大人気K-POPアイドルが検査を受けたことをきっかけに、日本でもSNS等を通じて広く知られるようになった心理検査「MBTI🄬（エムビーティーアイ:Myers-Briggs Type Indicator）」。しかし、無料で利用できるタイプ診断サイトを、MBTIと誤認しているケースも多発しているようだ。

MBTI🄬 and Myers-Briggs Type Indicator are registered trademarks of The Myers-Briggs Foundation Inc, in Untited States and other countries.

そこで、日本MBTI協会の代表理事であり、MBTIマスタートレーナーとしても活躍中の園田由紀さんにマイナビキャリアリサーチラボの研究員であり、MBTI認定ユーザーの有資格者でもある朝比奈がインタビューを行い、あらためて本来のMBTIの正しい知識と使うことの意義について解説していただいた。

MBTIを支える理論～「心の利き手」の考え方～

Q.まず、MBTIとは何かについて教えてください。

MBTI（Myers-Briggs Type Indicator）は、ユングのタイプ論を基にした心理検査です。ユングは、人にはそれぞれ異なる心理的なタイプがあることに気づき、人間の認知スタイルの違いを理解するための基本的な枠組みを示す理論を提唱しました。

MBTIは、そのユングのタイプ論を基に、米国のイザベル・マイヤーズとキャサリン・ブリッグスという母娘が開発した心理検査で、1962年にアセスメントの初版が発表されています。彼女たちは、心理学に詳しくない人でもユングの性格タイプの考え方を理解し、自分にしかない魅力を知り、多様性への理解のための指標となればと20年以上かけて、質問紙として開発しました。

ユングは、人間の心の活動について、自然界と同じように二律背反（光と影のように、どちらかが存在しないと互いに存在しない対極のもの）があると考えました。

情報を取り入れる「知覚機能」の軸、そして取り入れた情報を整理して判断する「判断機能」の軸（知覚・判断機能を合わせて基本心的機能という）、そして「心のエネルギーの方向」の軸です。マイヤーズとブリッグスはユングのタイプ論を発展させ、ユングのタイプ論で明確に記されていなかった「外界への接し方（日常の過ごし方）」という新しい軸を見出し追加させて、ユングが大切に考えていた心の成長の指針となるような検査にしました。

MBTIの結果は、これらの機能の組み合わせによって16のタイプに分類されます。ただ、MBTIで重要なのは、それぞれのタイプにレッテルを貼ること（こういうタイプだからこういう人であるに違いないという決めつけを行うこと）ではありません。

MBTIでは、私たちが生まれつき持っている情報の取り入れ方（知覚）や意思決定の方法（判断）すなわち認知にはどちらか一方をもう一方より自然と優先するスタイルがあり、それを「心の利き手」と呼んでいます。普段の生活で右手か左手のどちらを自然に使うかが決まっているように、心にも自然に使いやすい認知の仕方があると考えています。

自分のタイプを知ることは、自分の心の利き手を知ることと同じです。心の利き手を知れば、それを意識的に活かすことができますし、反対の手を意識的に訓練して鍛えることもでき、必要な心を必要なときに適切に使えるようになれるわけです。MBTIは、自分を理解し、成長するためのツールなのです。

MBTIと他の心理検査の違いとは？

Q.MBTIとほかの心理検査の違いについて教えてください。また、MBTIを実施することで、何がわかるのでしょうか？

MBTIと他の心理検査との大きな違いは、MBTIが「人格（パーソナリティ）」ではなく「性格（キャラクター）」を見る検査だということです。心理検査の多くが後天的に形成される人格（パーソナリティ）を測定するものである一方で、MBTIは先天的に人が持っている性格（キャラクター）に注目します。

パーソナリティの語源は、ペルソナ（仮面）で、パーソナリティというのは、いわゆる役割性格です。生まれた後に私たちが社会で生きていくなかで身につけたスキルや行動特徴などの態度を意味します。

一方で、キャラクターという言葉は、ラテン語の「刻み込まれたもの」という意味が起源で、生まれ持っている性格ということです。赤ちゃんの心が白紙の状態で生まれるとしたら、同じ環境で育てたら同じような子どもに育つはずですが、そうはなりません。もともと刻まれたレセプターがあり、それをもとに判断を繰り返して自分を確立していくのです。

ただ、決してパーソナリティを測定する検査がダメということでもなく、ペルソナが悪いわけでもありません。人には「素顔」と「仮面」の両方があって、それが相互作用して成り立っているということを自覚しておくことが大切だと思います。

パーソナリティに焦点を当てた人格検査では行動特性を測ります。ある基準を設けて、その基準と比べて「優しい」とか「明るい」とかを相対的に評価します。これは特性論的な見方で、集団の中での自分の位置を知るには役立ちますが、基準が変われば性格も変わってしまうという弱点があります。

MBTIは、そうした特性論とは異なり、生まれ持ったキャラクターに焦点を当て、人の中にある心をこれ以上分けられないレベルに分類し、それらの利き手の組み合わせを見る類型論を用いています。花の種の中には、どんな花が咲くかの設計図が全て入っています。外的要因によって、花の色や形は変わるかもしれませんが、その花がその花であるための本質は、種の中に既に存在しているように、MBTIではすでにその人の中にある認知スタイルだけにフォーカスして分析するものです。

MBTIは、その人がその人であるための本質、つまりキャラクターを理解するためのツールなのです。そして、そのキャラクターに、良い悪いという評価はありません。それぞれのキャラクターは、個性であり、ギフトなのです。しかし、人は自分の認知スタイルがあまりに自然で当たり前すぎるため、実際どのように動いているのか、なかなか認識しづらいのです。

そこでMBTIは検査を受けて終わりではなく、回答結果に本当に自分の素顔が表現されているか、MBTI🄬の有資格者の支援のもと、結果を理論と自分の実際を照らし合わせながら分析するプロセスを大切にします。

ユングのタイプ論を発展させたMBTI

Q.MBTIは米国でどのようにして作られたのでしょうか？

ユングは、人々の心が活動しているとき、2つの心の活動が関わっていると提唱しました。1つが「知覚機能（情報を取り入れる）」で、もう1つが「判断機能（取り入れた情報を整理し、何らかの結論を導き出す）」です。

そして、これら2つの心の活動にもそれぞれ2つの対極の方法があると考えました。知覚機能の一方が「感覚機能（sensing）」、もう一方が「直観機能（intuition）」。判断機能にも2つの極の方法があると考え、一方を「思考機能（thinking）」、もう一方を「感情機能（feeling）」としました。

※ここでいう「感情」は、情緒的であることを指す「感情的である」こととは異なるため、注意が必要です。
※「感覚」をS、「直観」をN、「思考」をT、「感情」をFとしたのはMBTI🄬の指標として利用する際に追加されたものです。
※直観は内向のIと重複するため頭文字ではなく2文字目のNを用いています。

ユングはまた、人の心のエネルギーが自分の外界に向けられる場合と、内界に向けられる場合があることに気づき、2つの心のエネルギーの方向を、外界で用いられる「外向（extraversion）」と、内界で用いられるという意味で「内向（introversion）」と呼びました。

※ここでいう「外向」は、一般的に使われる「社交的」や「にぎやか」という意味ではなく、「内向」は「内気」や「消極的」という意味ではないことに注意が必要です。
※「外向」をE、「内向」をIとしたのはMBTIの指標として利用する際に追加されたものです。

ユングはこれら4つの心の機能と2つの心のエネルギーの方向を組み合わせ、8つのパターンで性格を表しました。これら8つのパターンは誰もが使えるものですが、ユングは、人によって、より自然なものとそうでないものが生来的にあり、そのことが性格の違いを生成すると考えました。

そしてユングは、8つの心的機能には序列があることに気づき、個人が最も自然と用い、エネルギーを充電する機能を「主機能」と呼びました。そして、主機能を助ける補助機能、主機能と補助機能だけでは壁を乗り越えられないときに働く第3機能があります。さらに、自分の中であえて劣位にしている劣等機能があり、これは主機能の反対となります。そのため、劣等機能を使うとなるとエネルギーを消耗するような体験をします。

マイヤーズとブリッグスは、このタイプダイナミクスの考えをMBTIを受けた人には見出してほしくて、ユングのタイプ論である外向（E）と内向（I）、感覚（S）と直観（N）※、思考（T）と感情（F）に、「外界への接し方（日常の過ごし方）」というもう一つの指標を追加しました。まずは臨機応変に対応する「知覚的態度（P）」と、まず外界を体系立ててから対応する「判断的態度（J）」です。

この指標を加えることで、人の外界へ接するときの心の現れ方を素早く確認できるようになり、MBTIは16タイプとなりました。そしてマイヤーズとブリッグスはユングのタイプ論を発展、役割を特定させ、誰でも簡単に自分のタイプ（認知スタイル）を知ることができるように、20年以上の歳月をかけて、質問紙を作成し、その妥当性や信頼性を検証し、MBTIを完成させたのです。

そして、MBTIの自分の結果を検証したあとに、さらに詳しく分析すると、16タイプそれぞれの

• 「主機能（個人が最も自然と用い、エネルギーを充電する機能）」
• 「補助機能（主機能を補いバランスを取る）」
• 「第3機能（補助機能ほど発達していないものの時々活用される）」
• 「劣等機能（ストレス時に表れることが多いが使うと放電する機能）

がわかるようになりました。

日本版MBTIの開発と普及の経緯

Q.園田先生がMBTIを日本に導入した際の背景をお教えください。

私がMBTIに出会ったのは1980年代です。国や肌の色、宗教や言語の違いなどを超えて、人と人との真のつながりが自然と築けることに感銘を受けました。私はアメリカで教育を受けたのですが、周りの人々は皆、自分のことに自信をもっていました。もちろん、過剰過ぎる人もいてその問題点もありましたが、自己肯定感が高いことは、健全なことだと感じていました。

しかし、大学入学を機に日本に戻ってきて、日本人の自分自身の捉え方が欧米とは全く異なることに驚きを覚えました。日本人がペルソナ（仮面）を多く持ち、そのペルソナを場に合わせて変えられることに感動さえ覚えましたが、一人ひとりは魅力的であるにもかかわらず自己肯定感が高くないことに疑問をもつようになりました。

そこで、日本には、たとえば高校や大学などの受験では、「偏差値」という究極の特性論があたかも人生を決める仕組みであるような扱いを受けていることや、日常や教育の中で自己理解に時間をかける機会がないこと、人を理解する際に、人と比べる特性論的な考えが中心となっていることが大きく影響しているのではないかと考えるに至ったわけです。

そして、日本でMBTIを正しく倫理的に普及できれば、ユングのタイプ論の核であるタイプダイナミクスの概念（自分の心の中のリーダーがおり、かつ自分の心なのに自分の心ではないと思いたいほど自分の中で劣位にしている心があること）が、本来の自分の人生を歩む羅針盤として、日本人一人ひとりの人生に利益をもたらすことができるのではないかと考えたのです。

そこで、企業に勤務するかたわら、有休を活用して渡米し、日本人で初めてMBTIの資格を取得しました。その後も、ユング派臨床心理学者でミセスMBTIと呼ばれていたN.クエンク博士による教育分析を受けながら、10年かけて日本人を母集団とした日本版MBTIを開発しました。そして、2000年に日本版MBTI＆フィードバックマテリアルが完成し、日本版MBTI資格付与講座のコンテンツも完成し、本格的に普及が始まったのです。現在、このMBTIの有資格者は日本にのべ3000人も誕生しています。

MBTIがキャリア開発に役立つ理由

Ｑ．キャリア開発を行う際に「自己分析」や「自己理解」がなぜ重要なのか、とりわけMBTIで得られる理解について教えてください。

先ほど、後天的に形成される人格（パーソナリティ）と、人が先天的に持っている性格（キャラクター）の違いについてご説明しました。自己分析や自己理解という言葉はキャリア形成を考える際によく聞かれますが、大事なのはその「自己分析」は何のメソッドをもとにしているものなのか、を知ることです。日本で就職活動時によく使われている適性検査は人格（パーソナリティ）を把握するものが多いことは先ほどお伝えしましたが、本来の自分を生きるためには、性格（キャラクター）を理解することがとても大切だと思います。

MBTIは生まれ持った性格（キャラクター）に焦点を当てて自己理解を深めるためのツールです。就職活動だけでなく日々の生活の中でストレスを感じるようなことに直面した際に、本来の自分を見失わないためにも自己理解が不可欠です。

実際は、自分のことを全部わかっている人はほとんどいないですよね。誰でも自分のことであっても意識できている部分と無意識の部分があります。ストレスがかかると無意識の自分がいっぱい出てきてしまうので、自分の心を意識化しておくと、自分の認知が歪みすぎていたり、自分の劣等機能が放電していたりすることも自覚できるようになり、自分のことをコントロール下における安心感を得られます。すなわち、さらに自分に対して適切に自信を持てるようになってきます。

特に、キャリア開発においては、個人内で優位にしている主機能を理解することが重要です。自分の中に備わっているモチベーションの源がわかるからです。理解すること、つまり“分かる”ということは、未分化だったものが分化していくことですが、主機能が分化するのは小学生くらいでしょう。その後、さまざまな失敗を経て補助機能が成長し、人生の前半は主機能と補助機能をバランスよく使いながら自分のタイプが成熟していきます。

しかし、人生の後半で補助機能だけではうまく乗り切れない問題に直面することがあります。特に知られているのはミッドライフクライシス（中年の危機）などがそれですね。そういうときに備えて、第3機能や劣等機能を開発し適切に使えるようになっておくことが大切です。

ユングは日々の生活の中でいかに意識の部分を増やすかを研究しましたが、MBTIはその意識化を促進するためのフレームと言えます。MBTIは、自己分析のための強力なツールです。MBTIの結果、有資格者の支援のもとで検証する過程で自分の認知スタイルや自分にしかない強みを、自分のモチベーションの源などを客観的に理解できます。これにより、自分を生かせるキャリア選択が可能となるのです。そして自分の成長の方向性を見つけることもできます。

キャリア支援、組織開発におけるMBTIの有効性

Q.キャリアカウンセリングや、企業の組織開発における導入事例を教えてください。

キャリアカウンセリングの現場では、MBTIは、自己理解を深めるためのツールとして活用されています。クライエントがタイプを支援者のもとで自ら分析し、自らそれぞれの強みや弱み（課題）、価値観を意識化していくなかで、自分を生かしたり、成長のためにキャリアとどう向き合うか、キャリアコンサルタントと考えることが可能です。

また、MBTIは組織開発にも役立ちます。チームメンバー全員で、支援者のもとで自分を分析することで、チームメンバーのタイプを理解し、それぞれの強みを活かした役割分担やそれぞれのタイプを尊重したコミュニケーションを行うことで、チーム全体のパフォーマンスを向上させることができます。

企業の組織開発においては、MBTIは、チームビルディングやリーダーシップ開発に活用されています。自己理解は他者理解につながりますので、自分自身の理解に加えて、組織のメンバーのタイプを理解し、それぞれの強みを活かした役割分担や、それぞれの弱みを互いに補い合うことで、チーム全体のパフォーマンスを向上させることができます。

ある企業で、役員層に対してMBTI研修を実施しました。その結果、役員たちは、まずは自分の心の利き手を知り、自分と異なるタイプの部下に対し、純粋な興味を持つようになります。そして、それぞれの個性を活かしたマネジメントを行えるようになり、その結果、組織全体の自律性も高まり、かつ互いに対する信頼感が増し、結果的に業績も向上しました。

MBTIを正しく理解することの重要性

Q.昨今のSNSでのMBTI流行について、園田先生からお言葉を頂戴できますでしょうか。

MBTIが多くの人に知られるようになり、自己理解に関心を持つ人が増えたことは良いことですが、一方で、SNSでのMBTIの流行には、誤った情報や偏った解釈が広まっているという問題点もあります。

例えば、人は誰もが複雑で深淵なのに、タイプでその人のすべてをわかったようにレッテルを貼ったり、相性の良し悪しを決めつけたり、特定のタイプを優遇したりするような情報が拡散されています。SNSでMBTIに関する情報に触れる際には、それはネットのMBTIに似た検査のことなのか、それともMBTIのことなのか、情報の正確性や信頼性を確認するように心がけてください。

MBTIは、自分を理解し、他者を理解し、より豊かな人生を送るためのツールです。MBTIはタイプにレッテルを貼ったり、他人を批判したりするために使うべきではありませんし、MBTIを体験された方はレッテルを貼ることがいかに危険か、また、ちまたの似て非なるものの結果を妄信すると自分の選択肢を狭める危険性があることも危惧しています。

最も重要なことは、ネットでほぼ無料で受けられるような性格診断テストの結果を鵜呑みにするのではなく、自分自身と対話をし、自己理解を深めていくことです。その方法の一つに70年もの間その有効性が認められてきたMBTIがあると覚えておいてください。自分の心の機能が分かれば、心のエネルギーは実は有限なので、どんなときに自分の心のエネルギーが充電し、枯渇するのか理解できるので、自らバランスをとり、自分自身でい続けることができます。MBTIを正しく理解し、自分という人間にとって重要な資源であるキャラクターを理解し、自分を生きるための道しるべとしてほしいですね。

日本も賃金は上昇しているが、直近5年間の上昇率を他国と比較すると、上昇幅が小さいことがわかる。なお、アメリカの最低賃金は、連邦政府と各州政府によって定められており、連邦最低賃金は全国一律で、各州はそれを下回ることはできないが、上回ることは可能というルールのもと、各州の最低賃金は地域の経済状況や労働市場の状況により異なる。

【表1】を見ると2020年から2024年まで金額が一定になっているが、独立行政法人労働政策研究・研修機構の報告 によると、2024年1月には全米50州のうち、22州で最低賃金が引き上げられており、その金額もまた、最低賃金の7.25ドルを上回る金額で設定されている。