経済産業省が提唱した「社会人基礎力」は、就職活動中の学生だけでなく、社会人の成長や評価、キャリア形成にも深く関わっている。変化の激しい時代において、専門スキルだけでなく、自ら考え行動し、周囲と協力しながら成果を出す力が重要視されている。
本記事では、社会人基礎力の基本的な考え方をはじめ、「3つの能力」とそれを構成する「12の能力要素」をわかりやすく整理する。さらに、マイナビが行った調査をもとに企業が重視する力も見ていく。社会人基礎力を正しく理解し、これからのキャリアにどう活かすべきかを考える手がかりにしたい。
社会人基礎力とは?学生や社会人に求められる理由
社会人基礎力とは、経済産業省が提唱した「社会で働くすべての人に共通して求められる基礎的な能力」である。専門的な知識やスキル以前に、仕事を進めるうえで必要となる姿勢や行動特性を体系化したものであり、学生の就職活動だけでなく、社会人の成長や評価、キャリア形成にも深く関わる概念である。
企業や働き方が大きく変化する中で、特定の職種や業界のスキルだけに依存するのではなく、どの環境でも発揮できる力の重要性は高まっている。その土台となるのが社会人基礎力であるといえる。
社会人基礎力はなぜ必要?企業・働き方の変化から解説
社会人基礎力が重視される背景には、雇用や働き方の変化がある。従来の日本型雇用、つまり終身雇用や年功序列を前提とした働き方は揺らぎ始めており、転職やキャリアチェンジが一般的になった。加えて、DXの進展により、仕事の進め方や求められる役割も変化している。
こうした環境では、指示を待つのではなく、自ら考え、行動し、周囲と協力しながら成果を出す力が不可欠である。社会人基礎力は、VUCAと呼ばれる変化の激しい時代においても通用する汎用的な能力として、多くの企業から評価されている。
VUCAについては以下の記事で詳しく解説している。
社会人基礎力の「3つの能力」と「12の能力要素」
社会人基礎力は、「前に踏み出す力」「考え抜く力」「チームで働く力」の3つの能力で構成されており、それぞれに12の能力要素が整理されている。
前に踏み出す力
前に踏み出す力とは、失敗を恐れずに行動し、失敗しても粘り強く取り組む力のことである。能力要素としては、「主体性」「働きかけ力」「実行力」がある。
主体性
主体性とは、物事に進んで取り組む力である。自ら考え、判断し、責任を持って行動しようとする姿勢のことで、指示を待つのではなく、「自分に何ができるか」を考えて動くことを指す。
働きかけ力
働きかけ力とは、他人に働きかけ巻き込む力のことで、他者に積極的に関与し、協力を引き出しながら目標達成を目指していく。一人で完結させず、周囲を巻き込む姿勢が重視される。
実行力
実行力とは、目的を設定し確実に行動する力である。実行力のある人は、決めたことを途中で投げ出さず、最後までやり遂げる。困難な状況に直面しても行動を継続できるかが問われる。
考え抜く力
考え抜く力とは、物事を表面的に捉えるのではなく、疑問を持ち課題の本質を見極め、解決に向けて論理的に思考する力である。能力要素としては、「課題発見力」「計画力」「創造力」がある。
課題発見力
課題発見力とは、現状を分析し、目的や解決すべき課題を見つけ出す力である。与えられた課題だけでなく、潜在的な課題に気づけるかが重要となる。
計画力
計画力とは、課題解決に向けたプロセスを明らかにし、準備する力。つまり、目標達成に向けて手順やスケジュールを考え、現実的な計画を立てることである。限られた時間や資源をどう使うかを判断する力でもある。
創造力
創造力とは、新しい価値を生み出す力である。単なる思い付きではなく、現状を改善し、より高い成果を目指して多角的な視点で考えることが求められる。
チームで働く力
チームで働く力とは、多様な人と協力しながら成果を出すための力である。これは、組織で働くうえで欠かせない能力である。能力要素としては、「発信力」「傾聴力」「柔軟性」「情況把握力」「規律性」「ストレスコントロール力」がある。
発信力
発信力とは、自分の考えや意見を、相手にわかりやすく伝える力である。結論を明確にし、論理的に伝えることが求められる。
傾聴力
傾聴力とは、相手の話を丁寧に聴き、理解しようとする姿勢である。一方的に話すのではなく、相互理解を深める力である。
柔軟性
柔軟性とは、自分と異なる意見や状況を受け入れ、相手の立場を理解する力、また考え方や行動を調整する力である。変化への対応力ともいえる。
情況把握力
情況把握力とは、周囲の人間関係やチーム全体の状況を把握する力である。今何が求められているかを理解するために重要である。
規律性
規律性とは、社会のルールや人との約束を守り、組織の一員として責任ある行動を取る力である。信頼関係の基盤となる能力である。
ストレスコントロール力
ストレスコントロール力とは、ストレスの発生源に対応する力である。ストレスと適切に向き合い、感情を管理しながら働くことが求められる。安定したパフォーマンスを維持するために欠かせない。
人生100年時代の社会人基礎力、3つの視点
社会人基礎力は、単に「仕事ができる人」であるための能力ではない。人生100年時代と呼ばれる現在においては、長期的に働き続け、環境の変化に適応しながら活躍するための基盤として捉えられている。
人生100年時代の社会人基礎力として、経済産業省の資料では、以下のように説明されている。
「人生100年時代の社会人基礎力」は、これまで以上に長くなる個人の企業・組織・社会との関わりの中で、ライフステージの各段階で活躍し続けるために求められる力と定義され、社会人基礎力の3つの能力/12の能力要素を内容としつつ、能力を発揮するにあたって、自己を認識してリフレクション(振り返り)しながら、目的、学び、統合のバランスを図ることが、自らキャリアを切りひらいていく上で必要と位置付けられる。
経済産業省「人生100年時代の社会人基礎力」
ここからは、「目的」「学び」「統合」という3つの視点で整理していく。
どう活躍するか(目的)
終身雇用が当たり前でなくなった時代においては、「どの会社で働くか」よりも、「どのように社会と関わり、どのような価値を発揮するか」が重要になる。求められるのは、他者や組織に依存するのではなく、自らの意思でキャリアや役割を考える姿勢である。
社会人基礎力は、こうした目的意識を持ち、自分なりの活躍の形を描くための土台となる能力である。主体性や働きかけ力は、自らキャリアを切り拓くうえで不可欠な要素であり、目的を持って行動できるかどうかが、長期的な成長を左右する。
何を学ぶか(学び)
変化の激しい時代においては、特定の専門知識やスキルだけを学べば十分とはいえない。仕事を通じて得られる経験やそこから得た気づき、失敗からの学びを積み重ねていくことが重要である。
社会人基礎力は、そうした学びの基盤となる力である。課題発見力や計画力、傾聴力などの能力は、あらゆる仕事や経験から学びを引き出すために欠かせない。何を学ぶかは職種や立場によって異なるが、学びを成長につなげるための土台は共通して必要とされる。
どのように学ぶか(統合)
人生100年時代の学びは、知識をインプットするだけでは不十分である。経験を振り返り、そこから得た学びを次の行動に活かすという「統合」が求められる。
社会人基礎力における統合とは、知識・経験・内省を結びつけ、実践につなげることである。たとえば、失敗した経験を振り返り、原因を考え、次の行動を変えるといったプロセスがそれに当たる。どのように学び、それをどう活かすかを考え続けることが、長く活躍し続ける力につながる。
企業が重視している社会人基礎力
ここからは、マイナビが行った調査より、企業が重視している社会人基礎力とは何かを考えていく。
新卒採用時に見られているポイント
企業が新卒採用時に見ているポイントとして、マイナビが企業担当者に対して行った「2027年卒 企業新卒採用予定調査」の結果を見る。社会人基礎力の中から選考時に重視する力として、「主体性」が82.8%でもっとも多く、「傾聴力」59.7%、柔軟性57.9%と続いた。【図1】
12の要素「選考時に重視する力」/マイナビ「2027年卒 企業新卒採用予定調査」
また、別の調査で行ったインターンシップ・仕事体験において参加学生のどこを見ているかという質問については、もっとも多かった回答が「主体性」(75.3%)、次いで「傾聴力」(65.9%)、「発信力」(51.5%)であった。
インターンシップ・仕事体験の参加を通じて成長を感じてほしい部分についても、「主体性」が56.0%でもっとも多い結果となり、これらの調査から、企業が物事に進んで取り組む「主体性」を重要視していることがわかる。
「2027年卒 企業新卒採用予定調査」において、選考時にもっとも重視する力を業種別に見ても、もっとも多く回答されたのは主体性であり、自ら考えて行動する姿勢が求められていることがわかる。【図2】
業種別・12の要素「選考時にもっとも重視する力」/マイナビ「2027年卒 企業新卒採用予定調査」
ただし、職種別にみると小売りでは「傾聴力」が20.9%と高かったり、金融や官公庁では「規律性」が他業界より高く求められるなど、業界や職種によって求められる能力は少しずつ異なる。
まずは自分の能力特性を知りつつ、社会から求められる能力とすり合わせをしながら、どの能力からのばしていこうか検討するのが肝要だろう。
社会人基礎力の鍛え方
それでは、ここから社会人基礎力を鍛える方法を見ていく。社会人基礎力は、生まれ持った資質ではなく、日々の行動や経験を通じて鍛えることができる能力である。特別な環境や肩書きがなくても、意識次第で身につけていくことが可能である。
学生はアルバイトやサークル活動で鍛える
学生の場合、アルバイトやゼミ、サークル活動などが社会人基礎力を鍛える場となる。役割を引き受けたり、周囲と協力して成果を出したりした経験を振り返ることで、主体性やチームで働く力を身につけることができる。
社会人は日々の仕事の中で鍛える
社会人基礎力は、日常の業務そのものがもっとも有効なトレーニングの場となる。たとえば、主体性を鍛えるには、自分の業務を「指示された作業」としてこなすのではなく、「なぜこの仕事が必要なのか」「改善できる点はないか」を考えながら取り組むことができる。
また、業務後に振り返りを行い、うまくいった点や課題を言語化することで、課題発見力や創造力を高めることができる。小さな改善提案や役割の拡張に挑戦することも、実行力や働きかけ力を鍛える有効な方法である。
ほかにも、部署を超えたプロジェクト、社外活動なども有効である。日常業務の中に学びの視点を持ち、経験から何を得たのかを意識的に整理することが、長期的な成長につながる。
自主学習・研修で鍛える方法も
社会人基礎力は、自主的な学習や研修を通じて補強することもできる。ロジカルシンキング、コミュニケーション、ファシリテーションなどの研修は、それぞれ考え抜く力やチームで働く力の向上につながる。
ここで重要なのは、学んだ内容を知識として終わらせないことである。学習したフレームワークや考え方を実際の業務で試し、結果を振り返ることで初めて能力として定着する。知識と実践を往復させることが、社会人基礎力を高めるポイントである。
社会人基礎力を意識することが長期的な成長につながる
社会人基礎力は、特定の職種や年齢に限られた能力ではなく、すべての人のキャリアを支える基盤となる力である。働き方や環境が変化しても活かすことができ、長く活躍し続けるために欠かせない。
社会人基礎力は、意識的に行動し、振り返りを重ねることで着実に鍛えられる。まずは自分の強みや課題を知り、日々の仕事や学びの中で少しずつ磨いていくことが重要である。