高まる地方創生・地域活性化への関心
地域創生2.0
少子高齢化による人口減少に加えて、東京一極集中にみられるような都市部への人口の偏りが解消せず、特に地方における人口・生産人口の減少が課題となっている。
政府は、まち・ひと・しごと創生法(平成26年法律第 136号)を施行し、地方創生の取り組みを本格的に始めた。また、それから10年の節目を迎えた2024年から、新たに地方創生2.0の検討を始め、2025年6月には基本構想が取りまとめられるという。
政府が発表した「地方創生2.0の『基本的な考え方』 」のなかでは、下記のように記されている。
地方創生2.0は、単なる地方の活性化策ではなく、日本の活力を取り戻す経済政策であり、多様性の時代の国民の、多様な幸せを実現するための社会政策であり、我がまちの良さ、楽しさを発見していく営み
地方創生2.0の『基本的な考え方』(内閣官房)
今後の日本社会の発展を考えると、地方創生は外せない課題となるだろう。
地方創生・地域活性化と「キャリア・働き方」の関係
地方創生、地域活性化はともに、「キャリア・働き方」の視点からみても重要なポイントとなる。
マイナビが就職活動を行う学生に実施した調査のなかで、「地元就職を希望しない」学生に対して「実現すれば地元就職するかもしれないもの」を聞いたところ、「働きたいと思うような企業が多くできる(42.5%)」が最多で、「給料のよい就職先が多くできる(42.4%)」が続いた。【図1】
【図1】(地元就職を希望しない人限定)実現すれば地元就職するかもしれないもの/マイナビ2026年卒 大学生Uターン・地元就職に関する調査
つまり、地方経済が活性化し、 魅力的な企業、職場が増えれば、若者にとって魅力的な地方が増え、結果的に若者人口の流出を阻止できる可能性が高まる。さらに、地元ではない地方で働いてみたいという人は42.0%で、自分の価値観にあえば、首都圏など他の地域から人口が流入する可能性もあるのだ。
【図2】
【図2】地元以外の地方で働いてみたいと思うか、その理由/マイナビ2026年卒 大学生Uターン・地元就職に関する調査
昨今、働く人々の価値観は多様化しており、必ずしも効率的に資源を東京に集積させ経済を発展することだけが求められているわけではないことが、先の「地方創生2.0の『基本的な考え方』」のなかでも指摘されており、「多様な地域・コミュニティの存在こそが、国民の多様な幸せを実現する」としている。
本稿は、地方創生が起点となり、多様な地域・コミュニティが発展することで、働き方・キャリアの選択肢が広がるのではないか、という問題意識から始まった「地域活性化で創る新たなキャリアの選択肢」という連載の1回目となる。
まずは、地方創生、地域活性化と「キャリア・働き方」に関連する概念を整理したい。
地方創生と地域活性化の関係
「地方創生」と「地域活性化」は、どちらも地域の未来を考えるうえで重要なキーワードであり、言葉としても似ているので混同されやすいが、その意味や目的には違いがある。
地方創生とは
地方創生とは、より広い視点と長期的なビジョンに基づいた国家的な政策である。2014年に制定された「まち・ひと・しごと創生法」に基づき、人口減少や東京一極集中といった日本全体の構造的課題に対応するために、政府が主導して進めている取り組みであり、各地域が自らの強みを活かし、持続可能で自律的な社会を築くことを目指しているものだ。
地域活性化とは
地域活性化とは、地域の経済や社会、文化などの活動を活発にし、地域の魅力や活力を高める取り組みを指す。たとえば、商店街のイベント開催や観光資源の活用、地元産品のブランド化など、比較的短期的・局所的な施策が中心となる。
地域活性化の目的は、地域の魅力を高め、住民の生活の質を向上させることにあり、これにより、地域内外からの人材や資本の流入を促進し、地域経済の活性化を図ることができる。地域活性化は、都市部への人口集中や地方の過疎化といった問題に対する解決策として注目され、地域の特性を活かした産業の振興や観光資源の開発など、多様なアプローチが求められている。
簡単にまとめると、以下のように整理できる。
地方創生:人口減少や都市集中などの課題に対応する「国策レベル」の包括的な戦略(例:移住促進、雇用創出、教育・医療の充実)
地域活性化: 地域の元気を取り戻すための「現場発」の取り組み(例:イベント、観光振興)
このように、両者は目的やスケール、主体が異なるが、相互に補完し合いながら、地域の未来を形づくる重要な要素となっている。地方創生を成功させるためには、各地域が自らの強みや資源を活かして地域活性化を進めることが不可欠である。地域活性化の取り組みが地方創生の基盤となり、地域全体の持続可能な発展につながるのだ。
本稿ならびに本稿から始まる連載企画のなかでは、施策の当事者として「地域」に注目したいため、主に「地域活性化」の視点で語っていくこととする。
地域活性化による雇用創出
地域活性化がもたらす雇用機会は多岐にわたる。たとえば、地域の特産品を活用した新たなビジネスの創出や観光業の振興による雇用の増加が挙げられる。
地域資源を活用した産業の振興は、地域内での雇用機会を増やし、地域経済の活性化に寄与する。また、地域活性化に伴うインフラ整備や公共サービスの充実も、雇用創出につながる重要な要素である。
具体例 についてここでは詳細には述べないが、政府の支援策を活用した事例が各省庁のHPで報告されているのでこちらを確認していただきたい。
・内閣官房・内閣府総合サイト「地方創生」>地方創生事例集
・厚生労働省「地域活性化雇用創造プロジェクト 」
地域活性化によるキャリア形成の新たな選択肢
キャリア形成へのニーズの多様化
地域活性化により産業が発展すればそこに雇用が生まれるというのはどちらかというと想像しやすいと思われるが、「キャリア形成の新たな選択肢が生まれる」ということについては疑問を感じる方もいるかもしれない。
以前、マイナビでまとめた「つむぐキャリア」というレポートにおいて、キャリア選択が多様化するなかで、人生において重要となる「働き方」「住む場所」「家族に関する選択」の優先順位の付け方が変化していることを指摘した。
【図3】で示すように、かつては「会社を先に選ぶデシジョンツリー(意思決定木)」に則って、「住む場所」や「家族の選択」をすることが一般的だった。
しかし、現在は【図4】で示したように、「働き方」「地域(住む場所)」「家庭(家族の選択)」に関するさまざまな選択肢のなかから、最適な組み合わせを同時に選択するような状況(平たく言うと、ハンバーグと牛丼とかではなく定食のようなバランスの取れた組み合わせがある)になっていることを示し、「働き方」「地域(住む場所)」「家庭(家族の選択)」がうまく調和するようなキャリア形成、つまり、「つむぐキャリア」という新しいキャリア観を提案した。
【図3】会社を先に選ぶデシジョンツリー/「2040 近未来への提言『つむぐキャリア』」レポートより抜粋
【図4】家庭、働き方、地域の最適な組み合わせを選択する「調和するキャリア」/「2040 近未来への提言「つむぐキャリア」」レポートより抜粋
こうした考えを前提にすると、「地域(住む場所)」や「家庭(における選択)」から最適な「働き方」を選択するという価値観も生まれてくるのは当然である。
地方でキャリア形成することのメリット
地方ならではの暮らしやすい環境
地方でのキャリア形成には多くのメリットがある。都市部に比べて居住費など生活にかかる固定費が低く、自然環境が豊かな地域での生活は、ストレスの少ない働き方を実現することができる。
具体例として「通勤時間(片道・分)」について都道府県別に比較すると、東京を中心とした首都圏は全国平均と比較して著しく高い。もっとも通勤時間の長い神奈川県が47.8分に対して、もっとも短い鳥取県では18.5分となっている。【図5】
片道30分ほどの差ではあるが、行き・帰りを考えると毎日1時間の差となり、20営業日とした場合は1カ月で20時間の差となる。
通勤時間が短いことだけが暮らしやすさの指標ではないが、満員電車に揺られる通勤時間にストレスを感じる人にとっては短いに越したことはないかもしれない。また、この時間をたとえば家族と過ごすことや趣味、もしくは副業のために活用したいというニーズもあるだろう。
地元で実現する家族との暮らし
超高齢社会となった日本では、働きながら家族を介護するいわゆるビジネスケアラーの増加が問題視されている。
以前、本サイトでも取り上げたが、その多くが勤めている会社に報告をしたり、介護休暇を取得したりすることなく、日常の業務にあたりながら介護を継続している。こうした状況に対処するために、育児・介護休業法の改正が行われ、企業に対し、仕事と介護を両立するための支援を促されているが、遠方に住む親の介護が必要な場合はその対策にも限界があるのではないだろうか。
もちろん都市圏に実家があるというケースもあるが、ここでは、地方から都市圏へ出て働く現役世代が多いことを鑑み、親が地方にいるケースを想定すると、地元に戻って新たなキャリアを形成していくという選択肢があれば、務める会社が変わったとしても、ビジネスキャリアを継続しやすいと考えられる。
介護以外でも、親、子、孫の3世代が近くに住むことで、日常的にコミュニケーションをとり、お互いのケアができるなどのメリットがあるだろう。
地域貢献から得られる幸福度の向上
幸福度研究などでは知られていることだが、地域とのつながりや地域への貢献により幸福度が向上することが知られている。
Helliwell & Putnam(2004)は家族や近隣の地域社会とのつながりなどの強さによって測定されるソーシャル・キャピタル(社会関係資本)が身体的健康と主観的な幸福感を支える重要な要素であることを示している。
また、高尾ら(2018)は先述したような先行研究をもとに、日本において調査を行い、地域活動や地域愛着など地域への関与が幸福度を高めることを示し、特に、地域交流に関する政策が地域活動や地域愛着を高めて、それが幸福度を高めることにつながっていることを明らかにしている。
地域貢献は当然ながら都市部でも行うことはできるが、都市部のほうが地方に比べると地域社会とのつながりが希薄であると報告されており(たとえば 総務省,2024)、地域社会とのつながりによる幸福度を求める人にとって、地方での暮らしが与えるポジティブな影響は大きいと考えられる。
地域のリノベーションで人を呼び戻す
ここまで、少子高齢化、人口減少時代を迎えた日本社会において、地方創生、地域活性化が求められていること、さらに、地方で暮らすことで得られるメリットなどについて説明してきた。
しかしながら、いまだ東京一極集中は解消しておらず、地方からの人口流出は止まっていない。その結果、生まれたのが空き家、遊休不動産の増加である。最後に、これらを活用し地域の魅力や価値を向上させ、人の流入を目指す手段として注目されている「リノベーションまちづくり」や「エリアリノベーション」について紹介したい。
この二つはいずれも似ている概念ではあるが、目的・主体・アプローチ・スケールなどが異なるため分けて解説する。リノベーションまちづくりとは自治体と民間が協力して、都市経営の視点から既存資源(空間・制度・人材)を再活用し、持続可能な地域運営を目指すまちづくりのことを指す。
主な特徴は以下のようにまとめられる。
- 公民連携(PPP):自治体と民間が協力して進める。
- 制度・財政の活用:都市計画、空き家対策、補助金制度などを組み合わせる。
- 人材育成・仕組みづくり:リノベーションスクールやまちの管理・運営会社を通じて、担い手を育てる。
- 都市経営の再構築:人口減少・財政難に対応するための戦略的まちづくり。
エリアリノベーションとは
エリアリノベーションとは、特定のエリア(商店街、駅前、旧市街地など)において、空き家や空き店舗などの既存資源を活用し、民間主導で地域の魅力や価値を高める取り組みを指す。
馬場(2016)は「まちづくり」という言葉から脱却し、民間が主体となることを強調するために「エリアリノベーション」という表現を使っている。自治体からのトップダウンなどではなく、「計画するひと」「つくるひと」「使うひと」全員が当事者となり、それぞれの役割をネットワーク型でつなげながら空間をつくり、活用していくことの意義を強調した。
主な特徴は以下のようにまとめられる。
- 小さな変化の積み重ね:1軒の空き家をカフェに、1つの空き地をイベントスペースに、など。
- 民間主導・住民参加型:地元の若者や移住者、クリエイターなどが中心。
- エリアのブランディング:地域の個性を活かした再生(例:アート、食、歴史)。
- 経済循環の創出:新たな雇用や観光客の誘致など。
これらは、概念としての違いはあるものの、どちらも地域活性化において非常に注目されているアプローチで、補完的に活用されることも多い。
さいごに
地域活性化は、地域の持続可能な発展を目指す取り組みであり、地域の魅力を高めることで、地域内外からの人材や資本の流入を促進し、地域経済の活性化を図ることができるといえる。
その結果生まれた雇用やキャリア形成の新たな選択肢は、地域住民の生活の質を向上させるだけでなく、地域の持続可能な発展を支える重要な要素になるといえるだろう。
本稿は、地域活性化によって生まれる新たなキャリアの選択肢を考えるうえで、必要な背景や用語の整理などを行ったが、2回目以降は、事例を中心に紹介していきたい。
2回目の記事では、特に地域の活性化とキャリアについて研究されている法政大学の梅崎教授のゼミで実施された研究会の報告をもとに、日野市の事例を紹介したい。(2025年6月公開予定)
<参考文献>
馬場正尊, 明石卓巳, 小山隆輝, 加藤寛之, 豊田雅子, 倉石智典, & 嶋田洋平. (2016). エリアリノベーション: 変化の構造とローカライズ.
Helliwell, J. F., & Putnam, R. D. (2004). The social context of well–being. Philosophical Transactions of the Royal Society of London. Series B: Biological Sciences, 359(1449), 1435-1446.
総務省(2024)「地域コミュニティの現状及び本研究会について」
高尾真紀子, 保井俊之, 山崎清, & 前野隆司. (2018). 地域政策と幸福度の因果関係モデルの構築―地域の政策評価への幸福度指標の活用可能性―. 地域活性研究, 9, 55-64.