早期離職に繋がる入社後のギャップとは?-年代別の理由と企業の対策を紹介
昨今、若手の早期離職が話題になっている。苦労して採用した人材が定着せずに離職してしまうのは現場にとっても採用担当部門にとっても問題だ。
また、求職者本人のキャリアにとっても望ましくないだろう。 では、そんな早期離職はどうして起きてしまうのか。今回は、早期離職の理由についての調査結果から、早期離職に繋がりやすい「入社後のギャップ」を探り、実際にそのようなギャップを防ぐために実施されている施策も紹介していく。
目次
早期離職とは
初めに、今回のコラムにおける早期離職の定義を示す。早期離職とは、入社して3年以内に退職することを指すことが多いが、今回のコラムではさらに早期の「入社して半年以内に離職」してしまうケースについて語っていく。 なお、早期離職に関する今回のデータは下記調査から引用している。
早期離職したことがある人の割合
まずは、早期離職の経験がある人の割合を見ていく。20~50代の正社員3,000人に調査したところ、早期離職の経験を持つ人は全体の9.1%だった。 【図1】
年代別に見ると20代が11.0%、30代が8.1%、40代が8.5%、50代が9.2%となり、早期離職したことがある人の割合がもっとも高いのは20代だった。【図2】
この調査は、これまでのキャリア全体での早期離職経験の有無を聞いているため、正社員としての就業期間が長いほど、転職の経験や早期離職の機会が多くあってもおかしくない。実際に、30代以降は年齢が高くなるにつれて早期離職経験者の割合がわずかではあるが高くなっている。
ただ、20代については唯一、1割を超える結果となり、今回の調査結果では、20代のうち10人に1人が、入社後半年以内の退職を経験していることがわかった。
参考までに、新卒採用を行っている企業に早期離職者について聞いた調査結果も紹介する。2023年に入社した新卒社員のうち、半年後の調査時点(9月~10月)で退職者がいた企業の割合は26.1%だった。【図3】
20代の早期退職経験者の中には、このように新卒入社した会社を半年以内に離職した人もいると考えられる。
*調査では「今年(2023年)に入社した新入社員で、調査時点(9~10月)までに退職した社員がいるか」という表現で聞いている
早期離職の理由―離職に繋がりやすいギャップとは
早期離職の理由・全体の傾向
では、このように早期離職したことがある人はなぜその会社を離れたのか。早期離職の理由を見ると、「職場の雰囲気が良くなかった/自分に合わなかった」と「上司/同僚などの職場の人間関係が合わなかった」を挙げている人の割合が特に高いことがわかる。もっともあてはまるものを1つ選んでもらった結果を見てもそれらの選択肢を選んだ人の割合が高い。 【図4】
また、その後には「想定していた仕事内容ではなかった」「やりがいを感じられなかった」が続いた。
早期離職の主な原因は大きく分けて「雰囲気や人間関係など職場環境とのミスマッチ」と「入社前に想定していた仕事内容と実際の仕事内容との相違」と言えそうだ。選考を受けていたときにイメージしていたものと、入社後に実際に体験するものとのギャップが早期離職に繋がっているのではないだろうか。
ただ、主な原因は共通しつつも、項目の順位やその割合には、年代ごとにやや異なる傾向がみられた。ここからは年代ごとの早期退職理由の傾向について詳しく見ていく。
20代の早期離職理由
20代の早期離職理由としてもっとも多かったのは、「上司/先輩から理不尽な指摘や指導があった」だった。全体での順位は27.5%で5位であるのに対して20代では43.0%で1位となっており、全体傾向との差があることがわかる。【表1】
また、全体では6位の「仕事内容に対する給与が見合っていないと感じた」が20代では3位に、全体では10位の「休日数や残業時間が想定と違った」が20代では6位となっていることも、20代の早期離職の理由の特徴的な傾向のようだ。
さらに、全体では3位になっている「想定していた仕事内容と違った」が、20代では上位10項目に入っていないことも全体傾向との違いだ。20代は社会人経験が少なく仕事内容があまり具体的に想定できていないために「想定と違った」とは感じづらいことや、仕事内容が想定と違っていても早期離職に繋がるほどの問題とは感じていないのかもしれない。
20代の早期離職者の傾向
・「理不尽と感じられる指摘や指導」が特に早期離職に繋がりやすい
・仕事内容以外の基本的な勤務条件や仕事内容と給与のバランスが想定と違うことが
早期離職に繋がった人が他の年代よりも多い
30代の早期離職理由
30代の早期離職理由としてもっとも多かったのは「上司/同僚などの職場の人間関係が合わなかった(45.0%)」で、全体の割合(33.4%)よりも11.6pt高く、差ももっとも大きかった。【表2】
全体との差が次に大きかったのは「やりがいを感じられなかった(36.1%)」で、全体割合(28.0%)よりも8.1pt高い結果となっている。
30代は上位になっている項目は全体と同じだが、他の年代よりも、人間関係のミスマッチややりがいの実感のなさが早期離職に繋がっているケースがやや多いことがわかる。
ただ、20代では全体よりも順位が高かった「仕事内容に対する給与が見合っていないと感じた」は30代では10位に、「休日数や残業時間が想定と違った」は圏外となっている。30代はこれらの項目について入社前に注意深く確認していて、それほどギャップを感じていないか、想定と違っていたとしても早期離職に繋がるほどの問題とは感じていない可能性も考えられる結果となった。
30代の早期離職者の傾向
・人間関係のミスマッチ、やりがいの実感のなさが早期離職に繋がった人が他の年代より多い
・仕事内容と給与のバランス、勤務条件のギャップが早期離職に繋がった人が他の年代より少ない
40代の早期離職理由
40代の早期離職理由でもっとも多かったのは「職場の雰囲気が良くなかった/自分に合わなかった(53.8%)」で、半数以上の人が早期離職理由にこの点を挙げていることがわかる。 【表3】
全体傾向と異なるのは、全体では5位だった「上司/先輩から理不尽な指摘や指導があった(15.0%)」が8位で、全体の割合(27.5%)よりも12.5pt低いことだ。40代になると新しい職場になっても、自分自身の立場がそれほど低くないため、上司や先輩にあたる社員の数や指導を受ける機会も20~30代に比べて少ないことが影響しているとみられる。
全体で3位だった「想定していた仕事内容ではなかった」は2位に、全体で6位の「仕事内容に対する給与が見合っていないと感じた」は4位となっており、40代でも早期離職の理由として挙げた人が多いことがわかる。想定とのギャップはどの年代でも起こりえることが見てとれる。
40代の早期離職者の傾向
・職場の雰囲気の悪さやミスマッチが特に早期離職に繋がりやすい
・理不尽と感じられる指摘や指導が早期離職に繋がるケースは他の年代より少ない
50代の早期離職理由
50代の早期理由でもっとも多かったのは「職場の雰囲気が良くなかった/自分に合わなかった」だった。また、上位には他に人間関係のミスマッチや・想定していた仕事内容ではなかったなど全体の上位項目と同様の傾向がみられた。 【表4】
順位の傾向は同様だが、それぞれの項目を選んでいる人の割合は全体割合よりも低いものがほとんどで、特に「やりがいを感じられなかった」は全体割合と比べて8.1pt下回っていた。
50代の早期離職者の傾向
・職場の雰囲気の悪さやミスマッチが特に早期離職に繋がりやすい
・やりがいの実感のなさが早期離職に繋がるケースは他の年代より少ない
早期離職の理由まとめ
ここまで、早期離職理由の全体ランキングや年代別の傾向を見てきた。調査結果を見ると、早期離職に繋がっているのは主に「仕事内容や勤務条件が想定と違った」ことや「職場の雰囲気や人間関係が悪い/合わない」ことだとわかった。また、特に早期離職経験者が多かった20代においては「職場内で理不尽だと感じる指摘や指導があった」ことが原因になっているケースも多かったようだ。
上記のような課題で早期離職してしまうことを防ぐためには以下のような取り組みが必要だと考えられる。
- 仕事内容や基本的な勤務条件についての入社前の詳細確認
- 職場のより良い雰囲気作り
- 職場の既存メンバーや社風とのマッチングの確認
- 理不尽と感じられるような上司・先輩からの指摘や指導の是正
では、これまで見てきたような早期離職に繋がる課題を解決するために、具体的にはどのようなことができるのか。今回は、さまざまな課題の中でも「入社前の想定と違った」や「入社してみて合わないと感じた」という問題に注目し、採用活動の際にできることとして「RJP」と「リファレンスチェック」について紹介する。
入社後のギャップを減らすためにできること
職場のリアルな情報を伝える「RJP(Realistic Job Preview)」
RJPとは、「リアルな仕事情報の事前提供」を意味する「Realistic Job Preview」の略である。仕事情報について良い面も悪い面も詳細に提示することで、入社者に入社後のギャップを感じさせないことを狙いとした施策だ。 詳しくは下記の記事にて解説している。
中途採用実態調査(2023年)によると、RJPを意図的に行っている企業は1,600社中77.8%で、8割近い結果となっており、この考え方は多くの企業で導入されていることがわかる。【図5】
具体的にどの程度、自社の悪い面を伝えているのか見てみると、情報発信している内容のうち、「良い面」の情報が8割以上を占めるという企業が半数以上となっており、基本的には求職者に良い印象を持ってもらうための情報発信をしているが、RJPを意識して悪い面の情報も入れ込んでいるという状態であると推察される。【図6】
RJPの取り組みがどのような変化をもたらしているのか見てみると、もっとも変化が大きいのは「入社後の定着率」で33.1%の企業が増えたと回答している。リアルな情報提供は実際に入社後のギャップを減らし、社員の定着に繋がっていることが見てとれる。 【図7】
求職者の客観的な情報を確認する「リファレンスチェック」
リファレンスチェックとは、企業が中途採用の過程で、採用予定者や内定候補者の前職での勤務状況や人物などについて関係者にヒアリングすることである。業務や人となりを客観的な情報から確かめることによって、配属先の業務やメンバーとのマッチングの精度向上を狙うものだ。
2024年3月度中途採用・転職活動の定点調査によると、リファレンスチェックを実施している企業は36.6%となっており、3社に1社以上が導入していることがわかる。【図8】
導入している企業にその効果を聞いてみると、第三者に情報を確かめることで効果を感じやすそうな「客観的、公正な選考評価」や「応募者の虚偽を見抜く」などをも上回って「ミスマッチによる早期離職防止」が63.1%で1位となった。もっとも大きな効果としても早期離職防止が最多(23.9%)となっており、実際にリファレンスチェックによる早期離職の防止に繋がっていると実感しているようだ。
まとめ
職場に何か働きづらさがある場合はもちろん企業として改善すべきであるし、働く人本人も無理に働き続けることは良くないが、そういった問題とは別に「職場の雰囲気や仕事内容が想定と違う」などギャップが原因で新しく入社した社員に早期離職されてしまうのはもったいないことだ。
できるだけ正確な情報を伝えることや、配属先とのマッチングを丁寧に確認することで、少なくとも入社後のギャップによる早期離職を防ぐことには繋がるだろう。また、求職者にとって入社後の具体的なイメージができた状態で入社することは、スムーズな職場への適応などにも良い効果があるはずだ。
離職者による欠員を埋めるために求職者に企業の良い面だけをアピールしてしまい、入社後にギャップから早期離職が起こる、という悪循環に陥らないために、採用活動において「入社後のギャップを減らす」という視点も大事にされていくと良いと思う。
キャリアリサーチLab研究員 沖本 麻佑