デザイン思考とは?~DXで変革するマネジメントでの活用事例を解説~

キャリアリサーチLab編集部
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キャリアリサーチLab編集部

近年、「デザイン思考」について、プロジェクトマネジメントや組織の課題解決をするときのアプローチ方法の一つとして、聞くことが多い。

今回のコラムでは、このデザイン思考について、代表的なアプローチや類似した手法の比較をしながら、明日のプロジェクトマネジメントや組織マネジメントの課題解決の参考になるように詳しく解説していく。

デザイン思考の定義

デザイン思考(Design Thinking)の概念モデルは、後述の通りいくつかあるが、ユーザー視点に立って共感した上で現状の課題を深く理解し、革新的な解決策を創造的に見つけ出すための問題解決アプローチ方法であるといわれている。

代表的なデザイン思考のアプローチ

デザイン思考のアプローチモデルとして、代表的なものを解説する。

スタンフォード大学d.schoolの5段階モデル

  1. 共感(Empathize)
    ユーザーの観察やインタビューを通じて、表面的な要望だけでなく潜在的なニーズや不満を理解する。
  2. 定義(Define)
    得られた洞察を整理し、解くべき課題をユーザー視点で言語化する。
  3. 発想(Ideate)
    多様で多角的な視点で解決案を発散させる。
  4. プロトタイプ(Prototype)
    低コストで素早く試作品を作り、まずは試せる状況にする。
  5. テスト(Test
    完成した試作品をユーザーに使ってもらい、反応を得て検証する

これらの5段階のプロセスで重要なのは、この流れが直線ではなく反復的である点で、結果を踏まえて問題定義や共感の段階に戻ることも前提に置かれていることである。

そして、このプロセスは必ずしも一方向の直線的な流れではない点も特徴である。デザイン思考は本質的に反復と循環のプロセスであり、各ステージは「行きつ戻りつ」を繰り返しながら進めることになる。

重要なのはユーザー起点で発想と検証を素早く繰り返すことで、当初は不明瞭だった問題に対して有効な解決策を段階的に磨き上げていく点である。従来の線形プロジェクト手法では見落とされがちなイノベーティブな課題解決策を導き出すことが可能になる。

そしてこのアプローチは、プロジェクトごとの課題や組織マネジメントにおいてもプロジェクトメンバー1人ひとりの自由で活発なアイデア創出にも応用できると考えられている。

類似したアプローチとの違い

デザイン思考はしばしば他のデザイン関連の概念と混同されたり、その違いが分かりにくいといわれたりする。ここでは、「UXデザイン」「リーンスタートアップ」「サービスデザイン」についての違いを簡単に解説する。

UXデザイン(ユーザーエクスペリエンスデザイン)

UXデザインは製品やサービスのユーザー体験そのものを設計する実務プロセスを意味している。
組織やプロジェクトのマネジメントの視点では、デザイン思考が「プロジェクトの問題の本質を解決するアイデア創出」に主眼があるのに対し、UXデザインは「そのアイデアをより具体的な組織やプロジェクト課題の解決策や体験に落とし込むアプローチ」である。

リーンスタートアップ

リーンスタートアップは新しい業務や部門を超えた組織の中で、最小限のメンバーで素早く業務を実行に移し、その成果を反復改善するアプローチである。
一方デザイン思考は、そもそも組織マネジメントとして、起こっている課題や隠れたメンバーのニーズを発見することに重きを置く点が異なる。

サービスデザイン

サービス全体を設計するアプローチである。これは、組織マネジメントの中ではメンバーや部門の業務を可視化・最適化し、より良い組織マネジメントの運用に活用するアプローチである。
デザイン思考が生み出した組織マネジメントのアイデアを継続的にメンバーへ提供できるように設計するのがサービスデザインの役割である。

デザイン思考の活用メリット

ここからは、デザイン思考のアプローチでマネジメント上のメリットを解説する。

組織が気づいていない課題にアプローチできる

デザイン思考のメリットとしては、第一に従来の延長線上ではなく組織の潜在ニーズに焦点を当てるため、「今まで気付かなかった問題」から「新しい解決策や価値の創造」を生み出す土壌を作りやすい。

メンバーの自律的な支援

次に、組織のメンバーの視点で物事を考えるため、課題解決に向けて、これまで起こっていた組織内の不満や隠れた課題を掘り起こし、それに応えるためのマネジメントの支援にもつながり、メンバーの意欲や組織の課題解決につながる。

また、アイデア段階で「まずはやってみる」というプロセスにより、メンバーそれぞれが自律的に考えたことや思いついたことのアウトプットがまずは出しやすく、反映しやすく、メンバー自身も納得感を持てるという点もメリットである。

そして、多様な職能のメンバーがチームを組みやすい。ユーザー課題という共通目的に向かうことで縦割りになりがちな日本の人事組織から横断的に部門の壁を越えた社員の創造性や経験・エンゲージメント向上などの風土変革につながるメリットがある。

デザイン思考の注意点

世界的に注目を集めたデザイン思考だが、近年の動向として、デザイン思考を考える前提として注意すべき点が必要であることを解説していく

過度な期待と実装のギャップ

まずは注意点として即効性を求める企業から「時間がかかる」「手間が大きい」という声が上がることがある。従来の手法に慣れた現場やコンサルタント業務、スタートアップ企業では「いつものやり方の方が効率的だ」と抵抗感を持たれる場合もあり、特に短期KPIに追われる組織では十分なリサーチやワークショップの時間を取ること自体がハードルになりやすい。

新規アイデア創出が目的のため、必ずしもすべてのプロジェクトが成功するわけではなく、アウトプットが画期的かどうかは事前に保証できないため、成果主義の組織では理解を得にくいことがあり、効果を社内で証明するには成功事例を積み上げる必要がある。

表面的な活用

2つ目の課題として、手順やテンプレートばかりが独り歩きし、「とにかく5ステップをやればいい」という形式的な取り組みになってしまう危険も指摘されている。

そもそも、デザイン思考の領域は、学術的な検討も含めて発展途上の分野である点に注意が必要である(長尾 & 大井, 2023)。そのため安易にワークショップの型だけを導入しても、背後にある企業文化(失敗を許容するか、ユーザー視点を重視するかなど)が変わらなければ成果は出にくい。

実際、「付箋を使ったアイデア出し」を一度やって終わり、提案されたアイデアが現場に実装されないケースも散見され、形だけの導入は社員の懐疑心を生み逆効果になりかねない。

実務上の限界

デザイン思考は有用なアプローチである一方、すべての課題に対して万能ではない。問題領域が高度に技術的・定量的で、ユーザー体験より性能最適化が肝となるケースでは、まずエンジニアリングやデータ分析に注力すべきかもしれない。

また社会全体の制度設計のような複雑で長期的な課題に対して、短期間のデザイン思考プロジェクトで解を出すのは難しい場合がある。あくまで人間中心で解決策が明確でない課題に強みを持つ手法であり、目的によって他の手法との組み合わせや取捨選択が必要なことも注意点である。

ここまで説明してきた3点の注意を踏まえて、近年の動向としては内省的にアプローチを改良していこうという姿勢を打ち出している。たとえばFiona Rabyが定義・体系化した「批判的デザイン思考(Critical Design Thinking)」という考え方では、単に手法をなぞるのでなく常に文脈や倫理観を考慮しつつデザインに取り組むことが重要であるとされている。

またデザイン思考を他の経営手法や専門領域と組み合わせ、弱点を補完しながら使う動きも広まっている。「魔法の杖」ではなく「有力なツールの一つ」としてデザイン思考を捉える視点が、今後ますます重要になるとビジネス現場ではいわれている。

デザイン思考の活用に向けて

先述の通り、デザイン思考には画期的な利点がある一方、メリットを最大化するためにはデザイン思考の正しい理解と適切な環境整備が不可欠といえる。

社内の組織の壁をデザイン思考で打ち破る

デザイン思考の活用には、社内の抵抗感や文化的な壁が課題になりやすい。これは、従来のやり方と異なるため「これまでの方が効率的だ」という抵抗が起こりがちであり、「デザイン思考は自分の仕事ではない」という他人事意識も障壁になる。

これらに対しては、全社的な啓蒙と小さな成功体験の積み上げが有効である。経営層から現場まで説明会や体験ワークショップを行い価値や成功事例を共有し、最初は小規模プロジェクトで成果を出して社内に広めることで徐々に理解と支持を得るのが良い。「誰でも参加できる」という姿勢を強調し、職種・役職に関わらず取り組みやすい環境作りを心がける。

特に、近年では新卒採用において、仕事内容とのマッチングを重視した採用手法も注目されている。先輩社員が直接採用活動に関わることや、経営層から各部門に対しての採用メッセージを社内で発信するなど、採用担当と現場が横断的な採用プロジェクトとして一体となり、一括採用から日本型のジョブ型採用へシフトする必要があるときには、デザイン思考を活用したマネジメントにも期待したい。

メンバーの自立的なチャレンジ

人的リソースや即効性がない、忙しくて余裕がないという声が出ることがあり、スタートアップ企業や短期志向の組織では十分なリソースを割けない場合もある。ここはスモールスタートと可視化で乗り越えるのが現実的である。いきなり大規模に展開せず、1日ワークショップなど短時間で完結する形式から始める。

限られた時間でもまずは、やってみる姿勢と組織内の試行錯誤から有益な知見が得られる。短いサイクルで目に見えるアウトプットやメンバーの声など、フィードバックを繰り返していくことが小さな成功と具体的成果を可視化することにつながる。

経営層を巻き込む

デザイン思考が現場発の動きに留まり、経営陣が「現場の一試み」と捉えて十分支援しないケースがある。トップの理解とコミットメントがないと組織横断の協力も得られず、大きな変革にはつながらない。したがって経営層を巻き込む工夫が不可欠である。

導入初期から、デザイン思考がもたらすビジネス効果(売り上げ増、顧客満足度向上など)をデータや他社事例とともに説明し関心を引く。可能であれば経営陣自身にワークショップを体験してもらうのも有効であり、自ら体験することで理解が深まりトップダウンでの支援やリソース投入の後押しが得やすくなる。

人材育成

初めての人には発散思考やプロトタイピングに戸惑いがちだ。ここは教育と専門家の活用でスキルギャップを埋める。

社内で研修やトレーニングプログラムを提供し、基礎から実践まで段階的に学べる機会を作る。最初は簡単な演習から始め成功体験を通じて自信をつけさせる工夫も重要である。外部のファシリテーターやコンサルタントに伴走支援してもらう方法もあり、実際のプロジェクトに専門家が参加することで社員は仕事を進めながらノウハウを吸収できる。

多様性のある組織マネジメントの活用実践に向けて

今後の多様な人材が活躍する組織マネジメントの一例として、厚生労働省では、40人以上の従業員がいる企業には障害者雇用率が義務付けられている。2026年からはこの法定雇用率が2.7%へ引き上げられる予定である。そのため、より柔軟で多様な組織マネジメントが今後、さらに企業には求められる。

特に自身の所属する職場に障がい者を持つ従業員が配置されたときには、組織のミッションに向けて共に課題解決をメンバーとして目指していくことになる。その中で、合理的配慮も必要であるが、これまでの組織内で実施してきた業務プロセスやノウハウだけでは、相互に上手くいかないこともある。その時には、組織マネジメントのアプローチとして、「デザイン思考」も一つの方法として活用してほしい。

障がい者の合理的配慮のニーズを当事者から聞き、メンバー全員で業務ごとに実行に向けた課題や解決策を整理した上で、これまでとは違う業務プロセスのアイデアを出し、できるところから1つずつ試行錯誤を繰り返し、当事者やメンバーから新しい方法や気づきを踏まえて、業務をしやすくすることにデザイン思考のマネジメントは活用が非常に期待できる。

このようにデザイン思考での組織マネジメントでは、導入時は、この試行錯誤に時間がかかるが、メンバーが当事者と向き合いながら、試行錯誤を繰り返していくことが、組織全体の成長にもつながり、結果として、トップから現場まで巻き込み、小さく始めて広げ、学習しながら組織に多様な人材が活躍することを根付かせることである。デザイン思考は単なる技法ではなく組織の考え方そのものを変えていく取り組みであり、経営層のビジョンやパーパスの提示と現場の主体性促進の両輪が必要になる。

まずは、明日からの雇用や横断的に変化する組織風土への一歩に、「デザイン思考」が正しく有効に活用されることを期待したい。


【参考文献】
Anne-Laure& Sarah. (2023). Design Thinking Misses the Mark. Stanford Social Innovation Review.
https://ssir.org/articles/entry/design_thinking_misses_the_mark
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Hasso Plattner Institute of Design at Stanford (d.school). Design Thinking Process
Johansson-Sköldberg, U., Woodilla, J., & Çetinkaya, M. (2013). Design Thinking: Past, Present and Possible Futures. Design Studies, 34(2), 121–146.
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厚生労働省,(2024),令和5年度障害者雇用実態調査,
https://www.mhlw.go.jp/content/11601000/001233721.pdf
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Micheli, P., Wilner, S. J. S., Bhatti, S. H., Mura, M., & Beverland, M. B. (2019). Doing Design Thinking: Conceptual Review, Synthesis, and Research
長尾幸郎, & 大井美喜江. (2023). デザイン思考に関する研究の変遷─ ネットワーク分析を用いた文献研究. デザイン学研究, 69(3), 3_41-3_50。
Westcott, M., Sato, S., Mrazek, D., Wallace, R., Vanka, S., Bilson, C., & Hardin, D. (2013). The DMI Design Value Index: A brief overview. Design Management Institute.

穂刈顕一
担当者
キャリアリサーチLab編集部
KENICHI HOKARI

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