マイナビ キャリアリサーチLab

地元就職をめぐる課題と対策のヒント
~人口流出しない地方づくりを考える~

沖本麻佑
著者
キャリアリサーチLab研究員
MAYU OKIMOTO

地方から都市部への人口集中は、コロナ禍の影響で緩和しているものの、依然として大きな問題である。『住民基本台帳人口移動報告 2021年(令和3年)』の結果を見ても、37道府県で転出超過となっており、東京をはじめとする都市部への人口移動は続いていることが分かる。

都道府県別転入超過数/総務省『住民基本台帳人口移動報告 2021年(令和3年)』
【図1】都道府県別転入超過数
総務省『住民基本台帳人口移動報告 2021年(令和3年)』を元に作成

そして、この人口転出は進学と仕事をきっかけとする若者の移動が大きな要因と分かっている。
そこでこのコラムでは、主に地元就職やUターン就職に関する学生調査の結果を参照しながら、人口流出しない地域づくりにおいて必要なことを考察していく。

進学・就職で転出してしまう地方の人口

まずは、地方の人口が流出するタイミングについて改めて見ていく。労働政策研究・研修機構の調査によると、地方出身者が出身地から転出するきっかけは「大学・大学院進学」が最多であるが、「就職」も2番目に多いことが分かる。

出身市町村を離れたきっかけ/労働政策研究・研修機構『UIJ ターンの促進・支援と地方の活性化―若年期の地域移動に関する調査結果―』
【図2】出身市町村を離れたきっかけ
労働政策研究・研修機構『UIJ ターンの促進・支援と地方の活性化―若年期の地域移動に関する調査結果―』を元に作成

そして、出身県へのUターンのきっかけでもっとも割合が高いのは「就職」であることが分かる。

出身県へのUターンのきっかけ/労働政策研究・研修機構『UIJ ターンの促進・支援と地方の活性化―若年期の地域移動に関する調査結果―』
【図3】出身県へのUターンのきっかけ
労働政策研究・研修機構『UIJ ターンの促進・支援と地方の活性化―若年期の地域移動に関する調査結果―』を元に作成

このように、就職のタイミングは地元を離れるきっかけにもなる一方で、進学を機に転出した学生がUターンするきっかけにもなっていることが分かる。地元就職やUターン就職の促進は、地方の若者の人口減少を防ぐうえで重要な要素なのだ。
このコラムでは地元就職を希望する学生と希望しない学生の思考を分析することで、地元に留まりたくても転出せざるを得ない状況を打破することや、よりUターン就職したいと思える地域づくりのためのヒントを探っていく。

調査から分かる「地元就職」の現状

地元・地方就職意向の割合は2年連続増加

まずは、新卒大学生の地元・Uターン就職意向がどのように推移しているのかを見ていこう。
2012年卒からの学生調査の結果を見ると、地元就職を希望する学生の割合は2021年卒まで減少傾向にあったが、2022年卒から2年連続で増加している。【図4】

地元(Uターン含む)就職希望割合の推移/
マイナビ 大学生Uターン・地元就職に関する調査(2010~2023年卒調査より)
【図4】地元(Uターン含む)就職希望割合の推移/
マイナビ 大学生Uターン・地元就職に関する調査(2010~2023年卒調査より)

有効求人倍率の推移と比較すると、ゆるやかな相関がみられる。有効求人倍率は経済状況を反映していることから、経済状況が地元就職意向にも影響していると言えそうだ。つまり、リーマンショック以降、経済状況が回復してきたために、都市の大手志向が高まって地元就職希望者の割合は減少傾向になっていたが、コロナ禍のように経済状況が不透明な状況下などでは、倍率の高い都市部の大手企業よりも地元企業に堅実に就職しようと考える学生が増えたのではないかということである。
オンラインでの採用選考が導入されたことにより、地元を離れている学生がオンライン上で地元企業の情報収集をしたり、選考に参加しやすくなったりしたこともこの傾向を後押ししていると考えられる。

学生の卒業高校エリア別に見ても、地元就職希望者が6割前後の割合になっているエリアが多く、この傾向が関東や関西など都市出身の学生たちに限らず全国的なものであると分かる。【図5】

<卒業高校の所在エリア別>地元(Uターン含む)就職希望割合/マイナビ2023年卒大学生Uターン・地元就職に関する調査
【図5】<卒業高校の所在エリア別>地元(Uターン含む)就職希望割合
/マイナビ2023年卒大学生Uターン・地元就職に関する調査

一方で「東京に住みたい・東京の企業に勤めたい」学生も

ただ、地元就職者の割合が高まっているからといって、地元に魅力を感じる学生が増えていると単純に喜べないデータもある。
【図6】は、働く場所が自由になった場合の勤務地・居住地の理想を回答してもらった結果だ。東京以外の地域出身で、自分の地元での就職を希望している学生の中にも、「東京に住みたい」「東京の企業に勤めたい」学生が一定数存在していることが分かる。地元就職希望とはいっても、“理想を言えば東京がいいが、さまざまな理由から地元就職を考えている“学生が含まれていると推察できる。

働く場所が自由になった際に、勤務先・居住地域の理想として当てはまるもの
/マイナビ2023年卒大学生Uターン・地元就職に関する調査
【図6】働く場所が自由になった際に、勤務先・居住地域の理想として当てはまるもの
/マイナビ2023年卒大学生Uターン・地元就職に関する調査

そういった学生たちは、調査時点では地元就職を希望していても、状況が変われば東京など理想の地域へ転出してしまう可能性も考えられる。地元就職希望者の増減に一喜一憂せず、地元を希望する背景や、反対に都市に魅力を感じる理由を正しく理解して、学生が地元に就職したいと思える地域づくりをしていくことが重要だと言えるだろう。

地元・Uターン就職を増やすために重要なポイント

では、どうすれば学生が地元・Uターン就職したいと思える地域になるのか考えていきたい。
総務省の調査では、地方公共団体が考える人口流出の要因は「良質な雇用機会の不足」が89.1%で1位となっており、2位の「社会インフラの不足(55.6%)」との差は30pt以上となっている。

地方公共団体が考える人口流出の要因
総務省「地域におけるICT利活用の現状に関する調査研究」(平成27年)
【図7】地方公共団体が考える人口流出の要因
総務省「地域におけるICT利活用の現状に関する調査研究」(平成27年)を元に作成https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h27/html/nc231120.html

地方公共団体は、魅力のある企業の雇用が増えることが一番の解決策だと考えているようだが、学生は雇用機会が十分にあれば地元就職やUターン就職をするのだろうか。

次は学生調査の結果から、雇用機会に関することも含めて「地元就職を希望する学生が感じている地元の魅力」と、「地元就職を希望していない学生が考える地元のデメリット」を分析することで、地元・Uターン就職を増やすために重要なポイントを明らかにしていこう。

地元・Uターン就職を希望する背景は金銭面や将来への不安

まずは、学生がどのようなことを求めて地元就職を希望しているのかを見ていく。
地元就職を希望する理由の上位に入っているのは「両親や祖父母の近くで生活したいから」「実家から通えて経済的に楽だから」というものだった。【図8】

地元就職を希望する理由/マイナビ2023年卒大学生Uターン・地元就職に関する調査
【図8】地元就職を希望する理由/マイナビ2023年卒大学生Uターン・地元就職に関する調査

“働き方や住む場所の理想”では、「将来子育てをする際に家族にサポートしてほしい」「将来両親の介護が必要になったときに近くに住んでいてサポートしたい」などの意見や「実家暮らしをすることで貯金をしたい」というコメントがみられている。【図9】

働く場所が自由になった場合の、働き方や住む場所の理想の自由記述
/マイナビ2023年卒大学生Uターン・地元就職に関する調査
【図9】働く場所が自由になった場合の、働き方や住む場所の理想の自由記述
/マイナビ2023年卒大学生Uターン・地元就職に関する調査

現在地元就職を希望する学生は、経済面や将来のライフイベントへの心配から「地元に住む」ことを前提として地元企業への就職を選んでいることが分かる。選択肢を分類してみても、地元に住むことに関する理由の割合が高く、地元企業自体についての理由の割合は低いことが見てとれる。

地元就職意向が高まっている背景に、金銭面や将来への学生の不安が読み取れるとともに、魅力的な地元企業が増えれば地元就職を希望する学生がさらに増える可能性があるとも考えられる。

地元・Uターン就職したくない要因は利便性と魅力的な雇用機会のなさ

次は反対に、地元就職・Uターン就職を希望しない理由について見ていく。もっとも多いのは「都会の方が便利だから」で41.4%となっており、「志望する企業がないから」「実家に住みたくない(離れたい)から」という回答がその下に続いた。【図10】

地元就職・Uターン就職を希望しない理由/マイナビ2023年卒大学生Uターン・地元就職に関する調査
【図10】地元就職・Uターン就職を希望しない理由
/マイナビ2023年卒大学生Uターン・地元就職に関する調査

単純に割合を比較すると、都会の利便性を求めて転出してしまう学生がもっとも多いことが分かる。「地方公共団体が考える人口流出の要因」でも「社会インフラの不足」は2位となっていたが、実際に地方の不便さが都市への転出の大きな要因であることが見てとれる。

一方で企業に関する項目もまた、票を集めている。志望する企業・職種がないという個人の就活軸に関すること以外にも、「給料が安そう」「大手企業がない」という理由にも一定数の回答がみられる。前述の「良質な雇用機会」とはこのような課題をクリアした企業の雇用だと言えそうだ。

Uターンの就職活動で壁になっている「距離」

ただ、いくら地元や地元企業の魅力を高めても、大学進学の際に地元を離れた学生にとっては“地元企業までの距離”が就職活動の壁となる可能性がある。

地元外に進学した学生に、地元企業への就職活動においてもっとも障害だと感じることを聞いたところ、上位にあがったのは地元企業を訪れるための「交通費」や「距離・移動時間」で、「やりたい仕事がない」・「地元企業の数が少ない」という項目よりも割合が高かった。希望する企業が地元にない場合はそもそも地元企業への就職活動を行っていない可能性もあるが、地元企業に就職活動するうえでは、雇用機会や情報の不足よりも地元までの距離によって生まれる負担を障害に感じている学生が多いことが分かる。【図11】

地元企業への就職活動において最も障害に感じること/マイナビ2023年卒大学生Uターン・地元就職に関する調査
【図11】地元企業への就職活動において最も障害に感じること
/マイナビ2023年卒大学生Uターン・地元就職に関する調査

しかし、交通費に関しては解決策もある。就職活動の障害についての4か年の推移を見ると、「交通費」が最多であることは変わらないものの、22年卒・23年卒は21年卒以前に比べて割合が減少した。実際に学生全体の就活費用の平均値を見ても大きく減少している。【図12】

地元企業への就職活動において最も障害に感じていること/マイナビ2023年卒大学生Uターン・地元就職に関する調査
2022年3~6月の就職活動費用(交通費・宿泊費)/マイナビ2023年卒 学生就職モニター調査 6月の活動状況
【図12】地元企業への就職活動において最も障害に感じていること
/マイナビ2023年卒大学生Uターン・地元就職に関する調査
2022年3~6月の就職活動費用(交通費・宿泊費)/マイナビ2023年卒 学生就職モニター調査 6月の活動状況

交通費の平均値が大きく減少した21年卒は、コロナ禍初年度で採用活動のWEB化が急激に進んだ年だ。この年に交通費を障害に感じた学生が減少していない要因は、WEB化の度合いに地域差があったことやインターンシップの時期はコロナ禍前で、対面形式の実施が多かったことが挙げられる。22年卒と23年卒はWEB化が全国的に定着したことで、21年卒以前よりも交通費を障害に感じる学生が減少した。

地元・Uターン就職を促進するには、地元自体の魅力や雇用機会を増やすこと以外に、採用活動のWEB導入もしくは交通費の負担を減らすことも重要な要素であると言えるだろう。

地元・Uターン就職を増やすために重要なポイント:まとめ

学生調査の結果を見てみると、「良質な雇用機会が十分にあること」が地元・Uターン就職の促進において非常に重要なポイントであることは地方公共団体も考えている通りだが、他にも「経済面や将来への安心感がある」「利便性が良い」という地域の魅力や、就職を後押しする「就職活動のしやすさ」も重要な要素であることが分かった。そこで今度は、学生に聞いた「地元就職者を増やすアイデア」から、この要素についてさらに詳細な具体策を考えていこう。

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