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ハラスメントとは?職場における影響やリスクを解説

キャリアリサーチLab編集部
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ハラスメント(harassment)とは直訳すると「嫌がらせをする」という意味で、身体的・精神的な攻撃などによって人に不快感を与える行為全般を指す。近年、職場内におけるハラスメントは増加傾向にあり、社会問題になっている。ハラスメントが起きると、職場の生産性が下がったり、業務に支障が出たりする可能性がある。

「セクシャルハラスメント」や「マタニティハラスメント」「カスタマーハラスメント」など、ハラスメントにはさまざまな種類があり、行った側に嫌がらせの意図はなくても、受け取る側が不快に感じた場合はハラスメントに該当する。しかし、人により受け取り方は異なるため、一定の客観性は必要になる。

ハラスメントの影響

職場でのハラスメントは個人の問題ではなく企業の問題である。ハラスメントが発生した場合、被害者だけではなく加害者、企業にも不利益が発生する。以下はそれぞれに与える影響である。

被害者

ハラスメントにより就労が阻害されることにより、今まで通りに能力を発揮することができなくなる。また、メンタルの悪化や精神疾患の発症など、精神や身体への悪影響により、休職や退職を余儀なくされる場合もある。たとえ問題が解決したとしても深刻な後遺症をもたらし、最悪の結果になってしまうケースもある。

加害者

ハラスメントの加害者は企業や職場における信用を失うことになる。被害者との話し合いで解決できたとしても、職場内での評判を回復させることは難しいだろう。また、悪質と判断されると減給や降格、解雇など懲戒処分の対象となったり、被害者から損害賠償請求された場合や刑法上の犯罪に該当する場合は刑事罰を科されたりする可能性もある。

企業

生産性の低下や優秀な人材の流出につながるほか、「ハラスメントが行われている企業だ」という評判が広まると企業のブランドイメージが低下し、採用にも悪影響を与える。

ハラスメント発生時には企業が負う法的責任があり、深刻な状況の場合は使用者責任や不法行為責任といった法的責任を問われる可能性もある。被害者から損害賠償を請求されれば金銭的な損失も大きくなる。

ハラスメントの種類

ハラスメントは40種類以上あるといわれている。「職場における3大ハラスメント」と呼ばれるハラスメントと、代表的なものをいくつか紹介する。

職場における3大ハラスメント

以下のハラスメントは職場で発生しやすいといわれているものだ。「パワーハラスメント」は職場内の地位を元に行われやすく、「セクシャルハラスメント」と「マタニティハラスメント」は、性別役割分業意識に基づいた言動から起こりやすく、女性が被害を受けやすい傾向がある。

パワーハラスメント(パワハラ)

職場における上司と部下といった優越的な関係を利用し、精神的・肉体的な苦痛を与え職場環境を悪化させる行為。2020年に「労働施策総合推進法」が施行され、すべての企業にパワハラ対策が義務付けられた。厚生労働省によると以下の6つの行為類型に分類される。

  • 身体的な攻撃(暴行・傷害)
  • 精神的な攻撃(脅迫・名誉棄損・侮辱)
  • 人間関係からの切り離し(仲間外れ・無視・隔離)
  • 過大な要求(仕事の妨害・業務上明らかに不要なことや不可能なことの強制)
  • 過小な要求(業務上合理性なく能力とかけ離れた程度の低い仕事を命じる・仕事を与えない)
  • 個の侵害(私的なことに立ち入る)

以上のように定義づけされていてもパワハラかどうかの判断は難しいため、事実確認と現場に合わせた判断が必要となる。

セクシャルハラスメント(セクハラ)

身体的な接触や言葉による性的な嫌がらせのこと。「性的な言動」により労働者が不利益を受けたり、就業が阻害されたりすることを指す。男性が加害者で女性が被害者であるパターンだけではなく、逆の場合や同性間によるものも該当する。

セクハラは「対価型」と「環境型」の2つに分けられる。

  • 対価型セクシャルハラスメント:従業員が性的な言動を拒否したことによって、解雇・降格・減給などの不利益を与えるタイプ
  • 環境型セクシャルハラスメント:従業員の意に反する性的な言動により、業務に支障が生じること

被害者側の主観を重視するものの一定の客観性は求められる。一般的に、意に反する身体の接触により精神的苦痛を被った場合はセクハラと判断される。

マタニティハラスメント(マタハラ)

妊娠・出産をした女性や育児休業等を申請・取得した従業員に対する嫌がらせや、就業環境を害する行為をすること。具体的には、育児休業を取得することを理由に、役職のはく奪や派遣社員との契約を更新しないなどがあげられる。また、育児休業等を取得・申請した男性が受ける不当な扱いや嫌がらせを受けることを「パタニティハラスメント」と呼ぶ。

マタニティハラスメントは以下の2つに分けられる。

  • 制度等のサポート利用に関する嫌がらせ型:出産・妊娠に関する制度、措置の利用を阻害する。または利用に関する言動により就業環境が害されること
  • 状態に対する嫌がらせ型:女性従業員の妊娠や出産に関する言動により就業環境が害されること

業務の安全配慮等から、ある程度調整が可能な休業について、その時期をずらすことができるか可能かを従業員に確認する行為はハラスメントとして禁止されているわけではない。

そのほか代表的なもの

カスタマーハラスメント(カスハラ)

顧客が企業に関して理不尽なクレーム・言動をすること。また、その理不尽なクレーム・言動により従業員の就業環境が害されるものを指す。

たとえば、大声での威圧や胸ぐらをつかむという暴力的な方法を使った要求、脅しや土下座の強要、侮辱的な方法による要求などがカスハラに該当する。厚生労働省の「職場のハラスメントに関する実態調査」によるとパワハラ、セクハラに続いて相談案件が多く、近年増加している傾向にある。

正統なクレームとカスハラの違いの見極めが難しいため、あらかじめ判断基準を確認しておく必要がある。顧客からクレームを受けた際には、事実関係を確認し、以下の2つを基準に区別をする。

  • 顧客の要求内容が妥当か
  • 要求を実現するための手段が社会通念に照らしたときに相当か

企業に過失がある場合は、真摯に対応すべきだ。しかし、企業に一切の過失がなく、理不尽な言いがかりに過ぎない場合はカスハラとして対応する必要がある。また、企業に過失があり、顧客の訴えに一貫性があったとしても、従業員への暴言・暴力などがあった場合にはカスハラとして対応する必要がある。

企業は安全配慮義務により従業員をカスハラから守る義務がある。カスハラを放置すると「従業員の安全を守らなかった」として安全配慮義務に違反し、ハラスメントを受けた従業員から損害賠償を請求される場合もある。

時短ハラスメント(ジタハラ)

労働時間の短縮によって生じるハラスメントのこと。従業員に対して労働時間を削減する対策を示さずに、社員に定時での退社を強いることを指す。業務が終わっていないのに、無理な帰宅を促したり、業務の短縮により仕事を終わらせることができない社員を理不尽に叱責したりすることがあげられる。

ジタハラは政府が推進する「働き方改革」が大きく関係している。長時間労働が問題視され、労働時間短縮に取り組む企業が増えた。定時退社の推進は喜ばしいことだが、今まで残業や休日出勤が常態化していた企業が無理に取り入れることにより、現場で摩擦が起き、ジタハラが発生するケースが増えている。ワークライフバランスの向上のためとはいえ、かえって現場の負担が増している企業もあるのが現状だ。

労働時間の短縮は個人ではなく企業で取り組むべき問題である。現場の状況を把握したうえで、対策を企業が主導で考えることが求められる。

アルコールハラスメント(アルハラ)

飲酒に関する迷惑行為全般のことを指す。飲酒やイッキ飲みの強要はエスカレートすると命を奪う恐れがある。イッキ飲み防止連絡協議会は以下の5つを主要なアルハラとして指定している。

  • 飲酒の強要
  • イッキ飲ませ
  • 意図的な酔いつぶし
  • 飲めない人への配慮を欠くこと
  • 酔ったうえでの迷惑行為

死亡事件により、日本全国に広まったアルハラだが、職場の文化として飲み会が根付いている企業も少なくはない。飲み会などはコミュニケーションを取るうえで有効な場になることもあるが、アルコールが入ることによりハメを外しすぎてしまう場合もある。

アルハラに関する社内研修を実施したり、ルールをつくったりするなどして、お酒とうまく付き合っていくことが必要だ。また、イッキ飲み防止連絡協議会は、毎年イッキ飲み・アルハラ防止キャンペーンを開催しており、合わせてご確認いただきたい。

モラルハラスメント(モラハラ)

相手の嫌がるような言動や態度により、人格や尊厳を傷つけることを指す。「モラル」は道徳観や倫理観のことで「モラルハラスメント」とは精神的な嫌がらせを意味する。具体的には無視や暴言、人格の攻撃、理由もなく不機嫌な態度を取るなどの行為が多い。

直接暴力を受けるのとは違い、言動や態度によって行われることが多いため第三者に気づかれにくく、気づいたときには被害者が大きな精神疾患を抱えていることも少なくない。

スメルハラスメント(スメハラ)

臭いによって周囲に不快感を与えることを指す。体臭や口臭、アロマ、香水、柔軟剤、生乾きの洗濯物の臭いなど対象は多い。スメハラは個人の体質にかかわるセンシティブな面があり、臭いの元となる本人に悪意がなく無自覚であることも問題解決を難しくさせる原因になっている。

リストラハラスメント(リスハラ)

リストラの対象者になっている従業員に対して、企業が嫌がらせを行い自主退職するように仕向けることを指す。具体的には、上司や同僚によるパワハラ、セクハラや本人が望まない部署への人事異動を命じるなどストレスを与えて会社に居づらくなるような状況をつくり自主退職へ追い込む。

セカンドハラスメント(セカハラ)

ハラスメントの被害者が二次的な被害を受けること。具体的には被害者が相談した際に、被害を信じてもらえない・軽視される、被害者が逆にバッシングを受ける、価値観を押し付けられる、加害者をかばう、相談内容が加害者に伝わってしまうなどがあげられる。

ケアハラスメント(ケアハラ)

働きながら介護をしている従業員に対して嫌がらせをしたり、必要な制度を利用させなかったりするハラスメントのことを指す。介護が理由で残業ができなかったり、休まなければならなかったりする従業員に嫌がらせをする、人事評価を下げる、各種サポートの取得を阻害するなどがあげられる。

就活終われハラスメント(オワハラ

新卒採用において、企業が内々定を出した学生に就職活動中に圧力をかける行為のこと。就職活動を終えるように迫ったり、内定を出す条件として課題や合宿など長期的に学生を拘束したりする行為があげられる。

ハラスメントの現状

近年、企業内におけるハラスメントは増加傾向にある。厚生労働省が2023年12月~2024年1月に行った「職場のハラスメントに関する実態調査」によると、過去3年間に、企業に相談があったハラスメントの割合は上から順に、パワハラ(64.2%)、セクハラ(38.5%)、顧客等からの著しい迷惑行為(カスハラ)(27.9%)、妊娠・出産・育児休業等ハラスメント(10.2%)とある。

相談件数の推移はセクハラのみ「減少している」がもっとも高く、それ以外は「件数は変わらない」がもっとも多かった 。

過去3年間のハラスメントの相談有無(ハラスメントの種類別)/厚生労働省 職場のハラスメントに関する実態調査
過去3年間のハラスメントの相談有無(ハラスメントの種類別)/厚生労働省 職場のハラスメントに関する実態調査

ハラスメントは時代を追うごとに内容が変わってきている。たとえば、パワハラは、身体的な暴力が多かったのに対して近年では、言葉による嫌がらせや業務の範疇を超えた要求をするといった精神的なものに変化してきている。

ハラスメントの多様化と複雑化により、一見するとハラスメントなのか第三者が判断しにくいケースも増えてきている。

ハラスメントの防止策

厚生労働省は職場におけるハラスメントを防止するために、事業主が講ずるべき措置として以下のものを提示している。

事業主の方針等の明確化・周知・啓発

職場におけるハラスメントの内容と、ハラスメントを一切許さない方針を明確化し、従業員に向けて周知する。

相談・苦情に応じる体制の整備

相談対応のための窓口や担当者をあらかじめ定めておき、従業員に向けて周知する。

ハラスメントが発生した場合の迅速・適切な事後対応

事実関係を迅速・適切に把握し、関係者対する措置を適性に行う、再発防止に向けた措置を講じる。

その他

関係者のプライバシー保護に必要な措置を講じる。相談したこと・事実関係の確認に協力したことを理由に不利益な取り扱いを行ってはならない旨を定め、従業員に周知・啓発する。

まとめ

ハラスメントは絶対に許されないことであり、どのような企業においても対策が必要だ。ハラスメントは加害者個人が要因になる場合と組織の構造が容認になる場合がある。

とくに日本では構造的なハラスメントが多いといわれており、組織文化や組織風土になじめないと排除されやすく、結果として構造的なハラスメントが生じる。ハラスメントを発生させないようにするには断固としてハラスメントに反対するという姿勢と、加害者に対する適切な処置が重要だ。

組織の文化や風土を簡単に変えることは難しいが、企業はできることを少しずつ進めて、環境を整備することが求められる。

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