採用試験や人事評価で使われる「人材アセスメント」について解説!
目次
「アセスメント」とは
「アセスメント(assessment)」とは、対象を客観的に評価・分析することを指す。英語の「assessment」は本来、税金に関連する「査定」、「評価」を意味する言葉である。
「アセスメント」の種類
現在、アセスメントはさまざまな分野で利用されており、「○○アセスメント」という形で、評価する対象が頭につけられることが多い。たとえば、評価する対象が「人」であれば「人材アセスメント」、対象が「患者」であれば「看護アセスメント」、また「環境」であれば「環境アセスメント」となる。
本稿では、「人材アセスメント」について解説していく。
「人材アセスメント」とは
「人材アセスメント」とは、人材の能力や適性を、客観的に評価することを指す。具体的には、適性検査をはじめとするアセスメントツールの導入や、「アセッサー」と呼ばれる社外の専門機関に依頼するなどの手法を用いる。
「人材アセスメント」の目的は、対象者が持っている能力や強み・弱みを正しく把握することで、採用のマッチング率向上や人材配置の最適化、人材育成に役立てることである。
たとえば、「人材アセスメント」の一つである適性検査は、採用時に実施することで求職者の能力や適性を可視化し、企業側の採用判断の助けとなる。また、既存社員に実施すれば、人材配置や昇進を決める判断材料の一つとなる。
「氷山モデル」について
なぜ、企業はアセスメントを利用するのだろうか?それは、人間の行動に影響を与える隠れた要因を把握し、より効率的に人材マネジメントを行うためである。
人間の行動には、実際に起きた出来事に加え、その人の価値観や思い込みなど無意識の要素も作用する。これを氷山にたとえた理論を「氷山モデル」と呼ぶ。
まず、氷山を想像してほしい。氷山は海に浮かぶ大きな氷の塊であり、海上から突き出した一部分しか見ることができない。見えていないほとんどの氷は海中に沈んでいる。
提唱者であるハーバード大学D.C.マクレランド教授によると、人間の心理も氷山のように見える部分と見えない部分が存在するという。見える部分には「知識(ナレッジ)」「ノウハウ・スキル」「行動特性」などがあり、これらは筆記試験や面接、履歴書などから確認できる。一方で、見えない部分である「姿勢・態度」「価値観」「気質」などは確認が困難であり、これらを測定するために、「人材アセスメント」が用いられている。
「氷山モデル」について詳しくは、下記のコラムでも紹介しているため、参考にしてほしい。
人材アセスメントを活用できるシーン
人材採用・人材配置
「人材アセスメント」では、対象者が持っている能力と、配属先のポジションに求められる能力を、客観的なデータに基づいて照らし合わせることができる。そのため、配属や採用ミスマッチが起こりづらい点が特徴だ。加えて、評価を受ける側も「これは公正な評価である」と納得しやすく、結果を冷静に受け入れやすい。
人材育成・能力開発
「人材アセスメント」は、個々の能力や適性を可視化できる。そのため、「人材アセスメント」で得られたデータをもとに能力開発を行うことで、社員の強みを活かし、弱点を克服することにも役立てられる。
コンピテンシーアセスメントを用いた育成
成果を出している社員が「どのように業務を進めているのか」「どのような価値観を持っているのか」といった行動特性を理解できれば、他の社員の能力開発にも役立てることができる。人材育成の際、このような行動特性に焦点を置いた「コンピテンシーアセスメント」と呼ばれるアセスメントを用いることもある。
「人材アセスメント」のメリット
「人材アセスメント」と人事評価を比べると、「人材アセスメント」はアセスメントツールや第三者の「アセッサー」を使用しているため客観性がより高い点にある。たとえば、上司が部下の人事評価を行う場合、感情や思い込みなどの先入観が結果に影響を与えることがある。しかし、アセスメントツールを使用すれば、データに基づいた判断ができる。同様に、「アセッサー」を導入した場合も、評価者の先入観が入りにくくなるため、客観的な評価ができる。
現在、「人材アセスメント」が注目されている背景
労働人口の減少
日本では少子高齢化により、労働人口は減少の一途をたどっている。企業は人手不足を解消するために、できるだけミスマッチを避けつつ、効率的に採用を行う必要性に迫られた。そこで、求職者の能力をより詳しく分析できる「人材アセスメント」のニーズが高まったと考えられる。
ジョブ型雇用の広まり
ジョブ型雇用や職種別採用など、職務内容が明確に定められている雇用形態が注目されていることも背景の一つである。
このような職場では、目指すポジションに必要な能力がわかりやすく、社員の学習意欲も高まりやすい。一方で、自身のスキルに対して現在の待遇に不満を感じた場合、「他社なら自分のスキルを活かせる」という転職の可能性も高まる。 したがって、個々の適性やスキルを正しく把握し、ポジションに適した人材を採用するために「人材アセスメント」の重要性が増したと考えられる。
ジョブ型雇用とアセスメントの関係の中で、特に今後の雇用と人材活用におけるアセスメントの役割については、下記のコラムでも解説されているので参考にしてほしい。
また、日本における時代ごとの適性検査の目的や役割と、時代の変遷に合わせて適性検査が変化してきた歴史については、下記のコラムで解説されているのでそちらも参照してほしい。
代表的な手法
適性検査
適性検査は、採用試験や昇進試験などで使われるテスト形式のアセスメントツールである。この検査の目的は、対象者の知的能力や性格などを測定し、自社への適性や管理職としての能力を可視化することで、採用や昇進の判断基準とすることである。
360°評価(多面評価)
360°評価は、上司や部下、同僚など、仕事で関わるさまざまな立場の社員が1人の社員を評価する手法である。複数人による多角的な視点で評価することで、上司のみが評価する場合よりも客観的な評価が可能になる。また、自己評価と他者評価とのズレを知ることができ、自分自身の強みや弱みを再確認できる。
人材を多面的に評価できる点が特徴であるが、一方で、アセスメントツールのようにデータを用いた分析ではなく、評価者の主観が入りやすいという点には注意が必要である。
エニアグラム
エニアグラムは個人のパーソナリティを診断するツールであり、ビジネスにおいては、職務適性を知るためなどに使用される。具体的には、対象者の性格を「完璧主義者」「芸術家」「研究者」などの9つのパターンに分類することで、特性の理解を助ける。
アセスメント研修
アセスメント研修は「アセッサー」による評価手法の一つである。この研修の特徴は、対象者に実際の仕事内容をシミュレーションさせる点にある。研修中に行われるディスカッションやプレゼンテーションを通じて、アセッサーが対象者のスキルや行動特性を観察して評価する。これにより、客観性の高いデータを得ることができるほか、仕事内容をシミュレーションしている場面での評価のため、実務との親和性が高いという特徴もある。
インバスケット演習
インバスケット演習も実務をシミュレーションさせる手法の一つである。主に管理職への昇進試験などに用いられることが多く、対象者は時間内にメール対応やスケジュール調整など、さまざまな業務に対応する。
その際、重要性や緊急性に応じたタスク管理や問題解決を通して、管理職に求められるスキルの有無が確認される。
人材アセスメントの注意点
「人材アセスメント」は客観的で公平な評価方法である。その一方で、あくまで適性や能力など、アセスメント手法で測ることができる側面から対象者を評価しているにすぎない。「対象者を完全に評価することはできない」という認識のもと、人事評価の補助ツールとして使用することが望ましい。
「人材アセスメント」を正しく運用するには
目的の明確化
「人材アセスメント」を導入する際には、「何のためにデータが欲しいのか」という目的を明確にする必要がある。目的が不明瞭であると、調査範囲やアセスメントツールを絞ることができず、かえって時間とコストがかかる。また、集めたデータの量が多すぎると、判断の妨げになる恐れもあるからだ。
対象者への説明とフィードバック
対象者が不安やプレッシャーを感じると、実力を発揮できず、正しいデータを測定できない場合がある。そのため、「人材アセスメント」の導入前には、必ずアセスメントの目的や結果の運用について説明し、対象者から理解を得ておく必要がある。
さらに、アセスメント後には結果を適切にフィードバックし、目標設定に向けたフォローアップまで行うことも重要である。
取り組みの継続化
もし、能力開発で「人材アセスメント」を利用しているのであれば、アセスメントの取り組みを継続化させることも必要だ。アセスメントの結果を振り返り、自分自身の課題を把握した上で、それらを克服する研修に参加する。そして、再度アセスメントで研修の成果を測定し、成長を振り返る。このようなサイクルを定着化させることが望ましい。
まとめ
「アセスメント」は客観性が高い評価方法の一つである。中でも、人材を評価することに特化した「人材アセスメント」は、対象者が持っているスキルや適性を客観的に評価する手法であり、人材採用、人材配置、人材育成で利用されている。
しかし、対象者の能力や適性を完全に評価できるものではないため、「人材アセスメント」の結果のみで判断することは避けたほうがよいだろう。しかし、「人材アセスメント」をうまく運用できれば、ミスマッチの防止や適材適所の人材配置などを実現でき、本人のモチベーションやパフォーマンスの向上、そして会社全体の活性化にもつながるはずである。 より良い採用や人事評価の在り方を考えている場合は、目的の明確化などの実施のポイントを参考にしながら、人材アセスメントの導入を検討しても良いのではないだろうか。
キャリアリサーチLabでは、『適性試験のこれまでとこれから』と題し、就職市場や転職市場において多数行われている適性試験の役割について、連載コラムで詳しく解説している。そちらもあわせて参照してほしい。