職場における「間食」がもたらすもの【第2回】―“共食”が育む職場のつながり―

早川 朋
著者
キャリアリサーチLab主任研究員
TOMO HAYAKAWA

第1回では、職場における間食が、働く人のウェルビーイングやキャリアの充実に静かに寄与している可能性を示した。

職場のちょっとしたおやつの時間に、実はおなかを満たす以上の役割があるのではないか——そんな視点が浮かび上がってきた。

そこで本稿では、その視点を個人から組織の関係性へと広げる。仕事の合間に“誰かと一緒に”間食をするという、ごく日常的でささやかな行為が、職場におけるコミュニケーションや同僚とのつながりにどのような影響を持ち得るのか。

間食の「共食(誰かと一緒に食べること)」という身近な行動を手がかりに、職場文化の深層を読み解いていく。

先行研究が示す「共食」の役割

職場における間食の共食がもたらす意味を考えるにあたり、まずは「共食」という概念がどのように捉えられ、どのような効果が指摘されてきたのかを、先行研究から整理しておきたい。

共食・孤食研究の原点:足立己幸氏が示した「共食」という視点

「共食」「孤食」という言葉を、生活実態の分析と研究の両面から体系化し、社会に広く提示してきたのが、食生態学者の足立己幸氏である。足立氏は1970年代より、ひとりで食べる行為を「孤食」、誰かと一緒に食べる行為を「共食」と名付け、両者を対比する研究と実践を長年にわたって積み重ねてきた。

足立氏の共食研究の特徴は、「一緒に食べるかどうか」という表層的な行動の違いにとどまらず、その背後にある生活構造や人間関係、価値観にまで視野を広げてきた点にある。現在、足立氏は共食を「生活や社会活動をいっしょに(共有)しているだれかと、食行動を共有すること」と定義している。この定義が示すように、共食とは単なる同席の食事ではなく、時間や空間、関係性を含めた「生活の一部の共有」として捉えられている。

足立氏は、共食が栄養状態の改善に寄与するだけでなく、心の安定や人とのつながり、生活リズムの形成、さらには地域や社会の循環を良好にする役割を持つと論じている。食事は個人の身体を支える行為であると同時に、人と人とを結びつける社会的な営みでもある。共食とは、そうした複合的な価値を内包した日常行為であり、孤食が進むことで生じるさまざまな課題を照らし出す対概念として位置づけられてきたのである。

職場における共食と共同性:山本圭三氏による実証的検討

こうした共食の意義は、家庭や地域に限らず、職場という場においても注目され始めている。山本(2024) は、職場における共食と「共同性」や「職業的充実」との関係に着目し、若年層を対象とした調査結果を用いて、その関連性を検討している。

分析の結果、職場で共食を経験している人ほど、職場内の共同性を高く評価する傾向が見られることが示された。さらに共食は、職場の雰囲気や人間関係といった側面にとどまらず、職場に対する評価や職務態度、仕事に対する価値意識といった点にも、独自の効果を持つ可能性があることが明らかにされている。

ここで注目すべきは、共食が必ずしも業務上の目的を伴う行為ではない点である。会議や打ち合わせのように成果を求められる時間ではなく、食事という一見「仕事の外側」にある時間が、結果として職場への帰属意識や働きがいの感覚を下支えしている可能性が示唆されている。日常の中で繰り返されるささやかな食の共有が、職場という集団における関係性の質や、働くことの手応えを静かに底上げしていると捉えることができるだろう。

このように先行研究からは、共食が人と人とのつながりを育み、職場における共同性や主観的な充実感にポジティブな影響を与えることが示されている。ただし、これらの研究で主に扱われてきたのは、昼食や夕食といった、一定の時間と場を共有する「まとまった食事」である。

では、食事よりもさらに小さく、短時間で完結する「間食」であっても、同様の現象は起こり得るのだろうか。以降では、この問いを起点に、職場における「間食の共食」という、より小さな食の共有に目を向ける。

職場における間食の「共食」文化の現在地

まず、実態から確認する。職場で間食をする人のうち、「いつも一人で食べる」と「誰かと食べる」はおおよそ半々。

第1回のコラム で業種によって誰かと一緒に間食をする割合に違いがあることを紹介したが、性年代別や在宅勤務の有無による大きな差は見られなかった。【図1】

【図1】間食を誰かと食べる割合/「職場における間食に関する調査」
【図1】間食を誰かと食べる割合/「職場における間食に関する調査」

業種において差が見られたのは、その業種ごとに勤務環境や休憩スタイルが似る傾向があるため、間食の共食割合により強く影響が出ていると考察できる。

次に、職場における間食の共食 が、どの程度“文化”として根づいているかを習慣・制度の側面から見てみたい。「私の職場では、メンバーがおかし等を振舞っている」という項目では、定着していると回答した割合は31.1%(定着している6.2%+ある程度定着している24.9%)であった【図2】。

【図2】職場でメンバーがおかし等を振舞っている/「職場における間食に関する調査」
【図2】職場でメンバーがおかし等を振舞っている/「職場における間食に関する調査」

また、「“おやつタイム”のようなくつろげる機会を設けている」職場は18.4%(定着している3.6%+ある程度定着している14.8%)【図3】。

【図3】職場で”おやつタイム”のような、少しくつろげる機会を設けている/「職場における間食に関する調査」
【図3】職場で”おやつタイム”のような、少しくつろげる機会を設けている/「職場における間食に関する調査」

これらを見ると、間食の共食文化 が習慣・制度的に整えられている職場はまだ多くない。言い換えれば、多くの職場では、間食共食の実施はメンバー個人の裁量や、その場の雰囲気に委ねられており、自然発生的・自律的に成り立っている状況がうかがえる。

間食共食の有無別 職場の雰囲気・同僚との関係性

本章では、職場における「間食の共食」が、同僚との関係や職場の雰囲気にどのような違いをもたらすのかを見ていく。

ここで扱う“同僚との関係”に関する指標は、JILPT「中小企業と若年人材」 で使われている項目から、職場の雰囲気や同僚との関係性を測るもののみを抽出した。

共食する人は、しない人よりも職場の雰囲気や関係性を良好と感じている

まず、間食を「共食する人」と「間食をしない+一人で間食(孤食)する人」とで比べると、すべての項目で共食する人 のほうがポジティブな評価が見られた。本コラムでは特に差が大きかった4つの項目の結果を紹介する【図4】。

【図4】職場の雰囲気や同僚との関係性/「職場における間食に関する調査」
【図4】職場の雰囲気や同僚との関係性/「職場における間食に関する調査」
  • 「同僚の間では気持ちがしっくり合っている」
  • 「メンバーは団結して業績を良くしようとしている」
  • 「私と同僚との間には良好なチームワークがある」
  • 「同僚との間では仕事上の情報交換が活発である」

これらは、単なる“好意”ではなく、職場コミュニケーションの質や協働のしやすさ、心理的距離に関わる項目である。その点で共食者の評価が高いということは、間食という短い時間であっても、同僚同士の関係の質を左右する小さな接点として機能している可能性がある。

同じような傾向は「飲み会の有無」でも確認できた。職場で飲み会の機会がある人のほうがない人よりも、すべての項目でポジティブな評価が高かった。

ここで生まれる疑問として、チームワークが良いから共食や飲み会があるのか?それとも、共食や飲み会があるからチームワークが良くなるのか?という点である。もちろんこの結果だけではその因果関係までは特定できない。しかし少なくとも、「間食共食」や「飲み会」のある人のほうが、ない人よりも一貫して職場や同僚との関係をポジティブに捉えている事実は明確である 。

おわりに

本章では、間食における「共食」という視点から、職場での人間関係やチームワークとの関連を探った。その結果、共食をしている人ほど同僚との関係性を良好に感じており、共食の時間が職場のコミュニケーションを下支えする“小さな接点”となっている可能性が見えてきた。

先行研究で示された「共食=関係を整える」という知見と、今回の間食レベルでの観察結果は、方向性として整合的である。同様の傾向は飲み会にも見られたが、飲み会は時間・費用・家庭の事情など、参加を左右する要因が多い。一方で間食は、勤務時間中のわずかな時間で完結するため、より広く・無理なく取り入れやすい行動である。

そういったことを踏まえると、間食の共食をチームのコミュニケーション活性化施策として活用するという視点も有効ではないだろうか。休憩中に小さなお菓子をシェアする、プロジェクトの節目に差し入れを囲むなど、ささやかな機会であっても、チームの連帯感を育む一助になる可能性がある。

第三回では、これとは対照的に、「孤食(ひとりで食べる間食)」が、働く人にどのような役割を果たしているのかという側面に焦点をあてる。

共食が“つながり”の時間だとすれば、孤食は“自分を整える”時間である可能性がある。同じ間食でも、まったく異なる意味を持つその行動を、第三回では丁寧にひもといていきたい。


【引用】
足立己幸, & アダチミユキ. (2014). [発言 2] 共食がなぜ注目されているか-40 年間の共食・孤食研究と実践から. 名古屋学芸大学健康・栄養研究所年報, (6 特別号), 43-56.
山本圭三. (2024). 職場における共食と共同性・職業的充実の関連―計量データを用いた探索的検討―. 摂南社会学, (1), 33-48.

梅崎修
登場人物
法政大学キャリアデザイン学部教授
OSAMU UMEZAKI
東郷 こずえ
登場人物
キャリアリサーチLab主任研究員
KOZUE TOGO

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