多様な人材の活躍1-持続的雇用関係の構築-

宮本祥太
著者
キャリアリサーチLab研究員
SHOUTA MIYAMOTO

問題意識

いかにして従業員とより良い雇用関係を構築するか。これは人材マネジメントを行う組織が直面する課題であろう。働く人のキャリアの在り方も、組織のビジネスの方向性も、労働や雇用を取り巻く環境も、常に一定に保たれるわけではない。

働き方が多様化し、雇用が流動化する「変化の時代」の中で、企業の人材獲得競争は激しさを増し、人手不足感は高まっている。人口減少が進み労働力に限りがあるという前提に立てば、これからの人材マネジメントを考える上では、既存の固定概念や人事慣行に縛られることなく、多様な人材に目を向けながら組織を形づくる視点が欠かせない。

では、企業は多様な人材と持続的な関係性を築くためにどのように人材マネジメントを展開すれば良いだろうか。この問いを考えるべく、本章では、工夫ある人事施策によって多様な人材が活躍している白川電機株式会社熊本製作所(以下:白川電機)の事例を取り上げる。

調査企業

白川電機株式会社熊本製作所 

会社名白川電機株式会社熊本製作所 
代表德冨 顕二 
設立1971年12月 
従業員106名
所在地熊本県上益城郡益城町古閑崎久保153-15
事業内容高圧盤及び制御盤の設計、製作、品質保証/板金加工の製作・塗装作業など

白川電機は熊本県益城町に拠点を置き、公共施設などの高圧盤、半導体関連の制御盤の製作などを展開。半導体産業が活況の熊本において成長を遂げており、2023年に第一、第二、第三工場に次ぐ「第四工場」を新設して事業を拡大させた。

新規人材の獲得に力を入れ、2025年10月までの1年間で10名以上の中途採用を実施。半導体業界や製造職の経験者だけでなく未経験人材の採用にも積極的で、航空会社のグラウンドハンドリングや林業の木こりとして働いていた人材も製造職(加工・板金・塗装など)として転職して活躍している。 女性従業員は50名で半数を占める。外国人人材や定年再雇用者も在籍し、71歳の人材も活躍している。男性育休取得率100%で、性別や年齢、国籍を問わず活躍できる職場を実現している。 

白川電機が人材マネジメントの根幹として掲げるのが「従業員が幸せになること」。その指標として目指す組織の在り方が「従業員同士が仕事中に笑って話せる職場」であり、従業員の子や親族も入社したいと思える会社である。実現に向けて従業員目線の様々な施策を取り入れている。以下、働く人と組織のより良い関係性を構築するために工夫する白川電機の人材マネジメントの特徴を見ていく。 

組織・施策の特徴

(1)共感採用によるマッチング

1つ目の特徴は、共感採用によるマッチング。共感採用は、会社側と求職者側の価値観の相互理解と共感を軸とした独自の採用手法であり、求職側のニーズを十分に把握するため「1時間」の面接時間が設定される。中途採用の面接は原則1回で、経営トップの徳冨代表が入る。

面接で重視されるのは、会社側と求職者側の「認識の齟齬をなくすこと」。求職者側のキャリアの考えや転職によって実現したいことをじっくりと聞くことに多くの時間が割かれる。求職者側から語られた待遇・仕事・役割・地位・職場環境など個別の働くニーズに対して、組織として提供することができる『現実』と、当人が組織で働き続けた場合のポスト・給与・働き方・キャリアパスといった『将来可能性』まで会社側が伝える。その上で、求職者側のニーズを十分に満たすことが難しいと判断した場合、採用要件にマッチした有望な人材であっても「ウチはやめたほうがいい」と伝え、期待値を調整する。

合わせて、会社側が期待する企業理念や経営方針、期待する役割を丁寧に伝えることで、双方のビジョンのすり合わせを行いながら、求職者側が“組織の真の姿”に納得・共感した状態で入社してもらうための工夫がなされている。共感採用の取り組みによって入社後の仕事・職場のミスマッチや離職の抑制に繋がっている。 

(2)多様なキャリアパスの確保

2つ目の特徴が、多様なキャリアパスの確保。白川電機では、自己申告制度を独自に発展させた「ジョブチェンジ制度」を導入している。この制度は、社員に3回まで希望職種への転換を申告する機会を付与するもので、従業員は社長への直接相談、もしくは、制度運用のために作成した事前申請書類を会社へ提出してもらうかたちで転換の申告ができる。

どの職種へ、どのタイミングで申告するかは本人次第。主力である半導体製造装置関連の製造職のほか、設計・営業・経理・総務・購買などさまざまな部署で違った職種の選択肢があり、対ヒト・対モノの幅広い仕事へ挑戦できる。実際、職種をまたぐジョブチェンジや、育児との両立に向けて体力的負担を減らすための異動を実現した従業員もいるという。

制度の根底には「仕事は実践してみて初めて向き・不向きがわかる」という人材育成の考え方がある。採用面接の段階から希望職種や業務適性について十分な調整を行った上で人員配置を行うが、必ずしもそれが当人にとって“適職”とは限らないという前提に立ち、業務への関心や個人のキャリアの環境が時間とともに変化することも考慮して、この社内転職の仕組みを取り入れた。このように従業員それぞれが組織でのキャリアを築く中で個人の強みを見出し、体現できる環境を整えている。 

(3)従業員目線の制度設計

3つ目の特徴は、従業員目線の制度設計。白川電機には、従業員それぞれに異なるニーズを吸い上げ、制度に反映させる仕組みがある。

例えば、白川電機の社内には子連れ出勤に対応するための「キッズルーム」が完備されている。キッズルームには滑り台やボールプール、歴史の本や勉強机が置かれ、子供がいる時は徳冨代表や従業員も面倒見役となるという。これは、従業員の子が学級閉鎖となり面倒を見るために会社を休まざるを得ない状態になったことを機に生まれた。子連れ出勤ができる体制に加えて、会社が属する工業団地内の保育所利用のサポートも行い、仕事と育児との両立がしやすい環境を整備している。

このほか、従業員のライフキャリア支援の一環として、個人の生命保険を会社が負担する取り組みも2025年から始めた。これは若手従業員の離職をきっかけに従業員が生活する上で必要な支出を会社が一部負担することも目的とした制度で、賃金以外の福利厚生等で待遇向上を目指す「第三の賃上げ」として機能する。制度によって仕事以外のプライベートで怪我や病気を負った時にも充実した保障を受けられる。制度導入にあたっては従業員に事前アンケートを行い、保険の保証項目の要望を集約。年齢も性別も異なるあらゆる従業員の要望を制度に反映させる工夫をほどこす。 

(4)遊びから繋がり学ぶ文化

4つ目の特徴が、遊びから繋がり学ぶ文化。白川電機では恒例の社内イベントとしてBBQ大会が開かれている。もともと年1回だったが、従業員側の要望を受け、2025年度から年2回の実施となった。通常営業日の勤務時間内に開かれるBBQ大会は参加自由で、参加を希望しない従業員は有給休暇を取得することができる。

企画運営は中途入社して日が浅い新人メンバー5~6名が実行委員を担当。本番の数週間前になると、徳冨代表は「仕事はしないでいい。準備に専念して」と伝えるという。実行委員メンバーは“仕事はそっちのけ”で勤務時間を使って準備に励む。BBQ大会には従業員の家族も参加し、普段は一緒に作業をすることがない従業員同士の人となりを知ることに一役買っている。

この社内イベントは従業員の「慰労」「交流」のほかに「教育」を目的としている。新しく組織に加わったメンバーに担当業務以外の役割を担ってもらい、企画を自分たちで一から考えることを通じてリーダーシップやチームワークを発揮し、白川電機が仕事の価値観として重視する『準備の大切さ』を学んでもらう狙いがある。BBQ大会が終わると、フィードバック会議を行い、企画の反省点や自身がBBQ大会を通じてどう変化したかを振り返る時間を設けている。 

特徴内容狙い
共感採用によるマッチング ・社長による1時間の採用面接 
・会社側の意向と求職者側のビジョンの共有 
求職者側のニーズに対して会社の現実と将来見通しを丁寧に伝えることで「認識の齟齬」をなくす 
多様なキャリアパスの確保 ・自己申告型のジョブチェンジ制度 
・1人最大3回まで他職種へ社内転職可能 
「向いている人に向いている仕事を」を前提の考えとして個人の強みを最大限発揮してもらう 
従業員目線の制度設計 ・子連れ出勤用キッズルーム、生命保険負担(※)
・仕事以外のライフキャリアに対する支援 
多様な従業員のニーズを制度として落とし込み、働く満足度と生活水準を向上させる 
遊びから繋がり学ぶ文化 ・年2回のBBQ大会 
・BBQ準備=仕事として新入社員が全て企画 
慰労・交流・教育を目的に開催し、新人へ権限委譲することで実務以外の新たな役割を担ってもらう 
(※)ケガなどに起因する生活補助費(ベビーシッター費用など)も同時に負担

分析

継続的ニーズ反映&キャリアオプション

白川電機の人材マネジメントの特徴からは、多様な人材とより良い関係性を築くための2つの要因が見えてきた。1つは『継続的ニーズ反映』である。白川電機では、採用段階から働く人のキャリアの考えを会社側が把握する工夫がなされており、入社後も働くニーズを吸い上げながら制度へ反映させている。断片的でなく継続的に、ニーズを聞くだけでなく制度に落とし込んでいる点が特徴と言えよう。

もう1つが『キャリアオプション』。ワークキャリア・ライフキャリアの幅広い文脈から従業員の存在を捉え、個々が組織内で職種や働き方やキャリアパスを選択できる体制を整えられている。また、これから仲間に加わる求職者に対しても、表面的な組織の現実だけでなく『将来可能性』も提示しながら、会社が一緒になって中長期的キャリアを考える文化がある。その一方で、社内イベントを任意参加とするなど、組織との関わり方に個人の選択の余地があることもポイントだろう。 

通底する従業員への尊重

『継続的ニーズ反映』『キャリアオプション』という2つの要因には、従業員一人ひとりに対する尊重の姿勢が通底する。個々人には違いがあり組織との関係性は一朝一夕で育まれるものではないことを前提に、長い目で見て従業員のキャリアの充実や組織の発展に繋げようとする視点が組み込まれている。ここに、従業員とより良い関係性を築き持続的な組織をつくるための手がかりがあると考える。 

理論的考察

サステナブル人的資源管理(SHRM)

持続可能性を重視した人材マネジメントの考え方に「サステナブル人的資源管理(Sustainable Human Resource Management)」がある。

サステナブル人的資源管理は、従業員が置かれた環境や社会環境が時間経過とともに変化することを踏まえ、個々の従業員やその家族といった複数のステークホルダーと、社会が求めるニーズといった外部環境の文脈を考慮した人材マネジメントの在り方である(De Vos, A., & Van der Heijden, B. I., 2017)。 

要素尊重(Respect) 開放性(Openness) 継続性(Continuity) 
特徴人的資源に対する尊重の姿勢。従業員や従業員の家族など多様なステークホルダーを考慮する。 外部環境を重視する視点。地球環境や社会環境を配慮し、多様性やワークライフバランスなどの視点を含める。 長期的な雇用関係の観点。個人と組織の双方にとってバランスのとれた関係性を長期の視点で実現する。 
実践内容エンゲージメント・権限移譲・ウェルビーイング・従業員参加など ダイバーシティ・ワークライフバランス、ステークホルダー、労働市場への配慮など エンプロアビリティ・後継者育成・学習する組織・創造性がある職場など 
De Vos, A., & Van der Heijden, B. I., 2017 をもとに作成

サステナブル人的資源管理の理論モデルの一つとして「ROCモデル」がある(De Prins et al.,2014)。ROCモデルは、尊重(Respect)、開放性(Openness)、継続性(Continuity)という3つの特徴を含む。

尊重(R)は、従業員に対する尊重であり、個々のエンゲージメント・ウェルビーイング向上や経営への従業員参加などに向けた実践が求められる。開放性(O)は、外部視点を意味し、地球環境やダイバーシティ、高齢化や労働市場などのさまざまな環境要因を踏まえた施策展開を重要視する。継続性(C)は長期的視点を意味し、短期的利益を重視する考え方ではなく長期の個人と組織の関係性を意識しながら人材育成や職場改革を行う必要性が示されている(De Prins et al., 2014)。 

SHRMの観点からみる白川電機の取り組み

特徴尊重(R) 開放性(O) 継続性(C) 
共感採用によるマッチング 
多彩なキャリアパスの確保 
従業員目線の制度設計 
遊びから繋がり学ぶ文化 

サステナブル人的資源管理の観点から白川電機の取り組みを捉え直すと、「共感採用によるマッチング」「多様なキャリアパスの確保」「従業員目線の制度設計」「遊びから繋がり学ぶ文化」の特徴はいずれも、従業員に対する「尊重」がベースにあり、外部環境を重視する「開放性」や長期視点でとらえる「継続性」の要素が含まれている。これらの取り組みや人事施策の束が『継続的ニーズ反映』『キャリアオプション』の独自の要因を形づくり、組織の発展に繋がる持続的な雇用関係が育まれていると考えることもできる。 

持続的雇用関係と施策の関係図
持続的雇用関係と施策の関係

まとめ

白川電機では、働く人のニーズを吸い上げながら制度へ落とし込み、さらに組織内でのキャリアの歩み方に選択の余地をもたせている。ベースとなっているのが「働く人の目線」に立った人事施策へのアプローチであろう。  

このような人材マネジメントを実現するカギは、リーダーと現場の「近い距離感」がありつつ、組織の価値観を押し付けずに個の自由を重んじる「非強制性」であると考える。白川電機では、業務上の指示は全て現場のリーダーに任せ、徳冨代表自身は実務以外のことで従業員と対話することに専念している。また現場のリーダーには上司・部下による「議題・課題を設けない1on1」を行い、1週間に1度でもフラットな関係で何気ないことでも話すよう促しているという。

他方では、社内イベントを自由参加としたり自律的にキャリアを選べる仕掛けをつくったりなど、会社の方針や組織活動を従業員に強いることはない。近い距離感だけが強調された家族的な雰囲気は組織のまとまりを期待できる反面、それを望まない人にとっては組織との関係性に不満を抱く種にもなる。働く価値観が多様化する現代においては尚更、組織を押し付けすぎないバランス感覚も重要な観点だろう。 

 リーダーが各メンバーと丁寧なコミュニケーションを図ることは時間と手間を要するが、それによって顕在化していない働く人それぞれのニーズが浮かび上がってくる。その意味では、まずは従業員に対する尊重の観点から人材マネジメントを捉え直し、個々に異なる考え方を把握するための「接点」を増やすことが重要ではないか。例えば、制度の新設・改善をするに先立って従業員側の意見を集めたり、1on1や社内イベントなどを通じて実務以外の対話ができる場をつくったりすることも有効だろう。

組織が一方的に人事権を行使したり、画一的な人事施策あてはめたりすることには限界がある。そうではなく、組織が従業員視点で個々のキャリアをともに考える姿勢を持つことが、多様な人材と持続的関係を築き、さらに組織を発展させるための第一歩ではないだろうか。 

キャリアリサーチLab研究員 宮本 祥太


【参考文献】
De Vos, A., & Van der Heijden, B. I. (2017). Current thinking on contemporary careers: the key roles of sustainable HRM and sustainability of careers. Current opinion in environmental sustainability28, 41-50.  
De Prins, P., Van Beirendonck, L., De Vos, A., & Segers, J. (2014). Sustainable HRM: Bridging theory and practice through the’Respect Openness Continuity (ROC)’-model. Management revue, 263-284.  

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