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攻略すべきターゲットを捉える〜仕事の成果を高める利害関係図の作り方〜

神谷俊
著者
株式会社エスノグラファー代表取締役 バーチャルワークプレイスラボ代表
SHUN KAMIYA

今回のコラムは、仕事における利害関係者がテーマです。変化する職場環境のなかでより良く業務を遂行するためには、仕事の関係者を適切に把握することが不可欠です。

仕事の局面が変われば「顧客」だけでなく、「協力者」や「意思決定者」も変わります。これまで関わってこなかった人と、関係を築く必要も出てくるでしょう。このようなとき、周囲の関係者が何を求めているのかを早期に把握できれば、仕事の効率は格段に高まります。

本コラムでは、利害関係者を把握し、彼らと有益な関係を築き上げていくためのアプローチを紹介します。

レポートラインを捉える

利害関係者を捉えるために、最初に意識をしたいものがレポートラインです。

レポートラインとは

レポートラインとは、仕事における指揮系統を意味します。「部長→課長→係長」といったようなフローをイメージして頂くとわかりやすいでしょう。まずは自分の仕事がどのような経路のなかに位置付けられているのか、レポートラインを正確に把握し、自分の仕事が生まれた背景を理解することが大切です。

レポートラインを表面的にしか捉えることができていないと、仕事の進め方を誤ったり、求められていたものと異なるアウトプットをしてしまったりするなど、”遠回り”が増えてしまうかもしれません。

タスクが完了する目前になって、関わりを持たなかった役職者が登場し「ちゃぶ台返し」をして振り出しに戻ってしまう……

あるいは、指示通りに進めたにもかかわらず、その業務依頼の背景を理解しておらず「わかってない」と指摘されてしまう……

このようなケースを稀に見かけますが、これはレポートラインを理解せずに仕事を進めてしまった結果と言えるかもしれません。

「自分の仕事の上流に誰がいて、下流では誰が待っているのか?」を意識することが大切です。誰に向かって、どのような価値を生み出せばいいのかを知っていれば、仕事をどのように進めるべきかを判断することができます。

レポートラインで気をつけるポイント

レポートラインを捉えるときに気をつけたい点は、上述のような「部長→課長→係長」といった組織構造上のレポートラインが、実際のレポートラインとは限らない点です。

実際の業務においては、組織図に記されているレポートラインの通りに業務依頼が発生するとは限りません。たとえば、隣の部署の上司から仕事を依頼されたり、別部門の同期から相談を受けたりすることもあるでしょう。

仕事の依頼や相談は、さまざまな関係性や思惑の影響を受けるものです。人は仕事においても「役割」より「関係」を優先して関わりを持つことがあるからです。実際のレポートラインは、このような既存の人間関係の影響を受けて構成されることがあります(※)。

もし、変則的な経路で仕事の依頼が来た場合は「どうしてそこにレポートラインができたのか?」に疑問を持ちながら関係性を捉えていくことで、背景にある利害関係や思惑を捉えることもできます。

レポートラインの「裏側」に目を凝らす

この点を踏まえながら、ある事例を見ていきましょう。レポートラインの背後に埋まっている利害関係についてイメージを共有していきます。

業務における事例

図1は、人事担当者Aさんに新たな業務が依頼された状況を簡易的に表したものです。みなさまも事例を見ながら、どのような関係性がそこにあるのかをイメージして、自分がAさんだったら誰に働きかけをするかなどを考えてみてください。

Aさんの会社は店舗サービス事業を営んでいます。しかし、店舗で労働時間の制限ルールを大きく逸脱する事案が発生し、その対策を検討するために「働き方改革委員会」が開催されることになりました。下記は、その委員会にAさんが出席することを人事部長から依頼されたというシチュエーションを表しています。

人事担当者の依頼状況マップ/著者作成
【図1】

図を見ると、今回の業務依頼が、組織構成上のレポートライン(部長→課長→係長)から外れた経路を経ていることがわかります。「働き方改革委員会」への出席をAさんに依頼をしているのは「人事部長」です。直属の「人事課長」や「人事係長」は“スキップ”されています。

どうしてこのようなレポートラインになったのか、その「裏側」を推察していきましょう。

背景には、店舗運営グループの「エリアマネージャー」「店長」、さらに同じ部署の「Bさん」の影響が見て取れます。役割や位置付けは違えど、「出身校のOB」「社内サークルのメンバー」「同期」などの関係性の良さが見出せます。親しい間柄同士で相談などをするなかで、検討が進められてきたことがうかがえます。

また本件に関して、変則的なレポートラインが構成された背景には「人事課長・人事係長」との対立関係も影響しているようです。現場がこの2名をよく思っていないことが見て取れます。だからこそ、人事部長は直接Aさんに依頼をしてきた可能性も考えられます。

このようにレポートラインの「裏側」にある人の心理や関係性を捉えていくと、仕事の方略も見えてきます。Aさんの場合は、仕事を適切に進めるためには、まずは「店長」や「エリアマネージャー」から実態をヒアリングすることが不可欠であり、「Bさん」に相談するという術も見えてきます。そのうえで、「人事課長・人事係長」がどうして彼らとの関係が悪くなってしまったのか、その要因を把握することも重要だと判断できます。

当然ながらレポートラインを意識しただけで、すぐにこれほど具体的な関係性や心理が見えてくるわけではありません。ここまでの状況を把握するためには、相当の時間や関与が必要になるはずです。とはいえ、全く意識しない場合と少しでも意識的になる場合では、仕事の成果に大きな差が生まれます。

わずかでも仕事が生まれた背景を把握することができれば、自分がどのように立ち回れば良いのかについて仮説を立てることや、リスクや可能性を見通すことができるようになります。このような見通しは、仕事上の判断や意思決定の質を高めることにつながるでしょう。また押さえるべきポイントや、避けるべき「地雷」まで見えてくれば、仕事はかなり進めやすくなるはずです。

これまで経験のない仕事や、イレギュラーが発生している事案を手掛ける際は、とくにレポートラインを意識するのが有効です。「いま自分はどのようなレポートラインの上にいるのか?」「自分の仕事は何を求められているのか?」を適宜把握しようとする姿勢で向き合うのが良いでしょう。

主要な”アクター”を捉える

レポートラインの「裏側」を捉える際は、そこに登場する主要な「アクター」にも注目をすると、より深く状況を理解することができます。

アクターとは

アクターとは、自分の仕事に対して強い影響を与える登場人物を意味します。影響力を持った人物のキャラクターや、価値観、重視しているものをつかむことができれば、自分が何を提供することが彼らにとって価値になるのかを見通すことができます。

みなさまの仕事におけるアクターには、どのような人がいますか。自分の仕事に関わる人々を思い浮かべながら、次の6タイプに該当する人物を捉えていきましょう。主要なアクターを理解しようとすることで、自分の仕事がどのように発生し、何を求められているのかを具体的に見通すことが可能になります。

6タイプの主要アクター

【リーダー】:自分の仕事において、もっとも影響力を持った存在です。決裁権や評価権限を持った役職者であることが多いです。この人があなたの仕事を高く評価すれば、あなたの仕事は成功します。反対にこの人が評価してくれなければ、あなたの仕事は「うまくいかなかった」と言うことになってしまいます。

【参謀】:「リーダー」の判断や評価にもっとも影響力を与える有力者です。リーダーの片腕となって、さまざまな情報をリーダーに提供したり、専門的な観点からアドバイスをしたりします。仮に、リーダーがあなたの仕事を評価していても、参謀であるこの人の理解を得ることができていなければ、その評価が覆る可能性も考えられます。

【代表者】:リーダーや参謀が意思決定や判断を行う際に、組織や現場の状況を理解する必要があります。そのときに話を聞く相手が代表者です。現場の状況を深く理解しており、リーダーや参謀から「代表者の言うことであれば概ね正しいだろう」という信頼を獲得している人です。社内評価も高く、ビジネススキルも高い人が多いです。

【案内人】:案内人はあなたの味方になってくれる人です。リーダーや参謀、代表者と関わりを持つ際に「橋渡し」をしてくれる口利き役です。社内外にたくさんの人脈を持っており、あなたにさまざまな人を紹介してくれます。

【管理者】:管理者は、あなたの行動や成果を逐一チェックする人です。あなたの直属の上司であることが多いです。リーダーや参謀と関係を築いても、管理者から嫌われてしまうと、仕事はかなりやりにくくなってしまうため、リーダーと管理者が対立関係にある場合は注意が必要です。

【支援者】:あなたが仕事を進めるうえで、有益な情報や、必要なスキル、ノウハウや知恵を提供してくれる人です。先輩社員や外部のアドバイザーなど、比較的経験値や専門知識を持っている人が多いです。

それぞれのアクターは1名とは限りません。「参謀」が複数名いるケースもありますし、「リーダー」と「管理者」が同一人物であることも考えられます。まずは、自分の仕事に影響与える人物を特定していくことが大切です。

アクターをプロファイリングする

そのうえで、図2のようなシートを使って、彼らのプロファイリングをしていきます。それぞれのアクターが、どのような考えや思惑を持って仕事をしているのかを把握するためです。

プロファイリングシート/著者作成
【図2】

この図内の「価値観・利害・こだわり」のところには、そのアクターの特徴や価値観、ニーズなどを記述していきます。また「有効なアプローチ」のところには、彼らの特徴を踏まえて、関わりを持つ際の効果的なアプローチや注意点を記述していきます。たとえば、次のようなイメージです。

プロファイルの記入例

  • タイプ名:リーダー
  • 該当する人:人事部長
  • 価値観・利害・こだわり:中途で人事部に入社。人事制度の改定などを積極的に手掛け、現在のポジションを築いた。前職でも人事部門にいたため、人事領域には精通している。ただし、自社の現場(店舗業務)については、未経験であるためか十分に把握していない。そのことを自分でも理解しているために、現場からの要求には「弱い」。現場からの依頼が来ると、些細なタスクであっても優先度を高く設定し、積極的に対応する姿勢を見せる。「フットワークの良い人事部長」として、現場からも評価が高い。部下に対しても「現場を中心に考える重要性」を日常的に発信している。
  • 有効なアプローチ:現場を重視するスタンスのため、「どれだけ現場と関わり、現場の意見を集約してきたか?」が重要になりそうだ。現場と関係を築き、店舗の情報を詳細に収集していくことが求められる。とくに、現場の判断を確認して「エリアマネージャーの意見」「店長の意見」などを明確に把握しておく必要がある。反対に現場のニーズや意向に反するような施策を提示するときは、事前説明を徹底し、理解を取り付けておく必要があるだろう。

これらのプロファイリングは、あくまで仮説的なものです。そのため、ここで記述した情報そのものが重要になるというわけではありません。場合によっては、これらのプロファイルがアクターの実態と大きく乖離しており、「実際は全く違うキャラクターだった!」ということもありえるでしょう。

それでも、プロファイリングを行うことの意味は、丁寧にアクターを捉える姿勢や視点を確立することにあります。プロファイリングを通して、相手が何を考えているのかをより深く見通そうとする姿勢や視点が備われば、アクター達との関わり方は大きく変わるでしょう。

これまで何となく交わしてきたコミュニケーションに意識的になり、言動の意味や真意を捉えられるようになっていきます。相手が何を言いたいのかをより精緻に捉えることができるようになったり、相手の求めているものに素早く対応できるようになったりして、両者の距離を縮めることができるはずです。

大切なのは、相手を詳細に分析することそのものよりも、相手を知ろうとする態度や姿勢です。

「遠い」アクターの捉え方

日常的な接点が多いアクターならば、日々の言動を観察していくことで、ある程度のプロファイリングができると思います。ただし、Aさんのケースにおける「エリアマネージャー」や「店長」などのように、他部門や顧客先、組織の上層部など主要アクターが「遠い」場合は、情報が得られないためにプロファイリングは難しいかもしれません。

その場合は「案内人」や「支援者」のプロファイリングを優先させます。そのうえで、彼らの人脈を頼りながら、遠くにいる主要アクターとの距離を縮め、関わりを増やしていことくが重要です。

また距離が遠いアクターでも、全くプロファイリングができないというわけではありません。次の3つの「手がかり」に意識的になることで、直接関わりを持たなくても彼らのキャラクターを推察することが可能です。

「手がかり」とは、(1)キャリア、(2)判断事例、(3)資料です。これらの情報を「案内人」などから仕入れることで、遠いアクターの特徴について仮説を立てていくことができます。

キャリア

キャリアは、そのアクターがこれまで歩んできた経歴・経験に関する情報です。「前職で何をしていたのか?」や「どのような案件に携わったのか?」「どのような専門スキルを有しているのか?」などがわかれば、その人の考え方や重視するポイントが見えてきます。

たとえば、マーケティング部門でキャリアを積んできた人であれば、データに関して注目する姿勢が比較的強いことが想定できます。あるいは、現場で店長を長い間経験してきた人ならば、店長の悩みや苦労に寄り添う姿勢を持っているかもしれません。

エピソード

エピソードは、そのアクターが過去に行ったアクションや意思決定に関する事例のことです。人の行動や意思決定には、その人の価値観や特徴が強く表れます。

たとえば、コロナ禍でチームの業績が低下しているときに、度々部下を食事に誘って相談にのっていたというエピソードを聞いたならば、そのアクターが人情味あふれる方だということが見て取れます。あるいは、社内に新たなシステムを導入する際に、システム業者と何度も打ち合わせを繰り返したというエピソードからは、変化に対して慎重になる性格が見て取れます。

資料

資料は、アクターが作成したアウトプットのことです。アクターが作成した資料にどのような特徴や傾向があるのかを捉えることで、その人をある程度プロファイリングすることができます。

デザインへの配慮や、データやグラフの使用レベル、フォントの大きさや文章量、あるいはキャッチコピーのような表現をどれくらい使っているかなどにその人の性格が表れます。

さらに、多用するキーワードなども見てみると良いでしょう。たとえば「顧客」「従業員」「社会」などのキーワードのうちいずれを多用しているのかによっても、そのアクターが意識していることが見出せます。「感謝」や「信頼」など仕事観が現れるキーワードに注目するのも有効です。

先にも述べたようにポイントは、アクターを理解しようとする姿勢をとることです。断片的であったとしても、まずは相手に関する情報を集めることが大切です。完璧に理解しようとするのではなく、得られる情報から人物像を徐々にイメージしていく感覚で進めていくと良いでしょう。

まとめ

今回のコラムでは、利害関係者を捉えるアプローチを紹介しましたが、本当に大切なことは手を動かすことではありません。共に働く人に関心を持ち、彼らを深く理解しようとすることがもっとも大切です。

ビジネスの基本はWIN-WINな関係をつくることにあります。自分の仕事が誰に向かって価値を生み出すものなのか?や、相手が何を望むか?を知ることで初めて自分の仕事の意味が見えてきます。自分の業務内容だけでなく、その周囲の利害関係者とつながってこそ、価値ある仕事が達成できるのではないでしょうか。


<参考文献>
※: Parmar, B. L., Freeman, R. E., Harrison, J. S., Wicks, A. C., Purnell, L., & De Colle, S. (2010). Stakeholder theory: The state of the art. Academy of Management Annals, 4(1), 403-445.

神谷俊

著者紹介
神谷俊(かみや しゅん)
株式会社エスノグラファー 代表取締役
バーチャルワークプレイスラボ 代表

企業や地域をフィールドに活動。定量調査では見出されない人間社会の様相を紐解き、多数の組織開発・製品開発プロジェクトに貢献してきた。20年4月よりリモート環境下の「職場」を研究するバーチャルワークプレイスラボを設立。大手企業からベンチャー企業まで、数多くの企業のテレワーク移行支援を手掛け、継続的にオンライン環境における組織マネジメントの知見を蓄積している。また、面白法人カヤックやGROOVE Xなど、組織開発において革新的な試みを進める企業の「社外人事(外部アドバイザー)」に就くなど、活動は多岐にわたる。21年7月に『遊ばせる技術 チームの成果をワンランク上げる仕組み』(日経新聞出版)を刊行。

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