多様な人材の活躍3-人事施策と公平性-

宮本祥太
著者
キャリアリサーチLab研究員
SHOUTA MIYAMOTO

問題意識

多様な人材が個々の能力を最大限発揮しながら活躍する機会を実現するダイバーシティ経営。労働力の確保が一段と難しくなる中で、企業が自組織を持続的に維持・発展させていくために重要な視点であろう。ダイバーシティ経営の実現は、一つの組織に異なる価値観や事情を持った人材が集まることを意味する。

ここで問題となるのが、従業員それぞれに働くニーズが異なる中で、いかにして組織全体の公平性を保つかではないだろうか。組織で働く人の全員が同じようなペースで、同じようなワークスタイルで働くことができるとは限らない。フレックスタイムやテレワークなどの時間・場所を限定しない働き方が社会で広がり、ライフキャリアを重視する個人の志向が高まっていることを踏まえると、企業の都合ばかりに合わせた“標準の働き方”を従業員一様に強いることには限界が出てくる。

では、多様な人材が活躍する職場における公平性とはどのようなものか。また、企業が従業員個々のニーズを実現しつつ組織の公平性を保ちながら組織を発展させるにはどうすればよいのか。30年以上ダイバーシティ経営を実践している株式会社日本レーザーの事例から考える。

調査企業

株式会社日本レーザー

会社名株式会社日本レーザー  
代表取締役社長宇塚 達也  
設立1968年  
従業員59名
所在地東京都新宿区西早稲田2-14-1 
事業内容各種レーザー機器装置及び光学機器の輸入販売  

半世紀以上の歴史がある日本レーザーは、レーザー・光製品を取り扱う輸入商社のパイオニア企業として成長を続け、32年連続で黒字経営を続けている。組織の中心にある考え方は「人を大切にする経営」。従業員がモチベーションを高く持って仕事に向き合えるよう現場視点の組織づくりを進めており、多様な人材が営業・技術(エンジニア)・管理の職種で活躍している。 

人材マネジメントの面では、定期昇給や新卒一括採用といった横並びの人事施策を廃止し、性別・年齢・国籍・経歴・学歴を問わない通年採用を実践。新卒人材は縁故やHP等からの直接応募で専門人材を受け入れ、メインとする中途採用では能力と性格を重視して自社にマッチする人材を数多く採用してきた。

女性従業員比率30%以上、女性管理職比率30%。外国人人材も在籍し、海外インターン生の受け入れも毎年行っている。また、生涯雇用を25年以上前から継続。65歳までは無条件で再雇用、その後も本人の意向があれば再々雇用を行い、2025年時点で、60歳以上の従業員が5人、70歳以上の従業員が2人在籍している。

第1回「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞(中小企業庁長官賞)、経済産業省 「ダイバーシティ経営企業100選」入選・受賞、厚生労働省 「キャリア支援企業表彰2015」選定など、多様な人材の活躍に向けた取り組みが評価されている。以下、日本レーザーの人材マネジメントの特徴を見ていく。

人材マネジメントの特徴

(1)柔軟に選べる働き方

一つ目の特徴が、個別の雇用契約による働き方の柔軟性である。日本レーザーでは、従業員個々の状況に合わせて雇用形態を結んでおり、正社員(原則1日8時間/週5日)・嘱託社員(1日最大7.5時間/最大週5日)・パート社員の3区分であらゆる形態の従業員が活躍している。

正社員は、育児・介護・病気療養などライフステージに応じて「短時間勤務制度」が利用可能。正社員・嘱託・パート間の転換も認め、育児期間中に一時的に正社員から嘱託へ転換する例もある。 

他の例としては、もともと正社員で働いていた営業部門の女性が夫の海外赴任を理由に一度退社したが、帰国後に復職。はじめは育児との両立のためパート社員として働いていたが、子育てが落ち着いたタイミングで正社員に転換し、現在は管理部門の係長を務めている。このように、それぞれの状況に合わせて働き方を選択できる余地があり、雇用形態の転換やキャリアの中断があった場合も、組織でキャリアを続けることができるよう工夫されている。

また勤務スタイルも私生活の実情に合わせて調整可能で、在宅勤務や顧客先への直行直帰も自身の仕事と私生活の状況に合わせて柔軟に変更ができる。2026年春以降は有給休暇制度を改め、全日・半日単位から1時間単位で取得できるようにする方針。就業規則は、従業員の実情や時代の変化にマッチしたものになるように毎年見直しているという。

たとえば、定年の60歳で支給していた退職金を従業員の要望に合わせて前払いしたことがあった。その従業員はマイホームを建てたこともあって60歳より前の支給を相談し実現した形だが、これを機に退職金の前払いの仕組みを制度として就業規則に盛り込んだ。

これらの施策のベースには「従業員のワーク(仕事)とライフ(私生活)のバランスは常に一定ではない」という考え方がある。個人のキャリアを取り巻く環境が時期によって異なることを前提として、ライフステージに合わせて自分の意思で「仕事との向き合い方」を変更できる仕組みを整えている点が特徴の一つに挙げられる。

(2)透明で公正な評価

二つ目の特徴が透明性。日本レーザーではすべての従業員に対して、全社の売上・受注・粗利・実績を事業別・グループ別・個人別で公開している。人事評価は定性・定量の2種があり、定性評価は組織が求める役割(30項目)の達成度が指標となる。

定量評価は個人業績によるもので、「粗利の3%」という明確なインセンティブの基準を設定している。たとえば、100万円の売上があった場合、3%にあたる3万円がインセンティブとして賞与に上乗せされる仕組みで、上限を設けておらず成果が報酬に直接反映される。

職種の性質を考慮し、売上部門の営業・技術は定性・定量の組み合わせ、原価部門の管理は定性のみで評価し、定期賞与(7月・2月)に反映させている。このように、性別・年齢の有無に関わらない能力・成果による人事評価を行っており、自身の仕事の貢献が報酬として還元される仕組みも整えている。

特色は、自身の裁量で定量部分のインセンティブを他のメンバーへ配分できる点にある。営業部門では他の営業メンバーからの紹介で商談が実現することや、技術メンバーや営業アシスタントと協力して顧客に対応する場面も多い。そんな時に、たとえば、100万円の売上によるインセンティブ3万円を他の営業メンバーに1万円、技術メンバーに1万円のように割り振ることができる。日本レーザーではこのような配分が当たり前に行われており、分け合った報酬の行き来もすべての従業員に公開されている。

評価面談では対話を重視している。評価者と被評価者の双方が納得するまで徹底的に話し合い、「どのような貢献が今の評価に繋がったか」「どのように行動すればこの先の評価を高められるか」のフィードバック・フィードフォワードを行う。給与は定期昇給でなく年間の実績に基づく「総合評価」によって決定。個別に給与通知書を示しているが、これも組織側と従業員で話し合いを重ねて毎年見直されている。

(3)偏りをつくらない環境

三つ目の特徴は従業員間の処遇の均衡性。「同一労働・同一賃金」の考え方のもと雇用形態の違いによる待遇格差をなくす配慮がなされる。賃金は雇用形態(正社員・嘱託社員・パート)が違っていたとしても、仕事が同等であれば賃金水準には原則差異がない。たとえば、定年再雇用で正社員から嘱託社員となったシニア人材が定年前と同じ仕事内容を続ける場合、労働時間の減少分は反映されるものの、賃金水準自体は保たれる。 

また、定期賞与(7月・2月)とは別に「プロフィットシェアリング」を毎年12月に支給。プロフィットシェアリングは、会社の年間利益に準じて支給されるもので、正社員・嘱託社員・パート社員の全従業員に還元している。

福利厚生も「退職金制度」などの一部を除いて正規・非正規間の違いがない。例を挙げると、誕生日には会社が社長のメッセージがついたカタログギフトを個人の自宅に送る習慣があるが、これは雇用形態に関係なくすべての従業員へ贈られる。

他にも、TOEICの点数に応じて支給される英語能力手当(500点:5,000円 ~ 900点以上:3万5,000円)は全従業員が対象。英語能力習得に向けた外部講座(オンライン英会話教室など)の受講支援も平等に行い、会社が費用の2/3を負担する形でスキルアップを支えている。

実務の面でも従業員間の偏りが出ないような工夫がなされる。日本レーザーでは、1人が複数の業務を兼任する「マルチタスク」と、2人1組のペアで業務を行う「ダブルアサインメント」を導入している。これは、一つの顧客に対して2人で対応したり、業務内容をスイッチしたりして相互に補完する仕組み。特定の人に仕事が偏ることを防ぐとともに、産休・育休、突発的な休暇・休業があっても業務に支障が出ないことに繋がっている。

仕事での挑戦も平等に与えられており、過去には「海外の販路拡大をしたい」と希望する営業人材を海外出張に派遣することもあった。待遇や学習や仕事など、あらゆる面で従業員間が公平に組織活動を行い、恩恵を受けられるようなシステムを構築している。 

(4)豊富な接点と情報交換

四つ目の特徴が従業員間の接点の多さと活発な情報交換。日本レーザーで月1回開催されている「アフターファイブ会」では、終業後の従業員がオフィス内のフリースペースに集まり、缶ビールを片手にテレビゲームやダーツを楽しむ。東京本社には40名程が在籍しているが、毎回20名程が参加し、正社員も嘱託もパートも混ざって交流しているという。家庭の事情で終業後に都合がつかない従業員たち向けには「ランチ会」を設定している。

また、週1回のメール交換の取り組みを10年以上続けている。これは、「今週の気づき」「今週の感謝」というテーマのもと、従業員それぞれが、所属部署の全メンバー、上司、役員に毎週末メールを送り合うもの。仕事・プライベートを問わず生活する中で気づいたことや仕事の中で感謝したことを自由に書くスタイルで、趣味の話題、家族や健康など多彩なテーマで紹介される。この取り組みが個人のパーソナリティや私生活の現状を知ることにも繋がり、社内での会話の種になっているという。 

また、新入社員紹介や海外出張報告、会社・個人の業績の詳細などが記された社内報「JCLニュース」を毎月発行。入社年次の浅い従業員が交替で編集長を務めるが、記事は従業員それぞれが思ったことを書いて投稿するスタイルで、自主性によって成り立っている。社内報は毎月50頁程のボリュームで発行され、社内の現状を知るツールとなっている。 

毎週月曜日には全従業員が集まり1時間程度開催される「オンライン朝礼」も行っており、組織で働く人同士が顔を合わせる機会が多くあることで、『会社が今どのような状況にあるのか』『会社でともに働くメンバーがどのような状態なのか』が随時共有されている。このように、従業員同士が日常業務以外でも他のメンバーと繋がりコミュニケーションを図る仕組みを会社が設けることで従業員の相互理解を促している。 

特徴内容狙い・効果
柔軟に選べる働き方  ・従業員との個別の雇用契約 
・勤務スタイル変更、雇用形態転換が可能 
ライフステージの変化に合わせて柔軟に仕事との向き合い方を変更・調整ができる 
透明で公正な評価 ・売上・受注・粗利・実績を社内に公開 
・賞与(インセン)を個人の裁量で分配可能 
オープンな情報のもと明確な基準で人事評価がなされ、報酬に対して個人に分配と裁量の余地がある 
偏りをつくらない環境  ・雇用形態間で差異がない待遇&福利厚生 
・ペアで取り組む「ダブルアサインメント」 
待遇・学習機会・仕事などあらゆる組織活動において従業員間に対等に機会が設けられる 
豊富な接点と情報交換  ・月1回開催のアフターファイブ会 
・今週の気づき&感謝のメール交換 
従業員同士が日常業務以外で他のメンバーと繋がり、相互理解をする機会がある 

分析

フェアでフラットな職場

日本レーザーの人材マネジメントの特徴からは、多様な人材が活躍する持続的組織に求められる要因が見えてきた。それは「フラット」で「フェア」な組織環境である。

「フラット」とは組織と人との対等な関係性であり、会社が強権的な立場をとらず社員と対等な関係性を保ち、従業員自身に多くの裁量を持たせていることを指す。人事施策や制度に柔軟性があることで多様な人材が本人主体で雇用形態や勤務スタイルを選択できる余地があり、報酬を自らの裁量で分配できるなど、当事者意識を持って働けるような工夫が随所に見られる。

「フェア」とは従業員間の公平な関係性であり、雇用形態などの個人属性を問わず働く誰もが平等に扱われることを意味する。雇用形態や年齢や国籍などの形式にとらわれることなく、業務・利益・学習機会・成長機会・情報のあらゆる面で従業員間の公平が保たれている。

これらを支えるのが、従業員の誰もが情報にアクセスできる透明性であり、働く人同士が互いの仕事に関する情報や私生活の状況を共有できる体制ではないかと考える。

「フラット」で「フェア」な組織のベースにあるのが「個別性への配慮」である。制度を固定化したり画一化したりすることなく、幅を持たせることで多様な個人がそれぞれにフィットした形で組織と向き合うことができる。たとえ、立場や働き方に違いがあっても、公平性を感じられるように細かく人事施策が設計されている。ここに、持続的に多様な人材が活躍する手がかりがある。 

フラットでフェアな環境のイメージ図
フラットでフェアな環境

組織的公正の観点から見る日本レーザーの取り組み 

組織運営を考える上では、個人の組織への貢献が評価や報酬や処遇へ正当に反映されているかが重要であり、組織的公正(Organizational Justice)の分野で研究が蓄積されてきた。Greenberg(1990)によると、組織的公正は「分配的公正」と「手続き的公正」の2種に大別される。

「分配的公正」は結果の公平性であり、自分の貢献・報酬を他人の貢献・報酬と比較した時に釣り合っていると判断した場合に公平であると考える。たとえば、AさんはBさんよりも2倍の業務量をこなし2倍の成果を上げたにも関わらず、対価が同じだった場合、Aさんは不公平感を感じるだろう。

「手続き的公正」は結果に至るまでのプロセスに関する公平性であり、報酬や処遇が決定されるまでの手続きが正確な基準や情報に基づいて判断されていない場合、人は公正でないと感じる。仮に、Aさんが前年の2倍の業務量と成果を上げたにもかかわらず、基準が明確な評価制度ではなく、評価者である上司の主観で行われ、その結果前年と全く同じ査定となった場合、Aさんは不公平感を感じるかもしれない。

他にも、結果に至るプロセスにおいて関与する人との関係性に着目する「相互作用的公正」を組織的公正に含める場合もある(Bies & Shapiro,1987 ; Colquitt,2001)。この場合、プロセスが完全なものであっても、それを運用する人(たとえば上司)が不誠実な対応を行えば公平性が損なわれる。

このように「結果」とそれに至る「プロセス」、関与する「人」が、働く人が知覚する公平性に影響を与える要素として挙げられており、組織コミットメントや処遇の満足度などのさまざまな組織の成果に影響することが先行研究で示唆されている(Colquitt et al ,2001)。

組織的公正の観点から日本レーザーの取り組みを捉え直してみる。日本レーザーでは雇用形態・年齢・性別・国籍などを問わない人事施策が下地にあり、従業員個別との雇用契約や従業員によるインセンティブ配分のような具体的な仕組みも整っている。これによって多様な人材がそれぞれに、仕事の貢献に見合う評価・報酬を実現しやすい環境が整う。

また、評価・報酬については、決定に至る「プロセス」において全従業員に組織の情報をフルオープンに示すことで評価の納得性が担保されている。「人」の面では、評価決定の過程で組織側と従業員側で丁寧なすり合わせが行われており、日常的なコミュニケーションも活発な様子がうかがえる。これらの点から、日本レーザーは「結果」「プロセス」「人」という組織的公正の3つの側面を備えた組織であるといえよう。 

まとめ

労働の在り方が多様化していることを考えれば、人事施策・制度を一様に全従業員にあてはめることはますます困難となり、それによって公正性を保つことには限界が出てくる。その意味では、日本レーザーの「個別性への配慮」のアプローチは有効策の一つとなり得る。具体的には、従業員を標準的なものさしで捉えるのではなく、個々に目を向け、それぞれに異なるニーズが少しでも実現しやすいよう制度や施策に柔軟性を持たせることが今後重要になるだろう。

そのためには会社が強い人事権のもとで個人を縛るのではなく、個人に権限を委譲しながら従業員の主体性を重んじる姿勢が大事になる。さらに、処遇や評価の面の納得感を高めつつ、仕事や仕事以外でも従業員同士が対等な関係で繋がれるような仕掛けを行うことも欠かせない。それが多様な人材が活躍する組織における公平性に繋がると思う。そして、労働人口が先細り流動性を増すこの先の未来で組織が持続的に発展するための手がかりであろう。 

キャリアリサーチLab研究員 宮本 祥太


【参考文献】
Greenberg, J. (1990). Organizational justice: Yesterday, today, and tomorrow. Journal of management, 16(2), 399-432. 
Bies, R. J., & Shapiro, D. L. (1987). Interactional fairness judgments: The influence of causal accounts. Social justice research, 1(2), 199-218. 
Colquitt, J. A. (2001). On the dimensionality of organizational justice: a construct validation of a measure. Journal of applied psychology, 86(3), 386. 
Colquitt, J. A., Conlon, D. E., Wesson, M. J., Porter, C. O., & Ng, K. Y. (2001). Justice at the millennium: a meta-analytic review of 25 years of organizational justice research. Journal of applied psychology, 86(3), 425. 

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