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雇用・労働キーワード~現役法務が注目テーマを解説②「偽装請負」

キャリアリサーチLab編集部
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1 はじめに

専門性の高い業界や人材不足が深刻化している業界においては、自社の商品やサービスの効率的な運用を目的として、別の企業や個人(フリーランス)に業務を委託し、業務を受託した企業が雇用している労働者や、フリーランスの方に実際の業務を行ってもらうことがしばしば行われています。

この際、事業主は、労働者やフリーランスの方に対して適切な対応をとらないと、業務の委託が「偽装請負」であると判断されるおそれがあります。

「偽装請負」とはどういったものか、何が問題とされてきたのか、新たな問題点は、といった点について説明します。

2 偽装請負とは

「偽装請負」とは、かつては、労働者派遣事業(以下「派遣」といいます)との関係で論じられてきました(現在も問題として取り上げられることに変わりはありません)。

主に以下のような事情があったからと考えられます。

・かつては、労働者派遣法の定めにより、製造業においては労働者派遣が認められておらず(製造業を派遣先として派遣従業員を派遣することができなかった)、このため、派遣の代わりに請負契約を用いて、請負会社の従業員を製造業の現場にて稼働させた。

・製造物派遣が解禁(語弊がありますが)された後も、派遣を用いることへのコストについて意識されるようになり(派遣においては、派遣元が派遣従業員に対して社会保険や労働法規上の休暇制度その他福利厚生等を負担し、それが派遣先への派遣料に反映される)、派遣ではなく、相対的にコスト安の請負契約で代替できると判断された。

※ここで、請負と派遣の基本的な構造の相違を説明すると(定義等は割愛)、両者には、実際に現場で稼働する者に誰が指揮命令を行うのか、という点に大きな差異があります。

簡単な例を用いると、Aという会社がBという会社に対して、Aの工場内でとある製品を作ることを依頼しました。AとBの契約が派遣契約だった場合は、Aの工場内で実際に働くBの従業員に対して、Aが指揮命令を行うことができます。これに対して、AとBとの契約が請負であった場合は、AはBの従業員に対して指揮命令を行えません。従って、この場合はAの工場内ではあるけれども、BがBの従業員に対して指揮命令を行うか、またはBの従業員は誰の指揮命令も受けることなく業務にあたることになります。

上記のように、本来派遣であるべきところを請負にて代替する場合、実際のオペレーションでは、どうしても現場で柔軟に指揮命令を行う必要があります。そうすると現場では、発注者(上記の例のA)が(上記の例のBの従業員に対して)指揮命令を行うということが発生してしまうわけです。
これが、請負を偽装したという意味で「偽装請負」と言われてきたものです。

なお、派遣とは関係なく、他の契約形態でありながら請負を偽装することを広く「偽装請負」といいます。ここでは、従来の派遣との問題以外の、広義の偽装請負(雇用類似問題として扱うこともあります)に関して説明してまいります。

3 請負とは

請負とは、民法第632条において「当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。」と定められています。

請負契約の締結に際しては、発注者と受注者は、仕事の内容・納品日・料金・支払方法等、細かい内容を定めます。この請負契約に基づき、受注者は発注者から委託された業務を遂行します。業務の遂行にあたって受注者は、委託された仕事の完成が義務付けられています(仕事が完成することにより報酬を請求することができます)が、締結した請負契約の内容に相違さえなければ、業務遂行における方法(作業の順序・人員の配置等)は問われません。
つまり、受注者は業務の遂行にあたり発注者の指揮命令を受けずに、自己の裁量をもって業務を遂行することができます。

なお、請負とは異なりますが、一定の業務の遂行を相手方にお願いする契約として「委任(準委任)」というものがあります(民法第643条、656条)。この契約においても、受託者は委託者の指揮命令を受けないものと解されています。

4 偽装請負の問題点

偽装請負は、上述のとおり、広くは別の契約形態でありながら請負を装うことを言います。より正確に定義するなら、請負の特徴である、『受注者が指揮命令を受けない』という点に着目して、『請負と謳いながら受注者に指揮命令を行うこと』と言い換えることも可能ではないかと考えます(これ以外にもポイントはありますが、この点がもっとも重要と考えます)。なおこの観点からは、準委任契約を謳いながら受任者に対して指揮命令を行う契約形態も、違法な偽装請負と同視できると考えます。

そして、この偽装請負のもっとも大きな問題点は、実際に現場で働く労働者の利益が害される、という点にあります。

前述した指揮命令の面から考えると、労働者が指揮命令を受けて業務をこなす場合は、指揮命令を出す者との間に一般的には「雇用契約」を締結します。労働者派遣事業派遣においては、指揮命令を行う派遣先と労働者の間には雇用契約は存在しませんが、労働者は派遣元とは労働契約を締結しています。そして、雇用契約においては、労働者は雇用主から労働の反対債務としての賃金の支払いを受け、その他のさまざまな保護を受けることになります。

たとえば、雇用主は労働者に対して労働中に起きた災害に関して補償する義務や、労働者の健康に配慮し健康診断を行う義務等があります。このほかにも、雇用主からの解約(解雇)に制限があったり、契約期間を長期にするような施策もとられています。本来であれば反対債務さえ履行すればそれ以上の義務を負う必要のない雇用主側に更に義務を課しているのは、指揮命令を出す側と受ける側では、現実的には平等な立場にはなり得ないからです。これを労働基準法等の労働関連法規をもって修正し、両者の力関係を調整しているということです。

対して、契約関係に指揮命令を観念しない請負契約においては、このような法規の適用はありません(下請法による保護がありますが、労働法規と比べると保護の範囲は限定的です)。労働力を必要とする側から見れば制約のない契約形態である請負の方が利用しやすいことは明らかであり、雇用契約の代替として労働力を確保するために請負契約が利用されてきたのです。

指揮命令を行わなければ良いのであるから、「雇用ではなく請負にしてしまおう」という安易な発想から、通常は雇用とすべきような案件を請負契約で代替するケースが発生しました。結果として、業務遂行中に事故が発生した場合などでも労災が適用されなかったり、長期の契約期間が保証されない、といった弊害が出てしまうのです。本来守られるべきはずの労働者の適正な労働条件や安全衛生、労働環境等が守られない、という点が偽装請負の問題点といえるのではないでしょうか。

5 適法な労働者派遣・業務委託(請負・準委任)と違法な偽装請負の区別

まず、労働者派遣事業と請負の区別に関する基準は、厚生労働省の「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(昭和 61 年労働省告示第 37 号)
に定められていますが、ここでの説明は割愛します。

次に、適法な業務委託(前述のとおり請負のほか準委任契約も含み、近時、フリーランスと称されることもあります)と違法な偽装請負の区別について見ていきます。

これらは、指揮命令を受けない形態を想定していながら、実際には指揮命令を行っているのかどうかを基準に判断します。一般的には、以下のような要素を総合的に取り入れて、業務委託か雇用かを判断することになります(該当するほど雇用類似と判断される)。指揮命令の観点が多く取り入れられていることが分かります。

①仕事の依頼・業務従事の指示等に対する諾否の自由がない
②業務遂行上の指揮監督の程度が強い
③勤務場所・勤務時間が拘束されている
④報酬の労務対償性がある
※報酬が、仕事の成果ではなく働いたことそのものに対するものである場合や、
 報酬が時間給や日給によって定められているような場合を指す。
⑤機械・器具が会社負担によって用意されている
⑥報酬の額が一般従業員と同一である
⑦専属性がある
※「その会社の仕事しかしない」というような場合を指す。
⑧就業規則・服務規律の適用がある
⑨給与所得として源泉徴収されている

なお、厚労省においても「労働基準法研究会報告(労働基準法の「労働者」の判断基準について)」にて判断基準に言及していますが、大きな視点は異なりません。

6 新たな働き方と対応

働き方改革が進み、新しい形態の働き方が次々に出現しています。先述したフリーランス、ネット上で業務仲介を行うクラウドソーシングを利用して仕事に応募するクラウドワーカー、コロナ禍で数多くみられるようになったデリバリーサービスの配達員などが典型例でしょうか。

これらの方々に労災保険の適用があるかどうか、という議論がなされたことも記憶に新しいところです。一方で、正規雇用者のテレワーク・リモートワークの導入が一気に進み、ワークライフバランスの重要性が注目されるようになったことも事実です。

これまでフリーランスのメリットと言われてきた、労働時間や就労場所に関する裁量の大きさが雇用契約においても実現されつつあり、雇用とそれ以外の働き方に大きな違いがみられなくなってきた、という現実も直視しなければなりません。

今後は何が雇用で何が偽装請負だ、という議論を離れ、請負を偽装するメリットが無くなるよう本質的な仕事について着目することが重要です。フリーランスを代表として、今後次々に誕生するであろう新しい働き方に対する施策を考慮することが肝要なのではないでしょうか。

この点は、厚生労働省で「雇用類似の働き方に関する検討会」が開催された経緯もあり、今後の議論の継続に注目したいところです。

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