「学生が選ぶキャリアデザインプログラムアワード」は、学生の社会的・職業的な自立を後押しするインターンシップやキャリア形成支援の取り組みを表彰する催しで、2026年で9回目を数えた。学生の職業観涵養を促進する効果的な取り組みを周知することで、プログラムの質的向上および実施企業数の増加を実現し、学生と企業のより精度の高いマッチングを目指している。
第9回の大きなトピックスとして、前回新設された「低学年向けキャリアプログラムコース」が2回目を迎えたことだ。同コースは主に大学1・2年生を対象としたプログラムを募るもので、以前から続く「インターンシップ/仕事体験コース(就業体験型)」と合わせると、応募は全1,343プログラムに達した。この中から、キャリア形成支援として高く評価された取り組みが、コースごとに選ばれた。
第9回の結果
インターンシップ/仕事体験コース(就業体験型)
就業体験型コースの「大賞」は、株式会社ニトリホールディングスの「日本で働くキャリアを考える5日間~留学生のためのキャリア支援プログラム~」が獲得。「文部科学大臣賞」はノートルダム清心女子大学の「英語英文学科インターンシッププログラム」に贈られた。
「優秀賞」にはコニカミノルタ株式会社、東京学芸大学/株式会社ラグーンリゾート名護/名護さくら教室、能瀬精工株式会社、株式会社三好鉄工所が選ばれた。「入賞」に輝いたのは、関西外国語大学、株式会社ギフト/株式会社パラドックス、株式会社後藤組、株式会社チュチュアンナ、Hopeful Okinawa、株式会社ユービーセキュア、立教大学である。
さらに、惜しくも入賞には届かなかったものの、学生部会や選考委員会で高い評価を得たプログラムが「学生推奨プログラム」として選出された。旭金属工業株式会社、跡見学園女子大学、株式会社イシダ、株式会社インターゾーン、株式会社K GRIT、水ing株式会社、株式会社ニッセイコム、日本調剤株式会社、根上工業株式会社、株式会社姫野組、ひろぎんエリアデザイン株式会社が選ばれた。
低学年向けキャリアプログラムコース
そして低学年向けコースの「低学年キャリアデザイン賞」には、神戸常盤大学の「STEP Project ―未来の先生を育てる『初年次協働型』キャリアデザインプログラム―」が選ばれた。
第1回から選考委員を務める法政大学 キャリアデザイン学部の梅崎修教授は、低学年向け・就業体験型の両コースについて、それぞれの評価軸を丁寧に読み解いた。
低学年向けプログラムについて梅崎教授がまず強調したのは、「これはキャリア教育の前倒しではない」という点だ。大学1年生は高校から大学への移行のただ中にあり、まず学業やアルバイトを通じて交友を広げ、次いで将来を意識して職業の世界へ足を踏み入れる――こうした二段階の移行を、時間をかけて積み上げていく時期にあたる。
この発達段階を踏まえたうえで、低学年キャリアデザイン賞に輝いた神戸常盤大学「STEP Project」については、学びのプロセスに長期かつ体系的に寄り添う設計、ツールを用いた支援体制、そして一人ひとりの成長や学びに応じたきめ細やかさを、高く評価した。
就業体験型コースの各受賞プログラムに対しては、その独自性を具体的に挙げた。ものづくりの「流れ」を体感させる構成(三好鉄工所)、国際営業という切り口から製造業に迫るグローバルな体験(能瀬精工)、新規事業という難度の高いフィールドでの顧客開拓(コニカミノルタ)、地域を舞台に複数の「働く場」を結び付ける仕掛け(東京学芸大学ら)といった具合だ。
文部科学大臣賞のノートルダム清心女子大学については、学業で身につけた力を実社会の文脈へと接続し、それがまた学問の意味づけへとかえっていく「好循環」、さらに派遣前の体系的な事前学習から事後の成果発表まで筋の通ったサポートを評価。
大賞のニトリホールディングスに対しては、必要性は高いのにプログラム化が難しかった留学生向けインターンシップを独自に形にした点、視座を段階的に引き上げる構成、日本ならではの「働き方」を体験的につかませる設計を、いずれも称賛した。
講評の締めくくりに梅崎教授は、プログラムに「思わずわくわくする(playful)」遊び心があってもよいのではと投げかけた。そのうえで、「改良こそがプログラムを充実させる近道」だとして、優れた実践を貪欲に取り入れながらPDCAを回すこと、そしてインターンシップを受け入れる側の社員にとっても自らの働く意味を言葉にする機会になることを、社内へ、社会へと広めていきたいと語った。
開催報告
実行委員長の久保潤一郎氏からは開催報告が行われた。第9回の応募は1,157法人・1,343プログラムにのぼった。コース別に見ると、就業体験型コースが1,185プログラム(企業1,140・大学42・地方自治体3)、低学年向けコースが158プログラム(企業97・大学59・地方自治体2)という内訳である。
開催報告 実行委員長 久保 潤一郎氏
地域の広がりも顕著だった。東京は336件と依然多い一方、北海道は61件で前年比156%、近畿は217件で142%、東京を除く関東は177件で141%と、各地で伸びが目立つ。結果として、東京以外からの応募が全体の約75%を占め、キャリア形成支援が全国へ根を広げつつある様子がうかがえた。
受け入れ日数にも変化が現れた。就業体験型では2~4日のプログラムが減り、代わって5~6日が増加。久保氏はこれを、三省合意を受けたプログラム見直しの表れではないかと分析した。低学年向けは1dayが約半数を占めるものの、大学主催を中心に長期のプログラムも着実に実施されているという。
キャリアデザイン講演 ―低学年から始める「働く意味」の形成
本アワードでは、規範となるプログラムを表彰・周知するだけでなく、参加学生へのアンケート調査とその分析を通じて、インターンシップやキャリア形成支援が担う役割と、その未来像についての考察も発信している。
実践女子大学 人間社会学部 初見康行准教授
分析を手がける実践女子大学 人間社会学部の初見康行准教授は、「低学年から始める『働く意味』の形成」をテーマに講演した。キャリア形成プログラムへの参加率はすでに85%超という高水準で推移し、大学1・2年生の参加率も年々高まって33%に達している。この現状を踏まえ、初見准教授は「参加すること」そのものではなく、その経験を糧に学生一人ひとりが『なぜ働くのか』を見つめ、働く意味や目的を育てていくことにこそ価値があると訴えた。
発見1.「働くことを意味づける力」が卒業後の活躍を分ける
初見准教授は2025年、「お金を得る」だけを目的に据える人よりも、「能力を発揮する」「生きがいを見つける」「社会や人の役に立つ」といった複数の目的を併せ持つ人(=働く目的の重層化)のほうが、入社後のワーク・エンゲージメントが高い傾向にあることを示した。今年はその研究をさらに前へ進め、働く意味づけがしっかりしている人ほど、卒業後も生き生きと活躍していることを明らかにした。
「働くことを意味づける力」を高群・低群に分けて平均値を比べると、ワーク・エンゲージメント、職務満足、ウェルビーイングはいずれも高群が大きく上回り、逆に離職意思は低くとどまった。差はすべて統計的に有意(p<.001)で、しかも職務満足で効果量d=1.17、ワーク・エンゲージメントでd=1.36、ウェルビーイングでd=1.21と、いずれも非常に大きい。
ここから初見准教授は、在学中から「自分にとって働くとは何か」を問うことには確かな意義があり、『なぜ働くのか』を問い、耳を傾ける場をキャリア形成プログラムに組み込んでいくことが重要だと指摘した。
発見2.意味づけには一定のパターンと組み合わせがある
働くことの意味づけには、一定の傾向や目的の組み合わせがあることも見えてきた。意味づけが弱い人ほど働く目的の数そのものが少なく、「お金(経済的な安定)だけ」に偏りがち。反対に意味づけが強い人ほど働く目的の数が増え、複数の目的を同時に抱く傾向があった。
選ばれる目的の中身にも違いが出る。「お金を得る」「家族の生活を守る」といった経済面の目的には両群で大きな差がない一方、「社会や人の役に立つ」「能力を発揮する」「生きがいを見つける」の3つでは、高群と低群の開きが際立った。
いつ・どう育てるか
このような働くことを意味づける活動を「いつ」始めるべきか。初見准教授は、低学年(大学1・2年生)からの着手が成果につながりやすいと述べる。低学年で始めた学生の働く目的は平均2.4個、3年生以降に始めた学生は平均2.1個で、その差+0.3個には統計的な有意差(p<.05)が認められた。「お金を得る」は両者で変わらず、能力発揮・社会貢献・生きがいで差がつく――発見1と重なる構図がここでも確認された。
では「どう」育てるか。大学の学びとの連動を土台に据えたうえで、〈事前〉参加目的の言語化・個人目標の設定、〈中身〉能力開発・課題解決型ワーク・実際の仕事体験、〈事後〉強みや得意分野へのフィードバック、そして今後の大学生活への橋渡し――という一連の流れを備えたプログラムが効果的だという。こうしたプログラムは、働くことを意味づける力にとどまらず、社会人基礎力や初期キャリアの伸びにも波及すると解説した。
社会へどう実装するか―企業と大学が「小さく始める」
もっとも、低学年向けプログラムの広がりはまだ緒についたばかりだ。企業側には「低学年の集客が難しい」「人手が足りない」「採用に直結しにくい」といった悩みがあり、大学側にも「内容設計の難しさ」「教職員のリソース不足」「実務体験を用意しづらい」という壁がある。
初見准教授は、こうした双方の課題を同時に解きほぐせる場こそが低学年向けプログラムだとし、企業と大学の連携が生む相乗効果に期待を寄せた。互いに人手を補い合い、大学の集客力と企業の実務体験という得意分野を持ち寄れば、もっとも効果の高い「大学の学びとの連動」を実現できるという。
とはいえ、産学連携のような大掛かりな枠組みは負担も小さくない。そこで初見准教授が薦めるのが、まず1コマ(100分)の講義から協働を始める「小さな一歩」だ。ミニマム(気づく)→ミドル(広げる)→フル(活かす)へと、双方の状況を見ながら、協働の範囲・テーマ・期間を段階的に広げていくアプローチを提案した。
まとめ
講演の最後に初見准教授は、1.働くことを意味づける力が入社後の活躍や社会人生活の充実を左右すること、2.プログラムに「なぜ働くのか」を問い・聴く機会を組み込むこと、3.その力は低学年から中長期で育てられること、4.「大学の学びとの連動」「仕事体験」「強みのフィードバック」が鍵になること、5.企業と大学がまず小さく協働してみること――の5点を改めて示した。そして、AIが急速に進歩する社会だからこそ「働く意味を問う」ことの重みは増すと語り、講演を結んだ。
最後に
「第9回キャリアデザインカンファレンス」の様子は、HP(https://internship-award.jp/)でアーカイブ配信されている。本コラムで取り上げた久保潤一郎実行委員長の開催報告、法政大学 キャリアデザイン学部 梅崎修教授の審査講評、実践女子大学 人間社会学部 初見康行准教授のキャリアデザイン講演に加え、選考委員の栗田卓也氏と学生部会メンバーによる学生パネルディスカッションも収められており、本アワードが大切にしてきた「学生の視点」に触れることができる。
さらに、大賞・文部科学大臣賞・低学年キャリアデザイン賞などの受賞プレゼンテーションも視聴可能だ。受賞法人の熱量が伝わる充実の内容なので、ぜひご覧いただきたい。
キャリアリサーチLab主任研究員 宮地 太郎