正社員・大学生・企業が抱く「業界イメージ」とそのギャップ
目次
はじめに
マイナビ転職には115業種の求人が掲載されており、業界ごとにそれぞれ特徴やイメージがある。一方で自身の働いている業界や他の業界に対して持つイメージ、また社会に出ていない学生が持つイメージには違いがあり、実態とは異なった印象を持っている人もいるだろう。
今回は、仕事探しにも影響する「業界イメージ」について正社員、大学生、企業の人事担当者の考えをそれぞれ聴取し、実態とのギャップについて調査を行った。
正社員にきいた「業界イメージ」
医療福祉業界のプラスイメージ1位は「人の役に立つ」、公的機関のプラスイメージ1位は「安定性」、 IT業界のプラスイメージ1位は「将来性」に
業界イメージマップ
まず、現在正社員として働く人に、各業界のイメージを聞いて、業界とイメージの関係をコレスポンデンス分析※1により分類した。
「グローバル」「給与待遇」「実力主義・能力主義」などのイメージが集まる≪ナレッジワークグループ※2≫には、[IT・通信・インターネット][商社][コンサルティング]が分類され、「人の役に立つ」「女性の活躍」などのイメージが集まる≪エッセンシャルワークグループ≫には、[フードサービス][医療・福祉・介護]が分類された。
また、「安定性」「定着率」「休日・休暇・労働時間」などのイメージは[公的機関]のみとなり、本グループは≪パブリックワークグループ≫に分類した。【図1・2】
※1 コレスポンデンス分析はアンケート等によって収集したデータをまとめたクロス集計結果を元に、行の要素と列の要素の相関関係が最大になるように数量化して、その行の要素と列の要素を多次元空間(散布図)に表現することができる分析
※2 ナレッジワーカーは、専門的な知識によって企業や社会に付加価値のある知的生産物を生み出していく労働者を表す
業界のトップイメージ
次に、各業界のもっともプラスイメージが高い項目をみると、[IT・通信・インターネット]では「将来性(21.8%)」、[商社]では「給与・待遇(19.3%)」、[コンサルティング]では「実力主義・能力主義(15.1%)」、[マスコミ・広告・デザイン]では「社会全体への影響力(14.9%)」、[医療・福祉・介護]では「人の役に立つ(30.7%)」、[公的機関]では「安定性(24.8%)」だった。
プラスイメージ(第一位)同士を比較すると、[医療・福祉・介護]のプラスイメージである「人の役に立つ」が30.7%でもっとも高く、[公的機関]のプラスイメージ「安定性」24.8%、[IT・通信・インターネット]のプラスイメージ「将来性」が21.8%と続く。【図3】
イメージが特に高い項目は、各業界の特徴的要素ともいえる。企業は求職者や入社予定者が抱いている業界イメージと実態がマッチしているのかを判断し、乖離がある場合は早期離職を防ぐためにそのギャップを埋めていく必要があるだろう。
正社員・大学生・企業にきいた「IT業界のイメージ」
「将来性がありそう」や「人の役に立ちそう」というイメージがある一方で、「休日・休暇・労働時間」にはマイナスのイメージが
ここからは、下記【図4】に示したように、正社員がもっともプラスイメージを多く思い浮かべた[IT・通信・インターネット]業界について、大学生・正社員・企業(人事担当者)それぞれの属性別でみていくことにする。
プラスイメージとマイナスイメージ
正社員が抱くプラスイメージ1位は「将来性(21.8%)」だったのに対し、大学生では「人の役に立つ(37.0%)」、企業(人事担当者)では「実力主義・能力主義(34.3%)」とイメージにギャップがみられた。
またマイナスイメージ1位となった項目も、正社員は「休日・休暇・労働時間(16.5%)」、大学生も同じく「休日・休暇・労働時間(31.4%)」だったのに対して、企業(人事担当者)では「定着率(26.1%)」となり、属性によって抱くイメージに違いがみられる。【図5】
総務省が、情報通信の現況及び情報通信政策の動向について国民の理解を得るために発行した「情報通信白書(令和3年版)」では、ICT(情報通信技術)が企業の生産性向上や新商品・サービスの需要創出、インバウンド振興にも寄与すると述べられており、IT業界への関心はますます高まっている。
正社員の「将来性」や大学生の「人の役に立つ」等のプラスイメージは、国全体の取り組み・方針にも影響を受けていると考えられる。一方で専門特化した技術を必要とする側面により実力主義・能力主義的風土があり、企業が社員の定着に悩みを抱いていることが推察される。
正社員・大学生・企業にきいた「賃金・待遇」についての業界イメージ
プラスイメージのある業界第1位は大学生が[金融・保険]、正社員が[商社]、企業が[生活関連]。一方、マイナスイメージには、[フードサービス][サービス][レジャー]などが上位に
マイナビが実施した調査※3では、正社員の転職先決定理由のトップは「給与が高い」となっている。ここからは、昨今の物価高等の影響もあり、さらに社会的関心が高まっている「賃金・待遇」について、大学生・正社員・企業は、どの業界にプラスイメージ、マイナスイメージを持っているのかをみていく。
プラスイメージな業界とマイナスイメージな業界
「賃金・待遇」にプラスイメージのある業界トップは、大学生が[金融・保険(26.9%)]、正社員が[商社(19.3%)]、企業が[生活関連 (薬品・アパレル・化粧品・日用品など)(40.4%)]だった。
一方でマイナスイメージは、正社員が[フードサービス(13.2%)]、大学生が[サービス(34.4%)]、企業が[レジャー(38.7%)]だった。【図6】
大学生や正社員は、商社や金融・保険のように専門知識を用いて、ビジネスの仲介役として経済活動を支える、いわゆる≪ナレッジワークグループ≫の業界に対して「賃金・待遇」にプラスのイメージを持ち、サービスやレジャーなど人とのコミュニケーションやサービスによって社会を支える、いわゆる≪エッセンシャルワークグループ≫の業界に対して「賃金・待遇」にマイナスイメージを持っているようだ。
※3 転職動向調査2024年版(2023年実績):正社員として働いている20代~50代の男女のうち、2023年に転職した人に対して調査しており、転職者の属性や特徴を把握し、その傾向と変化を明らかにすることを目的としている。
まとめ
今回の調査から、各業界に対するイメージには、大学生、正社員、企業それぞれで違いがあることが明らかになった。企業と個人のギャップだけでなく、大学生と正社員のイメージにもギャップがみられ、社会人経験の有無によっても業界イメージは異なるようだ。
大学生は就職活動が近づくにつれて、卒業後のキャリアについて考え、業界研究をスタートするが、その業界で実際に働く人が持つイメージと異なるイメージを抱いている業界も見受けられる。人生100年時代といわれ、就労期間が長期化し、転職が一般化するなど、キャリア形成は1社で築くものではなくなってきている。そのため、大学生時代の就職活動期間だけでなく、自身の将来的なキャリアやジョブチェンジの検討材料として、卒業後・就職後も、業界研究を続ける必要があるだろう。
また企業は、自社業界が個人のイメージと実態とにギャップがある可能性を念頭に置くといい。プラスイメージとなる要素は、新しい人材獲得のための就業動機付けとしてアピールするとともに、業界未経験者や業界に詳しくない人には不安要素にもつながるマイナスイメージは存在をしっかりと把握し、業界イメージと自社実態のギャップを伝え優位性を示したり、イメージを払拭する施策を積極的に行うことで、就業ミスマッチのリスクを軽減してほしい。
マイナビキャリアリサーチLab研究員 嘉嶋 麻友美