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人の内面世界を捉える適性検査の構造と特徴について

長瀬存哉
著者
HRコンサルタント
ARIKA NAGASE

第一回目のコラムでは、適性検査の歴史や時代背景から、その目的や役割について整理し、未来における適性検査の果たすべき役割について触れた。今回は、人を測定することの意義について触れつつ、各適性検査は人の内面世界をどう捉えようとしているのか、その構造や構成要素を手掛かりに、適性検査の特徴について紹介したい。

人を測定することの意義とは【外から見る印象と内面のギャップを埋める】

人は見た目で強く印象に残る人がいれば、話をして初めてその人柄や考え方を感じる人もいる。人の印象は、表情や振舞い、声のトーンや話し方など目から入る情報のウエイトが大きく占めるという指摘もあるが、それでも、その人のすべてを語っているとはいえない。実際に話をして、ものの見方や考え方・価値観などに触れることで見た目とのギャップを感じ、印象が大きく変わることもある。

とはいえ、どこまでいっても相手の印象や他人の内面は神秘のベールともいうべきものにつつまれているのも事実である。その神秘のベールをめくって人の多種多様な内面世界を解明し、見た目との乖離を埋めようとしているのが適性検査の役割の一つといっても過言ではない。

見える世界と見えにくい世界を分けて捉える【氷山モデルの概念】

氷山モデル(上下)

心理学では、人を捉える手がかりの一つとして、よく氷山をモチーフにして語られることがある。「氷山の一角」という言葉にあるように、海面から飛び出ている氷は実は全体のごく一部分であり、海面下には大きな氷の塊が眠っている、というモデルである。人を理解するには、海面下にある氷に目を向ける必要があり、適性検査は、特にその海面下の見えにくい世界を捉えようとする役割がある、とされている(図1参照)。

では、海面下に存在する潜在ゾーンの世界はどのような構造となっているのか。主に心理学や教育学の分野を軸に整理すると、図の下から上に向かって性格・気質、能力・力、価値観、意識、姿勢・態度、という階層構造になっているとされる(各階層の上下関係は研究や学説によって異なり、固定的な説は存在しない)。

これは、潜在ゾーンの奥深い階層にある要素(性格や能力という表現)は、総じて周囲の影響を受けにくく変わりにくいもの(または変わらないもの)を示している。多くの先代の研究家の論争において、性格は変わらないもの、否変わるもの・・という相対する意見があるが、どちらが正解か、その結論にはまだ至っていない。そこで本コラムのスタンスは「性格とは、変わりやすい要素と変わりにくい要素の両面を備えており、結果、多様な影響を受け、ゆるやかに変化していくもの」という考えを前提とする。

また、多くの適性検査は、より深い階層にフォーカスした性格の領域(図1.①参照)を対象とするものと、海面に近い位置にある要素まで広げた領域(図1.②参照)を対象とするものの2種類に分かれる。前者は狭義の性格、後者は広義の性格という考え方である。双方、それぞれの意義があり、どちらを明らかにする適性検査なのかを理解しておくとよい。

一方、海面上には、行動(特性)、スキル・ノウハウ、知識・ナレッジ、嗜好・興味など、周囲から観察可能な要素が存在し、これらは顕在化した人の要素と考えられている。この顕在化した要素は、コンピテンシーを示しているとされ、行動や態度にフォーカスした狭義のコンピテンシー(図1.➂参照)と、ノウハウや知識までを包括した広義のコンピテンシー(図1.④参照)の2種類存在している(コンピテンシーという概念も諸説存在する)。

内なる世界を紐解く鍵、自己と他者の関係性【ゆらぎが生じる自他の世界】

続いて、氷山モデルの潜在化ゾーンにあたる性格構造を詳しくみていく。その際、手がかりとしたのは日本に存在している適性検査である。日本の就職・転職市場で活用されている適性検査は多種多様にあるため、広く活用されている約30種類の適性検査に着目し、各検査の違いや関係性を整理した。

各適性検査は、主に20~60数項目の視点で人の特性を明らかにしようとしているものが多い。そのため、30種に及ぶ代表的な適性検査の項目を積み上げると、おおよそ600項目を優に超える数となるため、全体像が捉えにくくなってしまう。そのため、各項目の定義や概念が相似している項目を統合化、または統計解析の手法によって体系化すると、約200項目に絞られ、そこから32の項目グループに集約されることが確認された。統計的なプロセスを簡略化して説明すると、アウトプットイメージが想像しにくい印象を与えるが、抽象的な概念をより具体化していく際には、とても有効な方法である。そこには、自己の世界から、周囲に存在する他者の世界に向かい、さまざまな方向性やプロセスを伴って関わろうとする、奥深い広がりと構造が浮かび上がっている。こうして再体系化された適性検査の項目は、大きく2つの構造で人を解明しようと試みている。

その一つめは、【自己】と【他者】との間を埋める関係性を明らかにする構造モデルである。今回取り上げた適性検査は、各々ユニークな特徴をもっているが、他者との関係を解明する点は共通しており、一人の人間(自己)が、相手や周囲(他者)との間に存在する距離感やギャップを埋めるために、どう関わり近づこうとしているのか、その要素を項目として設定し、構造化していることが確認された。

また、その構造の第二の特徴として、ポジティブ(肯定的)な思いとネガティブ(否定的)な思いが押し寄せては消えていく、波のような状態を表していることが確認された(図2参照)。たとえれば、「相手を理解したいのだが、なかなかその真意は掴みにくい」というように、相手を理解する過程で心理的な接近と回避が交互に生じることを示している。よって、日本に存在する適性検査は、自己と他者の間に存在するさまざまな壁を乗り越えるフィルター=項目は、肯定的な面と否定的な面が存在し、そのフィルター(=項目)を通して、人の内面を明らかにしようと試みている。

構造モデル:自他フォーカス(縦横・左右)

人の特徴を深堀りし、捉えるための8つの窓【構造モデルのスクエア】

二つめは、人の内面世界を明らかにする“窓”のような構造モデルである。このモデルで各適性検査項目の関係性を分析すると、2次元のマップ上に項目が星のように点在する。その点在している項目を、距離の近い関係のもの同士でグルーピングすると、窓のようなカテゴリーが形成される。その窓は、自己から他者に向かっていく際に放射線のような広がりを持ち合わせているため、自己寄りの4つの窓、他者寄りの4つの窓が重なりあう構造になり、結果として計8種類存在している(図3参照)。この8つの窓について解説を加えると以下のようになる。

【Ⅰ.意欲&主体】の窓~自己寄りの窓
“意欲”の一般的な定義は「積極的にやろうとする意志。自ら進んでいこうとすること」であり、“主体”は「作用を他に及ぼすこと」である。一人の人間が動き出そうとする際の大元の原動力は、「何かやってみよう」という思いそのものであり、その思いを起動させるものが、人の根底に流れていると考えられる。

【Ⅱ.外向&受容】の窓
自ら起動したスイッチ(意欲)によって意識が外に向き始めることにより、何かことを成そうとする自発的な特性があらわれる。外に意識が向くことで、さまざまな情報や影響を受けることから、それらを受け止め享受する特性が現れる。

【Ⅲ.探究&良化】の窓
周囲に目を向け始めれば、さまざまな情報に接触することになる。それを吸収して咀嚼して学んでいこうとする特性や、単なる理解ではなく更にそこからよりよいものに改修したり改善したりしていこうとする特性が存在する。

【Ⅳ.感知&緩和】の窓
学んだ情報によって、多種多様なものが体系的に、あるいは混然一体となって自身に蓄積されていく。そこには情緒的にも感覚的にも受けとめ難いものや、感情がゆさぶられるものも存在する。それらに振り回されてしまう感情が沸き立つのか、しなやかに緩和しようとするのか、その特性が存在する。

【Ⅴ.自省&俯瞰】の窓~他者寄りの窓
感情に関わる特性に対し、周囲との関係を築く過程で、自身を見つめモニタリングするプロセスがある。そこでは偏った捉え方でなく、冷静に客観的に捉える心情が必要であり、一歩引いて俯瞰してみる特性が存在する。

【Ⅵ.統制&進歩】の窓
感情と理性の間には、それらを融合するプロセスが必要となる。ある側面では型や決め事・ルールといったものにより、その統制を保とうとする特性がはたらく。ルールや型を保持し着実に前に進め、ことを成しとげようとする特性が存在する。

【Ⅶ.変容&耐性】の窓
一定のルール・型によって物事を進めれば、時間と共に異なる条件や環境変化が生じ、型がしっくりはまらなくなることがある。そのまま押し通すのか、受け入れ変化させるか、葛藤が起こる。と同時に心的な負荷がかかるため、乗り越え耐える特性が現れる。

【Ⅷ.適応&協働】の窓
変化には2種類あり、変えることを目的としたものと、環境や条件下に適応し変えていくものがある。周囲のリズムや相手の出方には対応の仕方がさまざまあり、気遣い協力し社会に適応していくプロセスに関わる特性が存在する。

構造モデル:人的スクエア(広がり)

以上が日本に存在する適性検査が解明しようとしている、人の潜在化ゾーン、8つの窓の全体構造となる。今回は、日本の適性検査が人の内面をどのように解明しようとしているのか、3つの構造モデルを通し、言語化された世界を紹介した。次回は、中途・就職市場で多く活用されている代表的な適性検査をいくつか取り上げ、各適性検査がどのような角度で人間の特性を明らかにしようとしているか、その特徴と違いについて触れていきたい。


著者紹介
長瀬 存哉(ながせ・ありか)
HRコンサルタント

1970年東京生まれ。大学卒業後、多種多様な業界の業態開発・商品開発に携わり、人の感性と環境・ハードとの間に融和と相乗効果が生まれる世界を見出し、人の可能性や創造性に関する調査・研究活動に取り組む。そこで、心理学・統計学分野のオーソリティに師事。HR分野の課題解決を通して、適性検査や意識調査・行動調査などの診断・サーベイ・アセスメントの設計・開発・監修を行い、その数は数百種類に上る。その後、取締役を経て独立。現在は、各企業やHRテクノロジーに関するコンサルティング・研修・講演活動を通して、HRの科学的なアプローチによる課題解決に取り組んでいる。

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