
いまどき新入社員の伸ばし方(2023年)~”理想の教育係”とは?~
毎年、4月が近づくにつれて始まる新年度の準備。新入社員が入社する会社では配属も確定し、受け入れ準備が本格化しているころだろう。新人の受け入れに際して大きな要素の一つが「新人教育」だ。昨今の新人にはどのようなフォローが求められるのか、頭を悩ませる担当者も多いのではないだろうか。
そこで今回は、前年2022年に入社した新入社員に対して、9月に実施した「入社半年後調査」において取得したアンケート結果をもとに、新入社員が教育係に求めることについて考察していく。
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新入社員にとっての「教育係」という存在
まずは、新入社員にとって教育係がどのような存在であるかを見ていきたい。
入社して半年たった新入社員に、教育係と勤務先それぞれの満足度を聞いた結果を比較した。教育係の満足度が4・5の回答者は、勤務先について「満足度1」と回答している人がおらず、教育係の満足度が高くなるほど、企業への満足度を「4」や「5」と高く評価している割合が高い。また、教育係がいない新入社員よりも、教育係への満足度が低い(3以下)の人の方が勤務先への満足度も低い傾向がみられた。
100点満点で回答してもらった勤務先への満足度も、教育係への満足度が高くなるに従って点数が高くなり、その一方で教育係満足度が3以下の人は教育係がいなかった人よりも勤務先への満足度が低かった。【図1】

教育係への満足度というものは、教育係が新人をサポートする上でのノウハウや体制が会社として確立しているかどうかも影響すると考えられるため、教育係個人への満足度が勤務先全体への満足度に反映されているわけではないだろう。しかし、少なくとも教育係の指導やサポートの在り方は新入社員の勤務先への満足感に一定の影響を与えていそうだ。
また、教育係がついていればよいというわけでもなく、教育係への満足度が低い場合においては、教育係がいない場合よりもかえって勤務先への満足度が低くなる可能性が見てとれる。新入社員にとって、それだけ教育係という存在が大きいものだと言えるだろう。
教育係制度の実施状況
次に、どの程度の職場で教育係という制度がとられているのか、また、どのような立場の社員が教育係になっているケースが多いのか、教育係という制度の実施状況について探っていく。
約7割の新入社員に教育係がついている
「入社してから今までの間に、あなたに直接仕事を教えてくれる教育係がついたか」という質問に対して、「はい」と回答した人は71.4%だった。従業員規模別に見ると、300人未満と3000~4999人、5000人以上とでは10pt以上の差がある。社員数が多く、新人に教育係をつける人的余裕があるほど教育係がついている割合が高いようだ。ただ、300人未満の規模の企業の新入社員であっても66.9%は教育係がついていたと回答しており、多くの企業で教育係という制度がとられていることがわかる。【図2】【表1】

マイナビ2022年9月入社半年後調査

人数について見ると、教育係は「1人」である割合がもっとも高く38.3%だったが、2人以上だった割合は合計して33.1%となっている。3分の1程度の職場では新入社員を複数の教育係でサポートしており、教育係がいないケース(28.6%)よりも多いことがわかった。【図3】

入社4~5年目の社員が教育係となるケースがもっとも多い
では、どのような社員が教育係を担当しているのか。教育係の在籍年数を聞いてみたところ、入社4~5年目の社員が教育担当となっている割合がもっとも高く26.3%となっていた。次いで2~3年目の社員(23.7%)、入社10年目以上(22.1%)が3番目に多く、この差はわずかであった。【図4】

教育係の満足度との比較を見ると、満足度が5の回答者の教育係は入社4~5年目の社員である割合が高く、満足度が高いほど、入社2~3年目が教育係を担当している割合はわずかに低くなっている。【図5】

教育係は新入社員と年齢の近い社員の方がよいように思われるが、今回の結果を見ると、入社2~3年目であれば満足度が高いというわけではないと推察される。また、かといって教育係の満足度が高い新入社員は入社10年目以上の社員や直属の上司などベテラン社員に教わっていた割合が高いわけでもなかった。新入社員にとって業務をサポートしてもらう上で、社歴が浅すぎず年齢が離れすぎてもいない入社4~5年目の先輩社員は、業務を教わりやすく安心感のある存在なのかもしれない。
ただ、社員構成やそれぞれの担当業務の関係上、年次だけで教育係を決定するわけにもいかない場合がほとんどだろう。また、教育係の年次のみで満足度が変わるわけでもないはずだ。
そこで今度は、新入社員が教育係に求めている要素を具体的に見ていく。
新入社員が教育係に求めること
求めるのは「仕事の教え方が上手い」より「いつでも相談や質問がしやすい」こと
入社半年後の新入社員に、教育係に求めることについて重視する要素を3つ選んでもらった結果、最多だったのは「いつでも相談や質問がしやすいこと」で67.6%、次いで「優しく穏やかに接してくれること」が45.8%となった。教育係の本質とも言えそうな「仕事の教え方が上手いこと」は、上位ではあるが39.5%で、1位の項目とは30pt近く差が出る結果となっている。逆に考えると教育係に対して自身が重視する要素の中に「教え方が上手い」を選ばなかった人が6割いるということであり、半数以上の人が、教育係に対して、教え方の上手さよりも求めることが他にあるという点は興味深く感じる。【図6】

求めるのは「問題を起こさせない」より「問題が起こったときにフォローしてくれる」こと
また、教育係に求めることの設問で、4位は「問題が起こったときに一緒に解決しようとしてくれること」で30.4%だった。選択肢の中には「問題が起こらないようにフォローしてくれること」という、未然にトラブルを防ぐような対応に関する項目もあるが、この二つの項目には13.7ptの差がある。問題が起こらないように先回りするサポートよりも、トラブルが起きたときに寄り添ってくれる姿勢の方が重視されているようだ。【図7】

前述のように「相談や質問しやすいこと」が最重要とされていることと合わせて考えると、新入社員にとって教育係としてもっとも重要な点は、「業務で困ったときや行き詰ったときに頼りやすく寄り添ってくれる存在であること」だということがうかがえる。優しく穏やかな接し方を求める新入社員が多いのも、相談や質問がしやすい「話しかけやすさ」につながる要素だからであると推察できる。
理想の教育係、芸能人で言うと…ランキング結果とその理由は?
ここまで教育係に求める要素を見てきたが、具体的には新入社員にとって教育係はどのような人がいいのか。「この人が教育係だったら理想」だと思う男性芸能人と女性芸能人を、理由とともに挙げてもらった。
男性トップは櫻井翔さん、女性トップは天海祐希さん。
男女共通のキーワードは「優しい」、「丁寧」と「論理的」
理想の教育係ランキングは下記の図のようになっている。男性芸能人は1位が櫻井翔さん、2位が大泉洋さん、3位が阿部寛さんとなっており、理想の教育係に挙げた理由としてはそれぞれ「簡潔に時間を意識して教えてくれそう」「飄々としていながらも楽しくわかりやすく教えてくれそう」「緩急のある教え方をしてくれそう」などの意見がみられる。
女性芸能人では1位が天海祐希さん、2位が水卜麻美アナウンサー、3位が新垣結衣さんで、理由としては「仕事ができて尊敬できる。相談に乗ってくれるなど、しっかり丁寧に指導してくれそう」「明るく優しい印象だが仕事へのリスペクトを持っているから」「部下のことをよく観察し、指摘してくれそうだから」などがみられた。【図8】

教育係としてその芸能人を挙げた理由のコメントを詳しくみると、頻出しているキーワードは以下の通りとなっている。「仕事」や「教える」を除くと、キーワードとしてもっとも多く出てきたのは男女ともに「優しい」だった。男性女性ともに、理想の教育係として挙がっている芸能人は前提として「優しい」イメージがある人ということだろう。
全体の頻出語4位となっている「厳しい」のワードについては後ほど触れるが、まず注目したいのは「丁寧」や「論理」という言葉である。【図9】

コメントを細かく見ると、「論理的にわかりやすく教えてくれそう」「穏やかで丁寧に教えてくれそう」という意見がみられた。教育担当に求めることとして3位だった「仕事の教え方が上手い」とは、論理的で丁寧な説明をしてくれるかどうかということが重要なポイントのようだ。また「論理立てて教えてくれるから納得感がある」という声もあり、仕事がわかりやすいこととは別に、その仕事の背景や目的が論理的に説明されることによって、業務への納得感が増すことを望んでいることもうかがえた。【表2】

入社したばかりで企業の事業や自分の配属部署のことも学びながらの状態では、自身の仕事と周囲の業務とのつながりが見えにくいことも考えられる。新入社員に仕事を教える際は、作業としての説明ではなく、なるべく業務ごとのつながりや目的がわかるように説明すると、より取り組みやすくなりそうだ。
その他の頻出語句の詳細を見ると、男女で上位に入っている言葉やその割合がやや異なっていた。最後に、その違いやコメント内容から、新入社員が教育係に求めることを考察していく。
男性教育係特有のキーワードは「ユーモア」「穏やか」
男性教育係の上位10位の特徴的なキーワードは「ユーモア」と「穏やか」だった。
コメントを見ると「常に堅くなくユーモアも混ぜてくれそう」「真面目とユーモアを使い分けてくれそう」、「穏やかでなんでも質問しやすそう」など、緊張感はありつつ和やかな雰囲気が連想される意見が見られた。【図10】

「ユーモア」と関連する言葉として、ランキングには「楽しい」「面白い」などの語句も入っているが、「リラックスさせてくれて仕事を楽しく教えてくれそう」などのコメントで使われている。ユーモアたっぷりに面白おかしく仕事を教えてほしいということではなく、業務上の会話の中で、堅苦しくなりすぎないように配慮してくれそうなイメージや、それによって親しみやすさが感じられることを求めているのではないだろうか。
ユーモアがあって親しみやすいことや穏やかで話しかけやすい雰囲気であるということは、新入社員が教育係に「質問や相談のしやすさ」を求める気持ちと結び付けられる。実際にユーモアを交えて面白く楽しく指導するのは難しいかもしれないし、それは教育係の本質ではないだろう。だが、新入社員が質問や相談をしやすい環境づくりの一つとして、常に堅苦しいやりとりだけになってしまわないように日頃から接し方を工夫することはできそうだ。
女性教育係に対する頻出キーワードは「厳しさ」
女性の教育係を選んだ理由の中に頻出するキーワードとしては、「厳しい(7.0%)」が3位となっている。「優しい(24.1%)」と比べると出現率は3分の1以下だが、男性教育係では3.5%となっていることと比べると、女性教育係の「厳しい」の出現率は特徴の一つと捉えられる。
学生のコメントを見ると、「厳しいことも言ってくれそう」「時に厳しく、優しく教えてくれそう」などの意見があり、それぞれの芸能人に優しい印象がある前提で、時に厳しくも接してくれそうであることを理由として挙げている。近しい意味と捉えられるコメントとして「だめなことは叱ってくれそう」「だめなところはしっかり指導してくれそう」という意見もみられ、ただ優しいだけではなく、成長させるために至らないことは適切に指摘してくれることを期待することがうかがえた。
前述の、教育係に求めることの要素では「優しく穏やかに接してくれること」が2位になっており、男性教育係の理由のキーワードとしても「穏やか」というワードが入っているが、優しいだけではなく適度に厳しく、間違ったことは指摘してくれる存在を求めていると考えられる。【図11】

教育係の勤続年数に関するグラフで、教育係への満足度が低い人ほど教育係が入社2~3年目であった割合がやや高くなっていた理由も、このことと結び付けて考えられるかもしれない。新入社員にとって、ただ話しやすく身近に感じられる存在であればよいということではなく、気軽に話せつつも適切な距離感で、間違ったことは指摘されるという関係性である方が、自分のことを成長させようとしてくれている姿勢を感じられるということではないだろうか。
22年卒の新入社員も含まれるZ世代の社員たちは、厳しくされることや叱られることが苦手であると言われることがあるが、今回の結果を見ると、厳しさを持って接してくれる教育係を望んでいる様子がうかがえる。ただ、「厳しい」は「優しそう」「褒めてくれそう」などの言葉とセットで使われていることが多かったため、優しく話しやすいことは前提とした上で、距離感が近くなりすぎないメリハリのある態度で指導してくれることがポイントだということは踏まえた方がよさそうだ。
まとめ
今回は、入社半年後調査の結果から、新入社員にとって理想の教育係のイメージを見てきた。現在の新入社員にとって、教育係は「困ったときに気軽に頼れる話しかけやすさ」がありつつ、「注意すべき点は見逃さずに指摘がもらえる厳しさ」もあることが望まれている。また、業務の教え方は「論理的」である方が理解しやすく業務への納得感があると感じるようだ。
新入社員を指導していく上で、マニュアルや研修プログラムなど、業務の教え方やサポート体制に力を入れて準備することはもちろん重要だが、新入社員自身が仕事を覚えていくにあたっての環境が整っていることも、安心感と仕事のしやすさにおいて大切なことだ。また、その点については教育や研修に携わらないメンバーであっても、接し方や態度で働きかけていける部分と考えられる。まずは職場全体で意識してみることから始めてみてもいいのではないだろうか。
キャリアリサーチLab研究員 沖本 麻佑