ビジネスパーソンが地域活動から得る学びとは?社会活動や地域活動を越境学習の視点で考える-大正大学地域構想研究所 主任研究員 中島ゆき氏

キャリアリサーチLab編集部
著者
キャリアリサーチLab編集部

近年、さまざまな企業がCSRなどの一環で社会活動や地域活動への取り組みを行っていたり、個人で社会活動や地域活動に参加したりする人も増えています。そのような中で、「社会活動や地域活動に参加することで参加した個人にどのような効果があるのか」「参加した人の仕事に与える影響とは?」といった視点から連載企画を通して事例を紹介していきたいと思います。

社会活動や地域活動に参加するということは、言い換えれば自分の職場(普段の場所)や業界の枠を越えて、異なる環境で学ぶこと=越境学習と捉えることもできるのではないかと思います。第1回の今回は、地域活動への参加を越境学習の視点から見ていきます。

ビジネスパーソンが地域社会と関わることで、どのような成長や変化が生まれるのか。また、企業・地域・個人が連携しながら新しい価値を生み出すには何が必要なのか。大正大学地域構想研究所の中島ゆき主任研究員に、地域活動で得られる利点や課題、そして今後の広がりについて伺いました。

大正大学地域構想研究所主任研究員/大正大学地域創生学部兼任講師 中島ゆき氏

中島 ゆき(大正大学地域構想研究所主任研究員/大正大学地域創生学部兼任講師)
法政大学修士課程修了(政策学修士)。広告業界に長く在籍し、そのうち約11年編集長職を勤める。多くの企業のプロモーション戦略やマーケティング分析に携わり、現在は、これまでの経験を生かし自治体のマーケティングやプロモーションコンサルタント業に従事。2010年より法政大学地域研究センター研究員、法政大学兼任講師、2015年より現職。専門は地域経済学、地域マーケティング。現在は、マーケティング手法の一つとして地域のポジショニング分析を基盤とし、地域資源評価、地域分析などを中心に、自治体のまちづくりコンサルタントとして各地の地域活性化プロジェクトに関わる。

アウェーでの挑戦が、仕事の「当たり前」を問い直す

質問:近年、社会活動や地域活動に参加するビジネスパーソンも増えているようです。このような活動に参加することはビジネスパーソンにとって、どのような意味があるでしょうか。

中島:ビジネスパーソンが社会活動や地域活動に参加する意義は、職場では得られない「越境の学び」を通じて、思考力と行動力を拡張できる点があると指摘されています。

たとえば、法政大学・石山恒貴教授によって体系化された「越境学習(boundary crossing)」の考え方です。石山教授は、越境学習を「居心地の良いホーム(日常の職場)と、慣れないアウェー(異なる文化・人・仕組みの場)を往復する学習」と定義し、その効果を実証しています。

特にアウェーの環境には、次の3つの条件があると整理されています。

  1. 上下関係がない(自分で判断・行動するしかない)
  2. 異質な人との協働(多様な価値観や背景と出会う)
  3. 目的が明確でない抽象的な状況(自分で課題を設定する)

この3条件がそろうことで、人は「主体的リーダーシップ」「多様性対応力」「試行錯誤力」を発揮するようになります。つまり、越境学習とは、正解のない環境で考え、動き、他者と協働する中で、“自分の仕事観を再構築することができる学び”と捉えられています。

この越境学習の考え方は、もともと企業研修として設計されてきましたが、近年では地域活動や社会活動といった職場外の現場にも応用できると考えられています。というのも、地域の現場には、異なる立場の人が集まり、役職や立場にとらわれずに動く場面が多く、アウェーの3条件がそろいやすい土壌がありますから。

ただし、それだけで自動的に学びが生まれるわけではありません。企業がCSRの一環として社員を地域プロジェクトに派遣する場合と同じように、地域活動や社会活動の現場でも、特に意図的にこうした環境条件や、参加者の意識を整えることも必要だと考えています。

反対に、丁寧な設計がなされていなかったり運営が形だけになっていたりすると、参加者の意識づくりが不十分になり、せっかくの取り組みも表面的な体験で終わってしまいがちです。越境学習の成果は、環境設計と本人の主体性、その両輪によって決まると考えられます。

一方で、活動の設計が十分でなくても、参加者がその場を主体的に活かそうとすれば、多くの気づきや成長につなげることは可能です。つまり、越境学習を生み出す基盤は“場の設計”にあり、そこから得られる深さを左右するのは“本人の姿勢”ということです。

こうした文脈では、社会や地域への関わりは、単なるボランティア活動や副業ではなく自分の能力を再構成する実践の場と捉えてみるのは、これからの社会参加の一つの価値形成になるかな、と考えています。企業が派遣する社会貢献活動でも、個人が自発的に関わる地域活動でも、ホーム(職場)とアウェー(地域・社会)を往復することで視野が広がり、他者や組織を見る目が変わっていく。越境とは、外の世界を通じて自分の仕事やキャリアを“再定義”するプロセスになります。

正解を語るより文脈を読み解く。越境の現場で問われる思考法

質問:社会活動や地域活動に参加する前に、参加する人は、事前の心構えとしてどのような点を意識しておくと良いでしょうか?参加する側が意識すべきことがあれば教えてください。

中島:まず意識しておいた方が良い点は、自分の“正義”を押し付けないことです。たとえば、大企業や都市圏の組織で働いている人の多くは、効率性や合理性を重んじる仕事文化の中で育ってきています。それは成果を上げるうえで非常に有効ですが、地域社会などの現場では、前提がまったく異なる場合があります。

たとえば、効率よりも人との調和の方を優先する価値観が優位であったり、判断まで時間がかかったり(あるいはあえて判断しない場合もあったり)、時間の流れや判断の基準は、地域のこれまでの長い歴史の積み重ねから生まれています。都市部とは少し異なって見えることや非効率的に見えることも多々あるでしょう。しかし、自分の職場で当たり前とされるやり方をそのまま持ち込んでも、必ずしも同じように受け入れられるとは限りません。

私自身も、地域活動に関わり始めた当初は「こうした方が効率がいいのに」と感じることが多くありました。ですが、それを前面に出すとうまくいきません。現場の人から見れば、外部の人が自分たちの事情を理解しないまま、意見や方法を押し付けているように感じられるのだと思います。

想像力とメタ認知が重要

中島:そこで大切になるのが「想像力」と「メタ認知」です。「想像力」とは、相手の立場に立って「この言葉はどう受け取られるだろう」「この地域ではどんな前提が共有されているのだろう」と思いを巡らせることです。

たとえば、話し合いの場では、すぐに意見をいうのではなく、まず相手の背景や価値観を観察したり、質問を通じて理解したりする。自分が見えていない“前提”を想像することで、対話の糸口が開けていきます。

一方の「メタ認知」は、自分自身の発言や思考を一段高い視点から見つめる力です。自分の発言が相手にとって異質なものかもしれないという前提を持ち、「自分は今、どんな文化や価値観のもとで話しているのか」を意識する。こうした自覚が、誤解を防ぎ、より対等な関係づくりにつながります。

日本社会は長く「あ・うんの呼吸」で物事が進む文化に支えられてきましたが、地域活動や越境学習の現場では、異なる文化や考え方をもつ人たちと出会うことが前提です。だからこそ、自分の考えを押し付けず、「これは自分の一つの見方である」と自覚したうえで発言する姿勢が重要になります。

私自身も地域に入るときは、まずその土地の背景や空気感を理解するようにしています。産業構造や地域団体の方々と行政との関係性を確認しながら、地域の集まりに顔を出して人々の話のテンポや言葉の使い方を感じ取ったり。

たとえば、自動車産業が根付く町と印刷産業が中心の町では、日常の話題や重視される価値観も自然と異なります。自分の言葉がどの程度“異質”なのかを意識しながら関わることで、余計な摩擦を防ぎ、建設的な対話が生まれやすくなるのです。

こうした「想像力」と「メタ認知」は、単なるマナーではなく、多様な人が共に学び合うための思考習慣です。地域というコミュニティでは、外部の人がもたらす新しい視点が歓迎される一方で、その発言の仕方一つで信頼関係が左右されます。

ある意味、この状態がまさに越境学習の環境であります。自分の文化や経験を出すことを恐れず、ただし相手の文脈への敬意を忘れない。その姿勢が、結果として多様な人と共に価値を生み出していく原動力になるのです。

“仕事としての関わり”と“体験としての関わり”を区別する

質問:次に、受け入れ側の視点として、外部の参加者とどのように関わることが大切でしょうか。好事例などありましたら教えてください。

中島:反対に受け入れ側が意識すべきことは、「何のために」をはっきりさせることです。たとえば、地域おこし協力隊や副業人材のように、一定期間“仕事として”関わってもらう場合は、任務の範囲や成果の方向性を共有し、責任や期待値をすり合わせておくことが欠かせません。仕事内容・期間・報酬・目的を具体的に定め、双方が納得できる合意を築くことで、安心して取り組める関係性が生まれます。

一方で、地域活動やイベントのように「一緒に場をつくる」場合は、少し性質が違います。たとえば、そのイベント自体にどんな魅力があるのか、なぜ人がそこに集まるのか、なぜお手伝いで参加してくれているのかを紐解き、デザインできるといいと思います。受け入れ側の企画運営メンバーが意識的であれ無意識であれ、この視点を持っているイベントでは、その「場」が一つのモードを生み出せるように思います。

「地元文化に触れられる」「旅のような非日常を味わえる」といった体験的な魅力があれば、それ自体が参加の動機になりますし、お手伝いで参加する場合でも自分自身が「楽しい」「新しい出会いができる」「新しい体験ができる」などの何らかの無形のプラス要素があるかどうかは参加決定に大きく左右されているでしょう。現代では、「無償の奉仕」に頼ることを前提に人を呼ぶのは難しいのではないでしょうか?

岐阜県飛騨市の事例

中島:たとえば、岐阜県飛騨市では、ボランティア参加者に地域通貨「さるぼぼコイン」を配布する仕組みがあります。これは、地域で買い物ができたりお土産を交換したりする、いわば“体験を通じた物々交換”です。お手伝いしてもらったことを金銭ではなく、「現地の楽しさ」や「人との交流」という形で返すことが、現代のボランティアや地域参加のあり方に近いと感じます。

多くの都市部の人たちは、「ここではないどこか」や「いつもと違う時間」を求めています。その“非日常の体験”こそが、地域と人をつなぐ入り口になる。だからこそ、受け入れ側は単に「手伝ってほしい」というのではなく、「どんな体験が待っているのか」「この地域で何を感じてほしいのか」を丁寧に伝えることが大切です。そうした“体験を買うような感覚”が、今の世代にとって自然な関わり方なのだと思います。

さらに、ボランティアや地域活動の場では、「仕事を振る」ことも重要です。人に役割を渡すことは、単なる依頼ではなく、「あなたはこの場に関わっていい」という参加の権利を渡す行為でもあります。

NPOやボランティアのコミュニティづくりでも、“手持ち無沙汰な人をつくらない”ことが継続の鍵といわれます。参加者が自分の得意分野を活かせたり、楽しみながら動けたりすることで、初めて関係が長続きしていくのです。

越境が、不安を学びに変える。VUCA時代の新しい学び方

質問:今後、都市部で働くビジネスパーソンが地域活動や社会活動に積極的に参加することで、社会としてどのような変化が起こるでしょうか。また、活動に積極的に参加したからこそ、得られるものなどがありましたら教えてください。

中島:これからの社会では、都市と地域の間を行き来しながら働く「副業」が増えていくと思います。リモートワークやオンラインの普及によって、東京や大阪にいながら地方の仕事を請け負うことも、逆に地方に住みながら都市の仕事を続けることも、すでに現実的な選択肢になっています。こうした“越境的な働き方”は、移住や定住という形にこだわらず、地域との関係を柔軟に育てていく動きにつながっていくでしょう。

一方で、地方側には「どう仕事を頼めばいいかわからない」という壁もあります。たとえばクリエイティブ職やITサービス業のように、地域ではまだ職業としての理解や予算化が進んでいない分野も多いです。

だからこそ、都市部の人材と地域をつなぐ“方法論”が整えば、デザインや発信、販路開拓といった分野で中小企業が一気に飛躍できる可能性があるのではないかと考えています。実際、販路の確保や情報発信に課題を抱える企業が、外部の知見を活用できれば、海外展開にもつながる事例が出てきています。

同時に、こうした「地域と関わる経験」は、個人にとっても大きな学びの機会になります。VUCA(不確実・不安定・複雑・曖昧)な時代において、不安は避けるべきものではなく、むしろ成長の原動力になります。企業が社員に自律性を求めるなら、安定した職場の中だけでそれを育てるのは難しい。日々の業務が決まっている環境では、危機感を持つ機会そのものが少ないからです。

その点で、地域活動や社会活動に参加することは、意識的に“不確実な環境”に身を置く経験になります。いつもと違う立場や人間関係の中に入ることで、自分の判断力やリーダーシップの不足に気づき、何を強みに行動できるかを考えるきっかけになります。

実際、大手企業の中には越境学習や地域研修を取り入れる例も増えており、参加者からは「会社の良さを再認識した」「自分の弱点に気づけた」といった声も多く聞かれます。単なるCSRではなく、次世代リーダーの育成の場として成果を上げている企業も少なくありません。

一方で、こうした学びは企業研修に限らず、個人の姿勢次第でどこでも得られるものでもあります。自ら進んで場に関わり、学び取ろうとする“スポンジ力”のある人ほど、越境先での経験を自分の血肉に変えていくことができるでしょう。

中島ゆき
登場人物
大正大学地域構想研究所主任研究員/大正大学地域創生学部兼任講師
YUKI NAKAJIMA
片山久也
担当者
キャリアリサーチLab編集部
HISANARI KATAYAMA

関連記事

越境学習とは?異業種・異文化の経験がもたらす効果と実践例を紹介

コラム

越境学習とは?異業種・異文化の経験がもたらす効果と実践例を紹介

『つむぐ、キャリア』で意識すべき学びとは──ホームとアウェイを往還する“越境学習”の視点で、個人に求められる学習環境を考える (対談:法政大学 石山恒貴氏)

コラム

『つむぐ、キャリア』で意識すべき学びとは──ホームとアウェイを往還する“越境学習”の視点で、個人に求められる学習環境を考える (対談:法政大学 石山恒貴氏)

地域の自然資源とテクノロジーを活用した新たな農業モデルを創出(株式会社浅井農園) 

コラム

地域の自然資源とテクノロジーを活用した新たな農業モデルを創出(株式会社浅井農園)