はじめに
近年、急速な技術革新や社会構造の変化に伴い、「リスキリング(学び直し) 」への関心が高まっている。終身雇用や年功序列といった従来の雇用慣行が揺らぎ、個人が自らのキャリアを主体的に築く時代へと移行している 中で、将来の選択肢を広げるためには、継続的な学びによるスキルの再構築が不可欠だ。
こうした流れを受けて、政府は2025年10月から「教育訓練休暇給付金制度」を開始し、社会人が無給休暇を取得して教育訓練に専念する際、最大150日間の生活支援を行う仕組みを整えた。この制度が代表するように、 社会全体では学びへの投資意欲を制度的に後押しする動きが加速している。
では、社会に出る前の大学生は、キャリア形成に向けてどのような意識を持っているのだろうか。「2027年卒大学生キャリア意向調査8月<インターンシップ・キャリア形成活動>」 によると、58.9%が大学の学習以外でキャリアのために何らかの自己投資を行っていることがわかった。【図1】
【図1】大学での学習以外で、キャリアのために何かしらの自己投資を行っていますか。/ (単一回答/n=1,206)/2027年卒大学生キャリア意向調査8月<インターンシップ・キャリア形成活動>
この結果から、大学生が“未来のキャリア” に向けて何を学ぶべきかを考え、行動している様子がうかがえる。本稿では、大学生の自己投資の実態と、社会人になったとき に想定される投資意識の変化を、調査データをもとに読み解いていく。
大学生のキャリア形成に向けた自己投資
前段では、58.9%の学生が大学の学習以外で何らかの自己投資を行っていると述べた。また、転職動向調査2025年版(2024年実績)によると2024年の1年間でなんらかのリスキリングを経験した割合は34.1%となっている。リスキリングを経験した社会人の割合と比較すると、大学生の多くがキャリア形成に向けて何らかの行動を起こしていることを示している。【図2】
【図2】今年1年で、能力・スキルを得るために学んだ(リスキリングした)経験がありますか。/転職動向調査2025年版(2024年実績)
では、彼らはどのような目的を持ち、どんな手段で自己投資に取り組んでいるのだろうか。本章では、具体的な自己投資の内容や目的意識、そして自己投資に対する価値認識について、調査データをもとに詳しく読み解いていく。
大学生が行っている自己投資とその目的
大学生が実際に取り組んでいる自己投資の内容は、資格取得や語学学習、健康管理など多岐にわたる。中でももっとも多かったのは「資格取得のための勉強」であり、62.1%が簿記やITパスポートなど資格取得に向けて勉強をしている。次いで「語学学習」が40.1%となって いる。【図3】
【図3】具体的に行っている自己投資の内容を教えてください。/ (複数回答/n=688)/2027年卒大学生キャリア意向調査8月<インターンシップ・キャリア形成活動>
また自己投資の目的としては、「自分の強みやスキルを増やしたい」が62.4%で最多、「希望する業界・職種への就職に備える」が42.5%と続く。【図4】
【図4】どのような目的で自己投資を行っていますか。/ (複数回答/n=688)/2027年卒大学生キャリア意向調査8月<インターンシップ・キャリア形成活動>
資格取得や語学学習は履歴書やエントリーシートに記載することもでき、自分が何をできるかを客観的に示す証明になるという側面もある。単なるスキル習得にとどまらず、自分自身の可能性を広げるための手段として、大学生は自己投資をしているようだ。
大学生の間にキャリアのために自己投資することについてどう思うか
大学生のキャリアのための自己投資に対する価値認識は高い 。2027年卒大学生キャリア意向調査8月<インターンシップ・キャリア形成活動>では、学生の間にキャリアのための自己投資をすることについてどう思うかについて聞いたところ、「とても重要だ」と答えた大学生が47.1%、「それなりに 重要だ」の46.6%を含めると93.7%となる。
つまり、ほとんどの大学生が、在学中からキャリア形成に向けた行動を起こす必要性を感じていることになる。【図5】
【図5】学生の間に、キャリアのための自己投資をすることについてどう思いますか。/ (複数回答/n=1,206)/2027年卒大学生キャリア意向調査8月<インターンシップ・キャリア形成活動>
現在のキャリア形成のための自己投資額
また、キャリアのための自己投資にかける金額を見てみると、自己投資の月額 「1,000 円未満」が24.5%で最多である。生活費や学費といった現実的な制約の中で、大きな額を投じることが難しいことは容易に想像できる。 金額は僅かではあるものの、学習に対する前向きな姿勢も感じられ、将来の自分に向けた意思をみることができる【図6】
【図6】自己投資について、毎月使っている金額を教えてください。/ (単一回答/n=688)/2027年卒大学生キャリア意向調査8月<インターンシップ・キャリア形成活動>
大学生はそもそも大学で専門的な学びを受けているため、キャリアのための自己投資にかける金額は必ずしも大きくはない。加えて、近年の物価高騰の影響もあり、もっと自己投資をしたくてもその余裕がない、という経済的な厳しさの影響も考えられる。
実際に「2026年卒大学生のライフスタイル調査」を見ると、「食費が上がった」と感じる学生は56.0%、「学食・生協の値段が上がった」は32.6%、「貯金を切り崩した」は10.1%にのぼり、特に一人暮らしの学生ではその傾向がより顕著である。 【図7】
【図7】円安や物価高の影響としてあてはまるものがあればお答えください。
(複数回答/n=1,633)/マイナビ 2026年卒大学生のライフスタイル調査
社会人になった後のキャリアのための自己投資
ここまでで見てきたように大学生 のキャリアのための自己投資は、将来の可能性を広げるための“準備”としての色合いが強かった。資格取得や語学学習は、目指す業界や職種に必要な力を備えるための行動であり、投資額も小規模だった。
では、社会人になってからを想定した時、その自己投資への考えはどのように変化するのだろうか。責任や役割が増し、時間や収入の状況 も変わる中で、社会人になった時の自己投資意識を見ていく。
社会人になった時に自己投資をしたいか
2027年卒大学生キャリア意向調査8月<インターンシップ・キャリア形成活動>によると、社会人になった時に自己投資をしたいかについて、「はい」と答えた大学生は91.8%にのぼった。
キャリアのための自己投資をしている大学生が58.9%であり、現在自己投資をしている学生と社会人になった際に自己投資をしたい学生の割合にギャップがある 。働き始めても学びやスキル獲得を獲得したいという 意欲が、学生の間ですでに強く根づいていることがわかる。【図8】
【図8】左図:大学での学習以外で、キャリアのために何かしらの自己投資を行っていますか。※右図社会人になったとき、自身のキャリアに対して自己投資をしたいと思いますか。※右図/ (単一回答/n=1,206)/2027年卒大学生キャリア意向調査8月<インターンシップ・キャリア形成活動>
では、社会人としてどのようなキャリアのための自己投資を行いたいと考えているのか。もっとも多かったのは「資格取得のための勉強(簿記・ITパスポートなど)」(69.8%)、次いで「語学学習(英語・中国語など)」(53.2%)となっており、大学生のときと同様にスキル面への関心が高い。内容としても大きな変化は見られないという結果になった。【図9】
【図9】社会人になって行いたい自己投資を教えてください。/ (複数回答/n=1,113)/2027年卒大学生キャリア意向調査8月<インターンシップ・キャリア形成活動>
次に社会人としてキャリアのための自己投資を行う目的をみてみると、もっとも多かったのは「自分の強みやスキルを増やすため」(71.8%)、次いで「収入や生活の安定を高める」(63.4%)、「自己成長や人間的な成長のため」(53.0%)となった。
この結果からは、キャリアのための自己投資の根本的な目的は大学生のときと変わらず 、「自分を高めること」にあることが見て取れるが、2番目と3番目の回答から社会人になった時のことを想像すると「社会人生活をより安定したものにしたい」という意思があることが読み取れる。【図10】
【図10】社会人になったときに、どのような目的で自己投資を行いたいですか。/ (複数回答/n=1,113)/2027年卒大学生キャリア意向調査8月<インターンシップ・キャリア形成活動>
社会人になったあとのキャリア形成にかけられる金額
次に、社会人としてキャリアのための自己投資を行う際にかけたいと思う金額を聞くと、その月額は、大学生のときと比べて高くなっている。大学生期は「1,000円未満」(24.5%)が最多だったが、社会人期では「3,000〜5,000円」(18.1%)、「7,000〜10,000円」(18.1%)の回答が特に多かった。
収入を得ることで現時点よりも金銭的余裕ができ、自己投資に充てられる金額を増やせるという見通しなのではないだろうか。また社会人になると、スキルの習得が昇進・昇給や転職といった具体的な成果に直結する場面が増え、自己投資によるリターンがイメージしやすいことから、よりお金をかける価値を実感しやすくなるという可能性も考えられる。【図11】
【図11】社会人になった時に、キャリアのための自己投資に毎月いくらくらいかけたいと思いますか。/ (単一回答/n=1,113)/2027年卒大学生キャリア意向調査8月<インターンシップ・キャリア形成活動>
社会人になったあとのキャリアと自己投資に対する考え方
社会人になったあとを想定したキャリアのための自己投資に対する価値認識も学生のときと同様に高い。社会人になってからの自己投資について、「とても 重要だ」と考える学生は過半数を超える57.6%で あり、キャリア形成において継続的な学びが不可欠だという認識が広がっている。
これは、就職する ことがゴールではなく、働きながらも自分を高め続けることが求められる時代背景とも重なる。【図12】
【図12】社会人になった時に、キャリアのための自己投資をすることについてどう思いますか。/ (単一回答/n=1,206)/2027年卒大学生キャリア意向調査8月<インターンシップ・キャリア形成活動>
学生期と社会人期で自己投資の意味はどう変わるか
社会人を想像した時の自己投資は、目的やかけられる金額について違いが見られた。目的については、大学生である現在も、社会人になった時を想定した場合も、「自分の強みやスキルを増やすため」が共通して最多回答となっているが、以降の回答には差が見られた。
大学生である現在は「希望する業界・職種への就職に備える」「自己成長や人間的な成長をしたいから」といった未来志向の回答が中心であるのに対し、社会人では「収入や生活の安定を高める」といった現実的かつ即効性を重視した目的が上位にあげられている。
金額面では、大学生である現在の状況では「1,000円未満」が最多だったのに対し、社会人になった時を想定した場合は「3,000 〜5,000円」「7,000〜10,000円」というように金額 が増加している。
限られた資源の中でキャリアのための自己投資を行っていた大学生の時に比べ、社会人では比較的金銭面での余裕があるのではないかという見通しと、より学びが仕事や生活に直結する可能性を踏まえ、その分の意欲が金額にも出てきているのではないかと考えられる。
おわりに
大学生はすでに大学で専門的な学びに取り組んでおり、それ自体に十分な価値がある。にもかかわらず、半数以上の学生がそれとは別にキャリアのための自己投資をしており、将来に備えることへの意識の高さがうかがえる。
リスキリング(学び直し)が社会全体のテーマとなる中で、将来にわたって学び続けようとする意識を学生のうちから持つことは、変化の激しい社会を生き抜くうえで大きな力になるだろう。
調査結果からも、大学生の多くが限られた時間や資源の中で、自分の可能性を広げるために工夫しながら行動している姿が見えてきた。自己投資の内容や金額にかかわらず、「学び続ける姿勢」を育むことこそが、リスキリング時代を前向きに歩む第一歩なのではないだろうか。