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「話しやすいけど相談できない」を「話しやすくて相談できる」に
–法政大学・坂爪洋美氏

新入社員の職場適応へ関心が高まる

新入社員研修を担当している方の間で、 2021年ほど 「オンボーディング」という言葉が使われたことはなかっただろう。背景には、社会が新型コロナに翻弄される中で入社した前年度の新入社員の職場適応に、多くの人事の方が難しさを感じたことがある。しかしながら、新型コロナの存在だけが、「オンボーディング」という言葉につながっているわけではない。

ある会合で外国人が多く働くグローバル企業の人事部長の方が、「多様な価値観を持つ外国人のマネジメントは大変だろうと言われることが多いが、今や年代間の価値観のギャップへの対応の方が難問だ。若者の価値観が急激に変化してきている。」という発言をされていた。今までとは異なる価値観を持つ新入社員が、組織の一員として活躍できるようになるための仕掛けと働きかけは今まで以上に大事になっている。

「話しやすいけど相談できない」新入社員

タイトルにある「話しやすいけど相談できない」とは、今年度私がある会社の新入社員を対象として実施した調査の中で浮かび上がってきたことである。回答結果からは、多くの新入社員が「職場の上司や先輩は話しやすい」と感じていること、それと比較すると「職場の上司や先輩に相談できる」と回答する割合が低いことが明らかになった。すなわち、「話しやすいけど相談できない」と回答した新入社員が一定数存在する。

新入社員にとって、職場の上司や先輩が話しやすいことはとても大事なことだ。「話しにくい」と身構えること自体が新入社員を緊張状態にさせるだけでなく、話しにくい上司や先輩のちょっとした言動を必要以上に悪く受け取ることで、誤った思い込みにつながってしまう。さらに「話しにくい」ことから、思い込みを解消するきっかけをつかみにくい。このように、上司や先輩が話しやすくないことがもたらす問題の大きさから、「話しやすさ」の大切さがわかる。

「相談できる」ことの意義

同様に、相談できることもとても大切だ。新入社員に限らず、一般的に「職場の上司や先輩に相談できる」と回答する人々の方が、「できない」と回答する人々よりも、職場への適応感や仕事に対する意欲が高い。特に、新入社員は「わからない」「できない」ことが多いので、できないことを聞くことができる、わからないと言える環境があることが、配属された職場への適応だけでなく、その後の成長にもつながる。

「話しやすい」ことと「相談できること」の違いはなんだろうか。「話しにくい」と感じる人に相談することは非常にハードルが高いので、話しやすさは相談する上で、不可欠な土台だといえる。ただし、「話しやすい」だけでは、「相談する」には不足する何かがある。

「話しやすいけど相談できない」をインクルーシブ・リーダーシップから読み解く

このことをインクルーシブ・リーダーシップという考え方を使って考えてみたい。Carmeli*らは、インクルーシブ・リーダーシップを、メンバーの話に耳を傾け、改善など新しい状況に対して前向きで(開放性)、メンバーの相談にいつでも乗ってくれる存在であり(利用可能性:相談することで良い結果が期待できる)、メンバーからのリーダーである自分への相談をうながす(身近さ:アクセシビリティ)リーダーシップだと考えた。

Carmeliらが提唱したインクルーシブ・リーダーシップは、部下から創造性を引き出すタイプのリーダーシップとして注目されているが、ここではこのインクルーシブ・リーダーシップをもとに、「話しやすくて相談できる」と「話しやすいけど相談できない」の違いを整理し、「話しやすいけど相談できない」を「話しやすくて相談できる」に変えるために、上司や先輩ができる3つのことを挙げてみたい。

(身近さ)「相談をうながす」働きかけ

「話しやすいけど相談できない」の1つに、「この人に相談してよいのかわからない」ということがある。したがって、上司や先輩から新入社員にむけて、「何かあったらいつでも聞いて」「一人で抱え込まないで」といった声かけが効果的だろう。新入社員からすると、上司や先輩社員はいつも忙しそうに見えることから、自分のために時間を取ってもらうことのハードルは、周囲が考えているよりもはるかに高い。

また、相談することのハードルを下げるという意味では、相談する前にしておくと良いことを伝える等、相談の仕方を伝えておくことも良いだろう。たとえば、「困っていること、わからないことを、箇条書きでいいから書いてみて」といったことである。

(開放性) 「これから」に焦点をあてた前向きな視座

次に、「前向き」な視座である。ここでいう「前向き」というのは、過去ではなく未来を視野にいれ、現状をより良くできるという信念を持ち、より良くしていこうとすることである。人は、うまくいかない時に誰かに相談するが、うまくいかない原因の一部は本人にあることも多い。つまり、「困っているので相談したいが、相談すると怒られる可能性があり、怒られる位なら相談しない方がいい。でもこのままではまずい。」というジレンマに陥りがちだ。ジレンマの存在は、「相談する」ことのハードルを上げ、結果として「相談しないうちに、もっと困った事態になる」という悪循環を生みかねない。

「話しやすいけど相談できない」を「話しやすくて相談できる」にするには、このジレンマを乗り越えようとさせる何かが必要だ。それが、「前向き」な視座である。上司や先輩が、今の問題状況やその原因だけにとらわれることなく、これからどうするか、今の困りごとやわからないことを解決するために何ができるのかという視座を持ち、相談に乗ってくれることが新入社員に伝わるならば、新入社員のジレンマは少なくなり、相談へのハードルも低下するだろう。

(利用可能性) 「解決できそう」という期待

最後が、「この人に相談したら解決できそう」という期待を、新入社員に持たせることである。 「話しやすい」と「相談」では、話すことへの期待値に違いがある。どんなに話しやすかったとしても、「この人に相談しても、問題は解決しない」と思っている相手に、人は相談を持ちかけることはしないだろう。「解決できそう」と期待するのは新入社員側なので、上司や先輩にできることは限られてくるが、「解決」が意味することは実は幅広い。困りごとの具体的な整理、困っている気持ちの整理、困りごとの部分的な解決、困りごとの解決につながりそうな人の紹介、など解決の方法はさまざまあり、どんな形の解決であっても構わない。「解決」という言葉が強すぎれば、「一歩前進」でもいいだろう。

「解決できそう」という期待は、日々の仕事を通じたやり取りの中で培われることから、上司や先輩は、新入社員のニーズとかみ合うコミュニケーションができているかを振り返り、意識することで、「解決できそう」という期待が新入社員側に蓄積されるだろう。

新入社員にとって、職場の上司や先輩が話しやすいことはとても意味のあることだ。そのような関係性ができているならば、「話しやすさ」を土台として、日々の関わり方を少し変えるだけで、「話しやすい」存在にとどまることなく、必要に応じて相談を受ける、もっといえば新入社員が必要な時に自ら相談してくる存在になることができる。


坂爪洋美
法政大学 キャリアデザイン学部 教授
慶應大学文学部卒業後、㈱リクルート人材センター(現:リクルート・キャリア)での勤務を経て、慶應義塾大学大学院経営管理研究科にて2003年博士(経営学)を取得。和光大学を経て、2015年4月より現職。専門は組織行動論。主たる研究テーマは、多様化した働き方の下での管理職のマネジメントのあり方。近著に「管理職の役割」(中央経済社、共著)。

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