精神障がい者雇用で企業が重視する「職場側の要素」とは。1,000社調査から見えた、合理的配慮・柔軟な調整・支援する風土の重要性

キャリアリサーチLab編集部
著者
キャリアリサーチLab編集部
藏田清文(くらたきよふみ)氏・写真

藏田清文(くらたきよふみ)
合同会社藏田産業医事務所 日本医師会 認定産業医大阪大学理学部卒後、国家公務員を経て群馬大学医学部を卒業し、医師へ転身。現在は産業医として複数企業の産業保健活動を支援している。

佐々木 規夫(ささき のりお)氏・写真

佐々木 規夫(ささき のりお)
一般社団法人 日本うつ病センター 上席研究員
産業医科大学医学部・HOVA株式会社の専属産業医および健康指導G統括マネージャーとして健康管理に従事。現在は精神科医および産業医として医療機関や上場企業、主要官庁の産業医を務めている。
日本精神神経学会専門医、精神保健指定医、産業衛生専門委、医学博士、労働衛生コンサルタント、社会医学系指導医

はじめに

前稿では、企業1,000社を対象とした調査をもとに、精神障がい者雇用で企業が重視する「本人側の要素」を取り上げました。そこでは、職務能力や経験だけでなく、自己管理、仕事への前向きな姿勢、業務とのマッチング、困ったときに相談できることなどが、重要な要素として評価されていました。

本稿はその続編として、視点を本人側から職場側へ移します。本人側の要素が実際の職場で生かされるには、企業側にも一定の環境や仕組みが必要です。たとえば、相談しやすい雰囲気、業務量や勤務時間を調整できる体制、必要な配慮を具体的に検討する仕組みなどが関わります。

本稿では、精神障がい者雇用に積極的に取り組む企業へのヒアリングから抽出した7つの「職場側の要素」を取り上げ、企業1,000社へのアンケート調査をもとに、重要度と優先順位を検討しました。さらに、現在雇用している企業、過去に雇用した企業、雇用経験のない企業の3群で、重視する職場条件に違いがあるかも確認します。これらの結果を通じて、精神障がい者雇用を進めるうえで企業が整えるべき職場環境について考えます。

精神障がい者雇用において重視される「職場側の要素」

調査の対象

本研究では、従業員40人以上の企業1,000社を対象にアンケート調査を実施しました。回答企業の規模は、40~〜99人が15.6%、100~〜299人が24.6%、300~〜999人が19.7%、1,000人以上が40.1%と、比較的大きな企業まで幅広く含まれています。業種では製造業が24.7%ともっとも最も多く、これに医療・福祉、卸売業・小売業、サービス業、情報通信業などが続きました。

調査の進め方は、探索的順次型の混合研究法にならっています。はじめに、精神障がい者雇用に積極的に取り組む企業へのヒアリングを通じて、活躍につながる職場側の要素を洗い出しました。そのうえで、抽出した7つの要素について、企業1,000社に重要度と優先順位を尋ねています。

表1 調査対象企業の概要

項目内容
有効回答率29.1%(3,432社中1,000社回答)
対象企業従業員40人以上の企業
企業規模40~99人 15.6%、100~299人 24.6%、300~999人 19.7%、1,000人以上 40.1%
主な業種製造業 24.7%、医療・福祉 11.3%、卸売業・小売業 10.0%、サービス業 9.2%など
研究の流れ企業ヒアリングで職場側要素を抽出し、1,000社調査で重要度と優先順位を確認
表1 調査対象企業の概要

精神障がい者雇用では、職場側の設計が問われる

精神障がい者雇用を考える際には、本人の自己理解や自己管理、相談する力が重要な論点になります。これらは安定した就労に関係する要素です。ただし、本人が相談しようとしても、相談先や相談してよい雰囲気がなければ、実際には相談しにくくなります。また、職場側が不調のサインに気づいていても、業務量や納期に調整の余地がなければ、早めの対応につながりにくくなります。

本人側の要素は、職場側の仕組みと組み合わさることで、より機能しやすくなります。精神障がいのある方の雇用では、「どのような人なら働けるか」だけでなく、「どのような職場条件があれば働き続けやすいか」を考える必要があります。

ヒアリングから整理された7つの職場側要素

そこで本研究では、この視点に立ち、精神障がい者雇用に積極的な企業へのヒアリングをもとに、半構造化インタビューをしました。そこでは、うまく活躍している事例だけでなく、定着に課題が生じた事例、受け入れ部署や人事部門の工夫、外部の支援機関との関わりなどを幅広く丁寧に聞き取り、内容を整理した結果、精神障がいのある方が職場で活躍するうえでかぎになる職場側の要素は、次の7つに集約されました。

表2 精神障がい者雇用で重視される職場側の7要素

要素意味
職場の支援する風土上司や同僚が障がい特性や配慮の必要性を理解し、困ったときに相談しやすい雰囲気があること
柔軟な勤務・業務の調整勤務時間、休憩、業務量、優先順位、担当業務などを、本人の状態や特性に応じて調整できること
合理的な配慮の提供本人と職場が話し合い、働くうえで必要な配慮を個別具体的に決め、実行できること
職場体験・実習の実施採用前や配置前に、実際の作業や職場環境を確認し、本人と職場の相互理解を深めること
多様なキャリアパスの用意一律の成長モデルではなく、本人の強み、体調、希望に応じた活躍の形を用意できること
企業内で成功事例や知見の共有うまくいった配慮や支援の方法を、特定部署だけでなく組織内で共有できること
支援機関との連携医療機関、就労支援機関、定着支援、産業保健スタッフなど、外部・内部資源と連携できること
表2 精神障がい者雇用で重視される職場側の7要素
注:企業担当者への半構造化インタビューから、混合研究の手法に準じて抽出・整理した項目です。

個別評価では「合理的配慮」と「支援機関連携」が高く評価された

企業1,000社がまず、精神障がい者が職場で力を発揮するために必要だと考えられる職場環境や制度に関する7つの職場側要素について、それぞれどの程度重要と考えるかを5段階で評価してもらいました。

平均値が高かったのは「支援機関との連携」「合理的な配慮の提供」であり、「職場の支援する風土」や「職場体験・実習の実施」も、ほぼ同じ水準に並びました(表3)。

ただ、平均値が3点台の半ばでは、高いのか低いのか判断しづらいところです。そこで5段階の真ん中(3点)を境目に、各要素がそれより「重要」寄りかを確かめたところ、7要素すべてが統計的にも上回りました(Wilcoxon符号付き順位検定、すべてp<0.001)。つまり、どの要素も欠かせない条件と受け止められていた、ということです。

次に「合理的な配慮の提供」を基準として各要素の回答傾向を比べました。7項目の差は、基準項目の「合理的な配慮の提供」と比べると、「柔軟な勤務・業務の調整」「多様なキャリアパスの用意」「企業内で成功事例や知見の共有」は、評価がやや低めにとどまりました。一方、「職場の支援する風土」「職場体験・実習の実施」「支援機関との連携」については、合理的配慮と同じ程度と評価されました。

これらの結果から読み取れるのは、企業が職場側の要素を幅広く重要だと受け止めている、ということです。なかでも合理的配慮と支援機関連携は、精神障がい者雇用を進めるうえでの中核的な支えとして意識されているといえるでしょう。

表3 職場側7要素の重要度(5段階評価と基準項目との比較)

職場側の要素平均値基準項目との比較p値解釈
支援機関との連携3.655OR=0.980.861合理的配慮と同等
合理的な配慮の提供3.652基準基準項目
職場の支援する風土3.620OR=0.880.182合理的配慮と同等
職場体験・実習の実施3.619OR=0.850.081有意差なし
柔軟な勤務・業務の調整3.586OR=0.770.006合理的配慮より有意に低い
企業内で成功事例や知見の共有3.557OR=0.68<0.001合理的配慮より有意に低い
多様なキャリアパスの用意3.474OR=0.51<0.001合理的配慮より有意に低い
表3 職場側7要素の重要度(5段階評価と基準項目との比較)
注:混合効果順序ロジスティック回帰分析により、「合理的な配慮の提供」を基準として各項目を比較しました。業種および企業規模を調整しています。

上位3つに選ぶと、「合理的配慮」「柔軟な調整」「職場風土」が残る

次に、7つの職場側要素のうち、「精神障がいのある方が活躍するうえで特に重要だと思うもの」を、上位3つまで選んでもらいました。5段階評価ではどの項目も高めに出やすいのですが、あえて3つに絞ってもらうと、企業が実際に何を優先しているのかが見えやすくなります。

上位3位以内に選ばれた割合がもっとも高かったのは「合理的な配慮の提供」(60.1%)で、「柔軟な勤務・業務の調整」(56.4%)、「職場の支援する風土」(51.9%)がこれに続きます。興味深いことに、1位に選ばれた割合に注目すると、「職場の支援する風土」が28.7%でトップに立ちました。

どの要素が上位に選ばれやすいかを、「職場の支援する風土」を基準にして分析しました。すると、上位への選ばれやすさは7項目のあいだで全体として偏っており、その差には意味がありました。

「柔軟な勤務・業務の調整」と「合理的な配慮の提供」は、職場風土と同じくらい上位に挙げられています。これに対して、「職場体験・実習の実施」「多様なキャリアパスの用意」「企業内で成功事例や知見の共有」「支援機関との連携」は、職場風土に比べると上位に選ばれにくい傾向でした。

表4 上位3項目として選ばれた職場側要素

職場側の要素1位2位3位上位3位以内OR
(オッズ比)
p値
職場の支援する風土28.7%13.3%9.9%51.9%基準
柔軟な勤務・業務の調整17.9%24.8%13.7%56.4%1.040.556
合理的な配慮の提供18.8%24.6%16.7%60.1%1.120.066
職場体験・実習の実施16.0%13.9%13.2%43.1%0.72<0.001
多様なキャリアパスの用意8.5%10.1%16.9%35.5%0.55<0.001
企業内で成功事例や知見の共有3.7%7.1%19.4%30.2%0.44<0.001
支援機関との連携6.4%6.2%10.2%22.8%0.34<0.001
表4 上位3項目として選ばれた職場側要素
注:上位3位以内は、1位から3位のいずれかに選択された割合です。ORはランク順序ロジット解析で「職場の支援する風土」を基準とした値です。

「支援機関連携」は重要だが、最優先とは限らない

この結果でとりわけ目を引くのが、「支援機関との連携」の位置づけです。5段階評価ではこの項目の平均値がもっとも高く、企業が重要だと考えていることがうかがえます。ところが、上位3つを選ぶ場面になると、その選択率は22.8%と、7項目のなかでもっとも低くなりました。

これは、支援機関連携が必要でないという意味ではありません。むしろ支援機関との連携は、企業にとって心強い後ろ盾であり、本人理解や配慮事項の整理、定着支援に役立つ大切な外部資源です。

ただ、「精神障がいのある方が活躍できる職場」を第一に考えるとき、企業がより重く見ているのは、外部資源そのものよりも、職場のなかで配慮が実行されること、勤務や業務を柔軟に調整できること、そして相談しやすい風土があることである、こうした職場側の条件なのだと考えられます。

言いかえれば、支援機関との連携は「職場の外にある支援」で完結するものではなく、職場のなかの実践につながって初めて意味を持ちます。せっかく支援機関から助言を得ても、上司が業務を調整できなければ、配慮は動き出しません。本人の特性を把握できても、同僚が相談しづらい空気をつくっていては、定着には結びつきにくいのです。外部の支援を、職場の具体的な動きへとどう翻訳していくか。そこが今後の課題といえるでしょう。

雇用経験の有無による違い

雇用経験によって、職場側要素の見え方は変わる

続いて、精神障がい者雇用の経験によって、職場側の要素の評価に違いが出るかどうかを調べました。企業を、今雇用している「現在雇用」、かつて雇用したが今はしていない「過去雇用」、雇用したことのない「未経験」の3つに分け、未経験の企業を基準にして比べています(表5)。

まず「現在雇用」の企業は、「未経験」の企業と比べても、どの要素でもはっきりした差はありませんでした。目を引いたのは「過去雇用」の企業です。いくつかの要素を高く評価しない傾向がみられ、とりわけ「職場の支援する風土」と「支援機関との連携」では、その傾向がはっきりと表れました(基準より2割ほど低めの評価)。

ただし、この結果は慎重に読む必要があります。本研究は一時点の調査なので、原因と結果の関係までは分かりません。「職場風土や支援機関連携が薄かったから雇用が続かなかった」と決めることはできない、ということです。むしろ逆に、かつて雇用してうまくいかなかったからこそ、職場側の支援や外部の支援に期待しにくくなっている、とも考えられます。あるいは、支援体制を整える前に現場が疲れてしまい、今は雇用から距離を置いている企業が含まれているのかもしれません。

それでも一ついえるのは、精神障がい者雇用は「経験さえあればよい」というものではない、という点です。大切なのは、その経験を、職場風土・合理的配慮・業務調整・支援機関連携の改善へとつなげられるかどうか。うまくいかなかった経験を、職場の仕組みを見直す機会に変えていくことが求められます。

表5 精神障がい者雇用経験3群による職場側要素の違い

職場側の要素現在雇用企業
OR(p値)
過去雇用企業
OR(p値)
全体検定p値み取り
職場の支援する風土1.09(0.544)0.58(0.003)0.0042過去雇用企業で有意に低い
柔軟な勤務・業務の調整1.03(0.863)0.69(0.035)0.0859過去雇用企業で低い傾向
合理的な配慮の提供1.10(0.540)0.75(0.1080.1557明確な差は認めない
職場体験・実習の実施1.00(0.982)0.68(0.050)0.1317過去雇用企業で低い傾向
多様なキャリアパスの用意1.07(0.655)0.82(0.294)0.4381明確な差は認めない
企業内で成功事例や知見の共有1.10(0.527)0.93(0.662)0.6759明確な差は認めない
支援機関との連携1.03(0.852)0.59(0.004)0.0105過去雇用企業で有意に低い
表5 精神障がい者雇用経験3群による職場側要素の違い
注:順序ロジスティック回帰分析により、雇用経験のない企業を基準として比較しました。業種および企業規模を調整しています。

活躍できる職場とは、「配慮の制度がある職場」ではなく「配慮が動く職場」

今回の結果からは、精神障がいのある方が活躍できる職場を支える3つの柱が浮かび上がってきます。第一は、合理的配慮を適切に提供できることです。これは、ただ制度を用意すれば済む話ではありません。本人の困りごとを職場の具体的な業務に引きつけて考え、何をどう調整すれば働きやすくなるのかを、一つひとつ形にしていく営みです。

第二は、勤務や業務をどの程度柔軟に調整することが可能であるかです。精神障がいでは、体調の波や疲労の積み重なりが、仕事を続けるうえで影響しやすくなります。勤務時間や休憩、業務量、納期、優先順位に調整の余地があることは、働き続けるための安全弁になります。

第三は、職場の支援する風土です。今回、上位3位以内では合理的配慮がもっとも多く選ばれた一方で、1位に挙げられたのは職場風土でした。配慮や制度が用意されていても、それを実際に使える空気がなければ機能しません。企業はそのことを、経験から肌で感じ取っているのかもしれません。

支え合う風土と必要な配慮がそろった職場は、結局のところ、誰にとっても働きやすい職場です。たとえば、体調がすぐれないときに早めに相談できる。困りごとを一人で抱え込まず、周囲に声をかけられる。こうした日々の小さな安心の積み重ねが、精神障がいのある方の力を引き出し、ひいては職場全体を働きやすくしていきます。

現場で活用できる視点

今回ヒアリングをした企業では、精神障がい者雇用の勘どころを次のようにとらえていました。

◎合理的配慮は、診断名からではなく「働くうえで何に困っているか」から考える。
◎勤務や業務の調整は、特別な例外対応ではなく、定着を支える業務設計として位置づける。
◎相談しやすい風土をつくるために、上司が一人で抱え込まず、人事・産業保健・支援機関と役割を分かち合う。
◎支援機関との連携は、助言を受けて終わりにせず、職場で実行できる配慮へと翻訳する。

◎過去にうまくいかなかった事例ほど、原因を本人だけに求めず、職場の仕組みそのものを振り返る

さいごに―これからの精神障がい者雇用に求められること

精神障がい者雇用では、本人の自己管理や主体性、相談する力がたしかに重要です。けれども、それらをすべて本人の責任にしてしまっては、雇用は広がっていきません。本人が自分の状態を理解し、困ったときに相談する。その力を職場の側がどう受け止め、どう支えるかが問われています。

本研究では、職場側の7要素のなかでも、合理的な配慮、柔軟な勤務・業務の調整、職場の支援する風土が、特に重要な中核として位置づけられていました。支援機関連携や成功事例の共有も大切な土台ですが、これらはあくまで出発点です。外部の支援や蓄積された知見を、実際の職場の動きへとどう生かしていくかが、これからの課題です。

活躍できる職場かどうかは、特別な配慮をどれだけ手厚く用意できるかで決まるわけではありません。かぎになるのは、本人の特性と業務をすり合わせ、相談と調整が日常のなかで自然に行われていることです。そして、そうした職場は、精神障がいのある方だけに役立つものではないはずです。早めに相談できること、無理が重なる前に業務を調整できることは、立場や状態にかかわらず誰もが必要としています。障がいのある方が働きやすい職場は、誰もが働きやすい職場ではないかと思います。

これからの精神障がい者雇用では、「本人に何ができるか」と同時に、「職場は何を整えられるか」を問い続けることが欠かせません。本人の力と職場の仕組みをいかにつなぐか。それこそが、活躍を支えるもっとも現実的で大切な視点だといえるでしょう。


【参考資料】
厚生労働省「障害者の法定雇用率引上げと支援策の強化について
厚生労働省「令和7年 障害者雇用状況の集計結果」
本研究:企業1,000社を対象とした精神障がい者雇用における「活躍できる人材」に関する質問紙調査

栗田 卓也
登場人物
キャリアリサーチLab所長
TAKUYA KURITA
東郷 こずえ
担当者
キャリアリサーチLab主任研究員
KOZUE TOGO

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