「未来を選べる力」を育てる、地域発のキャリア教育〜過疎地域、宮崎県都農町での事例-株式会社イツノマ 中川敬文氏

キャリアリサーチLab編集部
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本稿は「小学生からのキャリア教育」連載企画の第5回です。経済産業省主催の第14回(2024年)キャリア教育アワードで優秀賞(中小企業の部)を受賞した株式会社イツノマの「つの未来学(都農中学校 総合学習)」。舞台は、人口1万人に満たない過疎地域である宮崎県児湯郡都農町。小さな町で4年間にわたって実施されてきたのは、中学生が3年間かけて、地域の人や仕事と関わりながら、「自分の将来を描く力」を育てていくキャリア教育プログラムです。

今回は、このプロジェクトの仕掛け人である株式会社イツノマ 代表取締役社長の中川敬文さんに、これまでの取り組みや得られた成果、今後の展望などについて伺いました。中川さんは企業という立場からの視点だけではなく、学校に寄り添い子どもたちと密接に関わりながら取り組みを進められています。地方だからこそ可能な、地域と共につくるキャリア教育のかたちに迫ります。

株式会社イツノマ 代表取締役社長 中川敬文氏

中川 敬文(株式会社イツノマ 代表取締役社長)
東京都出身、関⻄学院大学社会学部卒業。新卒でポーラ入社。
2003 年〜UDS 株式会社代表取締役。キッザニア東京・大日向小学校・ここ滋賀・神保町ブックセンター等企画プロデュース。
2020年宮崎県都農町に移住・起業。 町のグランドデザイン、商店街再生、都農町立小中学校の総合学習(経産省キ ャリア教育アワード優秀賞)、中学生地域クラブまちづくり部、こども参画まちづくり(日本まちづくり大賞)、HOSTEL ALA 経営

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「まちづくり×教育」で地域課題を子どもたちの学びに変える

質問:まずは貴社の事業内容について教えてください。

中川:私たちは、「まちづくり」と「教育」を重ね合わせた学びの場づくりに取り組んでいる会社です。空き家の活用や商店街の再生、駅空間のにぎわい創出といった地域課題に対する実務的なアプローチに、教育という視点を掛け合わせ、小・中・高校の総合的な学習の時間や地域クラブと連動させながら実践的なプログラムを構築しています。

たとえば、宮崎県の高鍋駅前で毎月開催しているマルシェ「月市」では、地元の高校生たちが地域の生産者や商店、住民と一緒に企画・運営を行っています。販売や接客だけでなく、仕入れ交渉や広報、当日の会場運営などすべてに関わり、「まちに新たなにぎわいを生み出す」体験を学びにつなげています。

さらに、私たちは自社でホステルを運営しており、そこには東京や京都など都市部の高校生がスタディツアーとして訪れ、地元の中高生と交流を深めながら、互いの地域の特色や課題を学び合っています。こうした“越境的な学び”を通じて、若者たちが地域の枠を超えて広く社会とつながる力を育んでいます。

まちの未来を子どもたちと創る

質問:2024年キャリア教育アワードの優秀賞を受賞された活動と背景について教えてください。

中川:まちの将来を本気で考える“まちづくり発”のキャリア教育プログラム「つの未来学」に取り組みました。

舞台となる宮崎県児湯郡都農町は、人口1万人未満の小さな町で、過疎地域に指定されており、高齢化率は38%を超えています。私が移住した2020年当時には、町内唯一の高校がその年限りで廃校になることが決まっており、若者が地域にとどまることも、将来戻ってくることも難しい状況でした。そんな地域の未来に危機感を覚え、「今こそ、希望を生み出すような取り組みが必要だ」と強く感じたのが出発点です。

そこで注目したのが、唯一残っていた中学校でした。町長に「中学校で授業をさせてほしい」と直接提案し、その思いに共感いただいたことで、教育長や校長先生ともすぐに連携が取れ、プログラムを始動させることができました。これは「教育」の枠ではなく、「まちづくり」の延長線上としての提案だったからこそ、スムーズに受け入れていただけたのだと思います。

「つの未来学」では、生徒が地域課題に向き合い、調査・提案を通じてまちづくりに参画する能動的な学びを実現しています。各学年で年間15時間から24時間の授業枠をいただき、町の人々の声に耳を傾け、自ら考えたアイデアを発表することで、単なる「ふるさと学習」から一歩進んだ実践の場を生み出しています。

「つの未来学」の目標/株式会社イツノマ作成
「つの未来学」の目標/株式会社イツノマ作成

この背景には、現場のリアルな課題もありました。都農町に限らず、多くの地域で「ふるさとを学ぶ」という総合学習が行われていますが、教える側の先生方が必ずしも地域に精通しているとは限りません。

実際、先生方の多くは県職員であり、数年ごとの人事異動で町を離れるため、地域に根づいた知識や関係性が継承されにくいのが実情です。私が移住してからの4年間でも、すでに校長先生は4代目となっています。

また、小さな自治体では教員が町に住んでいないことも多く、地域住民や保護者と日常的に接する機会が少ないため、授業の中で取り上げる地域の情報も、どうしても書籍やWebサイト、あるいは神社の宮司さんの話など断片的なものに頼らざるを得ません。

そうした“与えられるだけ”の受け身の学びでは、子どもたちの主体性や地域への愛着を育むことは難しいと感じていました。だからこそ、「町のことを知る」だけでなく、「町の未来を共に創る」ための学びをつくろうと考えたのです。

初期の2年間は、地域内での就業体験の場づくりや関係者との調整も、すべて私たちイツノマが担いました。というのも、小さな町では体験の機会こそあれど、将来像が描きにくい職業ばかりが並びがちだからです。だからこそ、子どもたちが「働くのは楽しい」と前向きに捉えられるような、意味や魅力の伝わる体験設計を重視しました。

私たちは単なる外部講師ではなく、地域でまちづくりを実践している当事者です。だからこそ授業でも、生徒と本気で向き合い、現実味のあるアイデアを一緒に考え、実行にも伴走しています。こうした「リアル」と「実践」があるからこそ、生徒たちにとっても「自分にもできる」「地域を変えられるかもしれない」と思える機会になっている。それが今回、キャリア教育アワードで評価いただけた理由ではないかと考えています。

生徒の声から実現へ──“やってみたい”をかたちにしたキャリア教育

質問:中学生の意見から生まれた活動もあるそうですね。中学生が大人に意見を発信しやすいように、工夫されていることはありますか?

中川:たしかに中学生が地域の大人に対して意見を述べるのは、簡単なことではありません。ただ、都農町の子どもたちはとても素直で、私たちとも日常的にフラットに言葉を交わす関係が築けていたため、自分の考えを率直に話してくれる素地はあったと感じています。

生徒の声を受け止め、次のアクションへつなげるきっかけとなったのが、学校運営協議会での出来事でした。これは「コミュニティ・スクール」として、地域住民と学校が共に教育を考える正式な会議の場です。私も委員として参加していた中、はじめて「つの未来学」を1年生のときから3年間学んだ3年生が卒業を迎えるタイミングがあり、「つの未来学」についてどう感じたか、生徒自身の言葉で発表してもらいました。

「地域のことがよく分かった」「楽しかった」という前向きな声に加えて、「提案して終わりではなく、実際にやってみたかった」「お金のイメージがわかなかった」といった意見が自然と出てきたのです。その声をきっかけに、翌年度である2024年からは町の商店街にある空き地を舞台に、生徒たちの企画を実行に移す“実践型”プログラムへと発展しました。

さらにその中で生まれたのが、生徒自身からの「分業制」の提案です。授業の自由度が高かったことで、一部の生徒に負担が偏ってしまい、不公平感が生じる場面もあったようです。そこで「一人ひとりが責任を持てるよう、役割を明確にしたい」との声が上がり、私たちの側から「会社組織に見立てたプロジェクト形式」を提案しました。

「社長」「副社長」を中心に、「企画」「制作」「広報」「財務」などのチームに分かれ、それぞれが責任を持って進める体制を整えました。たとえば、屋台を製作するチーム、SNSで情報発信を行うチーム、収支を管理するチームなど、実際のビジネスを模した運営体制を導入しています。

分業制の図/株式会社イツノマ作成
分業制の図/株式会社イツノマ作成

実施した「みちくさ市」ではカフェや古着屋の出店といった活動も行われ、資金運用を体験するところまで発展しています。当初は1~2年生の間に地域への理解を深め、3年生で町長に提案を行うことをゴールとしていましたが、その提案を「自ら実行する」段階にまで踏み込み、より実践的かつ自律的な学びのサイクルが生まれています。

このように、生徒自身の声を起点にプログラムを柔軟に進化させてきたことこそが、「つの未来学」の大きな強みだと考えています。

「最大のエンターテインメントは”リアル”」―体験が引き出す主体性と自信

質問:3年間伴走して、子どもたちにどのような変化を感じましたか?

中川:非常に印象的な変化がいくつもありました。たとえば、学校の授業ではあまり目立たなかった生徒が、「みちくさ市」では積極的に声を出して接客したり、普段あまり登校しない生徒がその活動だけには毎回参加したりと、教師たちも驚くような様子が見られました。学校の授業や部活動とは異なる、“第三の活躍の場”として機能していたのだと思います。

「勉強ができる=活躍できる」ではなく、それぞれが得意な分野で役割を担い、仲間と補い合う実社会に近い経験を通じて、主体性や自己肯定感が育まれていきました。かき氷や古着の販売など、実際に商品をつくり、現金を扱って販売するプロセスはすべて自分たちのアイデアから始まっており、その“手応え”が子どもたちの自信につながったと感じています。

私自身、以前キッザニアの立ち上げに携わっていた経験もあり、「最大のエンターテインメントはリアルだ」という考え方をずっと大切にしています。「つの未来学」でもそれは軸となっていて、実際に生徒たちが商品をつくり、接客し、現金を扱って売り上げを計上する――フィクションではない、実社会と地続きの経験を意図的に設計しています。年度の最終回で、町の人たちに利益処分報告を行う。今年の実績は売り上げ 22万円、利益 11 万円を達成しました。

活動終了後には、美術の先生と共に制作した5メートルほどの「思い出巻物」にも象徴されていると思います。80人の生徒がそれぞれメッセージを寄せてくれたのですが、ほぼ全員が「みちくさ市」の思い出ばかりを書いていたんです。形式的には3年間の感謝を伝える冊子だったのですが、それほどまでにこの取り組みが彼らにとって印象深い体験だったのだと実感しました。

アイデアを動かす“起動力 ”が、未来を切り拓く

質問:キャリア教育を通じて、子どもたちにどうなってほしいとお考えですか?

中川:キャリア教育を通じて子どもたちに身につけてほしいのは、「起動力」だと考えています。これは、自分でアイデアを出し、実際に何かを始めて、人や地域を動かす力のことです。

子どもは本来、「いいこと思いついた!」と素直に口にし、周りを巻き込みながら物事を進める力を持っています。ところが受験勉強を経験して成長するにつれて、「正解かどうか」「評価されるかどうか」を気にするようになり、発想や行動をためらうようになります。しかし実社会では、創造性や行動力がますます求められます。だからこそ、教育の中で“自由に発想し、動ける力”を取り戻せる場が必要だと感じています。

「つの未来学」では、まずアイデアを100個出すところから授業が始まります。正解はなく、量と自由さを重視。出されたアイデアは否定せず、「面白いと思ったら声に出す」「仲間で盛り上げる」といった空気づくりの中で、子どもたちは徐々に自信を持って意見を言えるようになってきます。

また、都農町のような地域には、都市部よりも“ためらいの少なさ”という強みもあります。実際に、「つの未来学」をきっかけに、卒業後もマルシェの運営に関わり続け、高校で商業の道に進んだ生徒もいます。

私自身、これまで企業での人事や経営に関わってきましたが、学歴や知識以上に求められるのは「あなたは何をしたいのか」「何を生み出したいのか」という“問いに応える力”でした。そして、多くの人がそこで立ち止まってしまうのを見てきました。

だからこそ子どもたちには、「思いついたことは口にしていい」「仲間となら実現できるかもしれない」「社会は自分たちの手で動かしていい」という実感を、早い段階で持ってほしいと思っています。たとえ小さな体験でも、それが“リアルな選択肢”として心に残るなら、子どもたちの未来を切り拓く大きな力になるはずです。

授業を“共につくる”ために。学校現場との信頼構築と課題克服の5年間

チームワークのイメージイラスト

質問:今年で5年目の取り組みですが、学校との連携で課題に感じられたことはありますでしょうか?

中川:この取り組みも今年で5年目になりますが、学校との連携には多くの学びと試行錯誤がありました。

初年度は、私たちがカリキュラムの設計から授業の進行、成果物の取りまとめまでを一手に担っており、先生方は授業中も“見守る立場”にとどまっていました。当時は「先生の負担を減らせている」と考えていたのですが、後に教育長から「調整がどれだけ大変だったか」との振り返りをいただきました。先生方にとっては、どう動いていいかが見えず、「自分事化」しづらい授業になっていたのだと思います。

その反省を踏まえ、2年目以降は授業の主体を先生方にお願いし、私たちは下準備や教材づくりに回るかたちに変更しました。徐々に、先生方との意見交換も活発になり、「内容が難しすぎるのでは」「もっと都農を楽しめるように」といった建設的な意見も出るようになり、授業改善に反映していきました。

4年目には、先生方が前例にとらわれず、総合学習の時間を6時間つなげることで「みちくさ市」を授業として実施できるよう調整いただいたことをはじめ、準備が間に合わない時間は先生方の授業時間の中で充当していただくなど、「先生方と私たちがそれぞれの強みや役割を積極的に分担しながらつくりあげていく」という理想的な連携体制が築かれています。

ただし、公立学校ならではの課題もあります。校長・教頭・担当教員が頻繁に異動するため、年度ごとの引き継ぎや再構築が必要で、ノウハウが十分に蓄積されづらいという構造的な問題です。また、現実的には私たちのような民間が関わることでプログラムが成立している構造で、現在の単年度契約の仕組みでは長期的な見通しが立てにくいという不安定さも抱えています。

こうした課題を抱えながらも、4年目には学校側が独自にアンケートを実施し、その結果をもとに町へ「つの未来学」の必要性を話してくださいました。1年目は行政主導のトップダウンで始まった取り組みでしたが、今では学校現場からのボトムアップが進んでおり、継続的かつ安定的な運営に向けた手応えを感じ始めているところです。

初の意識調査で見えた成果。起業・地域改善への意欲が顕著に

質問:具体的にどのようなアンケート結果が出たのでしょうか?

中川:4年目の終わりに、「つの未来学」の効果を検証する目的で、都農中学校の教頭先生が全校生徒238名を対象に「都農町に対する意識調査」を実施してくれました。注目すべき結果は、2つの設問に集約されます。

一つ目は「将来、都農町で会社をつくりたいと思いますか?」という問いに対して、「そう思う」と答えた生徒が36人、全体の約15%にのぼりました。中学生の段階で起業を具体的にイメージできる割合としては非常に高く、「起動力」を育むという本プログラムの成果が表れたものと受け止めています。

次に「都農町をもっと良い町にするためのアイデアがあるか?」という問いには、72人、約30%の生徒が「ある」と回答しました。これは「自分たちの町を自分たちでつくる」という「つの未来学」の理念が、生徒にしっかり浸透している証だと感じています。

これらの結果については、学校現場および教育委員会の双方から「相当に高い数値である」との評価をいただき、今後もこの指標を意識しながら取り組みを継続していく予定です。

そのほかにもアンケートには、「地域の人と初めてつながれた」「実際に商品を売ったことが新鮮だった」「考える力や企画力が身についた」など、肯定的な感想が数多く寄せられました。特に教頭先生がこの結果を踏まえて、町に対して事業の継続を要望してくださったことは、私たちにとって大きな励みとなりました。

“社会の入り口”に触れる総合学習へ。学校の枠を越えた探究の可能性

質問:キャリア教育において、今後注力していきたいことなどはありますか。

中川:今後は、学校内の「総合学習」のあり方そのものをアップデートし、より自由で本質的な学びへと進化させていきたいと考えています。

都農中学校では年間70時間前後の総合学習が設定されていますが、現状では修学旅行の準備や行事運営に多くの時間が充てられており、「社会との接点」や「探究的な学び」に十分な時間が確保されているとは言えません。もちろん、それも大切な学習の一環ですが、本来の目的である探究的な学びに時間を割く余地はまだまだあると感じています。

たとえば私たちが運営する地域クラブ「まちづくり部」では、放課後に中学生10名がオフィスに集まり、駄菓子屋の経営や地域の子どもたちとの交流を通じて、実践的な体験を重ねています。単なる“遊び場”ではなく、自分たちで「場をつくり、人を招く」というリアルな体験を重ねているのが特徴です。仕入れから販売、運営までを自分たちで行いながら、自然と“社会の入り口”に立つ感覚を育んでいるのです。

また、定期的にスタディツアー(学生が旅先を選択し、その場所でしかできない経験を通して学ぶ取り組み)で来訪してくれる新渡戸文化高校の事例にもヒントがあります。彼らは水曜日に時間割を設けず、プロジェクト活動に没頭する日と位置づけています。実際に、地元のプリン屋さんでインターンを希望する生徒のアテンドも行いましたが、自分で動き、楽しそうに地域に関わっていく高校生たちの姿には大きな可能性を感じました。

そうした姿を見るにつけ、過疎地で中学校が1校しかないような環境だからこそ、もっと尖った学びの場をつくれるはずだと感じています。私たちは教員免許こそ持っていませんが、総合学習の中でこそ提供できるリアルな経験や関わりを持っています。ですから、いつか「総合学習のすべてを担う」くらいの気概で、子どもたちにより深い探究の機会を届けていきたいと考えています。

キャリア教育に必要なのは、“起業家”ではなく“自営業者”の感覚

質問:これからキャリア教育に取り組みたいと考えている企業にアドバイスをいただけますか。

中川:まず「起業家(アントレプレナー)」と「自営業者」の違いを意識すると良いのではと思います。起業やスタートアップは華やかに見えますが、実践できるのはごく一部。一方の「自営業者」はより身近で現実的なロールモデルです。

かつて日本人の多くが自営業者として生きていました。自ら仕事をつくり、責任を持って稼ぐ。こうした「自営」の感覚は、キャリア教育の基盤になり得ます。しかし今の子どもたちは「会社に入る」ことは知っていても、「仕事をつくる」経験がほとんどありません。だからこそ企業には、子どもたちに“働くことのリアル”を届けてほしいのです。

たとえば、自分で商品を売る、誰かに感謝される、責任を持って報酬を得る──こうした体験が、自分で考え、動き、選び取る力を育てます。キャリア教育とは、「未来の自分を選べる感覚」を養うプロセス。そのためには、説明会ではなく、子どもたちが現場で試行錯誤できる機会が必要です。

特に地方では、雇用の選択肢が少ない分、「自分で仕事をつくる力」がより重要です。でも現実には、子どもたちが知っている職業は身近な大人の職種に限られており、可能性が広がらないまま進路が決まってしまうことも少なくありません。

でも、地方だからこそできることもあると私は思っています。実際、私たちの拠点・都農町には、東京の高校生もスタディツアーで訪れています。農業や漁業だけでなく、「まちづくり」「デザイン」「事業づくり」といった分野にも自由に関わってもらうことで、都市と地方の中高生が対話を通じて刺激し合う環境が生まれています。こうした場づくりは、企業の力でも十分に実現できるはずです。

キャリア教育とは、子どもたちに「未来の自分が選べる感覚」を育てること。そのためには、既存の価値観や進路指導の枠を超えて、「仕事をつくる」「場をつくる」「関係をつくる」というような体験を届けていくことが、企業の本質的な役割だと思います。

そしてその起点となるのは、「地域」という一番身近な社会です。通学路に咲く花や、近所の商店、ゴミが落ちているかどうかといった日常の風景に目を向けることこそが、「社会の一員」としての学びの出発点。私たちはこの“地域で生きる感覚”を、キャリア教育の基盤として大切にしています。

企業のみなさまには、“教える側”としてではなく、子どもたちと一緒に社会をつくる“仲間”として、現場に飛び込んでいただけると良いと思っています。会社員、自営業者、学校の先生、どんな立場であっても、地域というパブリックな場に目を向け、未来の担い手たちと関わることは、私たち一人ひとりにできることだと信じています。

実際、子どもたちの挑戦は、少しずつ地域の大人たちにも影響を与え始めています。たとえば、町の商店主さんがイベントに協力してくれるようになったり、中学生が立ち上げた企画に地域の事業者が自発的に関わってくれたり。こうした動きが、地域に新しい風を吹き込んでいます。

一方で、私たちが直面している課題の一つが「保護者との情報の断絶」です。中学生がどんなことを学び、どんな経験をしているのかを、実は親世代が知らないケースがほとんどです。これは教育委員会や学校とも繰り返し議論してきたテーマであり、今年はついに親向けの「つの未来学」を開催することにしました。子どもたちが現場で体験している学びを、今度は保護者にも実際に見て感じてもらう。そのことで、家庭・学校・地域が一体となったキャリア教育が、ようやく動き出すのではないかと期待しています。

ライター:西谷忠和

矢部栞
担当者
キャリアリサーチLab編集部
SHIORI YABE

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