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大学1・2年生からキャリアを考える意味とは?大学生活にも効果を与えるキャリア学習

沖本麻佑
著者
キャリアリサーチLab編集部
MAYU OKIMOTO

昨今、大学1・2年生のころからのキャリア学習が重視されている。政府としても、2025年卒からインターンシップなどのキャリア形成支援活動をタイプ分けし、企業や業界の情報提供や教育を目的とした活動については大学1・2年次から対象とすると定めている。

この動きについては、「就活準備の早期化を促進し、学業への取り組みを阻害しているのでは」など問題視される場合もある。だが、大学生活と将来のキャリアは地続きであり、キャリアについての学びは、学業を含む学生生活にも良い影響をもたらすものなのではないだろうか。

本コラムでは、マイナビの調査データを元に、大学1・2年生のキャリア形成活動の実情と、低学年のうちからキャリア形成支援活動に取り組むことが学生生活に与える良い影響について検討していく。

大学1・2年生のキャリア教育の現状

まずは、大学1・2年生に対するキャリア教育やキャリア形成支援活動が大学や企業でどのように実施されているのか見ていく。

大学でのキャリア教育の実施状況

大学でのキャリア教育については、必修の授業としてキャリア教育がある大学は2024年度調査で86.3%となっており、過去の調査結果を見てもおおよそ同水準で推移している。あくまで必修の授業としてのキャリア教育について聞いているため、自由参加の講座等を含めるとさらに実施率が高いと推察される。【図1】

【図1】大学でのキャリア教育の実施状況/2024年度<2025年卒>キャリア・就職支援への取り組み調査
【図1】大学でのキャリア教育の実施状況/
2024年度<2025年卒>キャリア・就職支援への取り組み調査

キャリア教育をどの学年から実施しているかを見ると、大学1年次の前期から実施している大学が63.6%となっており、2年次までに必修科目としてキャリア教育が実施されている大学は9割以上だった。【図2】

大学生低学年を対象としたキャリア教育の内容を見ると、もっとも多くの大学で実施されているのは「職業観涵養、キャリア形成を目的とした授業」で、「社会人基礎力の醸成を目的とした授業」が続いた。【図3】

【図3】大学1・2年生対象のキャリア教育の内容/2024年度<2025年卒>キャリア・就職支援への取り組み調査
【図3】大学1・2年生対象のキャリア教育の内容/2024年度<2025年卒>キャリア・就職支援への取り組み調査

大学では低学年のうちからキャリアを考えたり、基礎力を学んだりする機会を提供されているケースが多いことがわかる。

企業のキャリア形成活動の実施状況

一方、企業における低学年へのキャリア教育の取り組み状況を見ると、2024年2月時点ですでに実施している企業は全体の13.4%で、上場企業では22.1%だった。

全体で見ると実施している企業は多くはないが、「まだ検討もしていないが、必要性を感じている」が35.2%となっており、低学年次へのキャリア教育の必要性を感じている企業もいるようだ。【図4】

【図4】企業の大学生低学年へのキャリア教育の取り組み状況/マイナビ2025年卒企業新卒採用予定調査 
【図4】企業の大学生低学年へのキャリア教育の取り組み状況/マイナビ2025年卒企業新卒採用予定調査 

大学1・2年生が参加可能なプログラムとしてもっとも多いのは、キャリア形成支援活動の4類型のタイプ1にあたる「オープン・カンパニー」だった。積極的に参加してもらおうとしている企業は10.7%と多くはないが、応募可能である企業は28.4%で、合計して約4割の企業のオープン・カンパニーでは大学1・2年生も応募可能な状況となっている。【図5】

【図5】大学生低学年へのキャリア形成活動の取り組み内容/マイナビ2025年卒企業新卒採用予定調査 
【図5】大学生低学年へのキャリア形成活動の取り組み内容/マイナビ2025年卒企業新卒採用予定調査 

企業として行われているキャリア形成支援活動では、大学1・2年生に積極的に参加してもらおうと取り組まれているものは1割程度だが、応募可能にしている企業は3割程度と少なくない。また、必要性を感じている企業は一定数いるため、今後、大学1・2年生が参加できるプログラムは増えていく可能性がある。 

学生のキャリア学習状況

次に、学生自身のキャリア学習への参加状況について現状を見ていく。

大学主催のキャリア講座の受講状況

大学1・2年生への調査によると、キャリアに関する授業やガイダンスに参加したことがある学生は3割程度で、例年概ね同じ傾向となっている。【図6】

【図6】キャリアガイダンス・授業への参加状況/大学生低学年のキャリア意識調査(26・27年卒)
【図6】キャリアガイダンス・授業への参加状況/大学生低学年のキャリア意識調査(26・27年卒)

受講した内容を見ると、授業・ガイダンスともに「キャリアデザイン(自己理解・将来設計支援)」を受講している学生がもっとも多く、役立ったと感じているプログラムも同様だった。【図7】

【図7】受講したキャリアガイダンス・授業の内容/大学生低学年のキャリア意識調査(26・27年卒)
【図7】受講したキャリアガイダンス・授業の内容/大学生低学年のキャリア意識調査(26・27年卒)

企業主催のキャリア形成支援活動の参加状況

一方、企業が実施しているプログラムへの参加状況を聞くと、参加したことがある学生は26.3%だった。約4人に1人の学生が大学1・2年の間に企業主催のキャリア形成活動に参加していることがわかる。【図8】

【図8】キャリア形成活動への参加状況/大学生低学年のキャリア意識調査(26・27年卒)
【図8】キャリア形成活動への参加状況/大学生低学年のキャリア意識調査(26・27年卒)

プログラムの内容は「会社見学・工場見学・職場見学(32.8%)」がもっとも多く、「実際の現場での仕事体験(27.0%)」「グループワーク(27.0%)」も上位となっている。【図9】

【図9】参加したキャリア形成活動の内容/大学生低学年のキャリア意識調査(26・27年卒)
【図9】参加したキャリア形成活動の内容/大学生低学年のキャリア意識調査(26・27年卒)

大学1・2年生のキャリア学習としては、主に大学ではキャリアデザインや社会人基礎力について学び、企業のキャリア形成活動では実際の職場や仕事について学んでいることがわかる。

早くからキャリアを考える必要性

大学や企業は低学年層を対象としたプログラムの必要性を実感しており、一部の学生はキャリア講座やキャリア形成活動に大学1・2年次から参加していることがわかるが、なぜこのような時期からの活動が重要なのだろうか。マイナビ調査のデータからわかる点をあげていく。

就活中に後悔する就活生たち

早くからのキャリア形成活動が重要な理由としてまずイメージしやすいことでは、十分な自己分析やキャリア観意識を持たないまま過ごすことで就職活動がスムーズに進まなくなってしまうことだろう。実際に就活中の学生へのアンケート結果を見ると、就活に関する後悔として多く見られるのは「動き出しが遅れてしまった」「自己分析が足りなかった」というものである。【図10】

【図10】納得できる就職活動ができていない理由/2023年卒活動実態調査(8月)
【図10】納得できる就職活動ができていない理由/2023年卒活動実態調査(8月)

別の調査で、就職活動中の大学4年生に「キャリア形成活動を開始したかった時期」を聞いた際、1.2年次に開始したかった学生は合計で51.3%と半数以上になっており、実際に大学1・2年次に開始していたと回答した学生(31.7%)と比べると約20pt以上高い。

大学1・2年次にはキャリア形成活動を行っていなかったが、就職活動を経験した調査時点で「開始したかったのはいつか」と聞かれると、低学年次から開始すればよかったと思っている学生が一定数いることがわかる【図11】

【図11】キャリア形成活動を開始した・開始したかった時期/2025年卒 学生就職モニター調査 7月の活動状況
【図11】キャリア形成活動を開始した・開始したかった時期/2025年卒 学生就職モニター調査 7月の活動状況

自分の将来に希望を感じるかどうかに影響

大学1・2年次でキャリアについての指針がないことは、就職活動の動きだけに影響するわけではないようだ。大学1・2年生に自分の将来や日本の未来への展望を聞いた調査結果を見ると、キャリアの方向性が決まっていない学生は、自分の将来に希望がないと感じている学生が51.5%と約半数となった。【図12】

【図12】自分の将来や日本の未来への展望/大学生低学年のキャリア意識調査(26・27年卒)
【図12】自分の将来や日本の未来への展望/大学生低学年のキャリア意識調査(26・27年卒)

キャリアの方向性が決まっている学生と比べて約20ptの差が出ており、自分の将来像が描けていない学生は、将来についての希望を持ちづらくなっている可能性がある。このような点からも、早くから自分の将来について考えて方向性を見つけておくことが重要だといえそうだ。

キャリア学習が大学生活に与える効果

早くからキャリア形成活動を行うことで、学生生活自体にもよりよい変化があったと実感している学生もいる。最後にそのような効果について学生のアンケート結果を見ていこう。

キャリア形成活動で起きた変化

キャリア形成活動によって身に付いたと感じるスキル等について聞いたところ、上位に上がったのは「主体性」「課題発見力」「実行力」だった。【図13】

【図13】キャリア学習によって起こった変化/大学生低学年のキャリア意識調査(26・27年卒)
【図13】キャリア学習によって起こった変化/大学生低学年のキャリア意識調査(26・27年卒)

キャリア学習を通して得た知識や経験が活かせた場面としてもっとも多かったのは「将来の進路を考えるとき」だが、「履修する授業を選ぶとき」や「研究室・ゼミを選ぶとき」など学業における選択時にも影響していることがわかる。また、「アルバイト」や「授業や研究/ゼミ活動」の場面で活かせたという学生も一定数見られた。【図14】

【図14】キャリア学習を通して得た知識や経験が大学生活のどのような場面で活かせたか/大学生低学年のキャリア意識調査(26・27年卒)
【図14】キャリア学習を通して得た知識や経験が大学生活のどのような場面で活かせたか
大学生低学年のキャリア意識調査(26・27年卒)

具体的に役立った場面について見ると、「(キャリア学習で学んだことを)大学の講義と合わせながらより効果的な学習ができている」「授業での言葉が悩んでいたときに助けになった」「アルバイトの時の礼儀や傾聴力を身に付けた」などのコメントが見られた。【図15】

【図15】キャリア学習によって向上した能力がどのように役立ったか/大学生低学年のキャリア意識調査(26・27年卒)
【図15】キャリア学習によって向上した能力がどのように役立ったか/大学生低学年のキャリア意識調査(26・27年卒)

キャリア観醸成によって、より将来を意識した履修選択や学習ができているのはもちろん、キャリア学習で傾聴力やコミュニケーション能力などの基礎力について学ぶことで、アルバイトや交友関係など現在の学生生活にも役立っている様子がわかる。

学業への姿勢に対する影響

インターンシップなどの活動を本格的に始めた大学3年生に、低学年次のキャリア形成活動を振り返ってもらった。キャリア形成活動で得られたこととして割合が高かったのは「将来のことを真剣に考えるようになった」「働くことに対して具体的なイメージが持てた」など、進路についての考えへの変化だったが、学業に対する変化をあげた学生もいた。

「将来のために大学での勉強を頑張ろうと思えた」「大学での勉強と仕事のつながりに気づけた」という回答をした学生も一定数おり、「やりたい仕事が明確になった」よりも高い割合となっている。【図16】

【図16】大学1・2年生のときにキャリア活動をして得られたこと/2026年卒大学生インターンシップ・就職活動準備実態調査(4月)
【図16】大学1・2年生のときにキャリア活動をして得られたこと/2026年卒大学生インターンシップ・就職活動準備実態調査(4月)

また、大学1・2年生に対して大学生活への満足度や学業への姿勢について聞いたところ、キャリアガイダンス・授業やキャリア形成活動に参加経験がある学生は、経験がない学生に比べて、大学生活に満足している割合や、大学での学習に前向きな学生の割合が高くなっていた。【図17】

【図17】大学への満足度や学業への姿勢/大学生低学年のキャリア意識調査(26・27年卒)を元に再集計
【図17】大学への満足度や学業への姿勢/大学生低学年のキャリア意識調査(26・27年卒)を元に再集計

キャリア形成活動などの経験が大学生活への満足度に直結するとは一概にいえないが、キャリアについて学んだり考えたりすることで、自分の将来と現在学んでいることとのつながりを認識し、積極的に取り組めるようになっている学生もいると推察される。また、そのような学業への姿勢の変化が、大学生活への充実に良い影響をもたらしている可能性もあるのではないだろうか。

まとめ

導入で述べたように、将来に向けた活動をいたずらに早めず、学生にはあくまで学業などの学生生活を優先させるべきではという見方もある。確かに学業や学生生活に打ち込み、学生時代でないとできない経験をすることも重要だ。ただ本来、将来のキャリアと大学での学びや生活は地続きのもので、キャリアに関する活動と学生生活はどちらかを取るものではないのではないだろうか。

実際に、早くから自身の理想の将来像をイメージして、そのキャリアのために必要なことを知ることで、学業への意識が変わり、過ごし方も変化した学生がいたようだ。また、社会人として必要な基礎力を学ぶ機会があったことで、アルバイトや友人関係などの学生生活に活かせたという声も見られた。

キャリア学習は就職活動で内定をもらうためではなく、自身がなりたい社会人像をイメージし、それに向けて努力していくための指針を見つけるきっかけとして実施され、取り組んでいけると良いのではないだろうか。

そしてその過程で、社会で必要な基礎力を身に付けることが、学生生活をさらによりよいものにし、そこで得た経験が将来の自信や活躍につながっていくような関係性になっていってほしいと思っている。

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