「休憩と生産性」をテーマにした本連載の第1弾では、マイナビ調査や先行研究をもとに、適切な休憩が仕事のパフォーマンス向上につながることを見てきました。なかでも注目したいのが「アクティブレスト(積極的休養)」です。休憩・休息中に軽く身体を動かすことで血流を促し、脳への酸素供給を回復させることで、集中力や作業効率が維持されやすくなるという考え方です。
では実際の職場で、アクティブレストの発想を取り入れた休憩はどのように実践できるのでしょうか。今回は、三菱地所が運営するシェア休養室「とまり木」を福利厚生として導入している株式会社EXORPHIA(エクソーフィア)の共同創業者・金子いずみさんにお話を伺いました。
エクソソーム(細胞から分泌される微小な粒子で、細胞間の情報伝達を担う物質)を活用し、生殖領域を中心とした研究開発を行うスタートアップで、社員わずか20人という小規模ながら、「とまり木」の活用が社員のパフォーマンスや出社意欲にまで影響を与えているといいます。
金子いずみ(株式会社EXORPHIA)
1976年山形県山形市生まれ。大学院で医学博士を取得後、製薬企業やバイオベンチャーにて医薬品の研究開発(専門は薬理研究)およびメディカルアフェアーズに従事。2019年、株式会社EXORPHIAを共同創業。創業当初は技術シーズを持たないゼロからのスタートだったが、公的研究費を活用しながら、医薬品グレードのエクソソーム製造技術をはじめとする独自の基盤技術を確立し、研究成果の事業化を推進してきた。現在は研究部門の統括責任者として、体外受精培地添加剤の実用化に向けた研究開発および臨床研究の準備を進めている。趣味は書道で、師範の資格を持つ。
■シェア休養室「とまり木」とは⋯⋯
三菱地所が2025年4月に本格始動させた、休養室の企業間シェアリングサービス。東京・大手町ビル1階に設けられた施設で、大手町ビルや周辺のビルにオフィスを構える企業が法人契約し、在籍している社員が利用できます。
機能は2つあり、1つ目は「休養機能」。体調不良時にベッドスペースで最大1時間横になって休めます。従業員数50人以上の企業に法的設置義務がある休養室の機能を、シェア型でアウトソーシングできる点も特徴です。
2つ目は「チャージ機能」で、1回15分を基本に、マッサージチェアや仮眠チェア、ウォーターウェーブベッドなどの最新機器を使ったリフレッシュのほか、常駐のパーソナルトレーナーによるストレッチ指導も受けられます。
トレーナーはそれぞれ国家資格や医療資格等を持ち、肩こりや腰痛の原因を的確に見極めながら、根本的な改善につながる運動指導を行うのが、一般的なリラクゼーションサービスとは異なる点です。とまり木では、アクティブレストだけでなくパワーナップ(積極的仮眠)など、ご自身に合った休み方ができます。
利用は予約不要で、1日1回必要な時にすぐ立ち寄れる手軽さも支持されています。
(三菱地所株式会社 エリアマネジメント事業部 ウエルネス・ワーカーサービスユニット 専任部長 三輪弘美さん)
シェア休養室「とまり木」/三菱地所株式会社ご提供
少数精鋭だからこそ、一人ひとりの健康が会社を支える
質問:休養室シェアリングサービス「とまり木」の契約をしたきっかけを教えてください。
金子:当社はエクソソームを活用した創薬研究を手がけるバイオテクノロジーのスタートアップで、社員は20人という小さな会社です。一人ひとりのパフォーマンスを最大化していかないと少ない人数では業務を回せないため、社員一人にかかる負荷が大きいと感じていました。重要な人材がそれぞれ継続して力を発揮できるよう、仕事のパフォーマンスを維持しながら休養もしっかり取ってほしいと思い導入をしました。
私個人としても、休息が十分に取れていないという思いがずっとありました。社員を見ていても、遠方から通勤していて睡眠時間が短い人、育児中の人、介護中の人もいて、十分に休息できていない状況はかねてより課題に感じていました。
また、ベンチャー企業なので大手企業のように福利厚生が充実しているわけではありません。会社の強みとして福利厚生を充実させることが、優秀な人材を集めるためにも必要ではないかという声も社内にありました。社員の健康管理という面と、採用上の差別化という両面から、福利厚生の一環として導入に至りました。
身体がほぐれると、アイデアが降りてくる
質問:ご自身もよく利用されるとのことですが、とまり木の利用の効果をどのように感じていますか。
金子:私は研究者なので、いかにアイデアを生み出せるかが仕事の核心です。もともと、いいことを思いつくタイミングは入浴中が多かったのです。シャワーを浴びている時に、読んでいた論文と今取り組んでいることがいきなりつながって「これができそう!」というひらめきが降りてくる感覚がありました。今はとまり木でリフレッシュしてからオフィスに戻る時にも同じような感覚があって、施設を出てすぐにアイデアが浮かぶということが結構あります。
また、ずっと通っていると、トレーナーさんと親しくなってきます。いつも見てもらっているトレーナーさんは、自分自身よりも私の身体のコンディションを把握していて、疲れていることを気づかせてもらうこともあります。お気に入りのトレーナーさんが出勤している日は、「今日は在宅にしようか」と思っていても、それが楽しみになって出社しようという気持ちになります。これは私だけでなくほかの社員も同様で、職場に来る楽しみができているのかなと感じています。
トレーナーが利用者にストレッチの指導をしている様子/三菱地所株式会社ご提供
利用を重ねるなかで、疲れている時に無理をして作業を続けても効率は上がらない、「休むことが大事だ」という意識が定着しました。意識しなくても自然に気持ちを切り替えて、だらだらと仕事を続けないということが身についてきた気がしています。
デスクを離れた15分が、停滞した思考を解き放つ
質問:ほかの社員のみなさんは、休憩を取ることでどのような効果を感じられていると思いますか。
金子:数値での提示は難しいのですが、実感としては、昼食後に眠くなった社員がとまり木で仮眠を取ってすっきりして戻るという使い方がかなり多く、眠いまま働き続けるよりも明らかにパフォーマンスが上がると感じています。花粉症の季節は水素ルームが人気で、私自身も血流が良くなって手先が温かくなったことがありました。
質問:仮眠して回復するのも効果的ということですね。身体を動かす休憩の取り方についての効果も感じられていますか。
資料作りがうまく進まない時や、いい文章が浮かばない時にとまり木でリフレッシュすると、その後に考えがまとまることが過去に何度もありました。なかでも特に印象に残っているのは、研究費の申請書を100枚ほど書かなければいけない時のことです。1枚も進まない状態でとまり木を訪れてから戻ると、いきなり何十枚も書けたということがありました。ずっとデスクに座って悩んでいても進まなかったものが、思い切って離れることで急に動き出すことがあります。
やはり血流の滞りが思考の停滞にもつながっているのだろうと感じています。トレーナーさんに教わって足のストレッチをしたり、マッサージブーツを使ったりすると、むくんでいた足がすっきりして足取りが軽くなります。その後、歩いている間に良いアイデアが思い浮かぶということもよくあります。
休息文化が日常に根づき、研究員から採用現場まで広がる
質問:「とまり木」で適切に休息を取ることで、会社全体としてどのようなメリットを感じていますか。
金子:社員の間では「とまり木がなければ困る」というほど、日常に欠かせない存在になっています。医者に行くほどではないけれど、わざわざ夜にマッサージの予約をして出かけるほどでもない、という時にも専門家に診てもらえるという点が、満足度を高めているようです。自分の体調に合わせて好きな機器を選べることも好評です。
研究員は細胞培養など何時間も手が止められない作業が多く、デスクワークの社員より休憩を取りにくい環境にあります。それでも実験の待ち時間にさっと立ち寄って休息するという使い方ができています。
採用面でも手応えを感じています。会社見学の際にとまり木を案内すると非常に好評で、入社の決め手になったとおっしゃる方もいらっしゃいました。
休むことを後押しする声がけ文化が生まれた
質問:この取り組みを通じて、全社として休憩の取り方に対する意識はどのように変化しましたか。
金子:社員同士で「疲れていそうだからとまり木に行ってきたら」「さっき空いていたよ」と声をかけ合う場面が自然に生まれるようになりました。休むことを後押しする雰囲気作りに役立っていると感じています。
一方で、まだ利用が広がっていない層もいます。時間内に席を離れることに抵抗がある人は、なかなか足を運んでくれないことがあります。また、派遣社員のなかには就業時間中にきっちり働くという意識が高く、遠慮している方もいます。「(社内制度として)15分の利用は業務時間内で問題ない」と伝えているものの、こうした意識改革にはまだ時間がかかるので声がけをより丁寧に続けていかなければと感じています。
適切に休息を取るほうが結果として仕事の効率が上がることを、積極的にアピールしていきたいです。