管理職になりたい学生、なりたくない社会人-学生と若手のギャップから読む管理職の課題-

中島英里香
著者
キャリアリサーチLab研究員
ERIKA NAKASHIMA

学生の管理職志向と多様化するキャリア観

近年、企業間での人材獲得競争は激化しており、新卒採用もその例外ではない。企業は初任給の引き上げや勤務地確約といった取り組みを通じ、新卒学生の確保に苦心している。 

こうした中、学生は将来のキャリアに対して具体的な期待や見通しを持ちながら企業選択を行っている。特に「収入」や「成長機会」は、就職先を決定するうえで重要な要素となっていると考えられる。 

上記のような背景を踏まえ、本コラムでは学生の管理職志向に着目する。管理職は企業において意思決定や組織運営を担う重要な役割であると同時に、多くの場合、昇進・昇格を通じて到達するポジションでもある。そのため学生にとっては、収入増加やキャリア形成を実現する象徴的な存在として捉えられている可能性がある。 

一方で、近年は転職や副業という選択肢が広がり、個人のキャリアは以前にもまして多様化している。そうした中で、いわばキャリアの「王道」ともいえる、同一企業で昇進・昇格を重ねていく働き方は、実際の社会人にどのように捉えられているのだろうか。本コラムでは、学生および若手社会人の管理職志向や昇進意欲について着目し、その実態を明らかにする。 

管理職になりたい学生

学生の管理職希望率となりたい理由

2027年卒の学生に対して管理職への志向を尋ねたところ、「管理職になりたい」と回答した学生は83.2%にのぼり、多くの学生が管理職を志向していることが明らかとなった。【図1】

図1 就活生の管理職希望率 / マイナビ 2027年卒 大学生キャリア意向調査3月<就活生のワークライフバランス意識>
図1 就活生の管理職希望率 / マイナビ 2027年卒 大学生キャリア意向調査3月<就活生のワークライフバランス意識> 

なりたい理由としては、「収入を上げたいから(41.7%)」が最多回答であり、次に多い「管理職になることで成長できると思うから(11.9%)」という回答から3倍以上もの開きがみられた。【図2】 

図2 就活生の管理職希望理由 / マイナビ 2027年卒 大学生キャリア意向調査3月<就活生のワークライフバランス意識> 
図2 就活生の管理職希望理由 / マイナビ 2027年卒 大学生キャリア意向調査3月<就活生のワークライフバランス意識> 

この結果から、学生にとって管理職に就くことは、収入を向上させるための主要な手段の1つとして認識されていると考えられる。 また、学生は入社した企業で長く働くことを志向していることから【図3】、昇進・昇格を通じて収入を増やしていくことが、学生の想定するキャリアパスとなっている可能性がある。

図3 就活生の管理職希望理由 / マイナビ 2026年卒 大学生キャリア意向調査5月<OB・OG訪問について>
図3 就活生の管理職希望理由 / マイナビ 2026年卒 大学生キャリア意向調査5月<OB・OG訪問について> 

これからキャリアを歩み始める学生の多くが希望を持って「管理職になりたい」と考えている一方で、実際に働く社会人はどのように捉えているのだろうか。

管理職になりたくない若手社会人

若手社会人の昇進意欲

役職についていない20代正社員に対して、出世意欲を尋ねたところ、「出世は望まない」と回答した人は52.3%と「出世したい(47.7%)」人をやや上回る結果であった。【図4】  

図4 【20代正社員】出世に対する意欲 / マイナビ「【20代正社員に聞いた】仕事・私生活の意識調査2026年(2025実績)」
図4 【20代正社員】出世に対する意欲 / マイナビ「【20代正社員に聞いた】仕事・私生活の意識調査2026年(2025実績)」 

回答者が異なるため、直接的な比較は難しいが、学生の管理職希望率(図1)と若手社会人の昇進意欲(図4)をみると、学生から社会人になるにつれて管理職になりたいという昇進意欲は減少する可能性が考えられる。では、若手社会人はなぜ管理職になりたくないのだろうか。その背景にある管理職の働き方についてみていく。

若手社会人の出世意欲を阻む壁 

若手社会人の出世したくない理由

出世を望まない理由を自由回答にて尋ねたところ、大きく4つの観点に整理された。【表1】 

表1 【20代正社員】出世したくない理由 / マイナビ「【20代正社員に聞いた】仕事・私生活の意識調査2026年(2025実績)」 
表1 【20代正社員】出世したくない理由 / マイナビ「【20代正社員に聞いた】仕事・私生活の意識調査2026年(2025実績)」 

1つ目は「任される責任と給与のバランス」である。特に「出世しても給与があまり変わらない」といった意見が多くみられ、出世によって増加する責任に対して報酬が見合っていないと感じている様子がうかがえる。また、給与に言及せずとも「責任を負いたくない」といった声も多く、出世に伴う業務負担やプレッシャーの大きさが、出世意欲の低下につながっていると考えられる。

2つ目は「プライベートとの兼ね合い」である。「ワークライフバランスが崩れそう」「家庭を大切にしたい」といった意見にみられるように、出世による業務量の増加や長時間労働により、私生活との両立が難しくなることを懸念する声が挙げられた。

3つ目は「管理職へのネガティブイメージ」である。「管理職がいつも大変そう」といった意見のように、身近な上司の働き方をみて、管理職に対する負担の大きさを実感していることが、出世意欲の低下に影響していると考えられる。

4つ目は「現状への満足」である。これまでの3点は主に負担や懸念に関する理由であったが、それに加え、現在の働き方に満足しており、あえて出世を望まないという意見も一定数みられた。

さらに、出世を望むと回答した人の中にも、「ある程度給与が上がり、過度な責任を負わない範囲であれば昇進したい」「管理職になると残業代が支給されなくなる」といった理由から、係長・主任・職長クラスまでの昇進にとどめたいとする声がみられた。

また、「キャリアは積みたいが責任が過度に増えるのは望まない」「ワークライフバランスが大きく損なわれるのであれば出世は望まない」といった意見も寄せられており、出世を望む人でも給与や生活とのバランスによっては意欲が減少する可能性が示唆された。【表2】 

表2 【20代正社員】出世したくない理由 / マイナビ「【20代正社員に聞いた】仕事・私生活の意識調査2026年(2025実績)」
表2 【20代正社員】出世したくない理由 / マイナビ「【20代正社員に聞いた】仕事・私生活の意識調査2026年(2025実績)」 

以上のことから、若手社会人の出世意欲を阻む要因として、「責任の重さ」「給与水準」「ワークライフバランス」といった要素が浮かび上がった。これらはいずれも、実際に働く中で具体的に認識される要素であり、就業前の学生にとってはイメージしづらい側面であるといえる。そのため、学生において管理職志向が高く表れる一因である可能性も考えられる。

しかし、これらの要素は単なる個人の価値観の問題にとどまらず、企業における評価制度や働き方、マネジメントのあり方など、組織側の構造的な課題とも深く関係していると考えられる。 

管理職の構造的な課題―管理職がおかれている状況

これまでの結果から、若手社会人の出世意欲の低下は単なる価値観の変化ではなく、現場でみえている管理職の働き方に起因している可能性が高いといえる。では、現在の管理職はどのような課題を抱えているのだろうか。

業務負担の大きさ

まず挙げられるのは、業務負担の大きさである。近年の管理職は、部下のマネジメントや評価といった本来の役割に加え、自らもプレイヤーとして業務を担う「プレイングマネージャー」としての働き方が一般化している。その結果、業務量は増加し、長時間労働に陥りやすい構造となっている。若手が身近な上司の働き方をみた際に「負担が大きい役割」と認識するのは自然な流れといえるだろう。 

責任と権限、報酬バランス

次に、責任と権限・報酬のバランスの問題である。管理職は部門の成果や部下の育成など幅広い責任を負う一方で、その裁量や報酬が必ずしも見合っているとは感じられていない。今回の自由回答からも、「責任の重さ」と「給与」のアンバランスさが出世意欲を下げる要因となっていることが読み取れる。こうした状況は、管理職をより魅力の低い役割として若手に認識させる一因となっていると考えられる。 

キャリア形成の仕組み

さらに、キャリア形成の仕組み自体にも課題がある。日本企業では、新卒一括採用を前提とした横並びのスタートののち、一定のタイミングで昇進候補が選抜されていく傾向がある。そのため、若手の段階で管理職に魅力を感じられなかった場合、その後に志向が変化しても、昇進の機会を十分に得られない可能性がある。つまり、「早い段階で意思決定を求める制度」と「その時点では判断材料が十分ではない若手」の間にギャップが存在しているといえる。 

管理職人材を育成する意義と求められる対応 

このようにみていくと、管理職になりたい人が減っているのは、若者の意識の問題というよりも、企業が提示しているキャリアモデルにも一因があるのではないだろうか。しかしその一方で、管理職人材を育成する意義はこれまで以上に高まっている。

管理職は単なる役職ではなく、組織の成果を左右する中核的な存在である。組織の戦略を現場に落とし込み、メンバーを育成しながら成果を創出していく役割は、企業の持続的な成長に不可欠である。特に近年は人材の流動化や価値観の多様化が進む中で、個々の働き方やキャリアを尊重しながら成果を引き出すマネジメントの重要性が高まっている。こうした役割を担う人材が不足すれば、組織運営そのものに支障をきたす可能性がある。

にもかかわらず、若手の段階で管理職に対する魅力が低く認識され、そのまま将来的な選択肢から外れてしまうとすれば、それは企業にとって大きな機会損失といえる。今回の調査で明らかになったように、学生の段階では管理職を希望する人が8割を超えている。この「なりたい」という意欲は、本来であれば将来の管理職人材の母集団となる重要な資源である。

だからこそ重要なのは、この段階での管理職志向を維持・発展させることである。社会に出た後に目にする管理職の姿がネガティブなものであれば、この意欲は容易に失われてしまう。逆にいえば、管理職の働き方や役割がロールモデルとして魅力的なものとして認識されれば、若手のキャリア意向は大きく変化しうるだろう。

今後求められるのは、「将来なりたいと思われる管理職像」を企業が提示できるかどうかである。そのためには、プレイングマネージャー前提の働き方の見直しや、責任と処遇のバランスの改善に加え、キャリアの途中からでもマネジメントに挑戦できる柔軟な仕組みづくりが必要となる。

就活生の8割が抱く管理職への期待を、社会に出る過程で失わせないこと。それは単なる個人のキャリアの問題ではなく、企業の将来を支える人材基盤をどのように形成するかという、より本質的な課題である。 

マイナビキャリアリサーチLab研究員 中島英里香

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