マイナビ キャリアリサーチLab

70歳定年時代の到来!!
社会人の“リスキリング”の現状を確認する

「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」(高年齢者雇用安定法)の改正法が施行され、定年を70歳に延長するなどの「就業確保措置」が努力義務化された。また、企業の雇用システムがメンバーシップ型からジョブ型へと移行しつつあり、さらにDX推進によるデジタル人材の不足が喫緊の課題となっている。人生100年時代を迎え、労働者を取り巻く雇用環境が大きく変化しつつあるなか、今、あらためて重要性が指摘されているのが、リスキリング(学び直し)だ。今回は、企業における人材育成の現状と労働者の学び直しの取り組み状況を確認したい。

企業の人材への投資は低迷が続く

人生100年時代を見据えた経済・社会システムを実現する政策を検討するために、2017年に「人生100年時代構想会議」が設置された。同会議がその翌年に発表した「リカレント教育 参考資料」によれば、民間企業における一人当たり教育訓練費は、90年代以降漸減傾向で、2016年は一人当たり月平均で1,112円となっている。

また、厚生労働省の「能力開発基本調査」によると、企業がOFF-JT(職場外訓練)に支出した労働者一人当たり平均額は、2020年度の年間総額で従業員一人当たり7,000円と、コロナ禍の影響もあってか、前年度から約6割減少しているという。

多くの日本企業はこれまで長期雇用を前提として、労働者を手厚く教育訓練してきたが、人材の流動化が進むなかで、人材育成に対する取り組みにも少しずつ変化が現れているようだ。

必要とされる知識の獲得を目的に自主的に学び直し

では、学び直しに取り組む労働者の現状はどうなっているのだろうか。文部科学省が実施した、大学等で学ぶ社会人を対象とした調査によると、「学び直しを行う理由」の第1は、「現在の職務を支える広い知見・視野を得るため」で、「学位取得するため」「現在の職務における先端的な専門知識を得るため」「現在の職務に直接必要な基礎的な知識を得るため」「現在とは違う職場・仕事に就くための準備をするため」が続いている。「学位取得するため」を除いて、職務で求められる知識の獲得を主な目的として自主的に学び直しに取り組んでいるようだ。

どのような業種の社会人が学び直しに取り組んでいるのか。同調査結果を確認すると、「医療・福祉」「教育・学習支援業」など、専門性の高い職種を抱える業種の比率が高いが、「製造業」「学術研究・専門・技術サービス業」「情報通信業」など、専門的かつ先進的な知識が求められる業種が続いている。

大学以外でもさまざまなスタイルで自己啓発に取り組む

大学で社会人向けのプログラムで学ぶ以外にも、学び直しはさまざまなスタイルで行われている。「マイナビ ライフキャリア実態調査 2021年版」によると、自費で自己啓発活動を行った就業者(正規の職員・従業員/非正規の職員・従業員)は、「仕事に関わる書籍・雑誌の購入」をはじめとして、「仕事に関わる資格の取得」「仕事に関わる機材・ツールの購入」など、さまざまな取り組みを進めているようだ。

また、自己啓発活動にかける費用は、数千円から数十万円まで非常に幅広いが、3万円以上の費用をかけている人が約20パーセント存在し、業務で必要とされる資格の取得や知識の習得のために、決して少なくないコストをかけて取り組んでいる実態が理解できる。

企業規模によって、学び直しの推進に格差

続いて、企業側の取り組み状況について確認する。経団連が2021年に実施した「大学等が実施するリカレント教育に関するアンケート調査」によると、調査対象企業の約4割がリカレント教育プログラムの受講を社員に指示・推奨しており、自発的に受講している社員がいる企業を含めると、6割近くにのぼることがわかる。

また、大学等が実施するリカレント教育への期待として、専門知識や技能の習得だけを目的とするのではなく、人的ネットワーク構築・拡大やイノベーションにつながる異文化交流なども、視野に入っているようだ。

しかしながら、学び直しの推進状況は、企業規模によって格差があるようだ。文部科学省の「社会人の大学等における学び直しの実態把握に関する調査研究」によると、過去5年間で従業員を大学等に送り出した実績では、従業員301人以上の大手企業では4割近くあるのに対して、中堅企業で1割以下となり、小規模企業では5パーセント以下という結果となっている。

また、グラフは掲載していないが、学び直しに関しては全体の約5割が外部教育機関を活用しており、活用している外部教育機関としては、民間の教育訓練機関が約8割、公共職業能力開発施設が約2割となっている。この結果からは、社員の学び直しにおいて、大学や大学院、短期大学などの高等教育機関の活用はあまり進んでいない状況であることがわかる。

学び直しに関心はあってもさまざまな障害に直面

社会人の学び直しに関心度は決して低いわけではない。「社会人の大学等における学び直しの実態把握に関する調査研究」では、大学等で学び直しを行ったことがない社会人に対して、大学等での学び直しについての関心度についても調査している。結果は、「大学等で学び直しを行いたい」「大学等で学び直しを行うことに興味がある」の合計が37.6%と、4割近くにのぼっている。

しかしながら、仕事を持つ社会人の学び直しには数々の障害があり、文部科学省の「リカレント教育参考資料」によると、1位が「仕事が忙しくて学び直しの余裕がない」(59.3%)、2位が「費用がかかりすぎる」(29.7%)という結果となっている。また、第3位に「家事・育児が忙しくて学び直しの余裕がない」(21.8%)が入っており、企業規模による格差とは別に、性別によっても学び直しの格差が生じている可能性がうかがわれる結果となっている。

社会人の学び直しは、本人の主体的な意識や姿勢は不可欠だが、それを後押しする企業側のさまざまな工夫や努力も不可欠だ。「社会人の大学等における学び直しの実態把握に関する調査研究」では、大学等で修学する社会人に、自分の職場への希望について調査している。アンケート結果からは、(1)学び直しの成果に対する評価、(2)柔軟な勤務体制、(3)金銭的な補助、(4)通学に伴って不利益な評価をしないことなどを社会人は求めていることがわかる。

詳述を控えるが、学び直しの機会の提供に関しては、日本企業はアメリカ企業に遅れを取っているという調査結果もある。また、日本においては学び直しに対する労働者側の問題意識の低さも指摘される。日本企業ではこれまで企業内で手厚い教育研修プログラムが用意されてきたこともあって、労働者側も自らのキャリア開発に対する意識が低く、自己投資へのモチベーションが高まりにくいという状況にあるのかもしれない。

しかしながら、人材の流動化とジョブ型雇用への移行が急速に進むとすれば、働き手が主体的に学び、自律的にキャリアを形成することが求められる時代が到来したことに疑いの余地はないのではなかろうか。


著者紹介 吉本 隆男(よしもと たかお)キャリアライター&就活アドバイザー

1960年大阪生まれ。1990年毎日コミュニケーションズ(現:マイナビ)入社。各種採用広報ツールの制作を幅広く手がけ、その後、パソコン雑誌、転職情報誌の編集長を務める。2015~2018年まで新卒のマイナビ編集長を務め、2019年からは地域創生をテーマとした高校生向けキャリア教育プログラムおよび教材の開発に従事。2020年定年退職を機にキャリアライター&就活アドバイザーとして独立。
日本キャリア開発協会会員(CDA)、国家資格キャリアコンサルタント。著書に『保護者に求められる就活支援』(2019年/マイナビ出版)

関連記事

政府統計データ

コラム

働き方改革で単線型のキャリアパスは変化するか!?
副業・兼業の実態を探る

副業・兼業

コラム

副業・兼業実施者にみる副業の実態とキャリア開発の可能性

コラム

コロナウイルス蔓延が世界の雇用に与えた影~海外記事や研究を参考に~