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ワーク・ライフ・バランスが推進されているのに、現在のほうが20年前より「生活満足度」が低いのはなぜ?

2018年の働き方改革関連法案の施行やコロナ禍におけるリモートワーク推進などをきっかけにワーク・ライフ・バランスの推進ならびに新しい働き方への関心が高まっている。実際、全体的に労働時間は減少傾向にあり【図1】、以前に比べて、「(仕事だけでなく)生活が充実している」と感じる割合が増えているのではないかと予想していた。

常用労働者1人平均月間実労働時間数
【図1】

【図1】「毎月勤労統計調査」(厚生労働省)の結果よりマイナビ作成

しかし、2001年に独立行政法人労働政策研究・研修機構(以下、JILPT)で実施された「勤労意識に関する調査」を参考にして、2021年12月に実施した調査では、「現在の生活に満足しているか」を聞いたところ、60代を除いて、2001年よりも2021年のほうが全体的に「不満である」という回答が高い結果が得られた。

なお、結果については、調査概要(※1)のとおり、調査対象年齢が異なるため、全体数値ではなく性年代で提示している。そのうえで違いを述べると、2001年調査では、年齢を重ねるごとに「満足している」割合が高くなっているが、2021年調査では、30~40代(男性は30~50代)で一度、満足度が落ち込むところが目立つ特徴だといえる。【図2】【図3】。

調査概要
(※1)調査概要
現在の生活に満足しているか
【図2】
現在の生活に満足しているか
【図3】

2021年の結果にみられる「満足している」割合の低さは、コロナ禍でさまざまな活動が大きく制限されていることの影響も、もちろんあるだろう。しかしながら、世代によって波がある点(30代で減少に転じて、再度上がる)になにかしら意味があるように感じた。

コロナ禍の影響を考慮しながらではあるが、本コラムでは、生活全体の満足度のほか、「日々、従事している仕事」「家庭生活」に対する充実度を性年代別に2001年と2021年で比較していきたい。

2021年では男性の仕事に対する充実感は低いが、シニア世代の充実感は男女ともに高い

まず、「日々、従事する仕事」を見てみる。なお、「日々、従事する仕事」は『会社勤め・パート・自営の仕事などで、家事労働は含まない』と定義している。また、JILPTが実施した2001年調査では、回答者は全員が対象となっているが、マイナビが実施した2021年の調査では会社に雇用されている人のみが対象となっているため、単純な比較はできないことをご了承いただきたい。

2001年は男女ともに全世代で「充実感がある」が「充実感がない」を上回っている【図4】。一方で、2021年では女性は「充実感がある」が全世代で高いが、男性では60代を除くと「充実感がない」が上回っている【図5】。

2021年における男性の充実感のなさが際立つ結果となった。もちろんこれには2021年調査には自営者が含まれず、「会社に雇用されている人」のみの回答であることが少なからず影響している可能性はある。しかしながら、同じ条件で回答した女性は「充実感がある」が高いことを考えると、男性の充実感の低さは気になる点である。

【図4】
【図5】

「待遇面」は20年前も現在も『満足』『不満』が拮抗、「能力の発揮」については現在のほうが不満が高め

仕事に関して、「努力に見合った待遇(給与・昇進)」「自分の能力が十分に発揮できる」についての満足度を聞いた。

まず「努力に見合った待遇(給与・昇進)」については、2021年のほうが「満足していない」割合が高い傾向にあるものの【図7】、2001年もそれほど満足感が高かったわけではない【図6】。まだ当時は「年功序列」という考え方が浸透していた時期ではあるが、年齢ごとに満足感が高くなる、というわけではなかったようだ。

しかしながら、2001年はバブル崩壊からまだ10年も経っておらず、新卒入社者は「氷河期世代」と言われていた時代だ。そういう経済情勢も影響していたと考えらえる。

【図6】
【図7】

次に「自分の能力が十分に発揮できる」だが、こちらは2001年と2021年の違いがはっきりと現れた。特に男性に顕著だが、2001年は年齢ごとに満足している割合が高くなっている【図8】一方で、2021年は大きく不満というわけではないが、2001年にみられたような年齢を追うごとに満足感が高くなるという傾向はみられない【図9】。

1つの会社でキャリアを貫徹する場合は、経験や知見が自分の能力として「積み上げられ」、またその能力に応じた活躍の場が用意されていったと考えられるが、現在のように転職などによるキャリアチェンジが起こったり、そもそもビジネス環境の変化が激しかったりする場合、過去の経験や知見の蓄積が、必ずしも次の仕事で発揮できる能力とされないこともあるだろう。その結果、年齢を追うごとに満足感が高くなる、という波形が描けなくなっているのではないかと考えた。

【図8】
【図9】

では、2001年の労働環境はよくて、2021年は悪いのか、というとそういうことでもない。特に、シニア世代(60代)の意識は変化しているのではないだろうか。【図4】【図5】に戻ってみると、2001年では60代で「充実感がある」が大きく低下しているのに比べて、2021年では男女ともに60代で「充実感がある」がもっとも高くなっている。昨今は平均寿命が延び、「人生100年時代」などと言われているが、定年延長や再雇用などを含めて、シニア世代の活躍の場が、20年前よりも増えていることがこうした結果につながったと推察される。

「家庭生活」の充実度は20年前と現在では大きな差

次に「家庭生活」に関する充実度を見てみる。2001年は男女ともに全世代で「充実感がある」が「充実感がない」を上回っており、その割合も極めて高い【図10】。一方で、2021年では女性は「充実感が高い」が、男性では20代、60代を除くと「充実感がない」が上回っており、特に30代でその傾向が強い。家庭生活でも2021年はシニア世代の充実感が高い結果となった【図11】。

冒頭で述べたように、総労働時間は減少傾向にあり、明らかに2021年のほうが労働以外に避ける時間が増えているにも関わらず、60代を除くと2001年と比べて充実感に大きな差がみられた結果に違和感を覚えた。

【図10】
【図11】

仕事と生活の調和を示す「ワーク・ライフ・バランス」という言葉がある。内閣府が2007年に「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」を策定しているが、社会に広く浸透したのはここ数年のような感覚がある。そもそもこの憲章が策定されたのは、当時から少子高齢化や長引く不況を背景に、社員の仕事と家庭生活の両立が生産性の向上につながるという考えのもと、育児休暇の拡充や勤務時間の多様化といった社内制度の改革を企業に求めるものだった。また、文科省により、全国の国公立の幼稚園、小・中・高校、養護・盲・ろう学校において完全学校週5日制(土日休み)が実施されたのは、2002年4月からだが、当時は多くの企業では土曜日は出勤日だったはずだ。

労働時間が減少したにも関わらず、家庭生活への充実感が上がらない要因はさまざま考えらえるが、重要な点は「労働時間が減ることが、直ぐに家庭生活の充実につながるわけではない」という示唆が得られたことではないかと思う。

まとめ

ここまで、生活全体、仕事、家庭生活に関する満足度や充実感について、性年代別の状況を確認してきた。

かなり乱暴な言い方ではあるが、前回のコラムでも述べたように、20年前は一般的に「よい」とされるライフコースがあり、それに乗っていれば「よい人生を歩んでいる」と考えられるわかりやすさがあった。年齢を重ねるごとに、金銭面や所有物などもそうだが、仕事や地域での経験が積み上げ式に増えていく感覚があり、その結果、年代を追うごとに充実度や満足度が高くなる傾向がみられたのではないかと推測される。

しかし、現在のように価値観が多様化し、「一般によいとされるライフコース」が存在しない今、年齢を重ねても、金銭面においても、経験といった見えないものにおいても、必ずしも、積み上げ式に貯まっていかないという印象がある。不確定な要素の多い環境のなか、多くの分岐点で自分が納得できる選択を重ねていくしかない。積み上げ式でない人生のなかで、各々が「ケースバイケース」の選択ができるようになったときに、ほんとうの意味でのワーク・ライフ・バランスが実現するのではないかと思う。

今回のコラムでは2001年と2021年の結果を比較をしてきた。2001年当時の私は20代の大学生で、この20年間、ワーク・ライフ・バランスについては考え方が大きく変化してきたが、今の大学生が過ごす次の20年は、きっとさらに加速度的に変化していくことだろう。

最後に、大学生に実施した調査結果(※2)を紹介したい。「社会人になったあとの人生において<仕事・家族・友情・恋愛・自分の趣味>にそれぞれどの程度比重を置きたいか」を聞いた結果だ。全体が100%になるように、それぞれにかけたい割合を入力してもらっている。【図12】は、その割合の平均値をもとにグラフ化したものだ。やはり社会人といえば「仕事」のイメージが強いのか、その割合は最多だった。しかしながら、他の項目を並べると、結果はかなり拮抗していることがわかる。

さらに、それぞれにかけたい比重と、その割合になった理由を自由回答で入力してもらった結果が【表1】である。いずれのコメントも「仕事」を軸として「家庭」や「趣味」のバランスを考えながらコメントされている。

乱暴だが、「仕事」はお金を稼ぎ、商品やサービスを「生産する」行為であり、それ以外は「消費する」行為であると分けられることを考えると、社会人の生活において「仕事」の存在感が大きいのは自然なことだ。しかし、そのバランスは十人十色のようだ。

次の20年を担う人々が充実感を持ちながら日々を過ごしていける社会にしていくために、ワーク・ライフ・バランスを推進させるさまざまな法整備が進んだ今だからこそ、それぞれが自分にとって最適なバランスを見つけていく必要があるのだろう。

【図12】
【表1】

(※2)マイナビ大学生低学年のキャリア意識調査(2021年12月)

キャリアリサーチラボ 主任研究員 東郷こずえ