マイナビ キャリアリサーチLab

「大学生の行きたくない会社」とは?
~RJPが今こそ必要な理由~

 職業柄、これまでに多くの大学生の就職相談を受けたが、自分が「やりたいこと」や「行きたい会社」を見出すのに苦労する一方で、「やりたくないこと」や「行きたくない会社」は過去に得た情報を基に感覚的に捉えられるのか、イメージできている学生が割と多かった。敬遠された企業の人事担当者にしてみると迷惑な話だが、「やりたくない 」や「行きたくない」で除外されてしまうケースは意外と多い。そこで今回は、1979年から実施している「マイナビ大学生就職意識調査」から「行きたくない会社」という項目で回答を得た内容について、2000年(2001年卒)まで遡って見てみたい。


■時代によって変化する「行きたくない会社」

 2001年卒では1位「暗い雰囲気の会社」(36.0%)、2位「ノルマのきつそうな会社」(34.7%)、3位「仕事の内容が面白くない会社」(34.0%)が上位に挙げられており、この時代の学生にとって「行きたくない会社」のイメージはこの3項目に集約されていたことが分かる。

 これを2015年卒でみると1位「暗い雰囲気の会社」(36.3%)、2位「ノルマのきつそうな会社」(31.8%)と2001年卒と同じ項目が上位に挙げられている。一方、3位に「休日・休暇がとれない(少ない)会社」(25.8%)が入り、9位の「残業が多い会社」(10.3%)も上昇し始めるなど、2001年卒と比較して変化が見られる【図1】。これはブラック企業というワードの普及が関係していると考えている。2009年にブラック企業を題材とした映画が公開され、2013年には「新語流行語大賞」にトップ10入りするなど、一気にブラック企業の社会的認知が高まった。その影響を受けて大学生においてもブラック企業を想起させる「ノルマのきつそうな会社」や「休日・休暇がとれない(少ない)会社」、「残業が多い会社」といったイメージの会社を敬遠する動きが高まった。

 直近の2022年卒では「ノルマのきつそうな会社」(35.8%)がトップ、2位に「暗い雰囲気の会社」(28.9%)と順位は入れ替わっているが、上位2項目に変化はない中、3位に「転勤の多い会社」(24.9%)が挙げられている。改めて経年でみると20年前の「ノルマがきつく、暗くてつまらない会社」から2010年代後半の「ブラック企業」を避ける風潮に変化し、近年では「転勤の多い会社」が上位に挙がるなど、「行きたくない会社」も多様化しつつあることがおわかりいただけると思う。

【図1】行きたくない会社時系列推移(2001年卒-2022年卒)

「行きたくない会社」時系列推移
出典:マイナビ大学生就職意識調査
マイナビ大学生就職意識調査

■「転勤の多い会社」が敬遠される主な理由

 中でも「転勤の多い会社」は、2001年卒では14.9%で順位も8位だったが、2019年卒辺りから徐々に上昇している。そこで、どのような属性の学生が「転勤の多い会社」を多く選択しているのか、2022年卒でクロス集計を行ってみた。文理男女では「理系男子」(27.5%)が高く、現住所エリア別では「北陸」(30.0%)、「甲信越」(27.6%)、「中国」(27.0%)などで高い傾向が見られた。また単一選択(SA)である企業志向の項目で比較してみたところ、「中堅・中小企業がよい」(34.0%)と回答した学生においてその割合が高く、次いで「その他(公務員・Uターン志望など)」(29.1%)となった【図2】。

 この結果、地方在住で、地元中堅・中小企業を中心に活動している学生像が思い浮かぶ。2022年卒はコロナウイルスの影響で「大学生Uターン・地元就職に関する調査」において、これまで減少傾向にあった地元就職希望割合が前年比で増加に転じるなど、働く場所に関する意識に変化が表れた年でもある。しかし2019年卒から徐々に上昇していることから、コロナウイルスの影響だけではなく、経年ですこしずつブラック企業のような働き方を避けつつ、ワークライフバランスを重視した生活を送りたいという学生層が増えてきていると推察される。
 折しもコロナの影響でリモートスタイル中心の授業を受けた学生達にとって、働く場所を自らコントロールできない「転勤の多い会社」は今後引き続き敬遠対象となる可能性が高く、何らかの対応が必要になるのではないだろうか。

【図2】2022年卒属性別「転勤の多い会社」の選択割合

2022年卒マイナビ大学生就職意識調査「転勤の多い会社」の選択割合
2022年卒マイナビ大学生就職意識調査

■「行きたくない会社」と認識されている企業は今一度「RJP(Realistic Job Preview)」の徹底を

 では「行きたくない会社」の上位に挙げられている該当要素をすべて取り除き、装飾した理想の企業像を学生にPRすればよいのかと言えばそうではない。無論、自社の実態と異なる場合はそのイメージ是正に努めるべきだが、ある程度、当該要素を含んでいるのであれば、リアルな情報を隠すことは、かえってミスマッチを助長することになってしまう。たとえば新規開拓営業を中心とした販売系の企業において、初めから「ノルマのきつそうな会社」を敬遠する学生に応募してもらっても、採用後の定着は期待できない。ではどうすればよいのか。

  採用において「RJP(Realistic Job Preview)」と呼ばれる考え方がある。これは米国の産業心理学者ジョン・ワナウスによって提唱された採用理論で、求職者に対して「できるだけ真摯な姿勢でリアルな仕事情報を事前に開示する」ことである。その結果、求職者と求人企業の相互理解・信頼関係が高まり、入社後の定着率が高まる効果があるとされている。実施する際には以下の要点を押さえながら、求職者に情報を提供するとよいだろう【表1】。

【表1】RJP(Realistic Job Preview)実施時のポイント

1早い段階で情報提供に対する会社の姿勢を示し、正しい情報で判断してほしい旨を伝える
2提供する情報は偏りがない正確な内容か事前に確認し、常に真摯な姿勢で伝えるよう努める
3皆が読んで理解できる情報(福利厚生や業務内容詳細等)は文字情報で事前に開示、口頭で説明を加えた方が伝わる情報(社内の人間関係やネガティブ情報)はできるだけ(WEBを含む)対面で説明する

■コロナ後の採用では求職者との信頼関係構築が採用の成否を分ける

 特にコロナ禍の学生生活では、キャリアセンターによるサポートや相談できる友人の支援が得づらい状況にある。自ずと学生は人事担当者や社員とのコミュニケーションを通じて企業を判断しようとするので、相互の信頼関係が構築されれば採用の成功に近づく。したがって学生には、ポジティブな情報とともにネガティブな情報も等しく提供するよう心がけることが大事になる。

 求職者も「この会社は自分に対して裏表なく真摯な姿勢で向き合ってくれている信頼のおけそうな会社だ」といったような、ある程度の心理的な安心感を得ないと就職先として意思決定するまでには至らないのだ。企業側がつねにそのような姿勢を学生に示し続ければ、学生側も企業を信頼して就活用の仮面を脱ぎ捨て、素の自分をさらけ出して向き合ってくれるようになる。学生の本音を引き出したいのであれば、先ずは自分達のネガティブな情報を開示する勇気を持って学生と向き合うことだ。

 このRJP(Realistic Job Preview)の遂行にはもう一つ大事なことがある。自社の採用要件整理だ。求める人物像が明確であれば、あらかじめマッチしない求職者に対してネガティブな情報を開示することで無駄な母集団を形成しなくて済む。たとえば「月の残業時間平均40時間」と書けば、残業を敬遠する学生は自ずと遠のく。

 また物事はネガティブとポジティブ両方の側面を持ち合わせているはずだ。ネガティブな情報提供においても、その背景や結果として得られるポジティブな側面が理解できると、賛同してくれる学生もいるだろう。たとえば先程の「月の残業時間平均40時間」に関して、「業務上、繁忙期と閑散期があり、閑散期は平均15時間ほど。繁忙期はクライアントへの提案時期になるが、提案力向上にもつながるので研修が業務時間外に盛んに行われる。残業手当も上限なしで支払われる。」と丁寧に説明すれば、同じ40時間でも学生によっては意味合いが変わってくるだろう。

 まずは学生が行きたくない会社とはどのようなものか情報としてよく理解し、自社の情報をきちんと整理しつつ、自社の改善すべき点を含めて提供するタイミングや方法を検討する必要があるのではないだろうか。

所長 栗田 卓也

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