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雇用・労働キーワード~現役法務が注目テーマを解説③
「内定とこれに関連する諸問題」

キャリアリサーチLab編集部
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キャリアリサーチLab編集部

はじめに

就職・転職活動の場面では「内定」という言葉を、新卒採用の場面ではこれに加えて「内々定」という言葉を耳にするかと思います。みなさんは「内定」がどういったものか、また「内々定」との違いは何かということを説明できますか。

採用活動において、「内定」と「内々定」がどういったものか詳しく理解せずに、両者の違いを意識することなく、何となく使いわけていると、大問題に発展するかもしれません。

最近では、違法行為には当たらないとして20名以上の「内々定取り消し」を行った企業が、取り消しを受けた学生によるSNSへの投稿をきっかけに、公式ホームページ上で謝罪文を掲載するまでの事態に発展したケースが話題になりました。

内定、内々定とは何か、両者の違い、上記の事例では何が問題とされたのか、などについて、以下で解説していきます。

「内定」とは

内定の法的性質

就職活動(採用活動)においては、求人者が求職者に対し入社予定の数か月から数日前に採用内定を通知し、求職者はこの内定通知をもって就職活動を終了することが一般的です。判例では、この「内定」を、求人者が求職者に対し内定を通知することにより『労働契約が成立したもの』と解釈しており※1、内定の通知により成立する労働契約を「始期付解約権留保付労働契約」と一般的に呼んでいます。
なお、

「始期付」 → 就労の始期を入社予定日とすること、

「解約権留保付」 → 労働契約を解約できる(=内定を取り消すことが可能である)状態

つまり、内定とは、求人者と求職者が『入社日までは解約権が留保された状態の労働契約』を締結したことになります。
※1 大日本印刷事件 最高裁二小 昭54.7.20判決

内定は無条件に取り消しできない

上記のとおり、内定の通知により求人者と求職者との間では労働契約が成立したことになります。ゆえに、契約は一度締結すると、一方的に破棄することはできなくなるため、労働契約の取り消しに該当する無条件の内定取り消しも認められるものではないとも考えられます。

しかし、内定は「解約権留保付」の労働契約です。この解約権の行使が認められる限り内定を取り消すことができますが、その解約権の行使が認められる場面を判例では「内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であって、これを理由として内定を取り消すことが解約権保留の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるものに限られる」としています。つまり、内定取り消しの要因となる事実の発生時期にかかわらず、採用内定を通知するタイミングで求人者が知る由もないものについて、その事由を考慮した時に、労働契約の継続を否定しても社会の常識からして不合理ではないもののみ、内定の取り消しが認められる、ということです。

内定取り消しが認められるケース

それでは、上記の判断基準によって内定取り消しが認められるとされる事例をみていきましょう。

(1)内定者都合の場合

① 内定者が学校を卒業できなかった場合
新卒採用においては、学校を卒業することを前提に、学生に対して内定を通知するケースがほとんどです。学校に通ったまま入社を認めることは一般的とまでは言えず、就業開始日までに卒業ができない場合、求人者による内定取り消しが認められる可能性はかなり高いと言えます。なお、最近では、内定者の事情を考慮のうえ、就業開始日を延期する等の措置をとって内定の取り消しを行わないケースもあるようです。

② 内定者の病気・けがにより就業が困難になった場合
内定者の病気・けがにより就業が困難となった場合、内定取り消しが認められる可能性があります。ただし、風邪等の軽度な症状(すぐに回復するもの)のほか、就業に直接関係のない病気・けがを理由に内定を取り消すことは認められません。

③ 内定者による重大な経歴詐称
内定者が重大な経歴詐称をしていた場合、内定を取り消すことが可能です。たとえば、就業に必要とされる資格を保有していなかった、学歴を詐称していた等の場合がこれに該当します。ただし、詐称した事実が業務遂行に影響を与えないものに関しては内定取り消しを否定される場合も考えられますので、詐称行為のすべてが内定取り消し可能とはならない点には注意が必要です。

(2)求人者都合の場合

求人者が経営不振等を理由に内定を取り消す場合は、判例により「整理解雇の4要件」(①人員削減の必要性 ②解雇回避の努力 ③人選の合理性 ④解雇手続の妥当性)を判断基準とすることが一般的です。具体的な事情を、この4要件に照らし合わせて、内定取り消しが認められるか個別に検討していく必要があります。

① 人員削減の必要性
現状の人員を抱えたままでは経営が難しいとされるケースが該当します。生産性の向上等ではなく、経営不振を理由とした人員削減を行うべき経営上の理由があることが必要です。

② 解雇回避の努力
解雇回避のために努力したことを証明する必要があります。人員配置の転換や希望退職者の募集等、解雇以外のあらゆる手段を尽くしているかが基準となります。
なお、現在は、厚生労働省により『新型コロナウイルス』の影響により事業活動の縮小を余儀なくされた事業者を対象に、従業員の雇用維持を目的とした「雇用調整助成金(新型コロナウイルス感染症の影響に伴う特例)」の特例措置が設けられています(2022年3月時点)。これら助成金の活用も、判断基準の要素となり得るかもしれません。

③ 人選の合理性
整理解雇の対象者を決める基準が客観的、合理的で、その運用も公正であることが必要です。具体的には、年齢、勤務成績、勤務年数、これまでの会社に対する貢献等の総合的な要素から客観的、合理的に判断され、公正な人選であることが求められます。恣意的、主観的な人選は認められません。

④ 解雇手続の妥当性
整理解雇を実施するまでの期間に、労働組合または労働者に対して適切な説明を行わなければなりません。具体的には、解雇の必要性とその時期、規模・方法について納得を得るための然るべき説明を行い、十分な協議を行うことが求められます。

求人者都合により内定を取り消す場合の注意点と高いハードル

やむを得ず新卒者の採用内定を取り消す場合、求人者には『新規学校卒業者の採用に関する指針』※2に基づき、以下の対応が求められます。

① ハローワークへの通知
新卒者の採用内定を取り消す場合、あらかじめハローワーク(公共職業安定所)へ通知する必要があります。

② 労働基準法第20条・第26条等 関係法令の遵守
解雇予告について定めている第20条、および休業手当について定めている第26条に抵触しないよう留意する必要があります。

なお、同指針においては、新卒採用の場合、求人者は、「原則内定を取り消さないものとする」とされており、取り消す場合は取り消しの対象となった学生の就職先の確保について最大限の努力を行うとともに、内定取り消しまたは入職時期繰下げを受けた学生からの補償等の要求には誠意を持って対応するものと規定されています。
※2平成5.6.24 発職第134号「新規学校卒業者の採用に関する指針」(厚生労働省)

「内々定」をめぐる問題

「内々定」とは

それでは、労働契約の成立とされる内定に対し「内々定」とはどのような状態をいうのでしょうか。

内々定とは、新卒採用において使用される用語です。そもそも内々定の問題は、就活解禁~選考開始~内定通知開始という大学学卒者の就活スケジュールに大きく関連するものです。政府がとりまとめる「就職・採用活動日程に関する考え方」(2022年3月時点)での正式な内定日は「卒業・修了年度の10月1日以降」とされています。このように「内定」の通知が10月1日以降と規定されていることから、求人者は学生に対し内定を通知するよりさらに前に「内々定」を通知することで、一般的に10月1日とされる「正式な内定」を非公式に約束し、内定者をより早期に確保する狙いがあります。

つまり「内々定」は、正式な内定通知の前段階の状態であり、内々定を通知した時点では労働契約は成立していない=法的拘束力を持たないと解釈されることが一般的です。

内々定は取り消すことができるか

求人者は、労働契約の不成立(未だ契約関係に無いこと)を理由に内々定を取り消すことができるとされていますが、内定取り消しと同様、内々定の取り消しにも十分な留意が必要であり、内々定の取り消しが不法行為(民法第709条)にあたるとされるケースもあります。

なお、不法行為の成立には、求人側の違法行為と、学生側の損害、その間に因果関係があることが必要ですが、これらが認められるかは具体的な事例ごとに個別に判断をしていく必要があります。

たとえば、求人者が「入社承諾書を提出させる」「入社後の準備について具体的な指示をする」といった内定の確約をほのめかすような言動を行った場合には、内定が出たものと学生が誤認する可能性が高いと言えます。この他にも、社員との懇親会の開催といった、内定が出た学生と同様の扱いをしていると一般的に考えられる場合も、学生の内定に対する期待値は当然ながら高いものです。このような、学生の期待値は法的に保護されるべきものであり、これを一方的に反故にする行為は違法であると判断される可能性が高いものです。

また、いわゆる「オワハラ」と言われるような就職活動の終了を強制する行為ですが、この求人者の指示により就職活動を無理やり終了させた後に、内々定を取り消す行為は極めて悪質と言わざるを得ません。結果、学生が他の求人者への就職活動の機会を失った場合も、違法と判断される可能性が高いと考えられます。

求人者による内々定の取り消しが違法の評価を受けないためには、「学生に対して内々定である(=内定を確約しない)点をしっかりと伝えている」「内定を期待させるような言動を行っていない」等、内定と内々定が明確に区別できる状態であることが必要です。

なお、内々定を取り消すことができる場合であっても、一度、一定以上の関係に至った学生に対して誠意ある対応を行うことが好ましいということは、言うまでもないことです。

内々定の取り消しが問題となったケース

冒頭の事例では、採用企業は「内々定の取り消しは違法行為に当たらない」として20名以上の内々定を取り消しました。これに対し、取り消しを受けた複数の学生による「内々定を取り消された」というSNSへの投稿が話題になり、最終的には採用企業が公式ホームページ上で経緯説明と謝罪を掲載するまでに発展しました。

本件でまずポイントとなるのは、学生の中に「内定が確約された状態」であると認識してしまった方々がいた点です。採用企業は、内々定後の最終選考を経て正式な内定を通知する選考フローとしており、取り消しを行ったのはあくまで内々定者のみを対象としたと説明しましたが、それではなぜ、学生の中に内定が確約されたものと認識してしまった方々がいたのでしょうか。

採用企業は内々定後にも採用選考を継続していると説明しているものの、最終選考の評価により内々定を取り消す可能性がある点を学生に対して十分に説明できていなかったことが原因であったとされています。また、学生の主張(投稿)によると、採用企業より資格取得に向けた指示や、コミュニケーションツールを使用して会社公式の内々定者用グループの作成がなされていたとされています。このような採用企業の対応は、学生の内定に対する期待値を高くする言動であると言わざるを得ません。

たとえ学生に対して「内々定後に最終選考があること」を伝えていたとしても、「入社後に関する具体的な連絡・指示をする」「内定を確約するような言動をとる」等、学生が内定と誤認してしまうような選考フローやその他の対応を行った場合には、採用側の企業の責任が追及され得るものと考えます。

また、本件のもう1つの大きなポイントは、内々定を取り消した時期です。本事例では、最終的な内定者を確定したのは10月2日とされていますが、内々定の取り消しを行ったのは同日のそれほど前ではない時期と予想されます。一般的に内定解禁日とされる10月1日前後は、採用選考が終了している企業も多く、新卒採用に関しては、特に学生の将来を大きく左右する可能性があるにもかかわらず、この時点で内々定の取り消しを行うことは、学生の将来をあまりにも軽視していると非難されても仕方のないものと考えます。

さいごに

今回は、内定と内々定の違いに着目しながら、特に問題となるその取り消しについてみてきました。

内定と内々定を比較したとき、形式的には法的拘束力の有無という大きな違いがあります。

この点、求人者は、内定通知をもって求職者と労働契約を結ぶ以上、自社の都合のみで内定を取り消すことはできず、万が一取り消しを行う場合も、取り消しの要件を満たしているか個別に検討するとともに、求職者への十分な説明とフォローが必要となります。

一方、法的拘束力を持たない内々定は取り消し可能ですが、そもそもそれが客観的に「内々定」と言えるかについては、日ごろから内定との明確な区別をもって取り扱っているかが重要となります。また、法的拘束力を持たないことを理由にむやみに内々定を取り消す行為は、企業としてのイメージダウンにもつながります。

このように、法的拘束力の有無という違いはあっても、内定・内々定の取り消しはいずれも、その行為が求職者の将来に大きな影響を与えることから無制限に認められるものではない、という点において相違はありません。

これらの点は、採用活動において求人者には、法的拘束力の有無にかかわらず、求職者に対して真摯に向き合い、誠実に対応していく姿勢が求められている、ということを示しているのではないでしょうか。

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