あなたが描いているキャリアのデザインは、現在志向だろうか?未来志向ですだろうか?
自分のキャリアを考えるときには、「実現したいこと」や「ありたい姿」を描き、それに向けて仕事・学び方・働き方をデザインしていくことが多い。しかし、経験を通して新しいことを学んでいく中で、その「ありたい姿」が変わっていくのはごく自然なことである。
今回の本コラムでは、未来におけるありたい姿から現在の行動を逆算して考える「バックキャスティング思考」を中心に、自身のキャリアデザインに活用できる方法について解説していく。
バックキャスティング思考とは?
バックキャスティングの定義
バックキャスティング(Backcasting)とは、まず「ありたい姿や未来」を明確に描き、そこから逆算して「今取るべき行動」や戦略を導き出す手法である。「ありたい姿を実現するにはどうすればよいか」と未来思考で問う点に特徴がある。
1980年代に活躍したカナダの環境・未来学者であるJohn Robinsonはバックキャスティングを、起こりうる未来ではなく、いかに望ましい未来を達成しうるかに焦点を当てる、明示的に規範的なアプローチであると定義している。
イメージ図 著者作成
バックキャスティングの類似したアプローチとの違い
フォアキャスティングとは
フォアキャスティング(Forecasting)とは、現状の延長線上で将来を想定し、漸進的な計画を立てる手法である。ただし、現在の延長上にない大胆なビジョンや抜本的改革は描きにくいという限界がある。
一方、バックキャスティングは現在の制約にとらわれずに未来像を設定できるため、劇的な変化が求められる課題に対して有効であるとされている。それに対して、フォアキャスティングはビジネス現場において、大きな未来ビジョンを描きそれをロードマップに落とし込む段階でより実現可能な計画に調整する方法として実践されている。
シナリオプランニングとの違い
バックキャスティングとよく間違えられやすい用語として、「シナリオプランニング」がある。シナリオプランニングとは、将来の不確実性に備え、複数の可能な未来シナリオを描いて戦略を検討する手法である。
実現したい未来だけでなく起こりうるさまざまな未来像を扱い、「もしこの未来になったらどう動くか」を検討することで戦略の柔軟性を高める。一方でバックキャスティングは目指したい未来像にフォーカスし、その実現策を逆算で考える点に特徴がある。
この2つのアプローチは、組み合わせも可能である。まず複数のシナリオを描き、その中から望ましいシナリオを選んでバックキャストし戦略を具体化するという方法で、より多角的な視点でキャリアデザインを考えることができる。
総じて、シナリオプランニングは不確実性への備え、バックキャスティングは望ましい未来の創造に主眼があると整理できる。
キャリア視点でのバックキャスティングの活用
組織運営や経営視点での活用
企業の長期戦略策定や部門内の中長期目標においてもバックキャスティングは有効である。事業環境の変化が激しく将来の予測が難しい場合でも、「自社が目指すべき将来像」を起点に戦略を逆算することで不確実な未来に備えられる。
企業の経営視点では、ESG経営やDXといったテーマでは、企業は将来像を定め、そこから逆算して「今何をすべきか?」「どんな人材や専門性の人材活用が必要か?」を計画し、トップメッセージとして発信されている。
ESG経営についてはこちらのコラム記事で詳しく確認してほしい。
また経営層が示したありたい姿に対して、各部門内で、より具体的にどうありたいかというビジョンを描き、そこから現在の組織としてのマネジメントや具体的な施策を導き出すことで、短期的利益だけの視点にせず、長期的価値創造を目指す組織の運営に活用することが可能となる。
個人のキャリアでの活用
個人でのキャリア形成においても、バックキャスティングの方法は効果的である。「これからどんな仕事がしたいのか」「何を自分では大切にしたいのか」等、人それぞれによって違いはあるが、未来視点での「ありたい姿」を自由に描き、そこから何が必要なのかを逆算して具体化していくことが効果的である。
キャリアの描き方は、進路選択や職業選択、部門移動・転職などをしたときのキャリアを定期的に考える場面では、視野を広げて考えられることで自身のキャリアを客観的に現在からこれから何をすべきかがわかりやすく、整理できるだろう。
一方で先述の通り、ありたい姿を描くためにはバックキャスティングの方法のみではキャリアデザインは描きにくい場面もある。
そこで重要になるのは、「キャリア教育や研修」である。さまざまな仕事・雇用形態、多様な働き方・ライフスタイルがある中で、自身のありたい姿を自由に描くためのバックキャスティングにおいては、前提として年代に関わらず定期的にキャリアについて考える機会が重要である。
具体的な例としては、学校でのキャリア教育や企業内で提供されるキャリア研修・生涯教育としてのキャリアの学びなおしの機会などを活用することで、バックキャスティングの効果は最大化されやすいと考えられる。
マイナビでの取り組みで実施されているキャリア教育もこのバックキャスティングの未来を広げるための活動の一つの事例といえる。
ここまでに見てきたように、バックキャスティングは、変化の激しい現代において未来を主体的に創造するための強力な思考法である。フォアキャスティングでは届かなかった遠いゴールも、未来から逆算することで現実味を帯びると考える。
バックキャスティング思考での実体験から理解を深める
ここまでビジネス現場におけるバックキャスティングについて解説してきたが、最後に筆者の当事者視点における実体験での「盲導犬と歩む」という視点からバックキャスティング思考を見ていきたい
犬の行動学からみたフォアキャスティング思考
昨今では、「AI」とともに人は働きはじめているが、人類が狩りをしていた時代は、人は食材を得るためや危険から身を守るために犬と共に生活をしていた歴史がある。そして、この犬たちの動物行動学もフォアキャスティングとバックキャスティングが関係している。
盲導犬訓練士の多和田によれば、犬の行動は次のような要因で行動を起こすといわれている。
- 犬は未来のことを考えない(常に現在を考えている)
- 犬は過去のことを考えない(常に現在を考えている)
- 犬は楽しませてくれる人が大好きである
- 犬は褒められるのが大好きである
- 犬にはそれぞれ性格がある
このように、犬の行動学においては、現在視点でのフォアキャスティングでこれからどうなるか「この人と一緒にいたら次は何が楽しいことがあるだろう」とワクワクしながら楽しんでいるといえる。同じように南極観測で活躍した犬ぞりのカラフト犬たちも、この動物行動学にあてはめることで、厳しい環境の南極での調査でも活躍した理由が説明できるだろう。
このように、犬の行動学においては、現在視点でのフォアキャスティングでこれからどうなるか「この人と一緒にいたら次は何が楽しいことがあるだろう」とワクワクしながら楽しんでいるといえる。同じように南極観測で活躍した犬ぞりのカラフト犬たちも、この動物行動学にあてはめることで、厳しい環境の南極での調査でも活躍した理由が説明できるだろう。
盲導犬ユーザーのキャリア デザインはバックキャスティング思考がポイント
先述の通り、動物行動学を応用したのが盲導犬の訓練になる。盲導犬は約8年間活躍する。そのため、視覚障がい者が盲導犬を持つときには、8年後の未来としてどのように自分のライフスタイルやキャリアを築いていたいかを考える必要がある。
犬の行動学では、現在の視点で考えるが、8年間を盲導犬とどう過ごすのか?をより具体的に盲導犬ユーザーがキャリアを描くことがポイントになる。
そのありたい姿に合わせて、パートナーとなる犬の基本的なマッチングや訓練内容を計画していくことで、ありたい姿に向けて盲導犬と共に成長していくことになる。
人と犬の基本的なマッチングをするためにこの作業は当事者となる視覚障がい者には必須のプロセスとなるため、常に盲導犬ユーザーはバックキャスティングを活用しながら、キャリアを意識してパートナーとなる盲導犬との生活をしていくことが、8年間の質の高い活躍につながると報告されている(穂刈,2025)。
このように、本コラム記事で示した事例や関連手法の活用を踏まえて、バックキャスティングを効果的なキャリア開発として活用されることを期待したい。
【参考文献】
穂刈顕一,八重田淳,(2025), 盲導犬ユーザーにおける職業キャリアの事例検討,日本補助犬科学研究vol19環境省. (2008). 2050 日本低炭素社会シナリオ:温室効果ガス70%削減可能性検討
多和田悟(2006)犬と話をつけるには, 文春新書
Robinson, J. B. (1990). Futures under glass: A recipe for people who hate to predict. Futures.