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VUCA(ブーカ)時代を生き抜くキャリア構築のヒント

「一芸を極める」という言葉があるように従来、日本ではひとつのことに打ち込み、その道を究めることに価値があるとされてきた。ひとつの道を究めることは素晴らしいことではあるが、現代のビジネスパーソンの働き方に限っていえば、産業構造変化スピードが速い時代において、同じ組織で同じ仕事を続けることが必ずしもキャリアの形成に繋がらない側面が生まれている。企業側も終身雇用制度に対する認識を大きく変えつつある今、予測困難で不透明な時代におけるキャリア構築のヒントを考察してみたい。

企業経営者の終身雇用制度に対する認識が確実に変化

ひとりのビジネスパーソンがずっとひとつの企業で働き、年を重ねるごとに報酬もあがっていく「終身雇用を前提とした組織」は高度経済成長期から日本的経営を代表するものとして存在し続けてきた。終身雇用は企業にとって従業員の帰属意識を高め、長期的目線での従業員教育が可能となり、労働力の確保と安定経営をするうえで多くのメリットがあった。同時に従業員にとっても、年功序列型の賃金体系を背景として経済的・精神的に安定した人生を歩むことができるといったメリットがあった。

一方で終身雇用は人材の流動性に乏しく、組織の硬直化を招きやすいというデメリットがある。従業員の給与は「年功序列や在籍年数」という成果とは関係のない要素で決まる場合が多く、人件費も高騰しがちである。従業員側も異動や転勤といった生活に大きく影響する変化も企業に委ね、原則受け入れざるを得ず、自らの意思でキャリアを構築しづらいというデメリットがある。

「終身雇用制度は既に崩壊した」と語られて久しいが、厚生労働省職業安定局による「我が国の構造問題・雇用慣行等について」(2018年6月)の調査結果では若年期に入職してそのまま同一企業に勤め続ける者(いわゆる「生え抜き社員」)の割合は大卒正社員の5割程度、高卒正社員の3割程度を占めるとのことで長期的には低下傾向にあるものの、現実的には今でも日本のビジネス社会に残っている。メリットとデメリットがある以上、一気に崩壊しないのは当然といえば当然だが、終身雇用制度に対する認識が日本の企業経営者の中で大きく変わってきていることは確かだ。

記憶に新しいところでは2019年5月、日本経済団体連合会(経団連)の故中西宏明前会長が「(終身雇用は)制度疲労を起こしており、終身雇用を前提にすることが限界になっている」と発言。同年5月には日本自動車工業会の豊田章男会長(トヨタ自動車代表取締役執行役員社長兼CEO)が「なかなか終身雇用を守っていくというのは難しい局面に入ってきたのではないか」と述べた。最近では2021年9月にサントリーホールディングスの新浪剛史代表取締役社長が「45歳定年制にして、個人は会社に頼らない仕組みが必要」と発言し、波紋を呼んだ(発言の翌日に「クビ切りをするという意味ではない」と釈明)。

こうした一連の経営者の発言には賛否両論があると思うが、多くの経営者が組織の新陳代謝を進めやすい環境の必要性を感じていることは事実であろう。現時点においても、業界トップクラスの大企業が一定の年齢以上の従業員を対象に「早期退職者」を募集することはそう珍しいことではなく、むしろ日常的に発生しているといってよい。ひと昔前のイメージでは「早期退職者募集=リストラ=業績悪化に伴う人員整理」というイメージが強かったが、最近の「早期退職者募集」は組織の新陳代謝を促す側面が強い。IoT(Internet of Things)の普及や社会のグローバル化など、未曽有のスピードで時代が変化する現代において、新陳代謝の進まない硬直化した組織では「新しい発想や前例のない挑戦」も生まれにくく、次の時代に生き残ることができないのである。

変化スピードが速く予測が難しい時代は「キャリアの掛け合わせ」で乗り切る

「時代はどんどん変化している」という言葉は私が学生だった30数年前から言われており、その言葉通り、日々様々なものが変化して今日に至っているのだが、2000年前後からインターネットが一般に普及するようになってからの「変化」はそれまでの速度とは全く違うように思える。2010年代中頃からVolatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を並べた「VUCA(ブーカ)の時代」という言葉をよく耳にするようになったが、特に2020年4月以降はコロナ禍の影響も相まって社会やビジネスにとって、未来の予測がなお一層難しくなっているように思える。

企業が組織の新陳代謝を求め、変化の速度が早く未来の予測が難しいこれからの社会においてビジネスパーソンはどのようなスキルを身につけ、どのようなキャリア構築を目指せばよいのか?キーワードは「キャリアの掛け合わせ」にあると思う。わかりやすくいえば、敢えてひとつのことに執着せず、一定のレベルまで到達したら、他のことにチャレンジして自分の中で複数のキャリアを持つということである。

ひとつのキャリアだけであれば「希少性」は少ないが、複数のキャリアを組み合わせることで、その希少性が高まり、ビジネス市場での価値を高めることができる。「10人にひとりのキャリア」を2つ持っていればそれは「100人にひとりのキャリア」に相当するということである。

どんなキャリアとどんなキャリアの掛け合わせを目指すべきか?については正解は無いし、予測自体が難しい。自分の興味関心や世の中のニーズを考えながら「もうひとつのやりたいこと」を常に意識しておきたい。そして、ひとつの仕事で一定のレベルに達した時点で「もうひとつのやりたいこと」があればぜひ挑戦して欲しい。趣味の延長線上でできることでも構わないし、副業が認められている組織に在籍している場合は副業として取り組むのも良い。これだけでも“仕事の幅”は広がるはずだ。ただ、技術や知識の習得だけでなく。その仕事をするうえでの「状況に応じた判断力」や「関わる人との調整力」まで包括的なスキルとして身につけたいのであれば、転職して「本業」として取り組んだほうが良い。「本業」としての経験と実績を作ることで、第三者から見た「説得力のある2つめのキャリア」として認識されやすくなるのである。

複数の仕事経験をもつことが実際の仕事にどう生きるのか?一例を紹介したい。ある製造業の経営者から伺った話であるが、その会社では数年前から自社事業と被らない業種での副業を認めており、週末にコンビニでアルバイトしている従業員も多い。ある年、その会社の製品をベトナムに販路を広げるため、プロジェクトチームを立ち上げたところ、ある従業員が同じコンビニで働くベトナム人の方と懇意にしていたことからオフィシャルな情報ではつかみにくい「現地の人の考え方」や「商習慣」などに詳しく、大活躍したとのこと。さらにこの従業員からコンビニのバックヤードにおける整理整頓の重要性からヒントを得た「倉庫の在庫スペースの有効管理」が提案され、見直しを行ったところ倉庫内のレイアウトも一新され、効率的な在庫管理ができるようになったということだった。

状況の変化に応じて価値提供できるビジネスパーソンが主役の時代へ

「自分はこの道で生きていく」という仕事を探し、その道一筋にキャリアを構築していくことを否定はしないが、変化のスピードが速く、未来の予測がしにくい時代においては「苦労して身に着けたスキルも気がついたときには世の中のニーズからずれてしまっていた」ということも起こり得る。ひと昔前であれば、あちこちに手を出し、どの道でも突き抜けた実績を残せない人は「器用貧乏」などと呼ばれ、良い印象がなかったが、これからの混沌かつ流動的な時代にはこういうタイプのほうが「キャリア構築の成功者」になるチャンスが多いかも知れない。「変わりゆく環境の中で、何が必要かを見つけ出し、自分を変化させて価値提供する」そんな適応力をもつビジネスパーソンこそが最強のキャリアを構築できる時代がやってきている。

ちなみに2021年入社の新入社員に「今の会社に何年くらい居続けるか?」聞いたところ「3年以内に退職予定」は28.3%、「10年以内に退職予定」は51.0%であった。これを多いと見るか、少ないと見るかは意見が分かれると思うが、「キャリアの掛け合わせ」で希少性が高まる時代に向けての土壌は充分耕されているといえよう。

綿貫 哲也 (株式会社マイナビ 支社業務推進担当)


1987年 毎日コミュニケーションズ(現マイナビ)入社。就職情報事業本部 営業職として、250社の採用募集活動に携わる。管理本部総務部長、沖縄支社長、埼玉支社長などを歴任。埼玉県経営者協会をはじめとした経済団体等で企業経営者、採用担当者向け講演多数。特定非営利活動法人キャリアコンサルティング協議会 キャリアコンサルタント(国家資格)、日本キャリア開発協会会員(CDA)、著書に「中小企業の採用担当者へ!これが新卒獲得のノウハウです」(実務教育出版)。

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