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アンラーン(学びほぐし)とは?概要や必要とされている理由を合わせて解説

キャリアリサーチLab編集部
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近年、リスキリングリカレントといった言葉が注目を集めている。これらは「社会人の学びなおし」を意味する言葉で、社会人が新しい知識やスキルなどを身につけることを指す。その一方で、これまで得てきた知識などを捨てる「アンラーン(学びほぐし)」の重要性も指摘されている。

本コラムでは、アンラーンの概要や取り組み方について確認するとともに、メリットや注意すべきポイントについて解説していく。

アンラーン(学びほぐし)とは

アンラーン(unlearn)とは、「学びほぐし」や「学習棄却」ともいわれ、これまでに身につけた知識や思考、価値観などを意図的に捨てることを指す。

たとえば、従来の仕事の進め方やライフキャリアに対する価値観などを見直し、必要がなくなったものや時代に合わなくなったものを手放すことで、思考をフラットな状態に戻すことなどが挙げられる。その結果、新しい知識を受け入れやすくなり、学びなおしの効果を高めることができるのだ。

もちろん、アンラーンは全ての学びを捨てるわけではない。アンラーンの目的は、柔軟な発想を妨げるような思考パターンを取り除くことにある。古い知識や価値観であっても有益なものはしっかり残しながら、思考をリセットできるのだ。

社会人の学びにおけるキーワード整理

アンラーンの必要性を説明する前に、まずは社会人の学びにおけるキーワードである「リスキリング」と「リカレント」との関係性について解説する。どちらも社会人の学びを意味する言葉だが、「リスキリング」と「リカレント」は、すでに得た学びに新しい学びを上乗せする意味合いが強い。一方、「アンラーン」はすでに得た学びを捨てることを重視している。

リスキリング(Re-skilling)とは

リスキリングとは、ビジネス環境の変化やデジタル技術の進化に対応するために、新しいスキルや知識を身につけることを指す。これは学生ではなく、義務教育を終えた社会人が働きながら学ぶため、「学びなおし」ともいわれる。企業が人材育成の一環として行うことが多く、たとえば、DX研修で、社員がプログラミングスキルを習得することなどがあげられる。

リカレント(recurrent)とは

リカレントとは、学校教育を終えて働いている人が必要に応じて学び直し、生涯にわたって就労と就学を繰り返すことを指す。欧米では離職や休職などで一度職場を離れて、教育機関で学ぶのが一般的だが、日本では経済を取り巻く環境の変化とともに就業しながら学ぶ人も出始めている。リスキリングに比べて、リカレントの方がより個人の自主性が強いという特徴がある。

社会人の学びが必要とされる理由とアンラーンの重要性

では、昨今そのような「社会人の学び」に関する注目度が高まっているのはなぜなのか。次に、現代の社会人にとって「学び」が重要とされる理由と、その学びにおいてアンラーンがどのような重要性を持つのかをみていく。

社会の変化に対応するため

社会人に学びが必要な理由の一つは、ビジネスを取り巻く環境の変化が非常に激しいからだ。ここ数年を振り返ると、労働人口の減少やコロナ禍による事業変化、生成AIの台頭、さらには国際情勢の複雑化などあげればきりがない。そのため、新たな知識やスキルを身につけて時代や社会の変化に対応できる自分にアップデートしていくことが重要だ。

ただ、このような変化が早い社会においては、せっかく習得した知識やスキルがすぐに時代遅れになるかもしれない。そのため、新しい学びを得るリスキリングだけではなく、不要な学びを捨てるアンラーンも組み合わせることが必要なのだ。

自分に合ったキャリアを選ぶため

また、キャリアの選択肢が複雑化していることも理由の一つだ。『人生100年』といわれている今、従来の「学校⇒会社⇒リタイア」という一本道のキャリアだけではなくなっている。

たとえば、退職後に新しい仕事を始めることもあれば、スキルアップのために転職することもあるだろう。そのようにキャリアが多様化している中で、自身が望むキャリアを歩んでいくために、新たな知識や新しい働き方などの価値観を学ぶことも重要になっている。

その際に、アンラーンで既存の価値観や思い込みを捨てることで、思考をフラットな状態に戻すことは欠かせない。視野を広げることで、より自身に合ったキャリアを選択しやすくなるのだ。

社会人の学びに関する参考記事

マイナビキャリアリサーチLabでは、以下の記事にて社会人になってからの学びの重要性と関連用語についてより詳しく解説している。あわせてご覧いただきたい。

アンラーンの取り組み方

アンラーンを進める上では、手放すべき学びだけではなく、自分自身の強みも見つけることが重要だ。そのため、仮にメンバーがアンラーンに取り組むとしたら、上司や先輩などがフォローアップすることが理想的といえる。

組織やチームでアンラーンに取り組む場合、主に「内省」「学びの取捨選択」「新しい学びを得る」の3ステップの場を用意すると良いだろう。

内省

まずは、自身の中にある価値観に気づくことから始める。内省で気づくべき点は固定観念や思い込み、信念などである。客観的に把握できるようにするためには、ワークショップなどの手段が有効だ。より手軽な方法として、自身が感じていること、成功や失敗などを紙に書いて、その理由を振り返ることも良いだろう。

学びの取捨選択

次に、内省で気づいた価値観や考え方の中から、どれを捨てどれを残すべきかを取捨選択する。自己分析が有効だが、この工程を個人で行うことは難しいため、ワークショップなどの形式をとり、お互いに意見を交換しながら整理していくのも有効だ。

新しい学びを得る

2つのステップで知識や価値観を整理した後で、最後に新しい知識を得る場を提供すると良い。また、そこで得た学びを実際に使う機会があればさらに望ましい。

アンラーンのメリット

前述のように、アンラーンの最大の効果はリスキリングの効率化だ。しかし、自身の持っている知識や価値観を整理して、必要がないものを手放すことで、柔軟な思考ができることによるメリットはほかにもある。

業務効率化

アンラーンによって現状のやり方を見直す視点が生まれると、業務効率化にもつながる。慣習的に実施されてきた業務工程を再考する姿勢が生まれることで、無駄な工程を減らしたり、新しいやり方に置き換えたりするアイデアにつながり、より効率的なやり方で仕事ができるようになるのだ。

マネジメント力の向上

アンラーンによって自身の業務を見直すことで、従来のマネジメントの在り方に囚われず、より時代やチームメンバーに合ったマネジメント方法を採用できることにもつながる。管理職が時代に合った価値観を得ることで、部下やメンバーとのジェンダー・階級・世代などのギャップを減らすことも期待できるのだ。結果として、チームの協調性を高めることができるだろう。

従来の経験則を断ち切りアンラーンすることが、職場のハラスメント防止においてどのような意味があるのかについては、下記のコラムでも紹介している。ぜひ参考にして欲しい。

仕事の停滞感を解消

今ある知識や価値観を捨てることは、それらに囚われてマンネリ感を抱いている人にとっては解消にもつながる。これは、「キャリアプラトー」と呼ばれ、仕事へ停滞感を感じ、モチベーションが落ちてしまう状態を解消する際にも有効だ。

キャリアプラトーとは

キャリアプラトーとは、組織での昇進や昇格の可能性が低いため、仕事へのモチベーションが低下することを指す。40代前後に起こりやすく「自分の能力はここまでである」と本人が思い込んでしまっている場合も多い。このような思い込みを壊すために、アンラーンで新しい刺激を受けることで、仕事への意欲を取り戻すことができる。

アンラーンを効果的に実施するポイント

否定的に考えすぎないようにフォロー

これまでの学びを手放すことに抵抗感を持つ人は多い。特に、長く働いている社員であれば「自分のやり方は時代遅れなのか」と過去を否定的に捉えてしまい、落ち込んでしまう可能性がある。
企業の対応として、アンラーンは成長のためのプロセスであり、自分自身を否定するものではないと、社員が理解できるようにフォローすることが必要だ。

また、アンラーンの成果が出るまでには個人差がある。結果を急ぎすぎると社員は不安になったり、モチベーションが低下したりすることもある点には留意すべきだ。中長期的なスパンも視野に入れて、落ち着いて取り組める環境を整える必要がある。

組織全体で取り組むと効果的

一人で「内省」を行うことは難しく、業務の進め方などにおいては、職場で一人だけやり方を変えると、組織全体が混乱する場合もある。業務の見直しにおいてアンラーンに取り組む場合は、メンバー同士で現状の課題を共有し、どのような取り組みを進めるべきなのかを一緒に考えられるように、組織全体でアンラーンに取り組むことが望ましい。

また、影響力があるリーダーや管理職が率先してアンラーンに取り組む姿勢を見せることも重要だ。これにより、他のメンバーが後を追いやすくなり、チーム全体に学習する組織文化が根付いていく。結果として、古い慣習や価値観に囚われない、変化に強い組織が構成されるのだ。

まとめ

変化の激しい時代で生き抜くためには、新しいスキルを習得するリスキリングは欠かせない。そのリスキリングの成果をさらに高めるために、古い知識や経験、価値観などを取捨選択し、思考をリセットするアンラーンも重要だということがわかった。

アンラーンによって自分自身のアップデートを習慣化できれば、環境の変化にも柔軟に対応することができ、キャリアの選択肢もより広がるだろう。ぜひ、本コラムで紹介したポイントを踏まえながら、自分自身を見つめ直し、目標に向けたスキルアップに取り組んで欲しい。

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