近年、「スキマバイト」や「スポットバイト」と呼ばれる短時間・単発の就業形態であるスポットワークが急速に広がっている。スマートフォンアプリを通じて、働きたい人と人手を求める企業が即時にマッチングする仕組みは、新しい働き方として注目を集めている。
では、この働き方は労働市場の中でどのような役割を担っていくのだろうか。本コラムでは、スポットワークが広がる背景を整理しつつ、その社会的意義について考えてみたい。
スポットワークが広がる現状
スポットワークは、ここ数年で急速に広がりを見せている。2024年5~6月に非正規雇用の仕事を探した人を対象に行った調査では、スポットワークを経験したことがある人は39.4%であった。さらに今後スポットワークの仕事を探したいと回答した人は51.8%と、意向は半数を超えた。【図1】
一方で、 アルバイトを採用している企業を対象に「直近1年間でギグワーカー(※ここではスポットワーカーと同義で捉える)の受け入れを実施したか」を聞いたところ、2022年は14.4%、2023年は19.1%、2024年は21.7%と、年々増加している。スポットワークは働き手だけでなく、企業側でも利用が広がりつつある働き方だと言える。【図2】
では、こうした急速な拡大の背景には何があるのだろうか。
スポットワークはなぜ広がったのか
短時間・単発で働く仕事そのものは、スポットワークが広がる以前から存在していた。年末年始などの繁忙期に企業が期間限定で直接雇用するアルバイトや、派遣会社を通じた短期就労、イベント会社の登録制アルバイト、ポスティングやサンプリングなどの業務委託型の仕事などがその例である。
こうした仕事は、突発的な需要があり、教育コストが比較的低く、その場限りでも業務が成立する仕事として活用されてきた。一方、近年広がるスポットワークは、これまで長期アルバイトが中心だった業務でも短時間・単発で働くことを可能にした点に特徴がある。
では、なぜ従来は長期前提だった仕事が短期でも成立するようになったのだろうか。その背景には、働く人 と企業のそれぞれのニーズがある。
柔軟な働き方を求めるニーズ
まず、働く人のニーズを見ていく。アルバイトを探す際の必須条件として「シフトの融通が利くこと」は上位の項目である。自分の都合に合わせて働く日や時間を柔軟に決められるスポットワークは、こうしたニーズと相性が良い。【図3】
また、人間関係の負担を避けたいと考える人も一定数存在する。短期・単発で完結するスポットワークは職場での関係性が固定化しにくく、その点でも利用しやすい働き方と言える。
さらに、副業の広がりも影響している。転職活動を行った正社員のうち、副業実施率は34.3%、今後の意向は81.4%という結果が出ている。スポットワークは、本業の合間を活用した副業に適した働き方である。 【図4】
さらに、育児や介護などで長期的な就業計画を立てにくい人にとっても、1日単位で働けるスポットワークは参入しやすい働き方である。
また、スポットワークでは即日払いや数日以内の振り込みに対応した案件が多い点も特徴である。急な出費などに対応するため、働いた分を早く収入として得られる働き方を求める層も存在する。スポットワークはこうしたニーズとも相性の良い働き方である。
人手不足と需要変動に対応する企業ニーズ
企業側にもスポットワークを活用する理由がある。多くの業界で慢性的な人手不足が続く中、長期アルバイトの募集だけでは必要な人員を確保できないケースが増えている。
マイナビの調査では、アルバイトの採用活動の難易度が年々増していく中、テクノロジーの導入により新規採用を抑制する動きが出てきていることもわかっている。
そういった動きはあるものの、アルバイト市場の中心は飲食や小売などのサービス業であり、人の手による対応が不可欠な業務は依然として多い。そのため、必要なタイミングで柔軟に人手を確保できる手段として、スポットワークが活用されるようになっている。
加えて、人件費や物価の上昇により、常に一定の人員を抱えるよりも、繁忙状況に応じて必要な労働力を調達したいという企業ニーズも高まっていると考えられる。
このような働く人と企業のニーズがスポットワーク拡大の背景にあるが、双方のニーズを結び付けたのが、スマートフォンアプリを通じたマッチングプラットフォームである。従来は長期雇用を前提としていた仕事も、迅速なマッチングや手続きの簡素化によって短時間・単発でも成立しやすくなった。こうした仕組みの整備が、スポットワークという働き方の拡大を後押ししたと考えられる。
スポットワークの課題
スポットワークは柔軟な働き方として広がりを見せている一方で、働く人と企業の双方にとっていくつかの課題も指摘されている。
働く人の課題:収入の安定性とキャリア形成
まず働く人の側では収入の安定性が課題として挙げられる。スポットワークは単発の仕事が中心であり、案件の有無や働き方によって収入が変動しやすい。現在は人手不足の状況もあり、比較的仕事が見つけやすい環境にあるが、景気や労働需給の状況が変化した場合には仕事の機会が減少する可能性もある。こうした点から、収入の安定性という観点では不確実性が残る働き方と言える。
また、スキルやキャリアが蓄積しにくいという点も指摘される。スポットワークでは短時間で完結する業務が多く、働く人は「今できる仕事」を繰り返し選びやすい。その結果、新しいスキルを身に付けたり経験を積み重ねたりする機会が限られ、長期的なキャリア形成につながりにくい可能性もある。
企業の課題:人員確保と受け入れ態勢
企業側にもいくつかの課題がある。まず、人員確保の不確実性である。スポットワークは必要なタイミングで人手を確保できる柔軟性がある一方で、必ずしも必要な人数を確保できるとは限らない。
また、働き手ごとに経験やスキルに差があるため、業務の品質にばらつきが生じる可能性もある。短時間で完結する業務では対応できる場合もあるが、業務内容によっては十分な経験や理解が求められる場面もある。
さらに、スポットワーカーが入れ替わるたびに業務説明や引継ぎが必要となるため、一定の教育コストも発生する。こうした点から、スポットワークを活用するためには、業務分担の見直しや指示体制の整備など、受け入れ環境を整えることが必須となる。
制度の課題:社会保険制度との整合性
制度面でも課題が指摘されている。社会保険制度は原則として企業ごとの就業条件に基づいて加入の有無が判断される。一方、スポットワークでは複数の企業で短時間の就業を行うケースも多く、実際の就業実態が把握しにくくなる場合がある。
スポットワークのプラットフォームでは、社会保険の加入要件との関係から、一人当たりの就業時間に上限を設けているケースもみられるが、働く人が複数のサービスを併用して働く場合、全体の就業実態を把握することは難しくなる。
その結果、実際には一定程度働いているにもかかわらず、社会保険に加入しないまま働く人が生じる可能性がある。このような働き方と制度との整合性は議論の一つとなっている。
このように、スポットワークには柔軟な働き方としての可能性がある一方で、いくつかの課題も存在する。では、この働き方は今後どのように広がっていくのだろうか。
スポットワークは長期アルバイトに置き換わるのか
ここまでスポットワークが広がる背景やその課題についてみてきた。では、この働き方は今後さらに広がり、現在の長期アルバイトから置き換わっていくのだろうか。本章では、この点について企業側と働く側、それぞれのニーズから整理してみたい。
長期アルバイトを求める企業ニーズは依然として強い
アルバイトを採用している企業に対し、スポットワーク、短期アルバイト、長期アルバイトそれぞれについて、2026年の採用数はどのような予定かを聞いた。【図5】
結果を見ると、2026年の採用見通しでは、スポットワークの「増やす予定」は16.4%と一定の伸びが見込まれる一方、「行わない予定」も30.2%と高くなった。
対照的に、長期アルバイトは「増やす予定」が21.7%で3つの雇用形態の中でもっとも高く、「変わらない予定」も45.0%にのぼる。さらに「増やす予定」と「減らす予定」の差も長期アルバイトが+11.6ptと最大で、基盤的な雇用形態としての位置づけは維持・強化される見込みであることが読み取れる。
企業にとってスポットワークは、繁忙期の人員補充や急な欠員対応など、柔軟に人手を確保できる点で有効な手段である。一方で、業務理解を深めた人材の確保や、接客品質の安定、チームとしての運営などを考えると、継続的に働く長期アルバイトの存在は依然として重要である。
そのため、多くの企業にとってスポットワークは、長期アルバイトを置き換える存在というよりも、人手不足時代における補完的な役割として位置づけられていると考えられる。
働く人側にも長期アルバイトを求める多様なニーズがある
働く人にとって、スポットワークには「好きな時間に働ける」「短時間でも収入を得られる」といった柔軟性のメリットがある。
一方で、アルバイトを探す際に希望する勤務期間として、長期と回答する割合も多く、同じ職場で安定的に収入を得たいというニーズも依然として存在する。特に、アルバイト収入を生活の基盤としている層では、こうした傾向はより強くなる。【図6】
では、学生の場合はどうだろうか。学生がアルバイトをする目的の上位を見ると、「社会経験を積むため」という回答が上位に挙がる。アルバイトを、社会に出る前の経験の場として捉えている学生は少なくない。【図7】
もちろんスポットワークでも働く経験そのものは得られる。しかし、同じ職場で働き続ける中で生まれる上司や同僚との関係性、チームの一員として働く経験、さらに長く働くことで任される役割の変化や責任といった点は、長期アルバイトの中でこそ培われやすい側面がある。
企業側と働く側双方のニーズを整理すると、スポットワークが長期アルバイトを完全に置き換える可能性は高くない。むしろ、スポットワークは柔軟な労働力としての役割を担いながら、長期アルバイトと役割を分かち合い、共存していく形で広がっていくと考えられる。
スポットワークの社会的意義とは
前章で述べたように、企業側と働く側双方のニーズを踏まえると、スポットワークは長期アルバイトを置き換える存在というより、異なる役割を担いながら共存していく働き方と位置づけられる。では、この働き方は労働市場の中でどのような役割を担うのだろうか。最後に、スポットワークが持つ社会的意義について考えてみたい。
たとえば、若者にとっては多様な仕事に触れながら自分に合った働き方を探る機会となり得る。また、長く同じ仕事をしてきた人や就業経験が限られている人にとっても、小さな一歩から新しい仕事に挑戦する入口となる可能性がある。さらにシニア層にとっても、いきなり長期の仕事に就くのではなく、自分の体力や適性を確かめながら働く機会になり得る。
このように考えると、スポットワークは単なる短期的な労働力の確保手段というだけではなく、働く人が自分に合った仕事や働き方を探る「キャリア探索の入り口」として機能する可能性を持っていると言える。短期的な実務経験が職業選択の視野を広げるという点は、すでにインターンシップ研究でも明らかにされており(=「キャリアの展望化」)、スポットワークも経験の積み重ね方によっては次の選択を考えるきっかけになり得る。
もっとも、スポットワークがこうした役割を持つかどうかは、その使われ方によって大きく左右される。単発の仕事がただ繰り返されるだけであれば、経験は蓄積されにくく、働く人にとっても短期的な収入機会にとどまってしまう可能性がある。
一方で、スポットワークを通じて得た経験が、次の仕事の選択や長期的な就業につながるのであれば、その意味は大きく変わる。単なる「次のスポットワーク」への接続にとどまらず、働く人が自分に合った仕事を見つけたり、新しい働き方に挑戦したりするきっかけとなるとき、スポットワークはキャリア形成の入口としての役割を持ち得る。
スポットワークの社会的意義は、それが単発の労働を繰り返す仕組みにとどまるのか、それとも働く人のキャリアにつながる入口として機能するのかによって大きく変わると言える。これは今後の労働市場を考えるうえでも重要な視点と言えるだろう。
キャリアリサーチLab主任研究員 早川朋