マイナビ キャリアリサーチLab

パワハラ防止法の施行から2年
職場におけるハラスメントの現状と対策を探る

吉本隆男
著者
キャリアライター
TAKAO YOSHIMOTO

2019年5月に改正労働施策総合推進法(通称:パワハラ防止法)が成立して3年が経過した。大企業は2020年6月に施行され、パワーハラスメント防止のための雇用管理上の措置が義務付けられた(中小企業では2022年4月に施行)。また、男女雇用機会均等法などの他の法律もあわせて改正され、セクハラやマタハラなどを含めたハラスメントへの対応が強化されている。今回は、職場におけるさまざまなハラスメントの現状について、政府統計の結果をお示しすると共に防止に向けた対策を探ってみたい。

セクハラは減少傾向だが、カスタマーハラスメントが増加

厚生労働省は、職場におけるハラスメントを次のように定義している。

・パワハラとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内での優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与えるまたは職場環境を悪化させる行為
・セクハラとは、「職場」において行われる「労働者」の意に反する「性的な言動」により、労働者が労働条件について不利益を受けたり、就業環境が害されること
・妊娠・出産等ハラスメント(いわゆるマタハラ)とは、「職場」において行われる上司・同僚からの言動(妊娠・出産したこと、育児休業等の利用に関する言動)により、妊娠・出産した「女性労働者」や育児休業等を申出・取得した「男女労働者」等の就業環境が害されること
・カスハラとは、顧客や取引先からの暴力や悪質なクレーム等の著しい迷惑行為のこと

厚生労働省が2021年4月に公表した「職場のハラスメントに関する実態調査」によると、過去3 年間に各ハラスメントの相談があった企業のうち、最終的にハラスメントに該当する事案があったと回答した企業は、パワハラが70.0%、セクハラが78.7%、妊娠・出産・育児休業等ハラスメントが47.9%、介護休業等ハラスメントが21.9%、顧客等からの著しい迷惑行為(いわゆるカスタマーハラスメント=カスハラ)が92.7%という結果になっている。

どのハラスメントも、当事者の理解不足や誤解によるものもあると考えられるため、相談があったすべての事案がハラスメントに該当するわけではないが、パワハラ、セクハラ、カスハラについては高い割合で、ハラスメントに該当すると判断されているようだ。

調査結果を詳しく見てみると、セクハラに関しては「件数は変わらない」よりも「減少している」と答えた割合が高いので減少傾向にあると言えそうだが、パワハラに関しては、「増加している」と「件数は変わらない」の合計が33.8%と、「減少している」の18.4%と比較すると割合は高く、今もなお課題が残ることが想像される。【図1】

過去3年間のハラスメント該当件数の傾向/厚生労働省「職場のハラスメントに関する実態調査」
【図1】過去3年間のハラスメント該当件数の傾向

就業環境を害するさまざまなハラスメント事案

では、ハラスメントに該当すると判断された事案について、どのような行為が行われたのか、具体的な内容について見ていこう。
まず、パワハラに該当すると判断した事例があった企業における事案の内容としては、「精神的な攻撃」(74.5%)がもっとも高く、「人間関係からの切り離し」(20.6%)が続いた。【図2】

過去3年間のパワハラ該当事案/厚生労働省「職場のハラスメントに関する実態調査」
【図2】過去3年間のパワハラ該当事案

セクハラの該当事案の内容としては、「性的な冗談やからかい」(56.5%)がもっとも高く、「不必要な身体への接触」(49.1%)、「食事やデートへの執拗な誘い」(38.1%)が続いた。【図3】

過去3年間のセクハラ該当事案/厚生労働省「職場のハラスメントに関する実態調査」
【図3】過去3年間のセクハラ該当事案

妊娠・出産・育児休業等ハラスメントの該当事案の内容としては、「上司が制度等の利用の請求や制度等の利用を阻害する言動を行う」(42.9%)がもっとも高く、「繰り返しまたは継続的に嫌がらせ等を行う」(25.3%)が続いた。【図4】

過去3年間の 妊娠・出産・育児休業等ハラスメントの該当事案 /厚生労働省「職場のハラスメントに関する実態調査」
【図4】過去3年間の 妊娠・出産・育児休業等ハラスメントの該当事案

顧客等からの著しい迷惑行為(カスハラ)の該当事案の内容としては、「長時間の拘束や同じ内容を繰り返す等の過度なクレーム」(59.5%)がもっとも高く、次いで「名誉棄損・侮辱・ひどい暴言」(55.7%)が高い。【図5】

過去3年間のカスハラ該当事案/厚生労働省「職場のハラスメントに関する実態調査」
【図5】過去3年間のカスハラ該当事案

介護休業等ハラスメントでは、「上司が制度等の利用の請求や制度等の利用を阻害する言動を行う」(45.0%)がもっとも高く、「同僚が繰り返しまたは継続的に制度等の利用の請求や制度等の利用を阻害する言動を行う」(30.0%)が続く。【図6】

過去3年間の介護休業等ハラスメント該当事案/厚生労働省「職場のハラスメントに関する実態調査」
【図6】過去3年間の介護休業等ハラスメント該当事案

また、コロナ禍によりテレワークを導入する企業が急速に拡大したことで、新しいタイプのハラスメントとしてリモートハラスメント(リモハラ)が増えているようだ。東京大学医学系研究科が2020年11月に実施した「新型コロナウイルス感染症に関わる全国労働者オンライン調査」によると、「業務時間外にメールや電話等への対応を要求された」労働者は21.1 %、「就業時間中に上司から過度な監視を受けた(常にパソコンの前にいるかチェックされる、頻回に進捗報告を求める等)」労働者は13.8%だったことがわかっている。【図7】

リモートハラスメントの内容別経験頻度/東京大学医学系研究科「新型コロナウイルス感染症に関わる全国労働者オンライン調査」
【図7】リモートハラスメントの内容別経験頻度

同調査では、「在宅勤務をしている労働者に対する配慮やリモート環境下で起こりやすいハラスメント(リモハラ)に特化した教育の普及、防止対策を徹底する必要がある」と、新型コロナウイルス感染症流行下の新たな労働環境の課題を指摘している。

問題解決に向けた職場での取り組み状況

ここからは、厚生労働省の同調査の中から労働者側の調査結果にも目を向けてみよう。
過去3 年間に勤務先で受けたハラスメントとして、「パワハラ」、「セクハラ」、「顧客等からの著しい迷惑行為」の中ではパワハラ(31.4%)がもっとも高く、次いで顧客等からの著しい迷惑行為(15.0%)が高かった。過去3 年間のパワハラ経験者の割合については、2016年調査における同割合が32.5%であったので、多少は減少したが、大きな違いは見られない。【図8】

過去3年間にハラスメントを受けた経験/厚生労働省「職場のハラスメントに関する実態調査」
【図8】過去3年間にハラスメントを受けた経験

では、ハラスメント事案を確認した後に、勤務先はどのような対応を取ったのか。
パワハラでは「特に何もしなかった」(47.1%)がもっとも高く、セクハラでは「あなたの要望を聞いたり、問題を解決するために相談にのってくれた」(34.6%)がもっとも高かった。また、「相談したことを理由としてあなたに不利益な扱いをした」は、セクハラの方がパワハラより7.3 ポイント高かった。【図9】

パワハラ・セクハラを受けていると認識したあとの勤務先の対応/厚生労働省「職場のハラスメントに関する実態調査」
【図9】パワハラ・セクハラを受けていると認識したあとの勤務先の対応

顧客等からの著しい迷惑行為(カスハラ)については、「あなたの要望を聞いたり、問題を解決するために相談にのってくれた」(48.6%)がもっとも高く、「事実確認のためにヒアリングを行った」(32.2%)が続いた。【図10】

カスハラを受けていることを認識したあとの勤務先の対応/厚生労働省「職場のハラスメントに関する実態調査」
【図10】カスハラを受けていることを認識したあとの勤務先の対応

さらに、各種ハラスメントの予防・解決に向けて企業は具体的にどのような取り組みを行っているのか。勤務先が行うハラスメントの取り組み内容としては、「ハラスメントの内容、行ってはならない旨の方針の明確化と周知・啓発」(62.9%)がもっとも多く、次いで「相談窓口の設置と周知」(52.1%)が多かった。【図11】

勤務先の取り組み内容/厚生労働省「職場のハラスメントに関する実態調査」
【図11】勤務先の取り組み内容

基本的な対策としては、ハラスメントに対する企業の方針を明確にし、そのことをさまざまな方法で周知する、また必要に応じて研修などを通じて啓発活動を実施し、相談窓口などを設置するなどの方法で、ハラスメント防止をはかっているようだ。

ハラスメント防止の課題と対策とは

職場で発生したハラスメントを放置することは、企業経営においてはさまざまなリスクにつながる。従業員のモチベーションが低下し、職場全体の生産性が低下する。防止に向けた適切な対策を怠ると、職場環境が悪化し離職者を発生させる可能性や、最悪の場合は損害賠償問題に発展するおそれもある。

一方で、ハラスメントの防止と対応、対策には課題もある。一般社団法人日本経済団体連合会(経団連)の調査によると、ハラスメント防止・対応の課題の上位 3つは、「コミュニケーション不足」が 63.8 %、次いで「世代間ギャップ、価値観の違い」が 55.8 %、「ハラスメントへの理解不足(管理職)」が 45.3%となっている。【図12】

ハラスメント防止・対策の課題/一般社団法人日本経済団体連合会「職場のハラスメント防止に関するアンケート調査」
【図12】ハラスメント防止・対策の課題

では、コミュニケーション不足を補うために具体的に企業はどのような取り組みを行っているのか。同調査によると、「コミュニケーション能力向上のための研修」が 53.3 %、「1on1ミーティングの実施」が 51.0 %と、半数の企業が研修や1対1の面談を実施しているようだ。テレワークの増加によって社員同士のコミュニケーションの機会が減少したことを補うため、40%の企業がオンラインを含む社内イベントを実施している。【図13】

コミュニケーション活性化のための取り組み/一般社団法人日本経済団体連合会「職場のハラスメント防止に関するアンケート調査」
【図13】コミュニケーション活性化のための取り組み

また、ハラスメントについての理解を促進するための取り組みは、「ハラスメントに関する集合研修の実施」が73.5%ともっとも多く、次いで「ハラスメントに関するeラーニング実施」が66.5%、「ハラスメント事案等の共有」が61.8%という結果になっている。【図14】

ハラスメント理解促進のための取り組み/一般社団法人日本経済団体連合会「職場のハラスメント防止に関するアンケート調査」
【図14】ハラスメント理解促進のための取り組み

職場におけるハラスメントは、上司から部下へ、あるいは部下から上司へ、そして従業員間と、さまざまなケースがあるが、業務上必要な指導をパワハラと誤解するなど、同僚の言動が本人の意に沿わないというだけでハラスメントを主張するケースもあるようだ。こういった事案の発生を少しでも減少させるためには、最低限、全従業員がハラスメントに対する正しい理解を持つことが求められる。また、テレワークの増加によりますます従業員間のコミュニケーション機会が失われつつある中で、従業員間の信頼関係を構築するために、職場におけるコミュニケーションをこれまで以上に密にするさまざまな工夫が引き続き求められている。


著者紹介
吉本 隆男(よしもと たかお)キャリアライター&就活アドバイザー

1960年大阪生まれ。1990年毎日コミュニケーションズ(現:マイナビ)入社。各種採用広報ツールの制作を幅広く手がけ、その後、パソコン雑誌、転職情報誌の編集長を務める。2015~2018年まで新卒のマイナビ編集長を務め、2019年からは地域創生をテーマとした高校生向けキャリア教育プログラムおよび教材の開発に従事。2020年定年退職を機にキャリアライター&就活アドバイザーとして独立。
日本キャリア開発協会会員(CDA)、国家資格キャリアコンサルタント。著書に『保護者に求められる就活支援』(2019年/マイナビ出版)

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