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ジョブ・クラフティングでミスフィットを克服する~配属ガチャをチャンスに変えるマネジメント~-上智大学 森永雄太氏

森永雄太
著者
上智大学 経済学部経営学科 教授
YUTA MORINAGA

キャリア形成と今の仕事への向き合い方

変化の激しい時代を背景に従業員には能動的にキャリアを歩んでいくことが期待されている。自分のキャリアを会社任せにするのではなく、「自分の価値観や将来やりたいことについて明確にすること」や「それらを実現するために知識やスキルを身に着けること」「自律的なキャリアを歩むために、従業員にはキャリアの方向性」を早い段階から定めて行動していくことが求められている。

若い世代のキャリア自律

若い世代の中には、自律的なキャリアを歩むことの必要性について認識している人が増えてきているようだ。これは、中学校や高校でキャリア教育を受ける機会が増えてきていることとも関係するのかもしれない。実際に私が大学生や高校生と話をしていても、彼(女)らが「明確」なキャリアビジョンを持っていて驚かされることがある。

私はこのようなキャリアや仕事に対する人々のまなざしの変化を、基本的にはポジティブなものと受け止めている。しかし同時に、難しさもあるのではないかと考えている。自分が望むキャリアや現在の職場でやりたい仕事を意識することは、成長の糧となることもあるが、若い時に描くキャリアは非現実なことも多い。

仮に現実的なキャリアを描けたとしても、それを思い通りに実現するのは難しい。自律的なキャリアを上手に歩むためには、単に将来に向けて視野を広げるだけでなく、目の前の現状と上手に向き合っていく視点が必要である。

そこで本コラムでは、自律的なキャリア形成が求められる時代に顕在化する「人と仕事」のミスフィットに注目し、それを良いきっかけとするためのヒントを紹介していきたい。

人と仕事のフィットという考え方

※ここでの議論は森永(2023)の第2章・第3章に基づいている。興味がある読者は該当章を適宜参照してほしい。

フィット研究とは

仕事がその人の希望や求めているものと合っているかどうかに注目した概念として「P-Jフィット」がある。ここでいうPはPerson(人)の略であり、JはJob(仕事)の略であり、「自分が仕事に求める特徴を仕事(J)が提供しているのか」、逆に「仕事(J)が求める要件を従業員(P)の側が持ち合わせているのか」といった観点から人と仕事の適合性をとらえようとする考え方である。これらの研究をフィット研究という(たとえばCaplan, 1987; VanVianen, 2018)。

フィット研究からわかること

一連のフィット研究が基本的に想定しているのは、人と仕事の間のフィットを高めていくことで最善の結果が得られるというものである(たとえば、鄭・竹内・竹内, 2011)。ある人が自律的に仕事をしたいと考えているのであれば、自律的な仕事にアサインしたほうが、その人は仕事に対して満足感を得られるだろう。

逆に人と関わることが苦手だから避けたいと考えている人に、人と関わることがメインの業務を割り当てた場合、もしかしたらやめたいといってくるかもしれない。そのため、フィット研究では、人と仕事の間のフィットを高める配属や仕事の割り当てをすることが大事だと主張する。

ミスフィットは避けられない

ただし残念ながら、すべての人の「フィット」を実現するのは難しい。その理由は少なくとも2つある。

ミスフィットを受け入れる必要性

第1に、すべての人の希望や志望は通らない。人が望む仕事は多くの場合、希少だからである。一部の人は、希望の仕事についてフィットを感じることができるが、多くの人は、志望とは異なるそれ以外の仕事につき、ミスフィットを受け入れる必要がある場合が多い。

「仕事の寿命」効果

第2に、仮に一時的なフィットを実現できたとしても長続きしない。Brousseau(1983)が指摘している通り、人と仕事のフィットはさまざまな要因の影響を受けて変化する。代表的な要因が「仕事の寿命」効果である。

仕事の寿命効果とはKatz(1978)によって提唱された考え方で、仕事が人を動機づける効果は、時とともに徐々に失われていくというものである。ある希望通りの仕事についた場合、しばらくはやる気にあふれて仕事をすることができるだろう。

しかしそれが10年も20年も長続きすることはまれである。長く同じ仕事を続けていれば、その間に業務の新鮮さが失われて飽きてくることもあるだろうし、スキルレベルが上がるにつれて業務を物足りなく感じることも出てくるだろう。

ミスフィットとの正しい付き合い方とは

人と仕事がフィットすることが望ましいのは確かだが、実際には「ミスフィット」が生じることは避けられない。そして冒頭で説明した通りキャリアの志向性を明確にすることが求められる昨今の状況は、従業員にフィット/ミスフィットに敏感になるように求めているともいえる。このような状況に戸惑う若手社員が増えてくるのは自然であろう。

配属ガチャからみえるもの

実際、ここ数年「配属ガチャ」という表現が新聞や雑誌をにぎわしているようである。すべての従業員の配属が希望通りにいくわけではないのは昔も今も変わらない。

しかし、キャリア自律というキーワードにまじめに向き合い、自身の働き方やキャリアについて主体的に考えてきた学生にとっては、配属が希望と異なることのショックは殊更大きいだろう。配属の「ガチャでがっかり」している学生に、「のんびり行こうぜ」と正論をアドバイスしても、なかなか心に刺さらないだろう。

私たちは、キャリア自律の時代に一層顕在化するミスフィットとどのように向き合っていく必要があるのだろうか。以下ではまず、避けられないミスフィットの中に希望の光を見出す研究を紹介していこう。

ミスフィットがジョブ・エンゲージメントを高める!?

まず、ミスフィットがフィットとは異なる種類のウェルビーイングを向上させると主張する研究がある。Warr&Inceoglu (2012)は、849名の英語を母語とするさまざまな従業員を対象に質問票調査を行った。

そして8つの仕事の側面(支援的環境、競争と金銭な焦点、個人的影響力、挑戦的な仕事負担、倫理的指針、キャリアの進展、社会的接触の量、地位)について、理想の状態と現実に得られている状態のそれぞれについて質問し、両者の間に生じる差(ミスフィット)を算出している。その上でミスフィットと2種類のウェルビーイング(職務満足とジョブ・エンゲージメント)との関係を検討している。【図1】

図1

その結果、ジョブ・エンゲージメントの影響を統制した上でミスフィットと職務満足度の関連を分析した場合には、これまでのフィット研究の知見を追認する関係、すなわちミスフィットが従業員の満足度と負の関連があるという結果を提示している。

一方、職務満足度の影響を統制した上で、ミスフィットとジョブ・エンゲージメントの間の関連を分析した場合には、ミスフィットがジョブ・エンゲージメントと正の関連を持つという、従来の研究知見とは異なる結果を提示している。

Warr教授らの研究に基づけばミスフィットが一概に人を不幸にするわけではないことがわかる。Warr教授らの研究では一般的な研究と比べて凝った測定手法を用いている反面、分析手法は極めてシンプルなものにとどまっている。そのため当該研究の結果の一般化については慎重である必要があるが、ミスフィットにもポジティブな側面があるととらえなおすための興味深い知見を提示している。

ミスフィットをジョブ・クラフティングの契機に

では、ミスフィットはいかにしてジョブ・エンゲージメントに結び付くのだろうか。このような問いに対して「ジョブ・クラフティング」が重要な役割を果たすことを主張する研究がある。

ここでいうジョブ・クラフティングとは、従業員が主体的に仕事の範囲ややり方、仕事を進める上で関わる人間関係などに変化を加える行動のことを指している。そして従業員が上手にジョブ・クラフティングを行うことで、従業員は仕事を自分にとって魅力のあるものへと変化させることが可能になり、仕事のやりがいに結び付くとされている(森永, 2023)。

Tims & Bakker (2010) は、ミスフィットがきっかけとなって従業員のジョブ・クラフティングを引き起こされるという理論モデルを提唱している【図2】。

図2

ミスフィットは、従業員にある種のフラストレーションをもたらすが、そのようなフラストレーションを解消しようとするモチベーションを従業員に与える。そしてミスフィットをきっかけとして従業員が効果的なジョブ・クラフティングを実践することができれば、仕事のやりがい(ワーク・エンゲージメント)に結び付くというのである。

ミスフィットへの向き合い方

職場で生じるミスフィットが従業員の能動的行動であるジョブ・クラフティングを引き起こすことでポジティブな成果につながるというモデルは、受け入れざるを得ないミスフィットに直面している従業員に希望を与えるだろう。

従業員は、ミスフィットに直面した時に、上手に向き合っていく必要がある。ミスフィットをジョブ・クラフティングのきっかけとすることで、与えられた満足とは違う自分なりのやりがいを獲得することができる。

企業の対応策

一方で激しい人材獲得競争にさらされている企業の側にもヒントを提供するだろう。企業にとって重要なのは、ミスフィットが生じるだけで誰もが自由自在にジョブ・クラフティングを取り入れられるわけではない点に注意することだ。

組織は、ミスフィットが従業員にとってジョブ・クラフティングを行うためのきっかけとなるように支援したり、促したりしていくことが求められる。具体的には、従業員の自発的行動を引き出す管理者を育成したり、従業員が能力を伸ばしていくさまざまな施策を充実させていったりすることが求められるだろう。

「配属ガチャがチャンスに」なるマネジメントを

変化の大きな環境変化にさらされて、従業員の中には不安を感じている人もいる。そのような状況を踏まえてキャリアの方向性を描き、その通りになることを強く望む人もいる。

しかし、すでに述べたようにそのような希望通りの状況はなかなか手に入らないし、手に入ったとしても長続きしない。従業員には、ミスフィットを逆手にとって、現在のキャリアを充実させていこうとする志向性が求められている。

組織には、フィットを高めるための手を尽くしつつも、そこに限界があることを同時に示していくことが求められている。そしてミスフィットな環境をジョブ・クラフティングのチャンスととらえられる従業員を育てること、従業員がそのように感じられるマネジメントを組織で実践していく必要がある。配属による「ガチャがチャンスに」感じられるマネジメントの実践が、組織に求められている。


【参考文献】
森永雄太(2023)『ジョブ・クラフティングのマネジメント』千倉書房.
鄭有希, 竹内規彦, & 竹内倫和. (2011). 人材開発施策が従業員の職務態度に与える影響過程: 個人-環境適合の媒介効果とキャリア計画の調整効果. 日本経営学会誌, 27, 41-54.
Brousseau, K. R. (1983). Toward a dynamic model of job-person relationships: Findings, research questions, and implications for work system design. Academy of Management Review, 8(1), 33-45.
Caplan, R. D. (1987). Person-environment fit theory and organizations: Commensurate dimensions, time perspectives, and mechanisms. Journal of Vocational behavior, 31(3), 248-267.
Katz, R. (1978). Job longevity as a situational factor in job satisfaction. Administrative science quarterly, 204-223.
Tims, M., & Bakker, A. B. (2010). Job crafting: Towards a new model of individual job redesign. SA Journal of Industrial Psychology, 36(2), 1-9.
Warr, P., & Inceoglu, I. (2012). Job engagement, job satisfaction, and contrasting associations with person–job fit. Journal of occupational health psychology, 17(2), 129-138.


著者紹介
森永雄太(もりなが ゆうた)
上智大学経済学部経営学科 教授
神戸大学大学院経営学研究科博士課程修了。立教大学助教、武蔵大学経済学部准教授、教授などを経て、2023年9月より現職。専門は組織行動論、経営管理論。主著は『ウェルビーイング経営の考え方と進め方 健康経営の新展開』(労働新聞社)、『ジョブ・クラフティングのマネジメント』(千倉書房)など。最近ではABW型オフィスにおける従業員のウェルビーイングの増進に関心を持っている。

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