マイナビ キャリアリサーチLab

VUCA時代における大学生の人生戦略~経済不安と収入に対する価値観について~ 

中島英里香
著者
キャリアリサーチLab研究員
ERIKA NAKASHIMA

VUCA時代における大学生の不安

VUCA時代を生きる今の学生 

現在の社会はVUCA時代と言われ、社会を取り巻く環境が複雑化し、先の見通しが立たない時代である。そのような時代において、現在の大学生はどのような学生生活を過ごし、就職活動にどのような影響があったのであろうか。本コラムでは2025年卒の学生を中心にみていく。

最初にあげられるのは世界的な不況を引き起こした2008年のリーマンショックである。幼少期にリーマンショックが起き、世界的な不況から景気の明るさを感じることなく成長することとなった。さらには高校から大学までコロナウイルスの流行があり、制限のある学生生活を送ることとなった。 

学生の不安

上記であげたような歴史上でもインパクトのある社会情勢を経験してきた2025卒年の学生だが、その他にも2019年には老後2,000万円問題といった話題もあがり、将来への不安感は増す一方である。 

2025年卒の学生調査において具体的な将来の不安を聞いたところ、もっとも多くあげられた不安は「老後の貯蓄(生活費)が足りない(39.4%)」であった。それに続き、「日本の景気が悪くなる(35.9%)」「年金がもらえないかもしれない(30.8%)」と老後の生活費や景気に関する回答が高い結果となった。【図1】 

図1 学生の将来の不安
引用元:2025年卒大学生活動実態調査(9月)
【図1】 学生の将来の不安
引用元:2025年卒大学生活動実態調査(9月)

また、お金に関して直近の関心事となる就職後の収入についても安心している訳ではない。学生に就職後の収入でどのような生活ができると思うかを聞いたところ、「満足する生活ができる」よりも「最低限の生活ができる」という回答が10pt以上も高かった。【図2】 

図2 就職後の収入イメージ
引用元:2025年卒大学生活動実態調査(6月)
【図2】 就職後の収入イメージ
引用元:2025年卒大学生活動実態調査(6月)

近年の円安・物価高の影響を直に体感しているためか、就職後の収入においても学生は楽観視をしておらず、堅実に考えているようだ。 

学生の人生戦略 ~キャリア選択~

学生が良いと思う会社

老後の金銭的な不安を感じており、就職後の収入についても堅実に考えている今の学生が企業へ求めるものはどのようなものであろうか。学生が「良いと思う会社」を聞いた調査では近年、変化がみられている。 

注目すべきは1位の内容の逆転である。2019年卒の学生までは「自分のやりたい仕事ができる会社」が良い会社であるという回答が最多であったが2020年卒以降は「安定している会社」が最多の回答となっている。【図3】 

図3 学生が良いと思う会社
引用元:2025年卒大学生就職意識調査
【図3】 学生が良いと思う会社
引用元:2025年卒大学生就職意識調査

さらには「給料の良い会社」の回答も2022年卒以降で増加傾向となり、2025年卒の結果では「給料の良い会社」が「自分のやりたい仕事ができる会社」に5.0ptまで差を詰めることとなった。 

学生が思う良い会社について、コロナ禍以前では学生にとって希望の仕事に就けるかという点が企業の良さにつながっていたが、コロナ禍以降は情勢不安や物価高といった経済状況の影響を受け、安定している会社や給料の良い会社が良いと学生の重視する点が変わってきていることがうかがえる。

学生の人生戦略 ~収入源の複数化~

図2でも示したように、今の学生は就職先の収入で“最低限の”生活はできると思っている。では、余裕を持った生活や贅沢をしたいとなった場合はどうするのか。国の推進もあり、就職先以外の収入源を持つという選択肢が学生にも広がっている。

副業を検討

収入源を複数持つ手段の1つに『副業』がある。2017年3月28日に行われた働き方改革実現会議では副業・兼業希望者の増加により、労働者の健康確保に留意しつつ、原則副業・兼業を認める方向で副業・兼業を普及促進することが決定された。厚生労働省はその決定を受け、2018年1月に副業・兼業について、企業や働く方が現行の法令のもとでどのような事項に留意すべきかをまとめたガイドラインを策定している。

このような副業・兼業への関心は学生にも広がっている。学生に対して副業への関心を聞いたところ、就職後に副業を検討している学生(※1)は66.0%と7割に迫る勢いであった。【図4】

※1 「副業を行いたい」「金銭的に苦しくなった場合、行いたい」「就職先の業務に慣れたら行いたい」「すでにやっている仕事を就職後も継続する予定」の合計 

【図4】 学生の副業への関心 
引用元:2025年卒大学生活動実態調査(6月) 

投資を検討

その他に資産を増やすための手段として『投資』がある。国は「家計の安定的な資産形成の支援」と「成長資金の供給」を目的に少額からの投資を可能とする「少額投資非課税制度(NISA)」を2014年1月より開始した。しかし、金融庁が発表している2024年6月時点でのNISA口座の利用状況において、口座数の年代別割合は10代と20代を合わせて11.9%と、決して高くはない。

ただ、学生に対して就職後の投資について聞いたところ、投資への意欲が高い層は63.6%(※2)と、多くの学生が投資を検討していることがわかる。また、すでに投資を行っている学生が一定数いることも示され、学生であっても投資に対して前向きであることがうかがえる。【図5】 

※2 「社会人になってお金に余裕ができたら行いたい」「社会人になったら検討してみたい」「社会人になったら必ず行う予定である」の合計 

【図5】学生の投資への関心 
引用元:2025年卒企業新卒採用活動調査(8月)
【図5】学生の投資への関心 
引用元:2025年卒企業新卒採用活動調査(8月)

以上の結果から、学生は就職前にも関わらず就職先とは別の収入源を持つことに高い関心があることが示された。企業選択の視点では「安定」「良い給料」を求め、収入の面では自分の力で収入を増やすことも視野に入れているのかもしれない。 

企業の採用施策 

初任給の引き上げ

一方、企業側は人材不足が深刻化している。新卒採用では充足率が2022年卒以降、減少傾向となっており、2025年卒時の充足率は70.0%であった。【図6】 

【図6】新卒採用における充足率
引用元:2025年卒企業新卒内定状況調査 
【図6】新卒採用における充足率
引用元:2025年卒企業新卒内定状況調査 

そのため、企業もさまざまな施策を打ち出しており、その1つに初任給の引き上げがある。2025年卒の新卒採用を予定している企業を対象に初任給の引き上げ実施状況を聞いたところ、6割(※3)の企業がすでに引き上げを行っていた。【図7】

【図7】初任給の引き上げについて
引用元: 2025年卒企業新卒採用予定調査
【図7】初任給の引き上げについて
引用元: 2025年卒企業新卒採用予定調査

さらに今後、引き上げを行う予定の企業は47.2%(※4)と半数近くの企業が引き上げを予定をしていることがわかった。 

※3 「現時点ですでに引き上げており、さらに引き上げを行う予定」「現時点ですでに引き上げており、今後行う予定はない」の合計
※4 「現時点ですでに引き上げており、さらに引き上げを行う予定」「これまでは行っていないが、25年卒入社の方も対象となる前提で引き上げを行う予定」「これまでは行っていないが、2024年以内に引き上げを行う予定」の合計 

副業・兼業制度の導入

企業は雇用条件を向上させるだけではなく、柔軟な働き方も認めるようになっている。その1つとして副業・兼業制度があげられる。人事担当者に副業・兼業制度の有無を聞いたところ、副業・兼業の制度がある企業は70.8%(※5)であった。【図8】

【図8】副業・兼業制度のある企業
【図8】副業・兼業制度のある企業
引用:中途採用実態調査2024年版

企業もこれまでの終身雇用を前提とした経営から、賃金や雇用形態を含め、少しづつ従業員との関係性を変化させつつある。

※5 「制度があり、将来的にも拡充する予定」「制度があり、現状維持の予定」「制度があるが、将来的には廃止する予定」「現在一部の従業員が利用できる制度があり、将来的には拡充する予定」「現在一部の従業員が利用できる制度があり、現状維持の予定」「現在一部の従業員が利用できる制度があるが。将来的には廃止する予定」の合計

最後に

学生の行動の背景には「不安」 

これまでの学生は「自分のやりたい仕事ができるか」や「社風」といったように働く場が自分に合っているか、希望が叶うかどうかを重視する傾向があった。しかし、現在の学生が企業に求めているのは「安定」と「良い待遇」である。 

それは売り手市場の余裕からくるものではなく、現在の経済状況から生じる生活の苦しさや将来の不安の表れである。さらには副業や投資から別収入を得ることも検討する。これがVUCA時代を乗り越えるための今の学生の戦略なのかもしれない。 

企業の対策-学生にとって良い待遇とは-

それに対して企業側でも初任給の引き上げ等の対策を行っているが、給与の引き上げには限界がある。また、学生が希望する職種や働く環境を企業選択のポイントとしなくなった訳ではなく、優先順位が下がってはいるものの学生にとっては重要な指標である。 

そこで注目すべきは「待遇」である。「待遇」については学生によって意味はさまざまである。ある学生にとっては地元で働けることが一番良い待遇であるかもしれない。また、別の学生にとってはキャリアアップの為に早く成長できる環境へ配属することが最も良い待遇かもしれない。

企業にとって重要なのは、目の前の学生が何を大切にし、どのような生活を送りたいのか理解することである。その上でその学生が入社をしたら、どのような働き方や生活が実現可能かを理解してもらう。そんな相互コミュニケーションが求められているのではないだろうか。 

マイナビキャリアリサーチLab 研究員 中島英里香

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