新卒採用における内定辞退の”今”と防止策—学生に安心して入社してもらうために
新型コロナウイルス感染症の影響で、急激に進んだ採用活動のWEB化は新卒採用に大きな変化をもたらしている。21年卒では移動制限への緊急対策的にWEB導入を行っていたが、22年卒では活動開始時からWEB導入が進んだことで比較的スムーズに選考活動が実施され、23年卒では必要に応じてWEBと対面の両方を使い分けることでさらにより良い採用活動の形を模索しながら実施されている。しかし、WEB化に伴って22年卒で大きな課題として挙がったのが「内々定辞退」である。
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本コラムでは、学生・企業への調査をもとに、内々定辞退の現状と、選考の形式に関わらず実施できる防止策を考えていく。
なお、10月以前の内定は正式には「内々定」であるため調査では「内々定」と聞いているが、記事では「内定」と統一する。
目次
データでみる内定辞退の「今」
新卒採用における内定辞退は、恒久的な課題ではあるものの近年の傾向としてはWEB採用の導入が影響していると考えられる。昨年(2022年卒)と、現在進行中の2023年卒の採用データをみながら、内定辞退の「今」を探ってみよう。
なお、前提として22年卒と23年卒のWEB活用の状況は以下のグラフのようになっている(「2023年卒企業新卒採用予定調査」)。【図1】
22年卒・23年卒ともにセミナーから1次面接までは「全て対面」で実施する企業が少数派でWEB活用が進んでいるのが分かるが、23年卒の方が「WEBと対面の併用」の割合が上がっており、よりよい組み合わせが模索されているという背景がある。
22年卒では内定辞退を課題に感じた企業が増加
まず、22年卒の新卒採用の傾向を調査した「2022年卒企業新卒採用活動調査」を見てみると、調査を行った2021年6月時点での「採用活動における問題点」において「内定辞退の増加」が前年より6.8pt増加している。【図2】
また、同調査では、学生に一度も会えないまま内定を出したことがある」企業は全体で24.6%、とくに上場企業では50.2%と半数以上となっている。【図3】
コロナ禍においてとくにWEB化が進んだ上場企業(※1)では、説明会から最終面接まで、学生が企業を訪れたり直接会ったりする機会がない状態で選考活動が進んだケースも多かったことが分かる。それにより、学生に実際の企業の雰囲気などを体感してもらうことが難しかった。
※1:上場企業22年卒の1次面接では一部でもWEBを利用した割合が89.0%、対して非上場企業では61.8%だった(引用元:マイナビ2022年卒企業新卒採用活動調査)
採用活動のWEB化は、その利便性によって、コロナ禍の経済状況に危機感を持った学生を後押しし、応募者を増やした。一方で、例年であれば実際に企業を訪問したり直接会ったりすることで自然と伝わっていた情報が伝えきれず、志望度を高めることや”惹きつけ”をすることが例年よりも難しかったと推察される。
23年卒は対面・WEBを使い分けたが内定辞退に課題が残る
選考をすべてWEBで行うという企業が減少し、対面とのハイブリッド化を進める23年卒においてもその悩みは変わらず、「現時点(6月)での問題点」で「内定辞退の増加」を回答した割合は22年卒から微増する結果となっている。【図4】(「2023年卒企業新卒採用活動調査」)
22年卒の内定辞退増加が「直接会えなかったこと」に起因したとすれば、最終面接を中心に対面での採用活動を増やした23年卒でも同様に課題となっているのはなぜだろう。その背景には、「企業の採用意欲の高まり」が挙げられる。同調査において、採用予定数の前年比較を聞いたところ「前年より増やした」と答えた企業が22.1%、22年卒と比較して6.1pt増加している。【図5】
実際に、6月末に実施した「2023年卒大学生活動実態調査」では、内定率・内定保有社数ともに22年卒よりも好調に推移している。【図6】
つまり、企業の採用意欲の高まりにより、例年の同じ時期と比べてより多くの学生が、より多くの内定を得ている。そのため入社先以外を辞退する学生も、1人当たりが辞退する社数も増えていることになる。このことが、対面の機会が増えても内定辞退に課題を感じる企業の割合が変わらない背景にあると考えられる。
就活生が内定辞退をする理由は?
このように、内定保有社数が多いため内定辞退をする学生が増え、それにより企業側としても内定辞退が課題となると予想される。
では、そのような事態を防ぐにはどうしたら良いのだろうか。まずは内定辞退に至る学生の不安や不満とその要因を見ていく。
雇用条件や待遇について「リアルな情報」を伝えられていない
学生調査の結果を見ると、企業の情報提供に関して不満を抱いている学生がいることが分かる。内定辞退の要因となるような不安・不満は選考活動中から生まれ得るのだ。
たとえば、就活を終えている学生も多い8月時点で行った「22年卒学生就職モニター調査」では、「就活を通じて企業に改善して欲しいと思ったこと」という設問で「会社の良い面だけでなく悪い面の情報も提供してほしい」という回答が36.6%であった。約3人に1人の学生が企業側の情報提供に不満を持っていたことが分かる。
「2023年卒大学生活動実態調査 (6月15日)」では、実際に学生に対する調査で入社意思の最も高い企業について、選考当初から志望度が下がった理由として「給与形態の説明が不十分である」「転勤なし希望だったが内々定後に転勤の可能性があると言われた」という声もあった。【図7】
最近では、採用活動中の現実的な仕事情報の事前開示(RJP:Realistic Job Preview)も話題となっているが、学生が企業のリアルな情報を求めていることがデータからも分かるだろう。
当たり前のことかもしれないが、雇用条件や待遇が当初提供されていた情報と違うというのは大きな不安材料になる。まずは、選考段階で正しい情報をしっかりと学生に伝えることと、その真摯な姿勢 がギャップによる内定辞退を防ぐことにつながるといえる。
人事担当者など社員の印象が判断材料になることも
企業自体に対する印象だけでなく、関わる「人」の印象も重要だ。社員の対応によっては、内定辞退はおろか、選考辞退にもつながる。「2023年卒学生就職モニター調査(5月)」によると、選考辞退をしたことがある学生のなかで「面接官の態度が悪かった」「面接官と一緒に働きたくないと思った」という理由を挙げたのがそれぞれ7.6%、「人事担当者の態度が悪かった」という理由が2.8%であった。【図8】割合は多くないものの、面接官や人事担当者など、「人」が理由で選考辞退する学生も一定数いる。
一方で、「2023年卒大学生活動実態調査(6月15日)」で、入社予定先を決めている学生に対し、その企業に決めた理由を回答してもらうと「企業の社員の雰囲気や人柄が自分に合っていると感じた」と答えた割合は39.1%。約4割の学生が、人柄も入社先企業を選ぶ判断材料にしている。
学生にとってその会社を代表する存在である人事担当者や面接官は、いい意味でも悪い意味でも印象を大きく左右するであろう。対面であってもWEB面接であっても、人事担当者をはじめとする学生と関わる社員の対応には気を付ける必要がある。
入社後のイメージが持てないことに対する不安
「2022年卒内定者意識調査」によると、入社予定先企業を決めた後不安になったことがあるか、という問いに対して「不安になったことがある」が全体で60.8%であった。そのなかで理由を聞くと、「社会人としてやっていけるかどうか」という自分自身への不安が21.8%で最多であったものの、「この会社できちんと務まるかどうか(17.5%)」「自分がこの仕事に向いているかどうか(17.0%)」と続く。【図9】
上記は22年卒の振り返りであるが、23年卒は前述のとおり企業の採用意欲が高めであること、かつ学生も積極的に活動していることから、就職活動が順調に進んでいる学生も多い。内定を早い段階で得た場合、入社までの期間が長くなり、周囲でまだ採用活動が行われている段階で入社先を決めて活動を終了してしまうことに不安を抱くことも考えられる。「この企業で活躍できる自分をイメージできる」という状態をつくることが、内定辞退につながる”不安”を生まないために重要なポイントであることが分かる。
「内定をもらった企業」から「入社先企業」になるためには?
続いて、学生が「内定辞退する企業」と「入社先企業」の違いを探るために、どのような要素が入社先企業の決定を後押ししているのか見ていく。「2023年卒大学生活動実態調査(6月15日)」によると、入社先企業を決められた理由は「説明会で興味を持ち、選考を経て志望度が上がったから」が52.2%、次いで「その企業の業務内容をやってみたいと思うから(39.5%)」「その企業の社員の雰囲気や人柄が自分に合っていると感じたから(39.1%)」となっている。【図10】
反対に、入社先企業を決められていない理由としては、「もともと志望度が高かったわけではなかったから」が47.3%でもっとも多い。それ以外は、企業に対する理解不足や情報不足によるものが目立ち、「実際に自分が働く姿をイメージできない」「自分を理解してもらえているか分からない」「同期の様子がわからない」「企業の社員の雰囲気や人柄がわからない」などの声がある。【図11】
内定辞退されてしまうことなく入社してもらうためには、学生に企業のことを理解してもらい働くイメージを持ってもらうこと、また「自分のことを理解してくれそう」という安心感を与えることが重要だろう。
安定して働ける環境かどうかが重要視される
また、「2023年卒大学生就職意識調査」によると、企業選択のポイントは「安定している(43.9%)」、「自分のやりたい仕事(職種)ができる(32.8%)」、「給料の良い会社(19.1%)」が上位。「働きがい」や「これから伸びそう」「福利厚生がいい」と続く。【図12】
1位の安定性について、「企業に安定性を感じるポイント」を調査した「2023年卒大学生活動実態調査(3月)」の結果をみると、「福利厚生が充実している(53.3%)」、「安定して働ける環境である(46.6%)」「売上高(37.4%)」が上位3項目となっている。【図13】
給与や売上高は現状のままアピールするしかないが、「福利厚生が充実しているか」「安定して働ける環境か」といった職場環境の良さについては、採用活動中に自社を学生に理解してもらうことで志望度を上げてもらうことができそうだ。また、「やりたい仕事ができるか」や「働きがい」についても、採用活動中から学生としっかりコミュニケーションを取ることで合うか合わないかの判断ができるだろう。
内定辞退の防止策—安心して入社してもらうために
内定を出して学生が承諾したあとも、自社に対する理解度を深めて入社前の不安を軽減させ、安心して入社してもらえるような取り組みは重要だ。ここからは、内定者フォローの観点から内定辞退の防止策を考えていこう。
人事担当者との面談で入社後のイメージを持たせる
面談や交流会など、内定者に対するフォロー施策はさまざまである。「2023年卒大学生活動実態調査(6月)」のなかで、内定後のフォローのうち最も不安が軽減されたものを聞いたところ、「人事との面談」が36.3%と最多であった。【図14】
さらに、「なにを話したことで不安が軽減されたか」については、「具体的な業務内容(入社1年目の業務内容など)」が最多の55.1%、次いで給与や福利厚生などの「待遇について」が34.0%であった。入社したら実際にどんな業務にあたるのか、待遇の詳細といった面接では理解しきれなかった内容について、人事との面談で疑問解消することで不安が軽減される学生が多いようだ。このことから、人事担当者との面談は、入社意思を固めきれていない学生の不安解消に有効な内定者フォロー施策のひとつといえる。
内定式や懇親会など、内定者同士のコミュニケーションを
人事担当者などの会社の先輩だけでなく、一緒に入社する「同期」との関わりもポイントのひとつだ。「2022年卒内定者意識調査」によると、内定者フォローについて対面・WEBの方法問わず、「内定式」を「実施して欲しい」計(実施して欲しくない以外の合計)97.1%、「内定者懇親会(食事会等)」を「実施して欲しい」計(実施して欲しくない以外の合計)92.2%と9割以上の学生が、対面・webに関わらず内定者同士や社員との交流をする機会がほしいと思っていることが分かる。なかでも内定式や内定者懇親会を対面で実施してほしいと4割以上の人が回答した。【図15】仕事内容とあわせて、誰と働くかのイメージを持ってもらうことも安心感につながるだろう。
家族へのフォローもひとつの方法
近年「オヤカク(※2)」という言葉が話題になっているように、内定者フォローの一環として内定者の保護者に向けた内定確認連絡や、企業パンフレットの送付などを行っている企業もある。
※2:内定者の親に対し入社を了承しているか確認すること
「2022年卒内定者意識調査」において、「意思決定の際、誰かの助言や意見を聞いたか」という問いに対し、「父親・母親」と答えた人は全体で64.1%。内定獲得社数別にみると、1社の場合56.8%、2社の場合66.4%、3社以上の場合73.7%と、複数社からの内定をもらうほど両親に相談する割合が高くなっている。【図16】
一方で、22年卒の保護者に向けた「就職活動に対する保護者の意識調査」では「お子様が内定した企業へ入社することに反対したことがありますか」という質問に対し、「ある」と回答したのがわずか5.4%であり、親に反対されたから内定を辞退するというケースは少ない傾向のようだ。とはいえ、入社する本人が両親に相談するケースが多いことから、家族を巻き込んだ内定者フォロー施策を行うのもひとつの方法だろう。
■関連コラム:就職活動における「親」の存在(影響・役割・関わり方)
まとめ
22年卒の採用活動で増加した「内定辞退」について、22年卒と23年卒のデータを追ってきた。その背景をみると、WEB活用による採用活動の進め方の変化や、企業の採用意欲の高まりによって学生の内定率・内定保有社数が高い水準となっていることなどが影響していることが分かった。複数社の内定のなかから自社を選んでもらうためには、学生に情報を的確に伝えることが重要だ。
このように考えると、内定辞退の増加は対面形式だから、Web形式だからという点が問題ではなく、入社に対し不安感が生まれることが問題なのではないか。学生が内定辞退をしてしまう理由をみると、業務内容・職場環境への心配や選考段階での企業への不信感といった学生の不安が感じられた。
選考段階での情報開示や内定者フォロー施策で「自分が働くイメージ」を持ってもらう工夫をすることで、採用選考の形式に関わらず、内定辞退を防ぐ取り組みはできそうだ。 学生の知りたい情報を伝え、不安感を解消することは、内定辞退の防止に限らず、学生が安心感を持って入社することにも、企業がより自社に合っていて長く働ける学生を採用することにもつながるだろう。
今回取り上げたようなポイントを踏まえることによって、企業と学生双方にとって良い採用活動を行ってほしい。
キャリアリサーチLab研究員 矢部 栞