働く人の職業スキルに変化はあったのか 2013年・2021年調査の比較
はじめに
マイナビ「転職動向調査 2022年版(2021年実績)」によると、20~50代の正社員の転職率は、2020年はコロナの影響を受け減少したが、2021年には復調、過去6年間でもっとも高くなった。【図1】「転職をする」ことは、この数年間で、より身近な出来事へと変化しているように感じられる。
加えて、「人生100年時代」「定年延長」「ジョブ型雇用の台頭」「リスキリング」などの言葉も頻繁に耳にするようになり、これからの時代を生き抜くために、自らの職業スキルを磨かなければならないと考える人がより増えたのではないだろうか。
数年間の間で、世間の風潮と共に、働く人の職業スキルは高まっているのだろうか。
本コラムでは、それを明らかにするために、就業者の職業スキルに関する意識の変化に注目する。2013年に独立行政法人 労働政策研究・研修機構(以下、JILPT)で実施された「成人の職業スキル・生活スキル・職業意識」を参考にして、2021年12月に調査を実施し、2つの調査結果を比較した。
なお、マイナビで実施した調査は可能な限りJILPTの調査と調査対象を合わせるように以下のように調整した。
「自分の職業スキルが同業他社でも通用すると思う」人は
増えているか?
自分の職業的な能力は同業他社でも通用すると思うかについて聞いたところ、2021年のマイナビ調査では、「通用する計」が35.4%、「通用しない計」が30.8%と、ほぼ同等の割合となった。年代別では、50代で「通用する計」が39.9%ともっとも高くなったが、次いで20代が37.4%と、一概に年代が上がるにつれ職業スキルへの自信が上がる、という構造ではないようだ。
では、8年前の調査と比較すると、その数値は変化しているのか。
2013年の調査結果を見てみると、通用する計が34.4%、通用しない計が30.9%と、2021年調査とほぼ変わらない結果となった。【図3】
転職者は増加しているが、必ずしも自分の職業スキルに自信がある人が増加している訳ではないことがわかった。
就業者の経験している職業の比率は10年間でほとんど
変化していない
次に、複数の分野や仕事経験の有無について聞いてみると、2021年の調査では、「特定の分野で1つの仕事を長く経験している」がもっと高く41%、次いで「いろいろな分野でいろいろな仕事をたくさん経験してきている」が26.5%となった。【図4】
年代別の傾向を見ると、全体結果と比較して20代において「いろいろな分野でいろいろな仕事をたくさん経験してきている」比率が5pt以上低いが、これは年齢的な影響が大きいだろう。
先ほどの「自分の職業的能力は同業他社で通用すると思うか」を、職業経験別に掛け合わせてみると、「特定の分野でいろいろな仕事をたくさん経験してきている」人において「通用する計」が44.3%と、もっとも高くなった。一方、「いろいろな分野でいろいろな仕事をたくさん経験してきている」がもっとも低く、25.4%となった。【図5】
浅く広い仕事経験をしている人よりも、一定の専門性は担保した上でさまざまな仕事経験をしている人の方が、自分の職業能力を同業他社で活かせる自信を持ちやすいようだ。
では、8年前と比較すると、経験している職業の比率は変化しているのだろうか。
2013年の調査結果を見てみると、もっとも高いのが「特定の分野で1つの仕事を長く経験してきている」で42.0%、次いで「いろいろな分野でいろいろな仕事をたくさん経験してきている」が23.6%となり、2021年とほぼ変わらない結果となった。【図6】
経験できる仕事があまり変わらない中で職業スキルを向上させるには、仕事(本務)以外のどこかで、就業者自身が機会をつくる必要がでてくる。
スキルアップの必要性を感じ自主的に取り組んでいる人もいるかと思うが、多くの人が「同業他社で通用する」と感じられるまでの職業スキルを向上させるのは容易ではなさそうだ。
そう考えると、この8年間で自分の能力が同業他社に通用すると思う割合に変化がなかったのは、当然の結果かもしれない。
就業者の自信のある職業スキルとは・・
次に、就業者はどのような職業スキルに自信があるのか、具体的な項目を見てみる。
選択項目を一部変更しているため(※)、また、仕事上で必要とされる職業能力がこの8年間で多少変化があったことを鑑みると単純比較は難しいが、全体的に2021年調査の方が何かしらに「自信がある」と選択された割合は低めとなった。
しかし、自信のある職業能力の上位3項目は変化しておらず、もっとも高かったのが「人の話を聞くこと」「人と協同で作業すること」「計算したり、データを扱うこと」となった。
年代別の特徴として、50代は概して他年代より職業スキルに自信を持っていた。50代は管理職経験者も多く、マネジメント業務経験者が多いため、人との関わりに関する職業スキルへの自信が若年層より高くなったが、この傾向も8年前と変わらなかった。
変化が見られたことは、10年前は若年層ほど「この中にあてはまるものはない」が高かったが、現在は30代がもっとも高くなっており、年齢や社会人経験を重ねるほど自信のある職業スキルが多くなるという形が崩れていることであった。「ワーク・ライフ・バランスが推進されているのに、現在の方が20年前より生活満足度が低いのはなぜ?」でも同じような傾向が見られたが、近年転職やキャリアチェンジ、ビジネス環境の変化が激しくなったことで、年齢を追うごとに職業スキルへの自信が高くなる、という構造がなくなってきている可能性がある。
※マイナビで実施した調査は一部JIPT調査の選択肢と異なり、「書類を読むこと」「書類を書くこと」がない。上記表は該当の2項目を抜かして作成している。
さいごに
今回、2013年調査との比較を行ったことで、以下のことがわかった。
同業他社で通じると思う、と感じている割合はあまり変化していない
就業者の職業的経験もあまり変化が見られない
年齢を重ねるほど自信のあるスキルが増える、という構造が崩れていた
就業者は変化の激しい社会の中で、改革の必要性を迫られてはいるが、単に仕事を長く続けていても、大幅に職業スキルが向上するとは限らない環境にいた。
その環境下で生き残っていくために、自分自身でスキルを磨くことの必要性は理解しているが、“具体的に何をすればいいかわからない”“本業以外の十分な時間の確保が難しい”と感じている人も多いのではないだろうか。
「マイナビ 中途採用・転職活動の定点調査(2022年2月)」によると、リスキリングを実施している企業はまだ4割弱であった。【図8】
かつ、実施している企業のうち、非正社員に対するリスキリングは1割程度となっており、すべての就業者に職業能力を大幅に改善させるための環境はまだ十分に整っていない。【図9】
個々人で職業スキルを磨くことは重要ではあるが、企業もより一層積極的に就業者のスキル向上への策を講じることが就業者全体の職業スキル向上への近道になるのではと考えている。
キャリアリサーチLab主任研究員 早川 朋