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変化の不可避な時代を生き抜く 組織のココロ戦略
ー心の専門家が語る心理的安全性の応用理論ー

こんにちは、株式会社エリクシア代表取締役の上村紀夫と申します。私は産業医・経営コンサルタント・経営者という3つの役割で、日々組織の問題解決に取り組んでいます。

このコラムでは変化の乗り越え方のお話をさせていただき、最初の2回で個人、前回は管理職と視点を段々上げてお話してきました。今回はさらに視点を上げ、組織として変化が大きい時代を生き抜くためにどうすべきなのかという話をしていきます。この頃注目されている心理的安全性の考え方を使いながら変化への不安を組織として乗り越え、成長させるためには何が必要なのか考察します。ぜひ貴社の状況を思い浮かべながら読んでみてください。

変化の中で企業が生き抜く方法として、組織のココロに注目

コロナウイルスに関連した社会情勢の急激な変化はまだ続きそうです。このような変化が激しい世の中に対応しながら競争に打ち勝つために、企業は速いスピードで成長することを求められます。加えて昨今、組織運営をする際に考慮すべきこととして、従来よりも働く人が流動的になったことも挙げられます。そのため社会情勢や働き方の急激な変化やビジネススピードの加速に耐え得るような柔軟な組織を作る必要があります。

解決策として、注目されているのが組織の「心理的安全性」です。「心理的安全性」とは簡単に言うと、自然体の自分をさらけ出すことができる環境や雰囲気のことです。心理的安全性が高いと、企業の成長スピードが加速すると言われています

心理的安全性について説明している本や記事はたくさんありますが、本記事では、この理論を応用し、組織のココロの専門家としての観点からお話します。変化が起きた場合、組織に渦巻く人々のココロ(=組織のココロ)はどのように動くのかを見える化し、その上で心理的安全性の高い環境を創り出し、高い状態のまま維持していくために、組織をどのように運営していくべきなのかを解説します。ぜひ自身の組織にあてはまる方法で考えてみましょう。

そもそも心理的安全性とは?

さて、もうご存じの方もいらっしゃると思いますが、心理的安全性についての考え方を振り返ります。

心理的安全性とは、「チームの他のメンバーが自分の発言を拒絶したり罰しないと確信できる状態」とハーバード・ビジネススクール教授で心理的安全性の研究の第一人者であるエイミー・C・エドモンドソン氏が提唱しています。心理的安全性のない環境では、「これをしたらこう思われないか?」というおびえや、誰かに否定的に思われたくないから行動を起こせないということが起こり得ます。ですが、心理的安全性がある環境では、他者の反応におびえたり、羞恥心を感じたりせずに、自然体の自分をさらけ出すことができます。このように言われると、慣れあいで業務も緊張感がなく妥協的な職場を思い浮かべる方もいるかもしれません。しかし、心理的安全性は生産性の高いチームの要素でもあることがわかっています。それは、Googleのアリストテレスというプロジェクトにて、生産性が高いチームは心理的安全性が高いという研究結果からも見て取れます。

心理的安全性が高いことで
・リスクや責任がある程度あっても挑戦しようと思える
・問題があった際に自分の考えや意見を言える
・新しい考え方やスキルを受け入れることができる

など、イノベーションが起きやすく成長しやすい組織を作ることが可能です。

心理的安全性の理論を応用し組織のココロ戦略を探る

組織の心理的安全性を分析する手法として、一般的には「心理的安全性」の高低と「業績基準」の高低の2軸で分析されることが多いです。今回の分析では、業績基準という言葉はやや難しいので、「業務の難易度」として使っていきます。その名の通り、業務の難易度が高いのか低いのかを表します。難易度が高の場合には難しい業務に加えて、慣れていないタスクや新しいプロジェクトに取り組むなどの業務も含むと考えます。

【心理的安全性と業務の難易度】

各象限の中身を説明します。

①無気力・・・思考放棄をしている組織環境
上層部が多い官僚的組織、トップダウン組織、その他努力や考えることが必要とされない組織などが当てはまります。

②不安・・・高い基準が求められる組織環境
強いプレッシャーこそが結果をもたらすといった間違ったマネジメントをする組織(私はこれを不安培養組織と呼んでいます)や業務が個人に貼りついてしまっている属人的な組織が当てはまります。

③快適・・・楽しく仕事ができる組織環境
達成の難しい成果を求められないため、強いプレッシャーがなく落ち込むことの少ない組織が当てはまります。同族会社や一部の公的機関に多い印象があります。

④学習・・・相互に学び合いながら仕事ができる環境
マネジメントが機能している組織や失敗受容型組織、発言の抑制のない組織が当てはまります。

では、次章から早速この表を使い、変化があった際に組織の中にいる人々の心はどう動くのかを見ていきましょう。

変化があると組織のココロは動く

組織のココロが変化へ適応するには、プロセスがあります。

ここではわかりやすい例として、何もないときは「快適ゾーン」にいる組織の事例を見てみます。

【変化があると痛みを伴って成長する】

快適ゾーンにいる組織に変化があった場合、人々のココロは右下の不安にシフトします。
そのメカニズムを考えると、変化が起こった場合、業務を割り振られた人は、通常の慣れている仕事とは異なり業務難易度が上がったと感じ、心理的安全性も下がりやすくなります。
成長するにはある程度の変化が必要ですが、その変化によって不安という「痛み」が生じてしまう。それは、人が急激に身長が伸びる頃に感じる「成長痛」と同じようなものだと、私は考えています。

その後、業務を実際にやっていく中で「何とかできそう」という思いが生まれてきます。それにより、心理的安全性も回復し始めます。
業務への慣れがさらに進むことで、業務難易度が相対的に低下し心理的安全性もさらに回復します。この一連の流れを私は『学習ループ』と呼んでいます。

学習ループを早く回すことで個人も組織も成長していきますが、あまりにも変化が多い場合は変化への処理能力が追い付かなくなり、不安がまん延する結果につながります。

【変化を過度に与えると不安がまん延する】

快適から不安に落ちてしまった場合、通常では業務のやり方が分かってくれば心理的安全性が回復し、学習ゾーンに戻り、慣れてくることで業務の難易度が低下し、最終的に快適ゾーンに到達します。しかし、学習ゾーンにいる間に、新たな変化が連続して発生すると、その変化への適応も合わせて行う必要が生じ、結果として業務の難易度を下げきれないまま、不安ゾーンに戻ってしまいます。このように変化が複数重なる場合は、快適へのシフトが起こらなくなってしまうので、不安と学習の間を行ったり来たりすることになります。不安ゾーンは痛みを伴いますので、不安から学習の流れを繰り返すと中にいる人々は疲弊します。疲弊すればするほど回復までに時間を要するようになりますので、不安ゾーンにいる時間が長くなります。その結果、組織の働きやすさは低下し、最悪の場合は「変化の多すぎる今の組織には居たくないから離職」といった消極的離職につながることもよく起こります。また、心身のコンディションが低下しますので、メンタル不調が発生しやすい状況にもなります。

効果的な対策として考えられるのは、変化を減らすことですが、変化の発生頻度を意図的に少なくすることはなかなか難しいです。次の章では具体的な対策に踏み込みながら、変化に適応していくための方法を解説していきます。

変化が避けられないとき、どうする?

変化が避けられないとき、行える対策をここでは大きく3つ紹介します。

精神サポートの活用で変化前の心理的安全性を上げておく

働く人の精神をサポートすることで心理的安全性のベースラインを上げられ、不安ゾーンから遠ざけることができます。

ここでポイントとなるのは、3つの承認に関するキーワードです。

存在承認:いてくれてありがとう!
経過承認:がんばってくれてありがとう!
結果承認:結果を出してくれてありがとう!

精神をサポートする際にはぜひ積極的に使っていきたい言葉です。

そのキーワードを踏まえつつ具体的な対策は、

・部下に関心を持つ
・存在承認の促進
・1on1を実施
・キャリアサポートの実施
・ラインケア(管理職によるメンタルケア)の実践
などがあります。

その中でもおすすめなのは、1on1とラインケアの実践です。

1on1を実施している企業は増えてきましたが、実施において注意点があります。部下と面談する場合つい業務の相談や指示など業務管理面談と混同しがちですが、この場合は部下が何を考えて行動しているのかに関心を持ち、相手を理解するための時間です。実際に聞く項目としては「何に不安を感じているのか」「行動を制限するきっかけとなる精神的ハードルはどこにあるのか?」がおすすめです。話してもらいながら部下の承認機会を増やし、「居てくれてありがとう」というキーワードを伝え、相手にも感謝の気持ちが伝わるようにすることが大事です。

ラインケアは前回の記事でも説明させていただきましたが、管理職による部下のメンタルケアのことです。ラインケアができることで部下の不安を減らすことにつながり、部下は前を向いて働くことにつながります。リモートワークで部下の体調管理が難しくなったという会社様は、前回の記事にて、リモートワークのラインケアを解説していますので、ぜひご覧ください。
管理職の方向け リモートワーク時代のラインケア-部下の不調を見抜く方法-

不安への落ち込み角度を浅くする

快適ゾーンから不安に落ちる際の角度をゆるやかにする「不安を減らす」方法について2つ解説します。

1つ目は、「あいまいさ」がなくなるような業務指示を行うことです。具体的には、スモールステップの設定を行うことや、全体像を見せること、優先順位付けを行うこと、必要なリソース(人や情報など)を提供しておくことが挙げられます。

2つ目は、伴走感を増やす精神サポートを行うことです。報連相は部下からやってもらっている場合が多いかもしれませんが、部下からの報告を待つだけにせず、上司も部下に積極的に報連相をすることが有効です。その際に伝えることは、業務上の役割、期待していることや成果へのフィードバックです。業務上の役割は、業務全体像の共有だけでなく、お願いしている業務の目的まで話すと良いです。また、フィードバックする際は、良い点、改善点の両方をしっかり伝えていくことで、部下は「見てもらっている」という意識が強まります。

適応時間をしっかりとる

快適→不安→学習という適応プロセスにいる間は、新しい変化が加わることを避けるのが3つ目の対策です。変化が起き不安感が増大すると、望まぬ離職が発生したり、メンタル不調が起こりやすくなったりします。そのために、業務管理者は上の図などを使って、今どの段階にあるのかを見極め、早く適応できるようにサポートを行うことが大事です。

では、どんなサポートをすれば良いのでしょうか。
まずは対象となる人の心理的安全性および業務難易度それぞれが今どの段階にあるのかを見極めるため、個人の業務進捗を監視します。その上で新しく変化を加える時期を調整するため、プロジェクト管理を徹底、さらに、業務の難易度を下げるために不足するスキルを補うために教育を行っておくことも有効です。また、心理的安全性の回復を優先するために、精神サポートとして、上司から報連相の実施や経過承認「がんばってるね」の実施をすることも有効です。

まとめ

今回は、数々の変化が重なることや、困難な状況に直面した際、組織のココロにどのような影響があるのか、どのように乗り越えればいいのかについて解説をしてきました。変化は良いことも悪いこともストレスになり得ます。その一方で、変化は人や組織に成長をもたらすことも確かです。組織に上手な変化を与え、適度なストレスの中で人も組織も成長できるようなチーム運営をぜひ目指してください。

上村 紀夫
株式会社エリクシア
代表取締役

著者紹介
1976年兵庫県生まれ。名古屋市立大学医学部卒業後、病院勤務を経て、2008年ロンドン大学ロンドンビジネススクールにてMBAを取得。戦略系コンサルティングファームを経て、2009年「医療・心理・経営の要素を用いた『ココロを扱うコンサルティングファーム』」としてエリクシアを設立。これまで3万件以上の産業医面談で得られた従業員の声、年間1000以上の組織への従業員サーベイで得られる定量データ、コンサルティング先の経営者や人事担当者の支援・交流で得られた情報をもとに、「個人と組織のココロの見える化」に取り組む。著書は『「辞める人・ぶら下がる人・潰れる人」さて、どうする?』『組織と働き方を「変える・変えない・先延ばす」さて、どうする?』(クロスメディア・パブリッシング)。

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