタルヘルス不調により連続1ヶ月以上休業または退職した労働者がいる事業所の割合は全体の1割ほど、本統計データだけで見れば、10の事業所があれば、うち1つの事業所でメンタルヘルス不調による休業者または退職者が発生していることになります。

人手不足が深刻化する中、貴重な戦力がメンタルヘルス不調で職場を離脱することは、チーム全体の士気や生産性の低下を招きます。また、その原因として長時間労働や高ストレス環境、ハラスメントなどが想定されるのであれば、継続的に不調者を生むことにもなり得るため、メンタルヘルスの不調を個人の問題と決めつけることなく、会社は組織的に対応する必要があります。

ストレスチェックの全事業所義務化も見えてきました(※2)。メンタルヘルス不調への対応方法について、いくつか例を挙げながら、確認していきましょう。

※1 厚生労働省「労働安全衛生調査(実態調査・令和6年)」によれば、過去1年間(令和5年11月1日から令和6年10月31日までの期間)にメンタルヘルス不調により連続1ヶ月以上休業した労働者又は退職した労働者がいた事業所の割合は12.8%。このうち、連続1ヶ月以上の休業者がいた事業所の割合は10.2%、退職者がいた事業所の割合は6.2%となっています。
※2 2025年現在は50人以上の事業場においてストレスチェック実施は義務ですが、2028年までに50人未満に拡大される予定です。

本人は「働ける!」と言っているが…プライバシーと安全配慮義務の板挟み

メンタルヘルス対応が難しいのは、その病状について個人ごとにとらえ方、判断が異なること、そして「個人のプライバシー」と「会社の安全配慮義務」が絡み合う点にあります。

第三者の立場からは「病院に行って診てもらったほうが…」と思っても、本人はそこまで深刻に考えていなかったり、自分の現状を受け入れられず、あえて病院には行かなかったり、というケースも見受けられます。現場の担当者からは「どこまでこちら(会社側)から働きかけてよいのか、わからない」という相談をよく受けます。

また、上司や人事担当者は「プライバシーの侵害だと言われないか?」「かえって本人にネガティブな感情を抱かせてしまうのではないか?」という不安を抱くこともあるでしょう。

よかれと思ってかけた「頑張れ」という言葉が、うつ状態の社員には逆効果になることもあると言われています。そのため、なかなか触れるに触れられずという状況に陥り、結果として孤立させてしまうケースもあります。

現場の負担とチームへの悪影響

チームの中の一人がメンタルヘルス不調を理由に休むことになれば、残されたメンバーの業務負担が増えるほか、その理由自体が不安を助長させることがあります。

場合によっては、その原因は一緒に働いていた自分にもあるのでは?と考えてしまう社員も出てくる可能性があります。業務の穴埋めのために周囲の社員まで連鎖的にメンタルヘルス不調が起きるリスクがあります。

再発の可能性

メンタルヘルス不調による休職の場合、復職しても再発してしまい、欠勤や休職を繰り返すケースが散見されます。会社としては「回復して、職場に戻ってほしい」と願う一方で、「復帰して本当に大丈夫なのか」「また休んでしまうのではないか」という心配が絶えず、適切な配置や接し方に迷うこともあるでしょう。

これらの課題を解決するためには、属人的・場当たり的な対応ではなく、「仕組み」に基づいた組織的な対応が不可欠です。

メンタル変化のサインとは(メンタルヘルス不調者の兆候)

メンタルヘルスの不調は、ショッキングな出来事への遭遇や、職場や家庭環境における役割の変化(昇格昇進などの異動、結婚や子育てなど)など目立った出来事にとどまらず、小さな変化が積み重なって発生する場合があります。

会社、特に現場の管理職は、その変化のサイン(いつもと違う表情、行動や反応)を見逃さないように観察する必要があります。

勤怠・行動面に現れるサイン

もっともわかりやすいサインが勤怠状況の変化です。

  • 遅刻・早退の増加:これまで真面目に勤務していた社員が、遅刻や欠勤、突発的な休暇申請を繰り返す
  • 無断欠勤:急に連絡が取れなくなる、始業時間を過ぎてから連絡がくる。あるいは休む理由が曖昧
  • 残業の変化:長時間労働をしている、ダラダラしていて成果が出ていない

業務パフォーマンスに現れるサイン

能力的な問題ではなく、集中力や判断力の低下として現れます。

  • ミスの増加:単純な作業ミスや申告フローなどのルールが守られなくなる
  • 判断や行動の遅れ:決断や行動をせず、業務が保留になりがちになる
  • 業務の抱え込み:情報共有(報告・連絡・相談)が少なくなり、他人との接触が減少し、自分の殻に閉じこもる

感情・対人面に現れるサイン

周囲とのコミュニケーションに変化が生じます。

  • 表情の変化:表情が暗い、生気がない
  • 身だしなみの乱れ:服装がだらしなくなる、清潔感が欠けるようになる
  • 感情の起伏:気分にムラがある、些細なことで激高したり、泣き出したりする

これらのサインに気づいた際は、無理に是正指導したり、逆に放置したりしてはいけません。重要なのは対話、相手の話を聞くことです(「傾聴」ともいいます)。

その上で「それは病気だ(かもしれない)」などと判断(診断)することではなく、どのような状況にあり、どのような支援が必要かなどを聞き取り、会社として対応を判断します。

トラブルを防ぐ仕組みづくり

メンタルヘルス不調者が発生した際、会社の対応・判断のより所となるのが「就業規則」です。ここが曖昧だと、休職発令や復職可否を巡ってトラブルに発展します。以下のポイントが押さえられているか、自社の規定をご確認いただければと思います。

休職の定義や期間、通算

休職制度は法的な義務ではなく、会社が任意で設ける制度です。「労働力を提供できない社員の解雇を回避する」という意味合いも含まれています。各社の方針や組織の状況を勘案して、適用条件やその内容を明確にする必要があります。

  • 対象:無期契約の正社員のみか。試用期間中の者や、有期契約の社員は対象にするか
  • 期間:勤続年数に応じて休職期間を変えるか
    (例:試用期間中はなし、勤続1年~3年未満は3ヶ月、3年以上は6ヶ月など)
  • 通算規定:一度復職したものの、その後再発した場合、前回の休職期間と通算するかどうか。この規定がないと、毎度復職時にリセットされ、「復職→短期間出勤→再休職」を繰り返し、いつまでも休職期間満了(退職)にならないという事態を招きます。

復職または期間満了退職の判断基準

休職制度において、もっともトラブルになりやすいポイントです。主治医の診断書にある「復職(就労)可能」と、会社が求める「就労可能(な状態)」にはギャップがあるからです。

就業規則には、単に「治癒したら復職」とするのではなく、「主治医のみならず、産業医の意見も勘案する」とか「従前の業務を通常通り遂行できる程度に回復したとき」というように、復職基準と決定までの流れを具体的に記載しておいたほうがよいでしょう。

お試し出勤や、軽作業から任せていくなどのリハビリを兼ねた制度を導入している会社もあります。

規定には書いてあっても…復職可否の判断は誰がする?

上記の「トラブルを防ぐ仕組みづくり」のように、規定で具体的に復職の基準などが記載されていても、実際に復職させるか、またはさせないか(期間満了で退職)を決定することは容易ではありません。下記のように一つひとつ事実や証拠を積み重ねていくプロセスが重要です。

  1. 本人の申告:就労の意思、本人の認識の確認(復職届の提出)
  2. 主治医の診断:「就労可」の意見をもらう(あくまで一般的な基準)
  3. 産業医の診断:産業医から、本当に実務に耐えうるかの意見をもらう
  4. 会社の判断:主治医ならびに産業医の意見を参考に、会社が決定する

もし、無理な状態で復職させ、あるいは復職後に過度な業務を任せて病状が悪化した場合、会社は責任を問われることになります。また、十分な判断材料もなく、期間満了退職を迫ったとなれば、不当解雇として訴えられる可能性もあります。本人の職場復帰が一番の目的ですが、会社として適切な判断ができるよう、慎重に進めていきましょう。

「再発」と「未然防止」のためにできること

メンタルヘルス対策は、事後対応よりも、予防(事前対応)がより重要です。厚生労働省では下記の4つのケアを推奨しています。

セルフケア(社員自身によるケア)

社員自身が自分のストレス状態に気づけるように、ストレスチェックなどの機会を提供します。また、研修などを通じて、メンタルヘルスの基礎知識やSOSの出し方を周知します。

ラインケア(上司による対応)

現場の上司が、2で前述したような異変、サインにアンテナを張り、不調者が見つかれば、人事部門などにつなぎます。現場で抱え込むようなこと(属人的に対応すること)のないようにしましょう。

事業場内産業保健スタッフ等によるケア

会社の産業医や保健師、人事担当者が連携し、専門的な視点からサポートします。そのような体制が構築されていること自体が、働く社員の安心につながることもあるでしょう。

事業場外資源によるケア

事業場内産業保健スタッフ等によるケア」以外に、社外の専門家を活用することです。

メンタルヘルス対応は、会社と社員の信頼関係

メンタルヘルス不調者への対応は、会社にとってリスクを伴い、かつ扱いにくい、難しい課題です。しかし、その対応プロセスをしっかりと構築しておくこと、万が一発生した場合にそのプロセスにのっとって対応することは、メンタル不調者本人のみならず、不調者の上司やほかのメンバーへのネガティブな影響、負担を低減できるはずです。

  • セルフケアやラインケアで、早期発見の感度を高めること
  • 就業規則をはじめ、決定・対応プロセスを整備すること
  • 専門家と連携し、制度を活用して治癒や職場復帰を支援すること

「リスクマネジメント」であり、かつ、人材という貴重な「資本」を活かすこと、会社の重要な資本である社員一人ひとりのメンタルヘルスにしっかりと向き合うことで、会社の持続的経営につなげていきましょう。

片山久也
担当者
キャリアリサーチLab編集部
HISANARI KATAYAMA

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