学校と社会を繋ぐ架け橋となり、子どもたちの未来を拓くキャリア教育を推進-キャリア教育コーディネーターネットワーク協議会 事務局長 小寺良介氏

キャリアリサーチLab編集部
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本稿は「小学生からのキャリア教育」連載企画の第4回です。みなさんは、キャリア教育において学校と社会をつなぐ存在である「キャリア教育コーディネーター」をご存じでしょうか。

今回はキャリア教育コーディネーターの育成と資格認定を通じて、全国の教育現場でキャリア教育の推進に取り組んでいる、キャリア教育コーディネーターネットワーク協議会の小寺事務局長に活動内容、学校や企業との連携事例、今後の展望についてお話を伺いました。

「小学生からのキャリア教育」シリーズ ほかの記事はこちらから

小寺良介(こでら りょうすけ)
一般社団法人キャリア教育コーディネーターネットワーク協議会事務局長
1968年に京都府京都市生まれ
1990年:株式会社 リクルート入社 
2006年:株式会社 リクルート退社
2006年:起業 
2011年:一般社団法人 キャリア教育コーディネーターネットワーク協議会立ち上げ時に入社 現在に至る。当協議会が受託する各種公共事業のプロジェクトマネジメントを担当。その他、小学校から大学までの授業コーディネート、企業のCSR活動の支援やキャリア教育プロジェクトの運営を行う。
キャリア教育アワード   審査委員
キャリア教育推進連携表彰 審査委員

キャリア教育を推進する専門人材の必要性が高まる

キャリア教育を推進する専門人材の必要性が高まる

質問:キャリア教育コーディネーターネットワーク協議会が立ち上がった背景について教えてください。

小寺:ニート・フリーター問題への対応をきっかけに、経済産業省が「地域自立・民間活用型キャリア教育推進事業」(3カ年)をスタートさせたのは2005年のことでした。この事業は、NPOや民間企業が持つノウハウやアイデアを活用して、初等中等教育段階でのキャリア教育を推進・定着させることを目的としていました。

しかし、3年間実施してみて、学校・企業それぞれに異なる指標があるため、ミスマッチになってしまうケースが少なくありませんでした。その結果を受ける形で、2008年から3カ年事業として始まったのが「キャリア教育民間コーディネーター育成・評価システム開発事業」です。この事業が直接的な契機となって、専門人材育成の必要性が明確化され、2011年にキャリア教育コーディネーターネットワーク協議会が設立されました。

教育現場にキャリア教育をより浸透させていくためには、学校と社会を繋ぎ、それぞれの考えや思いを通訳する機能を持ったコーディネーターという専門人材を配置するのが効率的かと思います。キャリア教育コーディネーターネットワーク協議会は、全国の指定育成機関が育成するキャリア教育コーディネーターに向けた資格認定試験を実施し、合格者を会員として組織化しています。

教育と産業界の接点を探る。キャリア教育コーディネーターの挑戦とやりがい

質問:キャリア教育コーディネーターを取得しようと思っている方はどのような方が多いのでしょうか。また、キャリア教育コーディネーターの活動内容について教えてください。

小寺:キャリア教育コーディネーターを養成する育成機関で働いている方や各地域で行政と企業との間を取り持って活動されている方が多くなっています。育成機関とは、学校と地域社会の教育資源を結びつけ、児童・生徒のキャリア教育を支援する専門家であるキャリア教育コーディネーターを養成するための機関です。

そこで、勤務されている方たちは、企業側の要望を聞いて、プログラムを共に企画・調整したり、学校側との橋渡しを行ったりしています。また、学校側の要望によってプログラムを作ることもあり、自治体と一緒になって活動したり、地域や産業界、学校・教員の間に立ってコーディネーターとして活動したりしています。

また、最近では、学校の先生方の受験が増加傾向です。自主的にプログラムを考え、自分たちでもプログラムづくりができるようになりたいと考える先生が増えているようです。一方で、企業側でも、学校のことをよく理解した上で、どういった教育支援ができるのかを検討しようという動きが出てきており、CSR担当の方などの受験が増えてきました。他には、学校のキャリア教育を支援する地域の方やキャリアカウンセラーの方たちの関心も高まっています。

キャリア教育コーディネーターの仕事は、専門的な知識に加え、プログラム提案力やコーディネート能力などさまざまな力が求められます。そう聞くと、大変そうに感じられるかと思いますが、非常にポジティブな仕事で、学校と企業のニーズをうまくマッチさせることができると、子どもたちや先生、企業の方、みんなが喜んでくれるので、大きなやりがいを実感できます。

もちろん、学校と企業のやりたいことが一致しないケースもありますが、それぞれの要望の接点を見つけて、お互いが納得できるプログラムが実現できたときは大きな喜びが味わえます。ただ、学校側や企業側の要望に応えることは重要ではありますが、もっとも大切なのは子どもたちを決して犠牲にしないことです。

最終的に子どもたちの学びにプラスにならないのであれば、プログラムの実施を踏みとどまることも選択肢として残し、とにかく子どもたちが生き生きと学べるキャリア教育プログラムづくりを進めています。

地域のニーズに応じて多彩なキャリア教育プログラムを支援

地域のニーズに応じて多彩なキャリア教育プログラムを支援

質問:小学生・中学生に対してキャリア教育コーディネーターが関わった具体的な事例について教えてください。

子どもたちが自ら社会とつながる。自分たちでつくる「お手紙プロジェクト」

小寺:東京都内のある小学校で、子どもたちが話を聞いてみたい人に自分たちで手紙を書いて社会人講話に来てもらうという「お手紙プロジェクト」を実施しました。以前は、私たちコーディネーターや先生方がお声がけした社会人に話をしてもらっていたのですが、子どもたちを観察していると、知らない大人が学校に来て、突然自分の話をするので、どうも話に身が入らない子が多いように感じました。

そこで、私たちが考えたのは、子どもたちが本当に話を聞きたい人に来てもらうというプログラムです。子どもたち自身で仕事について調べ、いったん自分がなりたい仕事を決めてもらい、話を聞いてみたい人を探します。そして、その人に手紙を書いて、学校に来て話をしてもらえるよう依頼していきました。もちろん、実際に来てもらえるかどうかや難易度などの判断は、コーディネーターや先生たちが行っています。

実際に手紙を送ってみると、謝礼も交通費も出せないのに、著名なピアニストやマンガ家、ホテルの料理長、警察官をはじめ、国際的に活躍されているアスリートや天文学者まで、多くの方が来てくださいました。

子どもたちが会いたい人に自分で声をかけて、実際に来ていただいたらお迎えをして、控え室でお茶出しをして、終わったらお礼の手紙を書いて…と、すべてを子どもたちにやってもらいます。社会人講話もこういったプログラムにすることで、子どもたちの反応も大きく変化します。自分たちが呼んだ人が来てくれるので、事前に積極的に情報収集もしますし、とにかく真剣度が増します。

この「お手紙プロジェクト」は、女子高でも実施しました。セキュリティの関係上、外部から人を招くことができないので、先生たちと相談し、子どもたちの保護者に協力を依頼することにしました。夏休みの宿題として、自分の保護者に「今、何の仕事をしているか、なぜその仕事を選んだのか、やりがいは何か」などを確認するインタビューを実施してもらいました。

そのインタビューの最後に、社会人講話の講師として学校に来ていただくことが可能かお聞きし、インタビュー後に来ていただけそうな方の情報を匿名で掲示し、子どもたちが来てほしいと思う人に投票してもらいました。

当日は8人の保護者に来ていただいたのですが、自分たちの友だちのお父さんやお母さんが講師として話をしてくれるので、みんな興味津々。参加できなかった保護者のみなさんからも「次回は自分も話したい」と大きな反響があったようです。このプログラムをきっかけに、家庭でも自然とキャリアについて話し合う機会が増えたようで、先生方も大きな手応えを感じてくださいました。

教室から社会へ。京都の小・中学生が取り組む課題解決プロジェクト

小寺:京都府の中学校では、京都を中心に活躍している企業・大学と連携して「未来の担い手育成プログラム」という課題解決型の学習(Project Based Learning)を中心とした事業を実施しています。教科の授業はもちろん大事ですが、それだけではなく社会の変化に対応できる学びを通じて、「未来の担い手」を育成しようという取り組みです。

府内の5校を、3年間の学びを見据えた「未来の担い手育成プログラム研究校」として指定し、各校でグループを作り、課題解決型の授業を通して、約1年かけて企業や大学が提示する課題を解決するアイデアを考えてもらいます。もちろん中学生にとってはビジネスの実態を理解することは難しいですが、それでもユニークな発想、斬新なアイデアがどんどん出てきます。

グループごとに考えたアイデアは、最後に校内で発表及び選考会等を実施し、そこで勝ち残ったチームが代表となって、研究指定校5校に加え、自由部門への応募校2~3校と合わせて発表内容を競います。自分たちのアイデアに自信があっても、他校のグループの発表を聞くと、さらに素晴らしいアイデアがあることがわかります。子どもたちにとってはたいへん刺激的な体験になっているのではないかと思います。

また、チームの中にはさまざまな子どもたちがいます。チームで動く経験をすることで自分の強みの理解にもつながりますし、そういう経験ができることも魅力の一つかと思います。

小学校でも地域の文化財を題材とし、解決策を考える授業を実施しています。先生方も答えをもっていない課題をどうすれば解決できるのかについて自分たちで考えるので、情報収集にも熱が入りますし、学校で学んでいることが社会と繋がっていることと理解できるので、教科の学習に対する意欲の向上にも繋がっているようです。

「お手紙プロジェクト」と「未来の担い手育成プログラム」に共通することですが、子どものうちに成功体験をもつということは、キャリア教育の面でとても重要だと思います。自分が会いたい人に手紙を書いて学校に来てもらったり、社会が直面する課題を解決できそうなアイデアを考えたりすることは、子どもたちにとっては宝物といえる経験になるのではないかと思います。

キャリア教育を通じ、新たな知識を主体的に習得する力を育む

キャリア教育を通じ、新たな知識を主体的に習得する力を育む

質問:小学生からのキャリア教育はこれからどのように変化するでしょうか。展望などございましたら教えてください。

小寺:今の子どもたちにとって一番重要なのは、自分で情報を集めて、アップデートしていける力なのではないかと思います。というのも、時代の変化が早すぎて、学んだことがあっという間に古い情報になってしまうからです。私たちの時代は、学校で学んだことは大人になっても変わりませんでしたが、今は違います。

だからこそ、自分で対応していける力が求められています。自分で課題を見つけられること、その課題を解決するための情報を主体的に自分で集められること、そして、その課題をどうすれば解決できるのかというアイデアを持てること。これがすごく大事だと思います。

それを一人でやることもあるし、チームで力を合わせて考えていくこともある。そうやって、課題を見つけて、考えて、行動していく。キャリア教育プログラムを通じて、そういうプロセスを経験することが、今の子どもたちには必要だと感じています。もちろん、 大人も学び続ける姿勢が求められています。大人が学び続ける姿を見せることで、子どもたちに「学び続けることって大切だよね」と伝えていけるからです。

私たちは、コロナ禍という未曾有の事態に直面し、社会の大きな変化を経験しました。きっと、これからもさまざまな変化が起こだろうと思いますが、それに振り回されることなく、自分の人生をどう生きていくのかを考え続けることが重要です。子どもたちが自分の人生に向き合い続けるために必要な力を身につけられるよう、キャリア教育を通じてサポートしていきたいと思います。

片山久也
担当者
キャリアリサーチLab編集部
HISANARI KATAYAMA

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