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柔軟な働き方で注目を集めるスポットワーカー採用の現状~企業に求められる職場環境を考える~

三輪希実
著者
キャリアリサーチLab研究員
NOZOMI MIWA

アルバイト雇用市場の現状:アルバイトの人手不足感は増加傾向で採用を行っても十分な人材確保ができていない状況

2022年にアルバイト人材について「不足としている」と回答した企業は61.9%となり、前年より人手不足を感じている企業は増加した。【図1】

アルバイト人材の人手不足を感じた割合(単一回答)/アルバイト採用活動に関する企業調査(2022年)より
【図1】アルバイト人材の人手不足を感じた割合(単一回答)/アルバイト採用活動に関する企業調査(2022年)より

しかし2022年11-12月にアルバイトの新規採用を行い、必要な人数を確保できた企業は56.9%と2020年7-8月の調査開始以来でもっとも低い水準となった。【図2】

アルバイトの必要な人数を確保できた割合(単一回答)※( )内は回答数、※ベース2022年11-12月にアルバイトの新規採用を行った企業/非正規雇用に関する企業の採用活動状況調査(22年11-12月)
【図2】アルバイトの必要な人数を確保できた割合(単一回答)※( )内は回答数、※ベース2022年11-12月にアルバイトの新規採用を行った企業/非正規雇用に関する企業の採用活動状況調査(22年11-12月)より

必要な人数を確保できなかった理由としては「応募が少なかった」が79.0%ともっとも高くなり、アルバイト採用を行っても応募が集まらない状況に置かれていることがわかる。【図3】

【図3】アルバイトの必要な人数を確保できなかった理由(複数回答)※ベース2022年11-12月にアルバイトの新規採用を行い、「必要な人数を確保できなかった」と答えた企業/非正規雇用に関する企業の採用活動状況調査(22年11-12月)より
【図3】アルバイトの必要な人数を確保できなかった理由(複数回答)※ベース2022年11-12月にアルバイトの新規採用を行い、「必要な人数を確保できなかった」と答えた企業/非正規雇用に関する企業の採用活動状況調査(22年11-12月)より

本コラムでは、アルバイトの人手不足に悩む企業で広がっている数時間単位の超短期雇用者である「スポットワーカー」の採用についてみていきたい。企業と雇用契約を結ばず業務委託として数時間単位で仕事を担う「ギグワーカー」とは異なり、「スポットワーカー」は“企業と直接雇用契約を結び”数時間単位で仕事を担うが継続した雇用関係はない点が特徴だ。そのため、求職者は自分の希望する時間や空いている隙間時間に働くことができ、企業は必要な時間に働いてもらうことができるといった点で双方にメリットがあり、人手不足が深刻化する中で注目を集めている。

働く時間と場所を重視する人は多く、働き方の自由度を高めることは就業機会の創出につながる

アルバイトを募集しても集まらない状況を改善するためには、他社との差別化や募集方法の見直しなどさまざまな方法があるが、その一つとして、企業がより柔軟な働き方を取り入れることが重要である。アルバイトを探した時の必須条件では、「シフトの融通がきく(51.2%)」がもっとも多く、次いで「自宅から近い(49.8%)」となり、働く時間や場所を重要視する人が多い傾向にある。【図4】

【図4】アルバイト探しの必須条件(複数回答)/アルバイト就業者調査(2022年)より
【図4】アルバイト探しの必須条件(複数回答)/アルバイト就業者調査(2022年)より

実際、高校生や大学生などの若年層では、早期離職の理由として3割が「シフトや休みが希望通りにならないことが多かった」ことをあげており、柔軟な働き方ができる環境は就業意欲にも大きく影響している様子がうかがえる。【図5】

【図5】早期離職の理由(複数回答)※ベース:早期離職経験がある人 ※早期離職:(引っ越し等のやむを得ない状況は含まず)就業当初は長期勤務予定だったアルバイトを1カ月以内に辞めることと定義している/アルバイト就業者調査(2022年)
【図5】早期離職の理由(複数回答)※ベース:早期離職経験がある人 ※早期離職:(引っ越し等のやむを得ない状況は含まず)就業当初は長期勤務予定だったアルバイトを1カ月以内に辞めることと定義している/アルバイト就業者調査(2022年)より

また、現在アルバイトをしていない人に非就業理由を聞いたところ、「希望する勤務条件(シフト・時間など)のアルバイト・パートがない(19.0%)」が、「育児との両立が難しい(19.5%)」に次いで上位となった。【図6】

【図6】非就業理由(単一回答)/アルバイト就業者調査(2022年)より
【図6】非就業理由(単一回答)/アルバイト就業者調査(2022年)より

そのため、単発かつ数時間単位で働けるスポットワーカーという働き方は自分の都合の良い場所や時間での就業を可能にしたり、隙間時間を活用したりできるという点において、労働時間や就業場所の自由度を高める働き方であり、これまで時間や場所に制限があったことで働くことを断念した人の就業機会の創出にもつながり得ると考えられる。

2022年のスポットワーカーの採用状況:宿泊業界を中心に「スポットワーカー」の採用が広がっている

ここからは、スポットワーカーの採用を行っている企業の状況についてみていく。2022年には3割の企業がスポットワーカーを採用しており、業種別では[接客(ホテル・旅館)]で38.1%ともっとも高く、次いで[事務データ入力・受付・コールセンター]で37.5% 、[警備・交通誘導(セキュリティ等)]で36.8%、[軽作業(倉庫・物流)]で36.7%となった。【図7】

2022年のスポットワーカーの採用状況(単一回答)※回答数:1550/※出典:アルバイト採用活動に関する企業調査(2022年)より
【図7】2022年のスポットワーカーの採用状況(単一回答)※回答数:1550/※出典:アルバイト採用活動に関する企業調査(2022年)より

2021年と比べて2022年のスポットワーカーの採用数が増えた企業は39.1%で、業種別では[接客(ホテル・旅館)]で6割の企業がスポットワーカーの採用数を増やしており、もっとも増加率が高かった。【図8】【図9】

2021年と比べた2022年のスポットワーカー採用数(単一回答)※回答数:1550/アルバイト採用活動に関する企業調査(2022年)より
【図8】2021年と比べた2022年のスポットワーカー採用数(単一回答)※回答数:1550/アルバイト採用活動に関する企業調査(2022年)より
スポットワーカーの採用数が増えた業種(TOP3)※回答数:1550/アルバイト採用活動に関する企業調査(2022年)
【図9】スポットワーカーの採用数が増えた業種(TOP3)※回答数:1550/アルバイト採用活動に関する企業調査(2022年)

宿泊業界はコロナ禍で人員削減が進んでいたが、経済回復に伴い、急速に採用ニーズが高まったことで正社員や長期のアルバイトの採用が難しかったことから、採用要件を緩和して数時間単位の仕事を担うスポットワーカーの採用が増加したと考えられる。

今後のスポットワーカーの採用意向と期待点:3割の企業で今後採用意向あり、採用目的は「即戦力人材獲得のため」がトップ

今後スポットワーカーの採用予定がある企業は3割となり、業種別では[接客(ホテル・旅館)]で38.9%ともっとも高く、2022年にスポットワーカーの採用割合が高かった宿泊業で今後の採用ニーズも高い様子がみてとれる。【図10】

今後のスポットワーカーの採用意向(単一回答)/アルバイト採用活動に関する企業調査(2022年)
【図10】今後のスポットワーカーの採用意向(単一回答)/アルバイト採用活動に関する企業調査(2022年)より

今後スポットワーカーの採用をしたい理由としては「即戦力人材獲得のため(37.4%)」がもっとも多く、次いで「人件費削減のため(34.2%)」、「突発的な欠員に対応するため(29.5%)」となり、企業は業務の繁忙や急な勤務シフトの変更などによる人手不足を補うために、スポットワーカーに単なる労働だけでなく、即戦力としてのスキルも期待していると考えられる。【図11】

今後、スポットワーカーの採用をしたい理由(複数回答)※ベース:今後スポットワーカーの採用予定がある企業/非正規雇用に関する企業の採用活動状況調査(22年9-10月)
【図11】今後、スポットワーカーの採用をしたい理由(複数回答)※ベース:今後スポットワーカーの採用予定がある企業/非正規雇用に関する企業の採用活動状況調査(22年9-10月)より

スポットワーカー採用に対する懸念点:採用の懸念点は「スポットワーカーのスキルが不安なため」がトップ

一方で、企業にこれまでにスポットワーカーを採用しなかった理由を聞いたところ、「スポットワーカーのスキルが不安なため(34.0%)」がもっとも多く、次いで「人材の管理が複雑なため(28.3%)」、「スポットワーカーの採用方法がわからないため(27.6%)」となった。【図12】

これまでに、スポットワーカーの採用をしなかった理由(複数回答)※ベース:これまでにスポットワーカーの採用経験がない企業/非正規雇用に関する企業の採用活動状況調査(22年9-10月)
【図12】これまでに、スポットワーカーの採用をしなかった理由(複数回答)※ベース:これまでにスポットワーカーの採用経験がない企業/非正規雇用に関する企業の採用活動状況調査(22年9-10月)より

スポットワーカーは、受け入れ企業との間に直接の雇用関係はあるものの、隙間時間で働きたい人のニーズに応えるために即日採用で1日限りの求人も多く、通常のアルバイトのような履歴書の確認や面接を事前に行わないことが多いため、働く人のスキルを把握しにくいという点で不安を持つ企業が多いようだ。

スポットワーカーに対する研修方法

では、長期雇用のアルバイトと比べて、知識やスキルを学ぶための教育研修や業務経験を得る機会が圧倒的に少ないスポットワーカーに対して、スポットワーカーの採用を実施した企業はどのように教育研修を行っているかみていきたい。スポットワーカーの研修方法としてもっとも多かったのは「就業日に業務マニュアルを読んでもらう(39.1%)」、次いで「就業日に実務研修をしてもらう(33.6%)」となり、就業日にインプットとアウトプットをしてもらう企業が多かった。しかし、2022年のスポットワーカーの採用実施率がもっとも高かった[接客(ホテル・旅館)]では「事前に業務マニュアルを読んでもらう(34.9%)」がもっとも多く、次いで「就業日に業務マニュアルを読んでもらう(32.6%)」となった。【図13】

スポットワーカーの研修方法(単一回答)/アルバイト採用活動に関する企業調査(2022年)より
【図13】スポットワーカーの研修方法(単一回答)/アルバイト採用活動に関する企業調査(2022年)より

就業日に指導する時間が限られる中で、少しでも指導する時間の削減を行い、即戦力としてサービスの質を維持して働いてもらえるように、事前に業務マニュアルで必要な知識を身に付けてもらうといった工夫をしている様子がうかがえる。スポットワーカーの採用を行う場合は、就業日だけでなく事前に教育研修を受けられる機会をつくることで、企業はスポットワーカーに即戦力として活躍してもらうことができ、スポットワーカーは事前に仕事内容を把握できることで具体的な仕事内容がわからないといった不安を軽減することに繋がり、双方にメリットがあると考えられる。そのため、スポットワーカーの採用を今後検討する企業においても、就業前に仕事内容を確認できるようなマニュアルやE-learningなどを準備しておくことは、スポットワーカーが即戦力として活躍する環境づくりとして重要となるだろう。

企業のスポットワーカー採用の満足度

人手不足解消の施策の一つとして期待されるスポットワーカーの採用について、スポットワーカーを採用した企業の満足度を聞いたところ、もっとも満足(計)が高かったのは、「スキル」に関して61.1%、次いで「人手不足解消」に関して57.7%、「採用業務の手間」に関して48.5%、「採用コスト」に関して47.8%、「採用ターゲットとのマッチング」に関して45.4%となった。前述したこれまでにスポットワーカーを採用しなかった理由では、スポットワーカーのスキルに対する不安感が企業のスポットワーカー採用への壁となっていたが、実際にスポットワーカーの採用を行った企業では、スキルに関して6割の企業が満足していることがわかった。また、人手不足解消に関しては6割の企業が満足しており、2022年のスポットワーカーの採用実施率がもっとも高かった[接客(ホテル・旅館) ]では7割の企業が人手不足解消に関して満足という結果になったことから、スポットワーカーの採用は人手不足の解消に有効な手段であると考えられる。一方で、もっとも不満(計)が高かったのは、「採用コスト」「採用ターゲットとのマッチング」に関してで18.1%となり、今後スポットワーカーの採用を行う上での課題であるといえるだろ。【図14】【図15】

スポットワーカー採用の満足度(単一回答)
【図14】スポットワーカー採用の満足度(単一回答)
宿泊業 スポットワーカー採用の満足度(単一回答)
【図15】宿泊業 スポットワーカー採用の満足度(単一回答)

採用ターゲットとのマッチングについては、企業は求めるスキルの詳細をしっかり開示した上で募集を行い、働く人は自身の職業スキルを言語化した上で企業に開示するような双方にとってのスキルの透明性がある仕組みの整備が必要であるだろう。

まとめ

人手不足が深刻化する中で、求職者のニーズに合わせて、より労働時間や就業場所の自由度の高い働き方ができるスポットワーカーといった働き方が今後さらに広がるだろう。本コラムでは、スポットワーカーの採用経験がある企業と未経験企業では、スポットワーカーのスキルに対する考え方にギャップがあり、採用経験がある企業ではスキル面での満足度は高かったが、未経験企業ではスキルへの不安感が高かった。採用経験がある企業の実施している取り組みからスポットワーカーのスキルへの不安に対する対策を考えると、今後スポットワーカーの採用未経験企業が採用を行う場合には、既存の長期雇用のアルバイトを前提とした教育研修への考え方や体制を変えて、仕事内容のマニュアル化など、より短い時間でわかりやすく教えるための工夫が必要だと考えられる。また、企業と求職者にとって満足度の高い就業時間にするためには、仕事内容を事前に把握できるようなマニュアルの準備に加えて、より具体的に仕事内容をイメージできるE-learningなどの導入が効果的であると考える。学業や育児、介護との両立、副業の実施など、働く人の置かれた個々のニーズに応じた多様な働き方が実現できる職場環境を整備することが、魅力的な求人に繋がり、ひいては人手不足解消に繋がると考えるため、働き方の選択肢の一つとして今後もスポットワーカーという働き方の動向や採用について注目していきたい。

キャリアリサーチLab研究員 三輪 希実

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