マイナビ キャリアリサーチLab

テレワーク環境で脆弱化した信頼を結び直すために

今回からコラム連載をすることになりました、神谷俊です。

組織に対するリサーチ・コンサルティング事業を手掛けています。以降、定期的に人事・組織関連のテーマを取り上げ、コラムの掲載をしていく予定です。

「信頼が大切」のマンネリズム

さて、初回のコラムで取り上げるのは「テレワーク環境における信頼」です。

信頼は、バーチャルな環境のなかでチームとして働くうえで、なによりも重視されている概念です 。学術的にも、国境を越えてプロジェクトを進めるようなバーチャルチームの研究では、再々、信頼の重要性が指摘されてきました。

バーチャルな「職場」では、相手の働いている姿は見えません。また、相手の表情から感じ取れるシグナルや相手が醸し出す「空気」なども知覚することが難しくなります。だからこそ、チームメンバーを信じられるか?がとても大切になってきます。

一方で、このようなコラムで「信頼が大切」という論調の記事を目にすると、どこか色あせた印象を感じてしまうのも事実です。あまりにも歴然とした事実ゆえに、もはや何も言っていないのと同じであるかのように感じてしまうのかもしれません。

私たちは、いつも自らの周辺をより良くさせる「新しい方法論」を求めています。分かりきったことに向き合うよりも、知的好奇心を満たすような、まだ見ぬ刺激的なソリューションを手に入れたいという思いを持っているのかもしれません。

それでも、この「マンネリ」な概念をテーマに取り上げようと思ったのは、新型コロナウイルス感染拡大の長いトンネルを抜けようとしている今、職場のなかで信頼に起因する問題がさまざまに浮上しているからです。今回は企業事例を取り上げます。そのなかで職場の信頼関係の「現在地」に迫りつつ、改めて信頼を維持することの難しさや、そこに求められる要素について向き合ってみたいと思います。

信頼関係の脆弱化

「テレワークによって、現場の人間関係は大きく変質してしまったのかもしれない」

そう感じたのは今年の春、ある大手企業X社のリサーチ案件を手掛けたときのことです。X社とは昨年からの付き合いです。テレワーク導入直後の2020年6月にも同じように組織内調査の依頼を頂いたクライアントで、今年ふたたび定点観測として調査の御依頼を受けたのでした。

昨年の結果は、一部、若手社員の孤独感や閉塞感が問題視されたものの、一般的な企業のレベルを上回るものでした。とりわけワークエンゲージメント(仕事に対する没頭姿勢)の水準は高く、調査報告時に先方のご担当者が安堵の表情を見せていたのが思い出されます。

しかし今年、ふたたび実施した調査結果は、興味深いものでした。若手社員をはじめ、現場の従業員のストレスレベルが顕著に高まっていたのです。

さらに深刻だったのは、ストレスの高まりに相関して見られた諸問題です。ストレスの知覚レベルが高まっていた社員ほど、パフォーマンス、ワークエンゲージメント、ワークライフバランスが停滞していました。さらに、そのような社員は離職意識がかなり高くなっている状態でした。

WEB会議

X社のストレスが高まった理由

気になるのは、どうしてストレスが増したのか?という点です。

コロナ禍はX社のビジネスにとっては、「追い風」として影響しています。また同社ではテレワーク導入当初よりも、PCやデスク等の設備は整備が進んでいました。導入直後は、過剰労働が問題視されたため、健康管理や労働時間の管理も一層の配慮がされていました。昨年の緊急事態宣言時に比べれば、外出の頻度も高まっています。

にもかかわらず、現場のストレスは増していました。

分析を進めるなかで、ストレスの知覚レベルに影響を与えているものがいくつか発見されました。そのなかでも顕著に数値が低下していたものは何か。

特徴的だったのが、信頼レベルの低下でした。X社では、「テレワークの屋台骨」とでも言うべき信頼の数値が導入時に比べて顕著に低下していたのです。

「見える化」しているのに、見えなくなる

なぜ、信頼は失われてしまったのか。さまざまな要因は考えられますが、信頼レベルの低下に強い影響を与えていた項目があります。

「精緻なチーム管理」と名づけられた項目です。

「精緻なチーム管理」は、リサーチを設計する際にパフォーマンスにポジティブな影響を与えるであろうと考え、アンケート設問のなかに埋め込んだ項目です。チーム内の目標進捗、役割管理、行動管理がどれくらい精緻に設計されているかを測定するための項目でした。

ところが分析をしてみると、この項目は予想に反してネガティブな影響を生み出していたのです。進捗管理をきちんと行い、さまざまなアプリやシステムを活用したりして、真面目に仕事の「見える化」「数値化」を進めている部署ほど、信頼のレベルは低下している傾向が見られました。

普通に考えて、このような「見える化」を進めた場合、信頼関係は強化されるはずです。チームメンバーが何をしているかが明確で、仕事の進み具合が分かっていれば、チームがどのように活動しているのかが理解できるからです。自分がどれくらいやれば、チーム全体がどのような進捗を見せるのか。周囲の動きを想定できるため、相手を信頼して仕事を進める姿勢が促されるはずです。

しかし、X社において「精緻なチーム管理」はネガティブな影響を生み出していました。そこにどのような背景があったのでしょうか?

この点については、インタビュー調査を進めたときのコメントを確認してみましょう。実際にX社のなかでもストレスの知覚レベルがとくに高かった部署のメンバーの問題意識です。分析結果を裏付けるような社員たちの心境がうかがえます。

“マネジメント方針が大きく変わった頃からでしょうね。全員が数字を重視するようになりました。それは、業績意識が上がったという良い面もあるのでしょうが、なんかギスギスするようになったのも確か。進捗レベルありきで、仕事のプロセスを見なくなっている。こちらが努力したとしても、きっと分かってもらえないし、報われないんだろうなと思う。自分も仕事や上司に対してはだんだんドライな感じになっていくし、変に相手に期待することもしなくなっちゃいます。”

“いやぁ、能力差が顕著に「見える化」されましたよね。チーム内で「あいつは頑張っている」と思ってた奴が、テレワークだと全然パフォーマンス上がっていないことがバレちゃいます。自分は結構やってます!むしろ自分だけすごい頑張っている感じで、空回りしている感じがします。みんなには、もっとストイックになってほしい。”

“まわりが全然分かってくれてないのがイラつきますね。自分が担当しているクライアントは、契約時のチェックが厳しくて、そのためにたくさんの書類が必要なんです。だから、社内決済にも時間がかかるし、非効率な事案なんですよね。結果だけ見られて、仕事されてないと思われてるのが本当に嫌です。自分だけ、ハズレ案件をやっている。もし自分が(この案件を)やらなきゃ、誰かが「貧乏くじ」引くことになるんです。みんな、それが分かっていない。”

“オフィスの頃みたいに「仕切り」があるわけじゃないんです。こっちは、娘を迎えにいったり、夕飯の支度をしたりしながら仕事も進めている。だから、オフィスのときよりもパフォーマンスだって振るわないときもある。そういう事情をチームメンバーは配慮しなくなりましたね。”

テクノロジーのダークサイドを越えて

これらのコメントを収集するなかで見えてきたことは、「精緻なチーム管理」によってメンバーの個別事情や人知れず行われている努力が全く共有されていないという問題でした。

「私はこういう事情を抱えている」
「私はこういう考えで案件を進めている」

そういった個々の考えが、「精緻なチーム管理」の文脈では表面化されにくくなっていました。特殊性が考慮されない状況です。反対に言えば、チーム内の「客観性」「公式性」「普遍性」といったものが過剰に高まりすぎてしまった状態とも言えるでしょう。

各メンバーの仕事の「見える化」を進めた結果、互いの心境や思考が「見えない」チームになり、個々がストレスを高めていたことが考えられます。

オフィス勤務の頃は、相手が忙しそうにしている様子や、顧客から何度もかかってくる電話など、さまざまな「手掛かり」がありました。それによって、私たちは周囲がどんな心持ちで仕事をしているかを認識できたのです。相手やチームから漂ってくる「空気」によって、自然と相手の事情を理解しようとしたり、配慮しようとしたりという気持ちが生まれていました。お子さんのいる社員が、焦った様子で荷物をまとめ、足早で「お疲れさまでした!」と帰っていく様子を見れば、ワーク&ライフで多重の役割をこなす社員に配慮しようという姿勢も自然と生まれていたはずです。

しかし、テレワーク環境ではそういった個々の事情を感じ取れません。画面上の数値のみでいくら仕事の「見える化」を進めても、そこに表出しない相手の事情や感情まで察知することはできないのです。真面目にチームを管理しようとするほど、また真面目に自分の仕事に打ち込むほど、メンバーは互いのことをきちんと見ようとしなくなっていきます。

テクノロジーを導入することは、本来であればパフォーマンスにとって有益な影響をもたらすものです。しかし、X社は全く逆の結果を招いてしまっていました。大切なことは「テクノロジーによって、何が失われているのか?」について意識的になることでしょう。

信頼を結び直すための要点

学術的に、信頼関係を構築・維持するためには、次の3つが大切だと言われています 。

(1)社会的規範の共有:チーム内に仕事を進めるためのルール(目標、役割など)があるか?
(2)継続的な相互作用:チーム内のメンバーと意見を共有し、互いの価値観や感情を理解できるような関わり合いはあるか?
(3)共通経験:チームのメンバーと仕事を通して苦楽の感情を共有するような経験があるか?


「精緻なチーム管理」は上記(1)を構築するうえで効果的です。目標水準の共有や、仕事時間の管理など、あらゆるルールや制度を構築できます。

反対に、上記(2)や(3)については、X社のように低下するリスクが考えられます。テクノロジーを取り入れるほど、継続的な相互作用や共通の経験は、一見「必要のない」ものになってくるためです。

近年では、心理的安全性という概念の浸透によって、「仕事において」有益な意見交換が行われる傾向が強まっているようです。その一方で、「(直接)仕事には関係のない」ような他愛ない情報交換はより難しくなっているのかもしれません。

信頼関係を築くためには、あるいはメンテナンスをするためには、どうしても有機的な関わりが必要です。互いの感情をリアルタイムでズレなく通わせることができる「場」を戦略的に用意することが求められるでしょう。

「隙間(Slack)」のマネジメント

組織とは、さまざまな人間が集まり、その個性をコラボレーションさせることによって総和以上の価値を生み出すための集合体です。社員一人ひとりの「個」がしっかり染み出してこそ、組織はそのポテンシャルを存分に発揮できます。

そのためには、社員の「個」が発揮しやすい非公式な「隙間」が求められます。つまり、仕事時間から離れられるような隙間時間、仕事場から距離をとれるような空間的な隙間、仕事上の関係性から一旦離れられるような社会的な隙間などです。

社員個人には、この「隙間(Slack )」 を適切につくりだすことが求められるでしょう。たとえば、メンバー同士でランチに出かけてみる。一緒に出社日を合わせて、休憩時間にティータイムを楽しむ。人と直接会って、お互いの思いを話して、そして「楽しかった」と別れていく。そういったかつての「日常」的な習慣を継続する姿勢が求められます。オンのなかに、オフの隙間を巧妙に入れ込むことで、人間関係をメンテナンスすることができるでしょう。

また、管理者や人事担当者の視点に立てば、この「隙間」が自然と生まれるような時間的・空間的な「余白」に意識的になることが求められます。全てを精緻化して無駄なく、もれなく、効率的に管理しようとすれば、「隙間」は消滅してしまいます。

あえて休憩時間を長めに提供する、社員同士の関わりを金銭的に支援する、オフィスを開放し、自由に活用できる権限を提供する。こういった「隙間」を構築するための資源をあえて提供することが大切でしょう。

これらの「隙間」は、業績に直結するとは限りません。しかし、これらの「隙間」なくしては、組織は自らのポテンシャルを充分に発揮できなくなってしまいます。あえてアナログで「非効率」な取り組みに資源を投下することは、これまでの企業社会では許容されにくかったのかもしれません。一見なんら成果と関係のない「場」を理解しがたいという経営者も未だ多いはずです。

一方で、仮想化が進み、社員の価値観や働き方が多様化していく現在、分散していく「職場」をつなぎとめるのはこのような一見「非生産的」な取り組みなのでしょう。私たちに今求められているのは、業績至上の思考を一旦止め、あえて非合理で有機的なアクションを大切だと認められる知性なのかもしれません。



<参考文献>
Luhman, N. (1979) Trust and Power, Chichester, Wiley.
Mayer, R. C., J. H. Davis, F. D. Schoorman. 1995. An integrative model of organization trust. Acad. Management Rev. 20 (3) 709–734.
DeMarco, T. (2001). Slack: Getting past burnout, busywork, and the myth of total efficiency. New York: Broadway Books.

著者紹介
神谷俊(かみや・しゅん)
株式会社エスノグラファー 代表取締役
バーチャルワークプレイスラボ 代表

企業や地域をフィールドに活動。定量調査では見出されない人間社会の様相を紐解き、多数の組織開発・製品開発プロジェクトに貢献してきた。20年4月よりリモート環境下の「職場」を研究するバーチャルワークプレイスラボを設立。大手企業からベンチャー企業まで、数多くの企業のテレワーク移行支援を手掛け、継続的にオンライン環境における組織マネジメントの知見を蓄積している。また、面白法人カヤックやGROOVE Xなど、組織開発において革新的な試みを進める企業の「社外人事(外部アドバイザー)」に就くなど、活動は多岐にわたる。21年7月に『遊ばせる技術 チームの成果をワンランク上げる仕組み』(日経新聞出版)を刊行。

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