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“良いインターンシップ”とキャリアデザインのこれから
—「学生が選ぶキャリアデザインプログラムアワード」7年の歩み

キャリアリサーチLab編集部
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キャリアリサーチLab編集部

インターンシップに関するグッドプラクティスを世の中に発信すること、そして、インターンシップに対する新しい知見を世の中に広めていくことを目的に2018年にスタートした「学生が選ぶキャリアデザインプログラムアワード(旧:学生が選ぶインターンシップアワード)」。さまざまな切り口でインターンシップの教育的効果を検証してきたが、今回、選考委員の梅崎先生と坂爪先生、そして、さまざまな角度から調査研究を進めていただいた初見先生の御三方にお話を聞いた。足かけ7年にわたって実施してきたこれまで取り組みの成果を振り返り、今後のアワードの方向性と可能性を確認する。

(写真左から)多摩大学 経営情報学部 初見康行准教授
法政大学 キャリアデザイン学部 坂爪洋美教授
法政大学 キャリアデザイン学部 梅崎修教授
/聞き手:マイナビキャリアリサーチLab所長 栗田卓也

前回の記事では、「学生が選ぶインターンシップアワード」第三回までの振り返りを行った。今回は、コロナ禍のタイミングであった第四回から最新の第六回(※執筆時点)までの振り返りと、インターンシップのこれからについて語っていただく。

インターンシップの満足感

——第四回は、2020年に行われたインターンシップに対する選考(アワードは2021年)でしたね。2020年は、新型コロナウイルス感染症に襲われたイレギュラーな一年でした。
第四回の「インターンシップカンファレンス」で初見先生にご報告いただきましたが、オンラインかリアルか、インターンシップの開催方法についてこだわる必要はないということでしたね。

初見: 2020年は、「オンラインインターンシップ元年」でしたので、「オンラインでの開催は本当に意味があるの?」と懐疑的な声が多く上がりました。しかし、学生の調査結果を分析すると、「インターンシップの満足度」「志望度の向上」「採用選考への参加意欲」「就職活動への意欲」「教育効果」の5項目で、オンライン・対面で大きな差は確認されませんでした。オンライン・対面というインターンシップの「手段」にこだわらず、プログラムや事前・事後学習などの中身に注力した方が本質的な改善につながると思われます。

——2022年に実施した第五回「インターンシップカンファレンス」では、初見先生に「インターンシップの効果と発展に向けて」というテーマでお話をいただきました。

初見: 学生時代に経験すべき取り組みとして定着したインターンシップが、学生・企業・大学それぞれにとって有益なものとして機能しているか、就職活動だけを目的としたものになっていないか、インターンシップの担う役割について、多角的な視点から見直すことが必要ではないかと考えました。

調査・分析結果からは、「インターンシップでの経験に近い業界や企業に入社を決めた学生ほど、就職活動全体の満足感・納得感が高い」ということが判明しました。さらに、入社企業に対する満足感・納得感、そして大学生活全体への満足感・納得感についても、同様の結果が得られました。そして、インターンシップをさらに発展させていくために、ていねいな後工程、フォローがインターンシップ全体の価値を高めることが重要だということが確認できました。

学生にとっての「良いインターンシップ」

——インターンシップへの学生の参加率が8割を越え、インターンシップに参加することを義務と考える傾向が強まっている懸念がありますが。

初見: インターンシップは、単なる就業体験という枠を越え、学生生活全体の満足感や納得感に影響を与えるイベントになりつつあります。そして、社会人として必要な基礎的なスキルやキャリア観を得るチャンスでもあります。このような視点を獲得することは、学生にとって非常に有益だと思います。また、学生だけでなく、企業や大学側もインターンシップの可能性を最大限活用できる道を考える時期に来ていると思います。プログラムの設計次第では、企業としてもインターンシップから多様な成果を受け取れる可能性があります。また、大学にとっても学外で経験するインターンシップと学内での学びの相乗効果が得られるような、新たな学習サイクルを作り出すこともできるでしょう。

梅崎: 学生にとって良いインターンシップを考えたときに、事前・事後学習、特に事後のフィードバックが非常に重要だということが明らかになりましたが、インターンシップの機会を提供する企業側にとっては、学生の成長を支えるプログラムや仕組みを作り上げるのは簡単ではありません。今後は、大学や地域との連携をもっと進めてもいいように思います。

坂爪: 良いインターンシップを実現するためのプログラムは、決して一つではないということも発信していくべきだと思います。インターンシップの要素を分解して、自分の会社のことをよく知らせるプログラムや学生の能力を高めるプログラムなど、「こんなやり方もありますよ!」と、アワードを通してさまざまな方法があることを発信していけるといいですね。ただ、インターンシップ後の振り返りはとても重要だと思うので、その部分については企業と大学との連携が進められるといいと思います。

初見: インターンシップは、どうしても採用と結びつけて捉えがちですが、地域創生などさまざまなテーマを内包できる柔軟性も大きな魅力だと思います。従来の固定観念にとらわれず、インターンシップが持つ「本質的な可能性や価値」を狭めることがないよう注意して、広い視点でプログラムの設計する必要性が強まっているように感じます。

——初見先生には、第六回「インターンシップカンファレンス」で、卒業後の活躍について発表していただきました。

初見: これまでは、インターンシップの成果として、内定の有無や就職活動の満足感を測定してきましたが、就職活動は社会人生活のスタートです。そこで、インターンシップに参加した学生が、就職した会社で生き生きと働くことができているのかについて、「入社後のワーク・エンゲージメント(※4)」に焦点を当てて調査・分析しました。

結論を申し上げると、インターンシップなどの就業体験系のキャリア形成活動により多く参加している学生ほど、社会人基礎力や自律的キャリア観が高く、「入社後のワーク・エンゲージメント」が高い傾向にあることが判明しました。在学中に就業体験系のキャリア形成活動を通して社会人基礎力を育むことが、卒業後の活躍を促進すると言えると思います。
※4:仕事に対して満足感を持ち、ポジティブで充実した心理状態のこと

大学生低学年向けのインターンシップ

——インターンシップは、実施する側の負担が小さくないので、就業体験を提供するキャパシティが不足する懸念がありますね。

梅崎: 最近では、ほとんどの学生がインターンシップに参加する状況になっており、特に開催が集中する時期は競争が激しくなっています。事前・事後学習を含めて中身の濃い就業体験を提供してもらえるプログラムほど選考倍率も高くなっている傾向です。

また、インターンシップを実施する企業側も実施の難易度が上がっています。参加率を高めるためには良いプログラムづくりをするだけでなく、参加のしやすさや広報力も必要になってきているのです。いろいろな意味で余力のある企業は別として、余力のない企業にとっては以前よりインターンシップの設計が難しくなってきています。

坂爪: インターンシップの定義が見直されたこと(※5)で、インターンシップそのものは採用との結びつきが顕著になり、学生側の応募も以前よりも特定の企業に集中する傾向が強まっている気がします。学生が参加できる時期や期間も限られますからね。
※5:2022年に経済産業省、文部科学省及び厚生労働省は「インターンシップの推進に当たっての基本的考え方」を改正。2025年卒以降の「インターンシップ」が新たに定義された。

——今後のキャリア形成活動が発展する方向性の一つとして、1~2年次から参加できるキャリアデザインプログラムを充実させることが重要ではないでしょうか。

梅崎: ただ、学生側から考えると、プログラムが1、2年生向けなのか、3年生向けなのか、判別しにくい側面があることは否定できません。18歳と20歳だと大きな差があるので、1年生に3年生向けのプログラムをしても、かえってマイナスの影響があるという事実も確認されています。企業側もセグメントを分けてプログラムの中身を考える必要がでてくるでしょう。大学側が主体的に実施に関わるのであれば、かなり自由にプログラムを設計できるのですが。

坂爪: 企業にとっては、1、2年生対象のプログラムづくりはハードルが高いかもしれませんね。学生も、「就職に結びつかないのにどうして行かなきゃいけないの?」と考えてしまう可能性が高いでしょう。対象に合わせたプログラムづくりも重要ですが、参加する学生にとってどんなメリットがあるのかを提示していくことが求められます。

1、2年生対象ということであれば、大学が主導して推進する形の方が、無理がないかもしれません。「大学が主体的に実施するなら参加しますよ、協力しますよ」という企業はでてくると思いますので。

初見: 企業側にとっては、採用に結びつかない活動を、どのように自社に納得させるかというのも大きな課題ですね。個人的には、インターンシップというものをもっと大学教育に活かしていけばいいんじゃないかなと思っています。学内で学べることと学外で学べることは、質的にはまったく異なります。学外で他大学の学生と切磋琢磨できる機会はなかなかありませんから、学内で学んで、学外で体験し、また学内に持ち帰るという、この繰り返しをすることがすごく大事なのではないかと思います。

坂爪: 「学生が選ぶキャリアデザインプログラムアワード(旧:学生が選ぶインターンシップアワード)」の取り組みをスタートして今年で7年目に入りました。アワードの枠組みも安定してきたので、選考基準を見直す時期に来ているのかもしれません。

たとえば、プログラムのなかから事前学習だけを取り出して評価してみるとか、参加学生のキャリア選択スキル獲得への貢献を評価してみるなど、内定とか就職に直結しない視点でプログラムの良さを見出して、毎年、特別賞のような形で表彰できれば、キャリアデザインに関するアワードからのメッセージ発信にもなるのではないでしょうか。

梅崎: アワードは、現状では大学3年生が主体的に評価しているので、どうしても3年生の目線で評価することになりますが、第六回から「学生が選ぶキャリアデザインプログラムアワード」という名称に変わり概念としても広がったので、1、2年生向けのキャリアプログラムの良い代表例を選んでみることにトライするのもいいかもしれません。それぞれの時代状況に応じて、常に新しい評価軸を取り入れていくことも、「学生が選ぶキャリアデザインプログラムアワード」を今後も発展させていくためには重要ではないでしょうか。

インターンシップのこれから

——「キャリアデザインプログラム」をさらに発展させるため、今後、どのような視点が求められるでしょうか。

梅崎: 対象プログラムをライフキャリアレベルに広げて考えるといいかもしれません。たとえば企業で働き続けてきた中高年がセカンドキャリアを考える際にインターンシップに行くことが有効だと思いますし、地域インターンシップ(※6)、越境学習(※7)、ワーケーションなども大人向けのインターンシップという枠組みで考えてもいいと思います。
※6:都市部に住む人が、インターン生として短期または長期で地域に滞在すること
※7:普段の職場や業務を離れ、異なる環境に身を置くことで新たな学びを得ること

大学生向けのインターンシップは、就職活動と結びつけて意味を固定化しがちですが、小学生から大人まで、インターンシップは体験することによって自分の知識を柔軟なものにする学びの場と定義づけるといいのではないでしょうか。

坂爪: 人生100年時代を迎えるなかで、インターンシップを必ずしも学生に限定して考えるのではなく、枠組みを広げて考えることも可能ですよね。最近ではミドルシニア向けに、彼らがキャリア形成を考えるステップとしてのインターンシップも注目されていて、農業体験のプログラムが人気だという話も聞きます。インターンシップには体験の幅を広げることができるという価値があります。その視点はこれからも大切にしていきたいですね。

——「学生が選ぶキャリアデザインプログラムアワード」は2023年で7年目を迎えました。受賞プログラムのバリエーションもずいぶん広がってきたように感じていますが、今後は、大学生を対象としたプログラムばかりでなく、幅広い年代向けのキャリアデザインプログラムに焦点を当てることも検討していきたいと思います。
本日は長時間にわたりご議論いただきありがとうございました。


■プロフィール
梅崎 修(うめざき・おさむ)
法政大学 キャリアデザイン学部 教授
マイナビキャリアリサーチLab 特任研究顧問
1970年生まれ。大阪大学大学院経済学研究科博士課程修了(経済学博士)。2002年から法政大学キャリアデザイン学部に在職。専攻分野は労働経済学、人的資源管理論、オーラルヒストリー(口述史)。人材マネジメントやキャリア形成等に関しての豊富で幅広い調査研究活動を背景に、新卒採用、就職活動、キャリア教育などの分野で日々新たな知見を発信し続けている。主著「「仕事映画」に学ぶキャリアデザイン(共著)」「大学生の学びとキャリア―入学前から卒業後までの継続調査の分析(共著)」「大学生の内定獲得(共著)」「学生と企業のマッチング(共著)」等。

坂爪 洋美(さかづめ・ひろみ)
法政大学 キャリアデザイン学部 教授
慶應大学文学部卒業後、(株)リクルート人材センター(現:リクルート・キャリア)での勤務を経て、慶應義塾大学大学院経営管理研究科にて2003年博士(経営学)を取得。和光大学を経て、2015年4月より現職。専門は組織行動論。主たる研究テーマは、多様化した働き方の下での管理職のマネジメントのあり方。近著に「管理職の役割」(中央経済社、共著)。

初見 康行(はつみ・やすゆき)
多摩大学 経営情報学部 准教授
同志社大学文学部卒業。企業にて法人営業、人事業務に従事。2017年、一橋大学博士(商学)。いわき明星大学(現:医療創生大学)准教授を経て、2018年より現職。専門は人的資源管理。主な著書に『若年者の早期離職』(中央経済社)、『人材投資のジレンマ』(日本経済新聞出版)などがある。

梅崎修
登場人物
法政大学キャリアデザイン学部教授
梅崎修
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多摩大学 経営情報学部 准教授
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